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当代随一の SF作家、グレッグ・イーガン 〜「白熱光」教室〜



これは伝道師になろう! アドベントカレンダーの二日目の記事です。 初日は狡猾な狐さんの “伝道師になろう アドベントカレンダー!”でした。




SFと聞くと何を思い浮かべるだろうか? 「スター・ウォーズ」?
ここでは、個々の作品について、どれが SF であってどれが SF でないかは語らない。
語りたいのは「当代随一の SF 作家」として挙げて誰も異論はないであろう、
グレッグ・イーガンの作品についてである。




SF と Sense of Wonder


SF (Science Fiction) のおもしろさを表す言葉として、
“Sense of Wonder” (センス・オブ・ワンダー) というものがある。
明確な定義はないが、「『すごい!』という感覚」といったところである。
自然現象やテクノロジー、想像を超える何かや、
それらによってもたらされる状況などにより、
ぞくぞくするような感覚を受けることである。

“Sense of Wonder” が生まれる場所は、自分の中や身近なところから、 宇宙の彼方、違う宇宙まで及ぶ
("SF" と宇宙が結びついている人も多いだろうが、SF の舞台は宇宙とは限らない)。
空間も越えれば、時間を越えることもある (12/9 に 12/2 の記事を書くことだってできる:-))。

イーガンの SF 作品にもいろいろな "Wonder" が登場する。
そしてイーガンのすごいところのひとつは、その多くがガッチリとサイエンスの上に構築されていることである。




「白熱光」


例えば、長編「白熱光」。
ブラックホールの近くに住んでいる生物が登場する話なのだが、
巻末には参考文献として、大学院レベルの物理の教科書が挙げられている。
そしてストーリーの一部は、その生物がニュートン力学からリーマン幾何学までを 実験を通じて発見していく過程である。
まさに「サイエンス・フィクション」である。

こう書くと、難しい話に思えるかもしれないが、
科学的発見にワクワクを感じられるのであれば、
細かいところは抜きにしても充分に楽しめる
(とはいえ、描かれる発見の詳細に完全についていこうとするとやや高度かもしれない(笑))。

そして、この作品の最大の“Sense of Wonder”は、そこではない。
二つのストーリーが交互に展開されるのだが、
その二つが、読者の中でがっちり噛み合った瞬間こそが、それなのである。

「読者の中で」と書いたが、この組み合わさり方は本編中で直接的には明かされていない。
もちろん、組み合わせるための情報はすべて書かれているのだが、
気づくまでそれは素通りしたり勘違いしたりしてしまいがちである。
実際、僕も読んでいるときは違う組み合わせ方を想像していた。
いまいち違和感はあるな、と思いつつ。

ところが、作者による「あとがき」に書いてある
「よくある誤解」の項目の一つを読んだとき、
「えっ?!」と思い、そして次の瞬間、「ひょっとして?」とピースがはまった。
そして、本編のページをぱらぱらめくり、確認し
「あああああっ!!」となった。
それが (ぼくの) 「がっちり噛み合った瞬間」である。

正しい組み合わさり方に気が付かなくとも、
この作品は充分におもしろい (謎がいくつか残ってしまうが)。
しかし、気がついた瞬間に、話の見え方が全くと言っていいほど変わる。

この感覚は、SFならではであり、イーガンならではのすごさである。




「ワンの絨毯」


もうひとつの例として、
「ワンの絨毯」という短編
(のちに多少改変されて、長編「ディアスポラ」の一つのエピソードにもなった)
を挙げよう。

「ワンの絨毯」(Wang's Carpets) とは「ワンのタイル」とも呼ばれる数学の問題のことである。
正方形の四つの辺にそれぞれ色がついているタイルのセットがあったとき、
「同じ色どうしの辺をつなげて並べる」という規則に従って平面を埋めつくせるか、
という問題である (これは、チューリングマシンの停止問題と同値であることが示されている)。

イーガンは、とある惑星の海に、そういう規則で増えていくカーペット状の生物を想像・創造した。

それだけでも充分すぎるくらいに“Wonder” なのであるが、
追い打ちを掛けるように、
この生物にはもっと凄まじい秘密が隠されている。
「生物」の概念を根底から揺さぶるくらいの秘密が、である。

古今東西、SF作家はいろいろな生命を想像してきたが、
このぶっ飛び方は類を見ない。
くらくらするほどの“Sense of Wonder”である。




「しあわせの理由」


これらの内容に興味を持ったならば、これらに限らず、
ぜひとも早川書房や創元推理社から出版されているイーガンの作品を読んで、
“Sense of Wodner”を味わっていただきたい。
まずは短編集から入ることをお勧めする。

ちなみに、イーガンは「自分」というアイデンティティに関する作品も多数書いている (特に初期の短編)。
短編「しあわせの理由」は、自分の価値観を自分でいじれるようになってしまった男の話である。
自分の好きなもの・こと、しあわせを感じること、を自分で任意に設定できてしまうのである。
それははたして「幸せ」なのだろうか?

僕がもしその立場になっても、“Sense of Wodner”に感じる価値はそのままにしておきたい。




伝道師になろう! アドベントカレンダー: 明日の記事は、せきゅーんさんの “好きな(曲, 部分)を伝道する” です。

2016/12
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