グルジアに思いを寄せて

「グルジア」は、北をロシア、南をアゼルバイジャン、アルメニア、西をトルコと黒海に面して旧ソ連邦から19914月独立をした。首都はトビリシで、赤いバラ、ワインが特産と知られる。
 ロシア画壇から異端視されたグルジアの画家(18621918)ニコ・ピロスマニは、グルジアの農村の風景やそこに暮らす人々を好んで描いた。グルジア地方で1日の糧、1日の酒のために、居酒屋やレストランの壁に絵を描いて暮らす画家だった彼は、ある日、その地にやってきた画家の目にとまり、中央画壇へ紹介されるが、モスクワでは彼に対して冷淡で異端視された。深く傷つき故郷グルジアに帰り絵を描き続けるが、生前はその才能を世に認められることもなく、貧困のなかで生き、孤独と流浪のうちに、トビリシで56年の生涯を終わっている。

映画:「ピロスマニ」1969年ソ連作品
天才画家ニコ・ピロスマニ
(Niko Pirosmani)の生涯を描いた作品。(カラー87)日本でもDVDで発売されている。
 ピロスマニの絵画や、人生はその後に多くのロシア文学者や詩人たちに感銘を与えた言われている。

ロシア歌謡として加藤登紀子さんが歌った「百万本のバラ」は画家ニコ・ピロスマニがモデルとなっている。


 「百万本のバラ」

                                           A.Voznesnkij
作詞
                                           R.Pauls
   作曲

 小さな家とキャンバス 他にはなにもない
貧しい絵描きが 女優に恋をした
大好きなあの人に バラの花をあげたい
ある日街中の バラを買いました
百万本のバラの花を 
あなたに あなたに あなたにあげる
窓から 窓から 見える広場を
真っ赤なバラで うめつくして・・・・・

ある朝彼女は 真っ赤なバラの海を見て
どこかのお金持ちが ふざけたのだと思った
小さな家とキャンバス すべてを売ってバラの花
買った貧しい 絵描きは
窓の下で彼女をみてた

百万本のバラの花を
あなたは あなたは あなたは見てる
窓から 窓から 見える広場は
真っ赤な 真っ赤な バラの海・・・・・・

 出会いはそれで終わり 女優は別の街へ
真っ赤なバラの海は はなやかな彼女の人生
貧しい絵描きは 孤独な日々を送った
けれど バラの思い出は 心に消えなかった

百万本のバラの花を
あなたに あなたに あなたにあげる
窓から 窓から 見える広場を
真っ赤なバラでうめつくして・・・・・

百万本のバラの花を
あなたに あなたに あなたにあげる
窓から 窓から 見える広場を
真っ赤なバラでうめつくして・・・・・

 ピロスマニが描いたActress Margaritaという絵があるが、マルガリータはフランス人の踊り子でグルジアに1905年に来てニコ・ピルスマニに会った。ピロスマニは彼女の美しさに魅され、彼女に文字通り”花の海”を贈ったという話は有名である。「百万本のバラ」で歌われている女優はこのマルガリータであろうか? 

ロシア人なら誰でも知っているブラート・オクジャワという詩人で、作家がいます。また、自作の詩をギターの弾き語りで歌う「吟遊詩人」としても人気を博した。オクジャワはグルジア人の父と、アルメニア人の母の間に生まれ、共産党の活動家だった父親はスターリン時代に粛正に巻き込まれ「日本のスパイ」として銃殺され、母親も強制収容所に送られたといわれている。本人もモスクワから追放され、グルジアのトビシリ大学卒業後、戦後までロシア語教師をしていた。

195733歳の時モスクワに戻る。作家や芸術家たちが忌憚なく意見を交換したり、発表できる時代が到来し、作品の評価は広く大衆の手にゆだねられることになった。国内では一般的にはあまり知られていないが、ロシアでは国民的歌手ともいわれている。オクジャワはロシアではシンガーソングライターの教祖的存在であり、素朴的な曲をしわがれた声で静かに歌う。彼の歌はボブ・ディランのように体制に強烈な風刺をぶつけるものではなく、街の人々のひそやかな哀感や希望を語りかけるように、戦争の無意味さや、人間の悲哀、住み慣れたモスクワの街並みの光景などを淡々と叙情的に歌ったものが多い。

オクジャワが書いたおとぎ話のような童話で「すばらしい冒険旅行」(沼野恭子訳 新書館発行1997年)があるが、オクジャワらしい心の優しい主人公とその仲間達との冒険旅行の話だ。

オクジャワの代表的な歌に「グルジアの歌」という美しい詩を持つ歌があります。
オクジャワはニコ・ピロスマニの絵画のイメージをモチーフにこの「グルジアの歌」を書いたと言われています。

 1997612日ユネスコ出席のため赴いていたパリで客死した。モスクワでは彼を追悼するため市民葬が執り行われ、数千人とも言われる市民が時代の魂に別れを告げたという。

 -『グルジアの歌』ブラート・オクジャワ-

葡萄の種を熱い土に埋めて
蔦にくちづけ その房を取ろう
心に実りの喜び響かせ
それなくて何の地上の命

 友よ僕の宴に集い
話しておくれ 僕が君の何かを
神も僕の罪を許してくれるだろう
それなくて何の地上の命

 恋人が優しく歌えば
僕は耳傾け頭をたれる
愛に生きやがて僕は愛に死ぬだろう
それなくて何の地上の命

・・・・夕暮れが隅々に立ち寄りながら訪れる頃
             想い出の幻が私の目の前を通り過ぎて行く
             青い鷲、白い水牛、金色の魚よ
             それなくて何の地上の命
 
それなくて何の地上の命

 

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生前住んでいたモスクワ・アルバート通りには記念像が建てられている。