〜世界文化遺産に認定された中国古典演劇〜


中国の伝統演劇と言えば「京劇」が一番に頭に浮かぶ方が多いと思いますが、実は京劇よりも歴史が古く、ユネスコの世界文化遺産に認定されている演劇が存在します。それが、明の時代に成立した「昆劇(こんげき)」です。

昆劇は600年以上の歴史を持ち、京劇が広まるまでは中国演劇のトップを占めていました。他の中国古典演劇と違い、古くからの脚本や理論書、曲譜が多く残されていて、中国演劇史=昆劇史と言っても過言ではないようです。

昆劇は独特なメロディの音楽と派手なアクションを取り入れた踊りが特徴で、役者の化粧や舞台背景、照明など全てに伝統が息づいています。また、脚本、音楽、演技のどれをとっても中国最高峰で、全てを語ろうとすると紙面が足りないほどです。

例えば、脚本の面で言えば、言葉遣いが上品で美しく、心理描写や雰囲気作りにいたるまで繊細に計算尽くされていて、文学作品としても高いレベルを有しています。

また、音楽には数千種類の節回しや伴奏があり、時代や分野を超えた曲や楽器が交じり合っていながらも、調和が取れ、爽やかで上品な趣をかもし出しています。そして曲調も様々で、喜び、悲しみ、宴会の場面、神様を祭る場面、軍隊をイメージしたもの、舞踏音楽と細かく分かれています。

演技的にも高い美学価値があり、歌・台詞・しぐさ・立ち回りを一体化して役を表現するなど、総合的芸術として確立されています。

しかし、これだけ洗練された昆劇は、現在難しい問題に直面しているそうです。それは、人材不足と現代とのギャップ。

革新を図ろうという動きもあったようですが、これだけ長い間受け継がれてきた形式や演技法、リズム、台詞、そしてストーリーを変えてしまったら、その時点で昆劇ではなくなってしまうのです。そこで、革新をする前に、文献の整理や映像や音声資料の収集と整理を行っているそうです。また、昆劇役者養成の学校を作り若い世代を育てることも計画されているとか。

保存と革新。伝統文化が必ず直面する問題ですが、600年もの長い間失われずにきたものには、そう簡単には消えない力が必ずあるはず。これからの昆劇の発展を期待したいです。