清新北ハイツの自然と私たち

酒井 均   

1 四季の移り変わり

 清新北ハイツはかっては浅海の底にあった埋め立て地です。ここには樹齢300年の桜の古木もないし、歴史に残る人物が住んだ家もありません。しかし北ハイツ内は緑が多く、四季こもごもに咲く花や樹が巧みに植えられ、ヒヨドリやオナガやムクドリが雀並みに沢山います。北ハイツの花や樹、それに人びとの四季の移り変わりを見てみましょう。

お正月(といっても実際は12月ですが)は自治会の餅つき(写真上)が楽しみです。冬とはいえ暖かい日差しのもと大勢が屋外で搗きたてのお餅をほおばります。自治会の方々は朝早くから大忙しです。ボランティア精神と仲間同士の信頼がなければ出来ない行事です。

寒い1月,2月が過ぎ3月に入ると桜の待ち遠しい季節になります。北ハイツ内には桜の名所が数カ所あります。
昨年は自治会20周年を記念して、しだれ桜が加わりました。桜の満開は4月の初めです。北ハイツの近くでは葛西臨海公園もお勧めです。桜と並んで4月のハイライトは広場の花壇の花々です。写真は2003年のチューリップですが毎年違った組み合わせの花が人々を楽しませてくれます。通りがかりの人も写真を構えて夢中です。北ハイツの4月のシンボルと言ってよいでしょう。

5月は北ハイツの内外至る所でツツジが咲き乱れます。歩道の端で水などなさそうなところでもびっしりと咲く様は驚きです。水がないという危機感が花を咲かせるのだと言う人もいます。ありそうな話ですが、本当でしょうか?

北ハイツの新緑もこれに劣らず迫力があります。

ハナミズキも北ハイツとその周辺に多い木です。 ハナミズキは1915年、アメリカが東京市に対して桜の苗の返礼として送ったのがはじまりで、日米親善の木として有名です。そのときの原木は日比谷公園に残っているそうです。北ハイツ周辺のハナミズキは勿論そんな由緒あるものではないでしょうが、ダグウッド(ハナミズキの別名)の末裔であることに変わりありません。

6月は運動会のシーズンです。私も5号棟に孫が住んでいた時代には毎年お弁当を当てにしながら観戦したものでした。子供たちが走り回る運動場からみる北ハイツの姿もまた一見の価値があります。

8月は盆踊りとお祭り です。毎年開かれる清新町と臨海町合同の催しで、この地域の親睦会のようなものです。お祭りには色々な屋台も出ます。孫たちにお小遣いをあげ一緒に金魚すくいをしたり、焼きそばなどを食べたりしました。盆踊りと言えばここでは見て楽しむだけですが、少年時代には家の前の道路で毎年踊ったものです。お目当ては名前も知らない長い髪の毛の女の子。もう60年以上も前のことです。

8月になると北ハイツの木々も緑を濃くし埋め立て地とは思えない自然環境を作ってくれます。8号棟と4号棟の間の静かな広場にたつ柿の木の葉からは、毎日沢山のアブラゼミが巣立っていったようです。この樹の根元にはセミの幼虫がはい出した後の沢山の孔があいています。しかしセミ取りに向かう親子を見ると北ハイツのセミにも天敵はいるようです。私も少年時代夏休みの楽しみの一つは近くの山裾のお寺にセミを取りに行くことでした。お寺の裏の林の中で聞いた色々なセミの鳴き声は今でも頭の何処かに残っている筈です。北ハイツはアブラゼミの天下です。

 ユリノキ(写真は10月、後ろは7号棟)に始めてお目にかかったのは数年前に訪れた目黒の林試の森でした。初夏に咲く花の形がチューリップに似ている事から外国ではチューリップの木、日本では葉の形が「はんてん」に似ている事からハンテンノキと呼ばれるそうです。案内板をみて,あんな高い木がチューリップに似た奇麗な花を咲かすのかと印象に残りました。ところが6号棟に住むT夫人は、私の自慢話を聞くや否や即座に、「あら北ハイツにも沢山ありますよ」。なるほど5号棟前の花壇の周辺などに沢山ありました。花は高い木の上の方にしか咲かないので上から見下ろさないとよく見えません。人間の目など気にしないで咲くのです。

11月になると冬の気配が色濃く感じられます。。北ハイツ西の若草公園でも子供たちのひなたぼっこが見られます。若草公園は周辺の若いお母さんたちの広場です。子供を遊ばせながらどこの店が安いとか、あの幼稚園よりこっちが良いとか、様々な情報交換の場所だそうです。これはここで子育てをした息子の嫁さんの言うことです。

北ハイツの一年をざっと見てみました。このサイトの目的は先に書いた通りです。上の画像や文章はこのサイトを立ち上げるにあたってのいわばたたき台です。皆さんからのレスポンスをお待ちします。

2 サンゴの遊歩道

マルエツ裏から葛西臨海公園まで延びる遊歩道を私はひそかに「サンゴの遊歩道」と呼んでいます。路面にモザイク状に敷き詰められた各種の岩石片の中に、サンゴの化石を含んでいると思われる石灰岩が沢山あるからです(下の写真)。もっとも私は化石の知識が乏しく、これがサンゴだと確信を持って言える訳ではありません。ですから正確には私の希望的観測と言うべきでしょうか。下の写真のサンゴ化石に「?」マークを付けたのはそのためです。

化石に詳しい方は是非ご覧になって私の希望的観測が正しいかどうか判定して下さい。サンゴ化石のほかに大理石や花崗岩(カコウ岩)など私にも分かる岩石片も多数認められます。

ちなみに石灰岩や大理石は建築材として人気が高く、東京でも沢山のビルの壁や床に使われています。これらの中にはアンモナイトやサンゴ虫などの見事な化石を含むものもあり、都会のビルの化石探検として知られています。日本橋や銀座のデパートでお買い物のついでに化石を探してみるのも一興です。興味ある方は次の紹介記事(asahi.com夏休み特集夏のフィールドワーク 化石、都会のビルに(050827))をご覧下さい。

この記事で紹介された日本橋高島屋のアンモナイト化石の写真をお見せします。玄関から地下に降りる中央階段の右の柱を飾る大理石の中にあります。文字盤の赤い矢印の下に注目。文字盤の横巾は約10cmです。遊歩道でもこんな化石があるといいのですが期待できません。

サンゴはサンゴ虫という小動物が無数に集まって作る巨大マンションです。私たちのマンションがセメントで作られているのに対し、彼らの家は海水中の二酸化炭素を固定した炭酸カルシウムです。皆さんの中にも沖縄の島々などで生きたサンゴや化石サンゴをご覧になった方がおられるでしょう。写真で見られるようにややピンクがかった色を持っています。写真で上から下に櫛の刃状に並ぶ隙間は砂や砂利が抜けた後です。

二酸化炭素は地球温暖化を促すのでこれを消費してくれるサンゴは温暖化防止に役立っていると見る人がいます。しかし海洋科学者の中にはこの考えに反対しているものもあり、サンゴ虫も今のところ居心地はよくないでしょう。

大理石はサンゴと同じ炭酸カルシウムから出来ていますが、写真で分かるように、より純度が高く、結晶してキラキラ光っています。サンゴのような非晶質の石灰岩が高圧・高温で再結晶したものが大理石です。ここでは高圧が大事なキーワードです。サンゴをそのまま一気圧で加熱すると1000℃以下で簡単に二酸化炭素を放出して生石灰になってしまいます。セメントの製法です。

二酸化炭素を逃がさないためにはサンゴを地下数kmから数10kmもの深部に押し込んでから加熱する必要があります。大理石は地球深部への熱い旅を終えてから私たちの前に姿を現したのです。遊歩道では並んでいるサンゴ化石と大理石ですが、両者の間には、実はとてつもない時間と空間のギャップがあるのです。

花崗岩(御影石:ミカゲ石)は大理石より更に地下深部で出来た岩石です。花崗岩は海底に堆積したさまざまな堆積物が原料ですから、一種のリサイクル岩石です。原料と出来方が多様なので花崗岩の顔付きは千差万別です。遊歩道で一番目につくのはピンクと白の花崗岩です。ピンク花崗岩のピンクはカリウムというアルカリ元素を多量に含んだ長石という鉱物です。これに対して白色の花崗岩では長石はカルシウムとナトリウムから出来ています。

黒色は鉄を含んだ雲母やカクセンセキと言った鉱物です。遊歩道の花崗岩が汚れてみにくいという人は遊歩道の起点にたつ日時計に目をやって下さい。柱を支える台座は白い花崗岩、床に引かれた時刻を表す帯はピンク花崗岩です。表面が磨かれているのでよく観察できます。

 サンゴの遊歩道にはまだまだ面白い岩石が並んでいます。皆さんも今度遊歩道を歩かれるときは道沿いに植えられた様々な木や花とともに、足下にも注意してお気に入りの石を見つけて下さい。もし岩石に詳しい方がおられたら更なる解説をお願いします。

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