清新北ハイツのみどりづくり

12号棟 石塚達雄 


第1 ガーデンタウンの形成を目指して

1 みどりの豊かな清新北ハイツ

 平成17年度の輪番制で、管理組合の理事に就任した際の初仕事は団地内の見学会でした。清新北ハイツに暮らし始めて20数年になりますが、初めて5号棟(23階建て)に上り、屋上から団地内を俯瞰しました。

 西葛西のまちの遠望は団地一色で、高層マンション群の連なりは圧巻なものがありました。見渡す限りの高層住宅で一戸建てを探すのは困難でした。一方、清新北ハイツ(以下北ハイツと言う)内に目を移すと、そこにはすばらしい景色が広がっていました。建物は樹木で埋め尽くされ、まるでジャングルの中の遺跡の感がありました。

 

 北ハイツは、中心市街地にある団地としては樹木の多い団地ではないでしょうか。敷地面積が約43,500平方メートル、建築面積が約10,200平方メートルで、建ぺい率は約25%です。駐車場を除いたとしても、敷地の半分弱はみどりで被われている勘定になります。これは近隣公園(標準面積2ha)ほどの規模となり、江戸川区内への環境寄与率も高いと言えましょう。
緑で被われた北ハイツ(5号棟からの俯瞰)
マンション群が立ち並ぶ西葛西の町(東西線北側)ユリノキの並木が見事な北ハイツの中央広場樹林で埋め尽くされた北ハイツ(中層棟)

 また北ハイツは、駅前のマンション群などに比べても格段の緑量を誇ります。近年、江東区辺りで開発されている高級マンション群でもこれほどの緑地空間は確保されていないようです。このみどりは居住者の貴重な環境資産であり、日常生活の糧となるとともに、組合員の資産価値を高めるものでもあります。大切に守り育てていくことが重要です。

2 公共造園的な植栽景観

 北ハイツは旧住宅公団の分譲団地で、公団の標準設計に基づき建築されています。コーポラティブハウスのように居住予定者が議論しながら集合住宅を建設していくのではないため、団地内の植栽は公共造園的な手法により整備されています。

 敷地の通路は、通り毎に樹種が決められていて、ベースとなる樹木はユリノキです。中央広場はもとより、小学校の前から11号棟と12号棟の間、さらに6号棟など主要通路はユリノキの並木で構成されています。また2号棟の南にはトウカエデの並木がつくられ、バス通り沿いの街路樹にはクスノキが植栽され、これにあわせるように団地内にもクスノキが植えられ、美しい歩行空間が形成されています。

  

 要所々には、枝を大きく広げるケヤキが配植され緑陰をつくりだしています。添景樹としてサクラやハナミズキなどの花木が植栽され、季節の訪れを演出しています。また、建物の陰になる北側には、マテバシイやシラカシ、ヤマモモなど日陰に強い常緑広葉樹が植栽されています。 中低木はツツジを主体に、ヤマブキやアベリアなどが群植され大刈り込みを形成しています。また各号棟の周りには、カイズカイブキやサンゴジュなどの目隠し用の生垣が続きます。
公共造園的な緑の構成
ユリノキやクス、ケヤキなどの街路用樹木が並木風に植栽。目隠し用に常緑樹の生垣が随所に設置され、風景が単調。つつじ類などの大刈り込み(群植)が多用された団地の緑。

 このように北ハイツの植栽は、並木や大刈り込み、生垣など、公共造園的な植栽構成になっており、隣接のわかくさ公園と同様な景観を生み出しています。団地の主木であるケヤキ、ユリノキ、トウカエデ、クスノキなどは典型的な街路樹です。雑木林のような自然風の植栽や日本庭園のような細やかな景色を創る植栽はあまり見当たりません。

3 潤いのある終の住処

 清新北ハイツも今年で23年を迎えます。入居時は30代や40代であった人々も今や還暦を迎えつつあります。子供達も巣立ち、居住者の高齢化も進んでいるようです。昨年度、輪番で務めた管理組合の理事の方々を見ても、リタイヤ組が過半を占めていました。

  
ガーデンタウンの芽生え
居住者が花壇を自主管理。小さな花空間が安らぎを提供バラを育てる会が、四季のバラ園を復活。団地に彩りが回復園芸クラブが要所で美しくフラワーポットを管理
 また近年は、子育てを終えた世代の都心回帰の傾向が見られます。老いてからは、何かと便利な都心のマンション住まいを選ばれる方が多いようです。至便の北ハイツでも、最近はリフォームをする所帯も増え、かく言う我が家も、一昨年に全面リフォームを済ませ、終の住処への準備を整えました。

 これからは豊かな生活環境への要求が高まるなかで、春の新緑、夏の緑陰、秋の紅葉など、四季折々の変化に富んだ質の高いみどりづくりを進める必要があります。生活に季節感や潤いをもたらし、美しく風格のある北ハイツの実現を図ることが重要だと思います。

 築後23年の建物はすでに老朽化が始まりつつありますが、樹木だけは時を経るごとに勢いを増し、大きく成育していきます。北ハイツの植物管理は、このみどりの環境の質を高め、

 824所帯が共に暮らせる豊かな生活環境の形成を図り、終の住処を潤いのあるものにしていくことではないでしょうか。

4 ガーデンタウンの形成を目指して

 北ハイツは、みどり豊かな団地です。樹木が大きく成育し建物が樹林にうずもれた感があります。緑量の確保は図れましたが、しかし残念なことに草花が少なく、色彩が不足気味で、潤いや安らぎに欠けるものがあります。

 これまでも、管理組合の先人達は、旧住宅公団が整備した「池や流れ」を埋めて花壇を整備し、フラーワーポット(花鉢)の設置や、また最近はバラ園の復活など、様々な工夫をこらし精力的に草花の導入に取組んできています。さらに一部の居住者の方は号棟入り口部の階段脇の空地を活用し、草花を植え住民の目を楽しませてくれています。

 北ハイツはコンクリートの高層団地ですが、四季折々の草花があってもよいはずです。暑い夏のヒマワリやダリア、秋のコスモスやススキなど、草花は確実に季節を届けてくれます。

 しかし公共造園的設計思想に基づく集合住宅の植栽では、特殊な園芸樹木や管理に手間と経費がかかる花物などは、当初から想定されておりません。その結果、街路樹に用いられる市場に流通している樹木などによる植栽になり、園芸樹木や草花は少なくなり、潤いや安らぎに欠ける環境となってしまいます。 

 草花の導入を図り、潤いや安らぎを創出していくのは、そこに住む住民の意思によります。みどりの骨格が形成されたこれからは、草花の導入を図り、団地に潤いや安らぎ、色彩や季節感を導入し、みどりの質を高めていく事が重要ではないでしょうか。
ガーデンタウンのイメージ
梅林の林床に咲き乱れるスイセンの大群落(新宿御苑)広い芝生の中に設えられたお花畑(キューガーデン)小さな空間を活用したポケットガーデン(日比谷公園)

 イギリス式の風景庭園ではありませんが、一般的花壇のような枠で区切られたものではなく、樹林の下に広がるお花畑のような自然風のものが、樹木の多い北ハイツの風景になじみます。落葉樹林の下の春先のスイセンや秋のヒガンバナの群落などがイメージできます。

 また日本庭園の坪庭のように、敷地の要所々にポケットガーデンを創り、刈り込みだけの単調な景色に変化を与えてもよいかと思います。少子高齢化の進展で、北ハイツも子供の数が減っています。かつて幼児たちの遊び場だったプレイロットを改造し、花のある空間を形成するのも一考でしよう。

 草花は管理に手間がかかります。美しいお花畑を維持していくには、時間と手間隙をかけ植物を育てていかねばなりません。多少、お金と手間がかかりますが、管理組合と居住者が協働し、北ハイツ内に花のある空間を形成し、ガーデンタウンと呼べるまちを創出していくのは如何でしょうか。

第2 ガーデンづくりの提案

1 提案条件

 (1)対象区域

 12号棟は、清新北ハイツのほぼ中央部に位置し、号棟の周りを程よい距離をおいて園路が取り巻いています。この号棟と園路の間の空間を12号棟の園地に位置付け、ここを対象にガーデンづくりを検討(試案)してみました。

(2)基本的視点

 管理組合では今後、号棟別の管理を指向しています。号棟別の管理に移行した際に、12号棟の居住者が当該号棟に愛着を持てるような住みよい環境を目指すとともに、12号棟のイメージアップを図り、居住者の資産価値を高めるため、主に草花を主体とする柔らかなみどりづくりの観点からガーデンづくりを提案してみました。

2 花空間の形成の試案(ケーススタディ)

 緑の骨格が出来上がった現在、次の段階として、旧住宅公団型の公共造園的な空間から、柔らかな花空間への転換を図り、居住空間(終の住処)に潤いと安らぎをもたらしていくための具体的な方策を、12号棟を事例に試案してみました。

(1)号棟出入り口部の修景(ウエルカムガーデン)

1 正面玄関のみどりの修景

 12号棟の正面ホール入り口脇にはケヤキが植栽された大きな植込地があります。北向きのため、建物やケヤキの陰の影響で、低木のサツキや下草は枯れてしまい、裸地化して醜い姿を晒しています。とても毎日居住者の目に触れる、玄関口の植栽とは思われません。

 この場所は12号棟の顔となる場所であり、号棟のイメージを形成する空間でもあります。このため、この植込地を日陰に強い草花やレンガ等のガーデニング材料類等で修景を施し、12号棟の入り口にふさわしいイメージを創りだします。

2 ポケットガーデン(壷庭)づくり

 正面ホールのエレベーター脇に、南側広場への出入り口があります。間口は狭いながら利用者も多く、裏玄関の性格を有しています。ところが、この玄関脇の植込みが、単なる植え溜め化し、ベランダ園芸の廃材土や苗木の捨て場化していました。一部の居住者の方が見かねて整備をしてくれましたが、現状を整えるのが精一杯でした。

 ここも出入り口の貴重な空間なので、修景植栽を施し、ポケットガーデン(壷庭)を整備し、12号棟の南側入り口を美しいものにしていきます。

3 階段口のミニ花壇づくり

 12号棟の階段口脇の小さなスペースを活用し花を植えている人がいます。朝夕の出勤時や夕方の買い物の際などに、12号棟の居住者の目を楽しませてくれます。1平方メートルにも満たない小さな空間ですが、号棟に潤いと安らぎを与えてくれます。管理組合の使用許可が無く、共有地の無断使用ですが、敷地の有効活用の一例といえます。
玄関口に花空間を(ウエルカムガーデン)
正面玄関口の修景。12号棟の顔であり、イメージ形成に重要南出入り口の修景。小さな空間だが、人目につく重要な場所階段口の修景。個人の花作りには最適の場所

 今回の庇(ヒサシ)の改修に伴い、庇だけでなく、その周辺環境もあわせて整備することが全体のイメージを高めるには有効です。当該階段の利用者を中心に「ミニ花壇ボランティア」を募り、階段口脇の環境整備を行ない12号棟のイメージアップを図ります。

(2)花空間の創出(フラワーガーデン)

1 砂場を「花の庭」に転換

 12号棟の南側にある砂場は、現在は使用されることなく、雑草が生い茂っています。この砂場は乳幼児を居住地内で遊ばせるために設けられたもので、子供が少なくなった北ハイツでは、その役割を終えたといえましょう。

 この砂場を活用し、草花や素焼きの壺などの造園材料によるガーデニングを施し、12号棟の花空間を創出します。昨年度には砂場脇のベンチの修繕も済みました。かつては母親が座ってわが子を見守っていたベンチは、これからは高齢化した住民の陽だまり空間や憩いの空間としても活用できます。

2 プレイロットを「花の広場」に転換

 砂場に近接して設置されたプレイロットも、少子高齢化で子供が減り、かつてほど使用されることが少なくなっています。12号棟では一番広い空間が確保できる場所です。ここも砂場同様に改修を施し、12号棟の「花の広場」に転換することにより、居住者の憩いの場やコミュニケーション場としての活用が期待できます。

  3 平板園路を「花の小道」に改修

 プレイロットの西側に平板舗装の園路が設置されています。潅木が生い茂り、その存在に気づく人も少ないように思われます。

 ここでは、この繁茂したツツジ等の大刈り込みの一部を撤去すると共に、草花を園路沿いに植え、彩り豊かな「花の小道」創ります。直線的に整備された平板園路は、曲線状に敷き直し、暖か味を出すとともに、車椅子でも通行できるようにします。

 このようにして、12号棟の南側に「花の庭」や「花の広場」、「花の小道」など連続した花空間を創出し、住民の慰楽の場所とするとともに、12号棟のイメージアップ、ひいては清新北ハイツの評判を高めていきます。
新たな花空間の創出
子供の姿が消えて使用されなくなった砂場は小さな庭に転換あまり使用されないプレイロットを花の広場に転換大刈り込みが続く硬い平板園路を柔らかな花の小道に転換

(3)多様な花空間戦略

1 洒落たフラワーポットに取替え

 現在設置されているフラワーポットは、コンクリートの堅牢性なもので、進入防止用の車止めとなどとして、土木用に使用されるもので、園地の修景施設としては、あまりふさわしいものとはいえません。

 そこで、現状のフラワーポットを、例えばイタリア製の素焼きの鉢(テラコッタ)などガーデニング用の鉢に置き換え、北ハイツ内の景観を整えます。

2 休憩コーナーをプライベートガーデンに

 12号棟の東側の一角に休憩コーナーがあります。ベンチが改修され綺麗になったが、やや奥まったところにあるため、一般には使いにくい場所となっています。

 この奥まった立地条件を逆に活用し、木戸や生垣を設置するなどして、住民のプライベートガーデンを整備します。一戸建てのお庭の感覚がここで実現できます。利用の仕組みを整え、休日にはバーベキューやガーデンパーティー楽しむのも一興かと考えます。

3 季節を知らせるお花畑を

 12号棟の西側と小学校との間に、三角形のマウンド状の中規模な植込みがあります。このなだらかな丘に、スイセンやヒガンバナの球根を全面に植え込み、花の大群落(お花畑)を創ります。早春にはスイセンの黄色の花が咲き乱れ、また秋はヒガンバナの鮮やかな赤が季節の移ろいを知らせてくれます。また登校の小学生の情操教育にも一役をかうことができます。加えて、添景物として、前述の素焼きの鉢などをあしらい、12号棟周辺の植え込みに統一感を持たせます。
多様な花空間戦略
イタリア風の素焼きの花鉢。鉢だけでも辺りの雰囲気が一変 ミニ休憩コーナーを居住者のプライベートガーデンに活用 マウンドの上にスイセンやヒガンバナナのお花畑を形成

(4)花空間形成に向けて

1 花づくりは手間仕事

 花づくりには多くの手間がかかります。一般的な花壇でも、最低でも年に4〜5回は花の植え替えが伴います。この手間代がお金にはねかえって、花物は金がかかると言われる所以です。旧住宅公団の植栽設計に草花主体のガーデンが無いのはこのためです。

  12号棟の花空間は一年草の花壇と異なり、多年草や宿根草などの導入も考えられますが、それにしても、常に美しい花を咲かせていくには、手間・暇を惜しんではなりません。

2 しっかりした基本デザイン

 花なら何でも植えても美しいガーデンは出来ません。市民農園のような、なんでもありの野菜畑になってしまい統一性を欠くことになります。その防止策としては、例えば、添景物として同じような素材の鉢を置くとか、北欧風レンガなどのガーデニング材料を共通に用いることなどにより統一感を出すことができます。

 また、景観の統一を保つためには、基本コンセプトに基づく計画的な植栽計画や維持管理計画が重要です。しっかりした基本デザインをつくることが美しい花空間づくりの第一歩となります。このためには、やはりガーデニングの専門家の意見なども取り入れてデザインの統一化を図ることが肝要となります。

3 居住者の協働事業

 ガーデニングは庭付き一戸建ての住人だけがやるものでしょうか。12号棟の周りには可能性を秘めたすばらしいガーデニング空間が存在します。住民の方々が協働して自分の居住空間で、ガーデニングを進めるのは如何でしょうか。

 花空間の形成は、「言うは易く行うは難し」の感があります。今後は、号棟管理に移管する中、居住者参加型で、適宜試行を繰り返しながらしながら、花空間形成に向けて協働していくのも一考かなと考えます。

あとがき:本レポートは清新北ハイツだより及び、環境緑化担当理事として管理組合に提案したものをベースに取りまとめたものです。今後の北ハイツのみどりづくりの一助となれば幸いです。

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