コント・森永君とグリコ君

(背景には書き割りのダムの絵。そこへ米印乳業の係長とヒラ社員、匍匐前進で登場する)
ヒラ
「係長、こんなところで何をするつもりなんですか?」
係長「実はな、われわれふたりに、社長じきじきの密命が下ったのだよ」
ヒラ「え、社長じきじき?」
係長「おまえも、我が社の牛乳を飲んだ人間が食中毒になった事件は知っているな」
ヒラ「ええ、工場のずさんな検査体制が原因で……」
(係長、ヒラを張り倒す)
係長
「そんなマスコミのようなこと言うんじゃない! いいか、断じて原因はウチの牛乳じゃない。だけど、世間は因果関係を疑っている。そこでだ……」
ヒラ「そこで?」
係長(持っている袋を掲げて)「こうして我々がやってきたのだ。貯水池にこの毒を流す。水を飲んだ人間は、食中毒様の症状になる。すると悪いのは水であって、我が社の牛乳でない、ということになる。ふはははは、この見事な作戦!」
ヒラ「なんだか、へっぽこな特撮番組の悪の組織みたいですねえ。さしづめ私が悪の改造怪人、係長は」
係長「俺は?」
ヒラ「戦闘員」
係長「なんで俺がお前より下っ端なんだよ!」
(係長、ヒラをはり倒す。ちょうどそのとき、散歩姿の老人が上手より現れる)
係長「まずい、隠れろ!」
ヒラ「隠れるところなんかありませんよ」
係長「なんか別なことをしているふりをしろ!」

(老人、近寄ってきて声をかける)
老人
「おはようございます。こんな早くから、こんなところで何を?」
係長「いや……あの……その……」
老人「ああ、釣りですか。どうですか、何が釣れます?」
(とたんに係長とヒラ、ありもしない釣り竿を振って釣りの真似をする)
老人「それにしては竿がないか……ああわかった、網打ちですな」
(とたんに係長、網を打つ真似をする。ヒラは隣で大漁節を歌い、活きブリを抱える真似をする)
老人「網もないな……わかった、サバイバルゲームだ!」
(とたんに係長とヒラ、ありもしないライフルで撃ち合いの真似。ヒラ、ありもしない手榴弾の安全装置を口で外し、係長に投げる真似。係長、吹っ飛ぶ真似)
老人
「銃もないか……わかった、それじゃ」
係長、ヒラ「もういいんだよ!」
(ふたりで老人を下手に投げ飛ばす)

ヒラ「もう予定の時間を過ぎています」
係長「あのジジイで、とんだ時間を食ってしまった。早く毒を投げ込まないと」
(係長が毒の入った袋をまさに投げ込もうとしたとき、老人に扮していた三番目の男、今度は自然保護活動家の扮装で上手より登場する)
活動家
「やあみなさん、おはようございます」
(係長、あわてて毒の袋をヒラの口の中に隠す。ヒラ、口を膨らませて死にそうな顔をする)
係長
「あ……おはようございます……」
活動家「こんな早い時間に来るということは、きっとみなさんもこのダム建設に対して怒りを覚えているのですね! そうでしょう!」
係長「え……まあ」
活動家「わかりますわかります。そちらの方なんか(とヒラを指さし)、悔し涙を流してますもんね。そうです。このダム建設こそ土建行政のなれの果て、利権と汚職にまみれた政府の、おぞましき象徴なのです!」
係長「そう……ですか」
(この間に、ヒラ、口から毒袋を取り出し、そっと涙を拭く)
活動家
「そこの若い人(とヒラを指さし)、涙をいたずらに流してはいけません! 動くのです! 活動です! このダム建設のために、絶滅の危機に瀕しているフキダラソウモンのためにも!」
係長「フキダラソウモン? 何ですかそれは?」
活動家「知らないのも無理はありません。かつてこの地は湿地帯で、広大なフキダラソウモンの群落がありました。そこへダム建設で、フキダラソウモンの生息地は根こそぎ破壊されてしまったのです」
ヒラ「ということは植物? ミズバショウみたいなもんですか?」
活動家「フキダラソウモンのすべてを、私がご説明いたしましょう。フキダラソウモンは、フキダラソウモン科フキダラソウモン属の植物です。ちょうどこの季節になると、花を咲かせます」
係長「花? 綺麗な?」
活動家「花の色は犬の糞にそっくりで、花の香りは人の糞にそっくりです。その臭いを慕って、アオバエやキンバエがやってきます。そしてフキダラソウモンの種を足につけて、今度は人家へ向かいます。フキダラソウモンの種は小さいのですが、きわめて強い毒性があるのです。ハエが人家で食物にフキダラソウモンの種をつけ、人がそれを食べると、きわめて強い食中毒様の症状をおこし、下痢、嘔吐をくりかえします。下痢便や吐瀉物と一緒に吐き出された種は、それを肥料として育つのです。さあ、あなたもフキダラソウモン保護のために立ち上がりましょう!」
ヒラ「立ち上がるか、アホ!」
(係長とヒラ、活動家を下手へ殴り倒す)

係長「すっかり時間をとってしまった。もう一刻の猶予もならん。はやくこの毒袋を」
(投げようとしたとき、ヒラが課長を制止する)
ヒラ
「待ってください」
係長「どうしたんだ」
ヒラ「さっき、フキダラソウモンの種は毒だ、といいましたね。ねえ課長、フキダラソウモンを探して、その種を投げ込んだ方がよくないですか? 疑われる可能性も少ないし」
係長「おお、お前にしては上出来のアイディアだな。ではさっそく、フキダラソウモンを探しに行こう」
(二人、匍匐前進で移動を始めるが、そこへ警官の扮装に変わった第三の男、上手から現れる)
警官「こら、君たち、何をしておるのかね」
係長「まずい、警官だ。逃げよう」
警官「ますます怪しい奴。こら、逃げるな」
(警官に捕まってしまう二人)
警官
「何をしていたんだ。正直に話しなさい」
ヒラ「もうどうにもなりませんよ。係長、話しちゃいましょう」
係長「こら、喋るんじゃない」
ヒラ「えーん、実は、これこれなんですう」

警官「そうか。君たちの事情はわかった」
(二人、うなだれる)
警官
「存分に毒を流しなさい」
(二人、ずっこける)
二人
「いいんですか?!」
警官「世論に叩かれる辛さは、本官もよーく知っておる。われわれ警察官も、不祥事だ事件のもみ消しだと、さんざん叩かれてきたからな。君たちも辛かったろう。苦しかったろう」
(警官と二人、抱き合って泣く)
警官
「さあ、存分に毒を流しなさい。その苦しみのありったけを、この貯水池に投げ込みなさい!」
ヒラ「いいのかなあ」
(といって毒袋を投げようとしたそのとき、警官も上手から、大きな麻袋を引きずってくる」
警官
「本官もこれを投げ込むから」
ヒラ「なんですか、それは?」
警官「いや、実は、この間の事件でね、容疑者をちょっと厳しく尋問しすぎたのよ。木刀でちょっと殴ったら、当たり所が悪くてさあ、ころっと。そんで間の悪いことに、その容疑者、無実だったんだよねー。これがバレたら、また叩かれるじゃない。そんで、ま、この死体を、貯水池に投げ込んで、無かったことにしようかなーなんて……ね、いいでしょ?」
二人「いいわけないだろ!」
(二人で警官を殴り倒す)


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