ロード・オブ・ザ・リング2――ふたつの塔(超ネタバレ)

 私は指輪物語の原作を読んだことがない。この映画シリーズの前編を見たこともない。したがってこの作品に対する予備知識は皆無である。
 しかも英語版の映画であった。字幕はタイ語であった。ヒアリング能力貧弱な私は、とうぜん登場人物のしゃべる言葉が聞き取れない。ふつうの会話でも聞き取れないのに、この映画は化け物だとか魔王だとかがやたらに登場し、妙に押しつぶした低音や、キンキンの高音の作り声で喋ったりする。ますます聞き取りづらい。わからないので反射的に字幕を見にいくが、タイ語なのでとうぜん読みとれない。
 そんな環境のもとで見た映画である。とりあえず、映画を見た印象というか、私がこの逆境の中で、それなりに理解したストーリーを感じたままに書こう。自然主義写生文。前期印象派。

 物語は対決から始まる。なんか偉そうな老魔法使いが悪そうな龍と相打ちになって深い深い谷底へともに落ちてゆく。悲しむ仲間たち。でもファンタジー系RPGをやりすぎた私としては、こういう思わせぶりな倒れかたの奴は生きているとしか思えないのでちっとも悲しくない。だいたい知らない奴だし。しかも私の直感通り、こやつは生きていたから困ったものだ。
 いきなり舞台は変わり、子供ふたりが険しい岩山を越えてゆく。美少年とデブ少年という、ありがちなコンビ。やっぱコンビのかたわれはデブじゃないとね。たけし&賢太郎しかり、アボット&コステロしかり、アーバックル&キートンしかり、いくよ&くるよしかり。
 美少年が首から下げている指輪を狙って、E.T.が地球に定住して宮沢元総理や増田明美の一族と婚姻関係を結んだ子孫みたいな裸ん坊が襲ってくるが、逆に倒して道案内をさせる。三人は岩山を越え、なんか死人の顔が沈んでいるイヤな沼を越え、というファンタジー系RPGにありがちな苦難の道を越える。次は巨大サソリのいる砂漠だな。美少年は精神的にアブない奴のようで、たびたび沼の顔に魅入られたり龍に乗る騎士に指輪を渡そうとしたりする。それに呼応するが如く、宮沢E.T.も竹中直人のごとく善と悪の一人二役芝居をやってのけたりする。デブ少年はそのたびに止めたり怒ったりたいへんだ。
 そしてまた舞台は変わる。たしか象が走っていたから、きっとタイの話なのでしょう。なんかバベルの塔みたいなところに、さっき落ちていった魔法使いがいる。どうやら落ちたショックで記憶喪失になり、しかも邪悪な本性が目覚めたらしく、悪の大魔王として世界征服を企んでいるらしい。オークどもを使って鉱山を掘り(災害補償無し)、鉄を鍛え武器を作り(超過勤務手当無し)、多くのオークは(駄洒落無し)人間の村を襲い(ジュネーブ条約無し)、男を殺し、女を犯し、はしなかった。ファンタジーだからだろうか。
 ともあれその悪のオークから人間を救うべく立ち上がった三人組。ヒーローは人間の剣士。プロレスラーのトリプルHに似ている、ありがちなヒーロー。これに、意味もなく色が白く脈絡なく背が高く無用なまでにプライドが高いというありがちなエルフの弓手と、フォルスタッフの如くギャグを担当する背の低いドワーフの戦士が仲間となり、ファンタジーRPGでありがちな三人組を結成。やっぱギャグキャラのかけあい漫才は、ノッポとチビのコンビがいいよね。C3PO&R2D2しかり、阪神&巨人しかり、馬場&猪木しかり。
 まずは人間陣営内からの引き締め、ということで、三人組はとある田舎王国に向かう。そこでは、プロレスラーのアンダーテイカーの身長を半分にしたような、見るからに悪そうな奴が支配している。そいつは王様に毒を飲ませて自分に服従させ、反抗する王子を死刑にしたり、王女をモノにしようとしたり。そこへ三人組が現れ、ボケた王の命令であわや死刑になろうとするが、そこになぜか悪くなったはずの魔法使いが登場。いきなり白くなって魔法力を発揮し、王を正気に戻す。
 さて舞台は変わり、さっきまでイヤな沼をさすらっていたはずの美デブ少年二人組であるが、なぜか宮沢E.T.はおらず、オークにつかまって食われそうになったりするが、オークが馬鹿すぎて仲間割れなんかしているうちになんとか逃げ出す。そのうちふたりで森の中に分け入り、木の人と話をしたりしている。どうやら半日三百バーツで話がついたらしく、ふたりは木の人に乗って快適な旅をはじめる。
 回復した王の軍勢と三人組はオークの軍勢に戦いを挑み、ヒーローは崖から川に転落したりするが、どうせいつもの、実は助かっていたパターンだろ、と、私はちっとも悲しまない。案の定、川岸に打ち上げられたヒーローは、夢でなんだか馬面の女にキスされ、目を覚ます。
 木の人に乗っていたはずの美デブ少年二人組であるが、なぜかまた宮沢E.T.と戦場をうろついたりしている。そんなところを山賊に拿捕され、山賊のアジトに。山賊の首領はなぜかヒーローだった。こいつも落ちたショックで記憶喪失になり悪の本性に目覚めたのだろうか。
 また舞台は変わってこんどは高い塔。とはいっても悪い魔法使いの塔ではなく、頂上にドル札の裏面のような目玉があるまがまがしい塔である。そこにさっきの馬面女が物思いに耽っている。どうやらヒーローに恋しているらしい。そこへ馬面女の兄だか父親だかが登場。スポックと東洋武芸者をかけあわせたような人物である。人間は死ぬものだ、われわれエルフとは一緒になれない、などと説得する。エルフだったんかい。馬面女も水晶玉でヒーローと人間の娘がちちくりあっているのを見て、ようやくヒーローを諦める。というか、そんな馬面では、人間だったとしても無理だと思うぞ。
 そして最後の決戦。人間とエルフの連合軍は籠城し、悪い魔法使い率いるオークの軍勢から城壁を守る。しかし軍勢利あらず、じりじりと押されて外堀は突破され、さらにダイナマイトによって二の掘の城壁も爆破される。おいおい、爆弾あるなら、なんでその技術で鉄砲とか大砲とか作らないんだ。
 ついに本丸に追いつめられた王とヒーローたち。玉砕の覚悟を固めたところへ、なぜか悪くなったはずの魔法使いが白くなって登場。遊撃軍をひきいて敵の戦線を突破し、形勢逆転。
 そのころ、オーク軍の本拠地も攻撃を受けていた。要塞をつくるために樹木を伐採したことに怒った木の人たちが、石を投げたりダムを決壊させたり。それに山賊たちも呼応し、悪の魔法使いの塔はあっけなく崩壊。「これで終わったと思うなよ……勝負はこれからだ」とありがちな台詞をきっと吐いたと思うのだが、そのような思い入れで悪の魔法使い退場。
 ひとつの塔は倒したが、もうひとつの塔が残っている。馬面女の住むエルフの塔は、ここから遠い遠い海の向こうの険しい山の上にある。しかし、そこへ行こう。行ってエルフを皆殺しにしよう。そうすれば人間が支配する平和な世の中になる。と決意したような登場人物たちの思い入れがあって映画は終了。3へ続く。

 で、映画を見たあとにしゃあさんから話を聞いて、かなりな誤解があったことが判明したのです。
 まず宮沢E.T.といっしょにいる美デブ少年二人組と、木の人に乗っていた美デブ少年二人組は、別人だったのだそうだ。しかもあいつら、人間でなく、ホビットなのだとか。背が低いのが特徴というが、子供だと思っていたからなあ。それになんで紛らわしく美デブのコンビで共通させるかトールキン。ついでにいうと美少年と宮沢E.T.の一人二役芝居は、指輪の悪影響で精神が冒されているからなのだそうだ。私はてっきり、芸の見せ所なのだと思っていたよ。
 それから白い魔法使いと悪い魔法使いも別人なのだそうだ。ヒーローと山賊の親玉も別人なのだそうだ。しかも山賊の親玉は山賊ではなく、王子だった。ボケた王に死刑にされたのでなく、懲罰的に辺境の守備隊長に追いやられていたのだそうだ。
 だって、みんな顔が似てるんだもん。ヒーローというか、人間の戦士って、みんな長髪で髭面の西洋人で同じような甲冑だから、みんな見分けがつかないんだもーん。魔法使いはみんな爺さんで髭を生やしていてローブを着ているから、みんな見分けがつかないんだもーん。ホビットはみんなくりくり髪で美少年とデブ少年のコンビだから、みんな見分けがつかないんだもーん。だいいち、ホビットと人間の区別がつかないんだもーん。せめてキケロのジョーみたいに、くりくり帽子かぶせるとかしてくれよトールキン。

 さらに。世のすべてのファンタジーの源流となった偉大なる「指輪物語」を読んでおらず、枝葉末節のファンタジーRPGばかりやっていたもので、この映画を見ても随所にRPGの影を感じてしまうのだ。
 悪い魔法使いの塔のある街を見ると、「これ、ファイナルファンタジー7に出てきた、神羅本社ビルのあるミッドガルシティに似ているよね」と思い、ホビット二人組の岩山越えを見れば、「ドラゴンクエスト5の夫婦で山越えにそっくり」と思い、沼幽霊のいる沼を見れば、「ブレスオブファイア4の沼蛇のいる沼みたいだ」と思い、木の人に運ばれて移動するのは「そういえばポポロクロイス物語2で、こんなシーンがあったな」と思い、「なんだ、全部パクリじゃん」などと不遜なことを考えてしまうのであった。違うって。逆だって。みんな指輪物語からパクってきたんだって。トールキンさんが聞いたら泣くぞ。

 追記。バンコクで見た次回予告によると、ヒーローは次回完結編でカンフーの達人と闘ってもろくも敗れるらしい。と、私は思っていたのだが、ひょっとするとあれも違う人物で、映画も違う映画かもしれない。


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