洗礼とはいかなる儀式か
ちょっと前、キリスト教の「洗礼」に興味を持った。御存知のようにあれは教会で信心が堅固と認められた人が、キリスト教徒として新たに誕生する儀式である。このとき、パウロだのヨハネだの洗礼名が与えられる。これは、いわゆる「うしろの百太郎」ではないのか?聖者の霊が背後霊となって指導するのではないか?と思ったのだ。
本やインターネットで調べてみて、憶測の通りであることがわかった。やはり、聖霊が洗礼の瞬間から信者に取り憑くのだ。ところが、それだけではない。洗礼名は受ける信者が選ぶことができる。そして、聖者とは限らない。ガブリエルやミカエルといった天使の名前も、使用可能なのだ。
私はこれを知ったとき、洗礼を受けたくなった。ミカエルという洗礼名をもらって、「ほんとは天使」と威張ってみたいのだ。もっとも、こんな不純な動機では、洗礼を与えてはくれないだろうが。
たぶんエホバは駄目だと思う。ユダも駄目か?(もっとも別に聖人のユダもいるし、そっちだと言い張ればいいか?)ヨナ、ロト、ヨブといった聖書登場人物が認められるかは、まだわかっていない。誰か試してくれないだろうか。神父も困って、バチカンへ照会するかもしれない。
「聖霊が宿る」というイメージをもてあそんでいるうち、マンガのネタを思いついた。しかし私は四コマ以上のマンガを、もう5年も描いていない。これも実際に絵にすることはないだろうから、ここで出してしまおう。誰か漫画化してくれないだろうか。
元亀、天正頃の堺の教会。
神父と豪商の娘、葵が向かい合っている。 神父はポルトガル人。どこで習ったか、珍妙な日本語を喋る。
神父「よくここまで耐え申した。貴殿に洗礼を授けるでござる」
奥から何か生き物のようなものを持ってくる。 よくみるとそれは独眼、頭に角が生え、腕が8本。 鬼が昆虫に化したような小動物である。
神父「貴殿にはこのクリストフォルスの洗礼名を与えまするでござる」
葵、たじろぐ。
「神父様・・・うち、ばるばら様かかたりな様の方がええんやけど・・・」
神父「もう用意いたしおり候。今更変更はいかんでござるよ」
神父が手を放したとたん、小動物は葵に飛びかかる。 葵の背中に爪を立て、食い込む。
葵「ああアッ!」
神父「これで貴殿にも精霊が宿ったでござる」
2週間ほど後の同じ教会。 葵の父、水野屋籐兵衛が文句を言いにきている。
「あんた、人の娘に勝手に洗礼なんかして、どないするつもりや!」
神父「彼女が望んだことでござるまする」
籐兵衛「そやかて親に一言断りがあってしかるべきちゃいますか。うっとこは親代々法華ときまっとりますのや」
「それに、あいつときたら最近毎日淀川へ行っては渡し人足の真似ごとなんかしてくさる」
神父「彼女ではない。クリストフォルス様がさせているのでござる」
淀川で葵、3人の旅人を背に負ってかるがると川を渡っている。 よくみると葵の背中の怪生物が背負っているのであった。
それからさらに後。 いつものように川を渡る葵を数人の武士が見ている。
「殿、あれです」
「評判の娘雲助というのは。奇特なことに、金を受け取らぬとか」
「おもしろい」
殿と言われた少年、高い声で叫ぶ。 「娘、わしも運べ」
葵、少年を背にのせる。珍しくよろける。
葵「お・・・重い」
葵、少年を負い、満身を紅潮させ、汗を流しながらよろよろと川を渡る。 ちらりとふりむいて少年をみる。少年の背にも、何か乗っているようだ。
少年「重いであろう。いまそなたは世界を負っているのだから」
葵「あ・・・貴方は」
少年の背中にいるのは、痩せて髭面、細い手足が16本の、キリストに似た怪生物。
「ち、違う・・・・!」 葵、思わず少年を振り捨てる、
宙に浮いた少年は、その刹那、腰の刀を抜いて葵に切りつける。
葵の首が飛ぶ。
葵の背から怪生物が離れ、川の岸に泳ぎ着く。
しかし、着いたところを、少年が刀で串刺しにする。
武士「信長殿、大丈夫ですか」
少年「だいじょうぶじゃ。着替えをもて」
武士「はっ」
その対岸で神父は見つめる。 「違う・・・キリストではない。あれは・・・アンチクリスト」
暗転。
後記。キリストはじめ聖人達の姿態については、嘘は書いておりません。キリストの手を十字架に釘付けたという釘は、いままで32本見つかっています。つまり、キリストは腕が16対あったことになります。従って、トリノ聖骸布は人間の形をしておりますからニセモノです。たぶん、イスキリでしょう。聖クリストフォルスは独眼、身の丈3メートルで、犬の頭と伝えられています。なぜ、そんなのに背負われる人がいたのか不思議ですが。他にも聖女バルバラは胴が3つ、頭が2つ聖遺物として各地の教会に残されています。一番凄いのは聖女ユリアーネが胴体20、頭26。聖ヨハネ(星野之宣「妖女伝説」でブルーザーブロディみたいに威張ってたあいつですよ)のように人差し指だけ11本残っている奇特な方もおられます。