六甲おろしに颯爽と 蒼天翔る日輪の 青春の覇気麗しく 輝く我が名ぞ阪神タイガース

 私は阪神ファンだったのである。
 しかし昨今のていたらくにはほとほと愛想が尽きた。
 弱いだけならまだ同情の余地もある。
 しかし、阪神の選手は野球をやっておらんのだ。
 外角ばかりのリード、走らないランナー、
 ノーアウト2塁でファーストにバントを転がす打者。
 もう、こんなチームは見放したい。
 坪井の首位打者も無理そうだし。

 しかし25年も応援したチームだ、愛着もある。
 そこで未練を断ち切るため、はるばる甲子園までやってきたのだ。
 実は来ているのは私だけではない。
 水戸藩の家老、藤井紋太夫も一緒に来ている。
 彼は藩主の水戸黄門こと、光圀公を退陣させようとしているのだ。
 私もその陰謀に荷担せよ、としつこいのだ。
 老公降ろしに誘おうと、というやつである。

 それよりも久万オーナーと三好社長を降ろす方が先ではないか、と紋太夫に言ったのだが、聞かない。
 しつこく私につきまとい勧誘するのである。
 この連判状に署名しろ、そして実印を押せ、と五月蝿いのである。
 ついに甲子園までついてきてしまった。
 添うて追いかける実印を、というやつである。

 「実は、ここに協力者にも来てもらっているのだよ」
 紋太夫はぽんぽんと手を叩くと、球場の壁から人影が舞い降りた。
 黒装束の女性。
 くノ一だ。
 彼女はおもむろに覆面を外した。
 私は仰天した。
 「あ、あなたはかげろうのお銀こと、由美かおる!」
 お銀といえば、黄門様の味方のはずだ。
 なぜ陰謀の片棒を担いでいるのだ。

 「あたしもね、こんなことはしたくなかったの」
 寂しげに由美かおるは語りはじめた。
 「でもね、写真集が売れていないのよ。
  せっかく清純派のイメージ捨ててまで、ヌードを出したのに。
  それでお金が必要になったわけよ」
 ううむ、由美かおるって、清純派だったか?
 それはともかく、清純の破棄売れ悪しく、ということだな。

 「待て!待て待て!」
 「藤井紋太夫、うぬが悪業しかと見届けたぞ!」
 えらく張りのある声で、突如二人の男が飛び込んできた。
 おお、助さんと格さんではないか!
 「控え!控え!」
 格さんが葵の印籠を突き出す。
 紋太夫は蒼白になって、その場に土下座する。
 何故か桧山と大豊も土下座している。あ、控え選手だからか。
 お銀も呆然と立ちつくしている。

 こうなると、かっかっかと笑いながら登場したこの老人は、黄門さま以外の何だというのだ。
 「紋太夫。年貢の納め時じゃな」
 「は、ははーっ」
 やはり家老は殿様には頭が上がらない。
 「し、しかしなぜこのことが分かったのでございますか?」
 「加賀藩の大阪留守居役が私の親友でな、知らせてくれたのだよ」と助さん。
 「藤井紋太夫、翌日より家老の職を免ずる!」と格さん。
 黄門さまはうれしそうに笑うと、こう言った。
 「加賀役わが派ぞ叛臣退位が明日、というわけじゃな」
 黄門さま、私の台詞を奪わなくても・・・

 ああ、この騒動のせいで阪神の試合を見そびれたぞ。


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