国を愛してなにか悪い

 

 国民の愛国心を劇的に向上させる手段がひとつある。

 次の法律を施行することだ。

「日本国内の全ての機関の情報システム部門では、その年月情報をその時点の元号暦で保持すること。西暦、既に過ぎた元号の暦、独自の暦を保持するものは日本国家の暦を奉じないものとみなして不敬罪とする」

 国家の暦を奉じるということは古来その国家に忠誠を誓うということであった。

 古代日本が関東・東北地方へ勢力を伸ばしたとき、「蝦夷」と呼ばれた住民達が大和朝廷に従うしるしは、米を作ることと、大和朝廷の暦を使うことであった。米を作らないもの、暦を使わないものは「まつろわぬ夷」として征伐された。こうして関東、東北地方は平安時代から戦国時代に至る歴史時間の間に”大和化”され、まつろわぬ者どもはわずかに北海道の辺境にアイヌとして生き残るのみとなった。(アイヌと蝦夷はたぶん同じものを指しているわけではない、というのが定説のようだ。ここでは、単に中央政府に従わない、という同類項でひっくくってしまう)

 逆に暦を使わないことは、積極的な反逆を示す行為である。だから南北朝時代、南朝方の天皇、貴族、武士は北朝と違った暦を使い続けたし、新教徒は長い間グレゴリオ暦を拒否してきた。平将門の罪状のうち最大のものは、勝手な暦を創作したこと、であった。

 したがっていま、平成暦を使わないものが非国民として処罰されるのは当然である。もちろん、うちの会社のようにいまだに昭和72年とか言っているシステムや、NHKのように開局時をNHK元年としてNHK暦で全てのシステムを動かしているようなところは、昭和天皇を絶対化して今上天皇を認めざる者、自社の開局を畏れ多くも陛下の在位より重視する不敬なる者として極刑に値する。会社は閉門蟄居ののち廃業、社長は市中引き回しのすえ獄門申しつける。

 全てのシステムが平成暦を使うと、どうなるか。

 システム担当者は皆、今上天皇の長寿ならんことを神に祈るであろう。

 愛国者が増加する。

 

 

 以上のようなことを、西暦2000年対応の講習会を聞きながら、ぼんやりと考えていた。


目次に戻る     次へ