G−ダイアリーでGOGO!!(前編)

 さて、これはラオス旅行記の補遺のようなものだが、これほど発表が遅れたのにはわけがある。
 私はこの恐ろしい物語だけは旅行記にしたくなかった。それは、性欲と、カネと、中年の悲哀と、懊悩と、絶望がうずまく救いようのない世界だからである。
 まあしかたない。ボチボチと書いていこう。

8月6日(金)
 早朝の埼京線にとびのり、スカイライナーで成田へ急ぐ。スカイライナーは始発のせいか夏休みのせいか、ほぼ満員の盛況だった。
 成田でハラ君と待ち合わせ。ハラ君、得体の知れぬ軍服もどきのファッションに身を包んでいるのはいいとしても、小学女児の背丈ほどもある巨大なトランクを引きずっているのはどうしたことか。まさか中に広辞苑とかグリコポッキーの箱とか入っているわけでもあるまい。
 ともあれ中華航空のチェックインを無事に済ませ、ラウンジでゲートインまで休憩。なにしろ今回の旅行、ハラ君の要望で、バンコク往復だけはビジネスクラスを購入しているのだ。ラウンジ使い放題。
 しかし中華航空のラウンジは、中小会社の悲哀か、かなり辺鄙なところにある。まあそれでも、入ってしまえば、コーヒーも飲み放題サンドイッチも食い放題。私がもっとも感動したのは、ビールサーバーがあることだった。
 泡の分量を調整しつつビールを注いでは飲むのに熱中してしまい、ゲートインの時にはすでにほろ酔い状態であった。

 しかし負けてはならん。これから我々はアルコールフリーのビジネスワールトに突入するのだ。
 ビジネスクラスの我々は、エコノミークラスのシモジモを横目でせせら笑いながら優先搭乗。
 (ま、VIPの私たちが乗りこむまで、じっと待ってろよ貧民ども。そのうち乗せてやらんこともないからな)
 などと呟きつつ2階席へ。ビジネスクラスの座席はさすがにゆったりしている。足を思いきり伸ばすことも出来るし、肘を張っても隣席に届くことがない。手荷物を入れる棚が座席の上にも横にもある。最初にスリッパをくれて、靴から履き替えてゆったりできるのも嬉しい。もっともそのおかげで、一瞬ビジネス席に微妙な臭いが漂った。
 スリッパサービスはエコノミーでもやってほしいけど、その場合漂う臭いは微妙なんてもんじゃないだろうな、多分。

 搭乗してすぐ、ウエルカムドリンクを運んでくると同時に、朝食の注文を取りに来る。
 私は洋食を選択。さすがビジネスクラス、料理が何品も運ばれてくる。
 おそらく私の人生最初で最後という豪勢な機内食を、ここで公開しよう。
 最初は前菜。サラダ、鴨の燻製と鮭のムース、パン。
 次がメインのヒレステーキ、アボカドソース添え。
 最後にデザート。ババロアのオレンジソース、季節の果物、そしてコーヒー。
 エコノミーとは違うのだよこの内容。

ウエルカムドリンク 前菜
メインディッシュ デザート

 ちょうど昼ごろ、飛行機は台北に到着する。ちょっと夜市に寄りたかったが、我々はこのままバンコク行きの飛行機に乗り継がねばならぬ。
 またもエコノミーのシモジモどもを横目に優先退場し、中華航空のラウンジでゆったりのんびりしてからシモジモ横目に優先搭乗。
 中華航空のラウンジがえらく辺鄙なところにあったんで、ゆっくりというか15分くらいしか滞在できなかったのは秘密だ。
 台北発バンコク行きの便に乗りこんですぐ昼食。いやー、ビジネスクラスは皿数が多いから、こういう場合は忙しくっていけないやなー。(エコノミーのシモジモを横目に見ながら)
 前菜はスモークトサーモン。メインは白身魚のトマトソース蒸し。デザートはチョコレートケーキ。という、まあ、ビジネスクラスではありきたりなメニューだな、あっはっは。<あんたビジネス最初なのになんでありきたりって分かんねん

メニュー 前菜
メインディッシュ デザート

 夕方ごろバンコク着。スワンナプーム国際空港という、こちらに到着したのは私にとっては初めてだ。
 空港からエアポートリンクというモノレールに乗る。本当なら今ごろ開業しているはずだったのが、タクシン派の騒乱やなにやかやで、いまだに試験運転中。おかげで無料だったが。
 エアポートリンク終点のパタヤイで降りてタクシーを拾い、宿へ。
 宿は勝手知ったるパトムゥアンプリンセス。ツインルームを予約したはずなのに23階のスイートルームになっていたのは、やはり予約したアップルワールドのご威光なのか、それともこの宿を教えてくれた、今は亡きしゃあさんのご加護なのか。
 しばらく宿で休んでから、夜に近所に出撃。
 その前にホテルの隣のMBKで両替。3万円を10,725バーツ。
 イサーン料理屋に行くつもりだったが途中で道に迷ってしまい、雨も降っているので近所のフカヒレ料理屋に入る。フカヒレ姿煮、ナマコ野菜炒め、カニカレー炒め、豚肉ニンニク胡椒炒めなど頼む。もちろんビールはシンハー。キンキンに冷えているのが嬉しい。全部で2,400バーツ。

エアポートリンク フカヒレ料理

 私はむろん、これでバンコクの最初の夜はおしまい、あとは寝るだけと思っていたのだが、ハラ君はナナプラザに行くという。
 そう言われてみると、なんだか好奇心が湧いてきたので、私も行ってみることにする。
 ホテルから歩いて5分の駅から3駅、10分でナナ駅につく。そこから歩いて5分くらいのところにナナプラザは存在する。
 もう10時過ぎ、駅前ですら人通りは少なかったのだが、なぜかだんだんと金髪毛むくじゃらの不良っぽいファラン(欧米人観光客)がぞろぞろと集うようになり、ナナプラザの前は黒山の人だかり。屋台だかり。Tシャツ屋はあるわランジェリー屋はあるわハンバーガー屋はあるわ虫屋はあるわ。なんぞこれ。
 ナナプラザは3階建てくらいのビルで、そこにゴーゴーバーの店がいっぱい雑居しているらしい。
 1階の中央はかつてオープンエアのビアバーがあったらしいが、火事で焼けたとのこと。焼け跡をとりまくようにログハウス風のビアバーがいくつかあり、おねいさんが胸やらお尻やらをもこもこ動かしながら接客している。ほとんどの客がビールの小瓶をラッパ飲みしている。
 われわれはハラ君の案内で階段を登り、2階のエロティカに入店。ハラ君の行きつけの店らしい。元気のいい呼び込みに案内されてのれんをくぐると(本当にのれんみたいなのがあるのだ)、店内は薄暗い。ロックともポップスともつかない音楽が耳につんざく。
 ボーイに案内され、階段状の座席のひとつに落ち着く。すぐビールが運ばれてくる。ビアシンの小瓶。
 名前の通りエロティックな姿態の娘たちが、スポットライトに照らされながら、ビキニ姿でステージで踊っている。ときどきビキニのブラジャーをはずしている娘がいる。やはり南国で、あのスポットライトに照らされていると暑いのだろうか。
 次に行った店はエンジェルウィッチ。天使と魔女という名前だが、どちらかというと魔女っぽい、いや魔法戦士だろうか、ガタイのいい娘たちが革のビキニ姿で革鞭を手に、知らないおじさんを責めさいなんでいる。あのおじさんは、資本主義の豚なのだろうか。
 3軒目はオブセッションという店。ここは普通に娘たちが踊っている。まっとうな店かと思ったら、隣に来た娘の声がなんとなく野太い。ここはレディーボーイ、つまり性転換した現女性の店なのであった。どうりでみんな体格がいいと思ったよ。
 この店はビキニパンツで踊れるように、男性の中心部は切除しているのだそうだが、別の店ではあえて切除せず、むしろそれを売りにしている店もあるのだそうだ(ハラ君談)。やはりバンコクは魔都である。
 最後はナナホテルのディスコ。ナナホテルはナナプラザの向かいにある。交通至便のため、ナナプラザを目的とする客しか宿泊していない。
 そういえば1軒目のエロティカにいた娘が、さっきからハラ君の横にずっといると思ったのだが、店からお持ち帰りしたのだということ。

 私の理解した限りでは、こういう店のシステムは以下のようになる。
 店の構造はほぼどこも一緒。踊り子の踊るステージを中心として、すり鉢状に階段席が取り巻き、客はそこからステージの踊りや演芸を見学する。野球場やコロシアムの小型版と考えればいい。いやむしろサーカス会場に近いか。
 まず入店した客は、席についてドリンクを注文する。一番人気のビアシン小瓶だと100バーツ程度。店によって55バーツとか格安のところもあるようだ。ビールの小瓶はすぐ暖まらないよう、ポリウレタンのカバーをかけている。
 そして踊っている娘が気に入ったら、胸につけている番号札(胸になにもつけていない場合、パンツの横につけている。全裸の場合はどうするのかわからない)を店員に告げ、席に呼ぶことができる。席に来た娘にはドリンクを振る舞う。これが100バーツ強。さらに店員やぜんぜん関係のない娘までもドリンクをねだってくるので、これにも振る舞う羽目になる。
 また、チップと称して胸の谷間に札を挿入させたり、別になにもしないでチップをねだったりしてくるので、これにも銭が必要ズラ。20バーツ札なんか駄目ズラ、500バーツ札や1000バーツ札はやり過ぎズラ。100バーツ札が正しい相場。あくまでも、気に入った女にだけ与えること。どうでもいい女にやる銭はないズラ。女には飴と鞭が必要ズラ。
 さらに娘が気に入り、店の外に連れ出す場合には、600バーツ店に払うことになるズラ。
 つまり娘が踊っているのは、べつに踊りを鑑賞させるのが目的ではなく、最終的にはドリンクを頼ませたりお持ち帰りを推進するための、見本市といったところだ。
 むろんそのあと、ムニャムニャという情勢に立ち至った場合、娘との交渉により2,000バーツから3,000バーツの支払いが生じる場合もある。各員刻苦勉励せよ。

 なぜかディスコで、私の横にレディボーイが寄り添っていたような記憶がある。どうやらハラ君が、面白がって私のためにテイクアウトしてくれたらしい。でも尻の貞操は守ったよ。ホントだよ。
 ホテルに戻って財布を点検したら、3,000バーツくらい使った計算になる。店の支払いはみんなハラ君だったような気がするんだが。
 まあ、なんだかんだチップをねだられて、鼻の下長くして渡しちゃったからなあ。

ナナホテルのディスコ

8月7日(土)
 8時朝食。パトゥムアン・プリンセスのブュッフェは依然品数豊富。果物がどれも甘くなかったのが残念。
 朝食後、また寝る。このへんは変わらないな。
 1時間ほど寝てから、まだ寝ているハラ君を残して起き出し、隣の東急スーパーでお買い物。
 明日にはバンコクを発つので、工業製品は今のうちに買っておきたかったのだ。
 しばらくスーパーをうろうろするが、探しているスープキューブが見つからなかった。
 今日明日のビールも買おうと思っていたんだが、酒も見つからなかった。
 酒類の時間外販売禁止令が厳守されているんだろうか。かつてのような、朝起きる→東急でビールとつまみを買う→ホテルに戻りのんだくれる→昼まで寝る→起きて買い出しにいく→ホテルに戻って飲む、という、輝かしき永久運動はできなくなってしまったのか。

 買い物から戻ると、ハラ君が起きていたので、ルンピニー公園へと出かける。
 なぜルンピニーなのかというと、ハラ君ご愛読の雑誌「Gダイアリー」のバンコクMAPに、「ルンピニー公園には大トカゲが出没」と書いていたからなのだ。
 時は真夏。バンコクは曇りのち快晴。激しく照りつける日射しと高温にかこまれ、500mlペットボトルの水を3本も飲み干すほどの汗をかきながらの、難行苦行であった。
 われわれの調査結果。
 少なくとも公園内には、13匹の大トカゲが棲息している。最小は全長50センチ程度。最大は2.5メートル程度。多くは水辺でゴロゴロしているか、湖を泳いでいる。たまに公園の芝生をのしのし歩き回り、カラスや鳩と縄張り争いしている。たいがいは数に優る鳥類に圧倒され、すごすごと引き下がるようだ。
 主食は魚らしい。2.5メートルの超大物が50センチくらいのナマズの死骸をむさぼり食っているのを目撃したが、ナマズの死骸を発見したのか、それとも生きているナマズを捕食したのか、そのへんはわからない。

 しばらく大トカゲの昼食シーンを拝見したのち、人間の昼食へ。
 ルンピニー公園から歩いて5分くらいのところにある、ウォンリー・ランスアンという店。魚の浮き袋と野菜炒め、トムヤムナマズ、カエルのガーリック揚げ、赤貝蒸し、タイ風チャーハンを頼む。ビアシンと一緒で940バーツ。
 カエルのガーリック揚げは皮がパリパリしてうまい。ナマズもゼラチン質の皮がうまい。浮き袋は脂っこい感じ。
 帰ろうと思った時にちょうど豪雨が降ってきたので、ジュースとアイスコーヒーを頼み、しばらく時間をつぶす。

ルンピニ公園 トカゲとカラス
トカゲ、ナマズを食らう 人間の昼食

 30分ほど待つと雨も止んだので、腹ごなしにサヤーム・スクエアまで歩いて戻る。
 ハラ君のおすすめで、とてもめずらしい市街地直下にある水族館、サヤーム・パラゴン水族館へ行く。
 ちょうど夏休みなので、サマーセット料金というのが提示されている。それによると水族館の入館、グラスボート乗船、ドクターフィッシュ体験、4D映画鑑賞、ペプシコーラとポップコーン、おみやげのバッグのセットで990バーツとのこと。それで入ってみることにする。
 水族館はなかなかの展示。熱帯圏だから飼育は容易とはいえ、よくもこれだけの生物を集めたものだ。熱帯魚やマグロといった魚類はもちろん、ロブスターやクラゲなどの無脊椎動物、ウミヘビやウミガメなどの爬虫類、ラッコやアザラシなどの哺乳類、ペンギンなどの鳥類、さまざまとりそろえてございます。
 映画はディズニーキャラのような熱帯魚少年とウミガメ老人が故郷の海を取りもどすストーリー。その宣伝なのか、熱帯魚の着ぐるみをかぶったゆるキャラが水族館近辺を闊歩しているが、あまりにもゆるキャラ過ぎるので、近づくと幼児が火のついたように泣き出す。
 おみやげのバッグは、なぜかヒョウ柄のズダ袋だった。

 ホテルに戻り、ビールを飲んで、シャワーを浴び、着替えをしてふたたび出かける。
 目指すはナナプラザ。なんでもハラ君は昨日のエロティカの娘たちをカラオケに連れていくと約束したらしい。
 店に入ってみると、なんだか様子がおかしい。ビアシンをラッパ飲みしながら、しばらく娘達の踊りを鑑賞し、違和感の原因をつきとめようとしていたが、ようやく理由がわかった。
 みんなブラジャーをしているからだ。トップレスの娘がひとりもいない。これは由々しいことだ。
 その理由を娘たちに聞いてみたら、タクシンが法律で決めたのだ、とバカボンパパのようなことを言う。
 なんでも夜9時までは、踊り子がブラジャーを外すことは禁止されているという。
 私はそういう、人間性を法律で縛るのには賛成できないなあ。

 などと私が社会学的考察を加えている間にも、ハラ君は娘たちに声を掛け、チーママに金を払ってなにごとか話している。
 そのうち娘たちはおでかけの洋服に着替えてきた。
 やがて、チーママも着替えてきたのには驚いた。ハラ君はチーママもテイクアウトしていたのだ。
 ハラ君によると、「娘だけ連れ出すとチーママの機嫌を損ねる。チーママにもおいしい思いをさせておくと、今後の店での取扱いが格段によくなる」とのこと。旦那の至言ですなあ。
 小娘ふたり、そのお姉さん格の娘ひとり、チーママ2人、この大勢でナナプラザ前からタクシーを拾い、カラオケボックス、Big Eccoへ。日本のあの店の支店だ。
 店に入るなり、娘たちは鬼のように注文をはじめる。ピザ、焼きそば、チャーハン、肉刺し、サラダ、肉野菜炒め、魚のシチュー、などなど。さらにビアタワーという、ビアシンが10リットルくらい入った巨大サーバーも注文。さらにさらに、虫まで持ってきた。これはナナプラザ前の虫屋台で買ってきたのだそうだ。
 どっちかというと今日は従業員慰労の会なので、食い歌うのは小娘どもにまかせ、私はもっぱらビアタワーの標高を下げることに専念した。たしかこのビアタワー、2回くらい追加注文したよな。
 驚くべきことにこの大量の食物、2時間のタイムリミットが切れるころにはすべて片付いていた。ゴーゴーバーの娘はどんだけ食うねん。どんだけ普段食ってないねん。いや普段からこんだけ食ってるんだろうか。なにしろ毎日6時間、スポットライトに照らされて踊る激務だからな。
 この饗宴はすべてハラ君のおごりだったのでいくらかかったのかよく分からないが、別れ際にハラ君が、女性ひとりひとりに1,000バーツ札を渡していたのは見た。

水族館のゆるキャラ 虫屋台


 8月8日から15日までは、本筋のラオス旅行。こちらのサイドストーリーは、ラオス航空のプロペラ飛行機でバンコクに戻ってきた、8月16日夜からふたたび始まる。


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