ダイエーホークスに就いて

 昨日岡山から帰還した私であったが出迎える人もなく、寂しかったわと言う人もなく、そもそも出かけていたことに気付いていた人がまるでいなかったのだ。岡山でもメール書いたり日記更新したりしていたからね。これぞインターネットのおつきあい、と私は思わず首を吊ってしまいたくなったのだが何の解決にもならないことに気付きやめた。今度は22日から3週間タイに行ってくる予定なのだ。さすがに今度はメールも日記更新もできまい。まあモバギとデジカメは持参するので帰ってからくだらない紀行文と写真をイヤというほど見せて辟易させるとは思うが。

 そんなわけで残された13日をせっかくだから有効利用したいと思うのだ。何かぱっとしたことはないかな。ここの毎日更新というのはどうだろうか。13というのは縁起が悪いから12か。12日間連続更新、おおこれは景気がよさそうだ。
 どうせならキーワードというかとっかかりを決めておいたほうがやりやすいだろう。12と言えばこれしかあるまい。プロ野球12球団だ。ということで今日から12日、球団名をタイトルに駄文を綴っていこうかと思う。断っておくが内容はまるでタイトルと違ってくることが予想される。私の関知するところではない。

 当然初回は阪神タイガース、と思うだろうが、そういう書きやすいのは後の方に回して難易度の高い球団から済ませた方がいい。というわけで今日はパリーグの覇者、ダイエーホークス。

 ダイエーホークス、前身は南海ホークス。さらに昔は近畿グレートリンクと名乗っていた。グレートリンク、何だか強そうである。毒霧とか吹きそうだ。ゼルダの友達のリンクがライフを連続二十個取得するとグレートリンクになり、三十秒間最強化する。そんなことではない。

 グレートリンクの昔は知らぬが、南海ホークスはおっさん臭い集団だった。おっさん度では阪急ブレーブスと頂点を争っていた。阪急がパンチパーマの集団だとすると、南海はスタイルにこだわらず自然なおっさん臭さを醸し出す集団だった。なにしろ、門田、香川、山内、山本和範、藤原、佐藤道郎、新井である。定岡なんか弟があれだけ爽やかなのに兄は南海でおっさんなのである。外人選手だってパーカーとかメイとか王天上とかおっさん臭いのである。甲子園のヒーロー畠山君も南海に入団後三秒でおっさん臭くなったのである。

 まず、球場の立地がいい。通天閣の隣である。あのビリケンさんの通天閣である。大槻ケンヂも思わずびびったという通天閣である。24時間体制で酔っぱらいのおっさんがランニングにステテコという正装で徘徊しているのである。なぜかその隣には古本センターがある。しかもなぜか品揃えがいいのである。百円均一のコーナーに「紅茶キノコ健康法」とか「ハンパしちゃってごめん」とか、妙な本マニアには堪らないラインアップが並んでいる。漫画のコーナーでは「さわやかドカベン香川君」とか「しっかりせえ! タイガース」とかいつ出したのか分からないような本が並んでいる。特に後者は時期不明だ。なにしろ、1985年を除けばつねに「しっかりせえ!」と罵られてしかるべき球団なのだから。しくしく。
 そんなお隣さんに囲まれた球場の名前が大阪球場である。名前からしておっさん臭い。すり鉢状の球場にはいるとまず目にはいるのが、ねじり鉢巻きをしたおっさんの巨大な顔である。看板である。横には、「がんこ寿司」とこれも巨大な文字で書いてある。なにゆえ「がんこ寿司」だったのか。

 さて、球場内の売店を覗いてみよう。売店でいちばん売れる食品は東京ドームのようにドーム弁当ではなく、横浜スタジアムのようにシューマイ弁当でもなく、当然きつねうどんである。正確には「けつねうろん」と発音する。関西の薄味、関東の濃味とよく言われる。うどんもその通りで、関東のように醤油でうどんが見えないようなものは忌まれる。あくまでだしの味で勝負するのが関西風だが、ここ大阪球場のきつねうどんは単に薄い。だしの味もしない。醤油味もしない。うどんの湯漬け、というようなものになっている。もしかしたらこれも、おっさん対策だったのかもしれない。醤油の塩分を摂りすぎて腎臓病になったり、だしのアミノ酸を摂りすぎて痛風になったりしないように。
 その横のキャラクターグッズを見てみよう。下敷きとかブロマイドとかメガホンとか普通のグッズに混じって、ハリセンがある。関西人にはおなじみの、チャンバラトリオがリーダーの頭を張るのに使う、巨大な扇子のようなものである。あるいはボール紙製の鉄扇とでもいうか。そいつを緑に塗って、「勝ちセン」と名付けて売っている。そう、南海ファンはこの「勝ちセン」で隣の客の頭を殴って応援するのである。おっさんが見も知らぬ隣のおっさんの禿頭をぺちぺちとリズミカルに殴りながら絶叫する、それはそれは身の毛もよだつような光景であった。

 そんなだから声援も普通ではない。神宮球場のギャル応援団の黄色い声に代わり、こちらは独立おっさん愚連隊のドスのきいた声援である。甲子園球場でレフト吉竹がクッションボールの処理を誤って三塁打にしてしまったとき、上品な甲子園の客は
「あほんだら! ヒットもよう打たんくせにエラーだけ一人前か! 死ね!」
「ボケ! 田尾のほうがずっとマシじゃ! トレードするぞ!」
 と優しい声援を贈るところだが、大阪球場は違う。レフト門田に向け平凡なフライが飛ぶ。しかし門田、目測を誤りヒットにしてしまう。そんなとき大阪球場のおっさん愚連隊は何と言うか。
「どあほ! 門田のとこに打つなんて、そんな真似がようもできたな落合!」
「おまえも門田には世話になっとるやろが! そこんとこちぃとは考えぇ!」
 打った奴が悪いのである。さらに門田には声援が飛ぶ。
「門田、慣れん守りで疲れたやろ。ま、ゆっくり休みぃ」
 大阪球場のおっさんはあくまで優しいのである。
 こうした優しいおっさん達が大阪からも絶滅してしまったとき、南海ホークスはその歴史を閉じたのかもしれない。


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