似而非詩二篇

無限回廊
 書棚のならぶ長い階段をぼくは歩む
 安息のベッドがその先にあるはずなのだ
 ぐるぐると階段は回転し回廊はいつまでも続く
 昔アイドルだった娘が僕にささやく
「わかってるはずよ 安息なんかとうにないことを」
 ぼくは彼女の歌声を求める 
 彼女は恥じらい遠ざかり ぼくはひとり残される
 それでも回廊に終わりはなく ぼくは人をかきわけあえぐように登る
 ぼくが押しのけた人は回廊の下にどこまでも落ちてゆく
 登るにつれぼくの心には不安がひろがる
 不安はふくれあがり ぼくをおしつぶす
 ベッドはとうのむかしになくなっていることはわかっている
 ぼくは登る ぐるぐるといつまでも登る
 本が回る ぐるぐるとタイトルが回る
 本を手にとるとそれは重く ぼくはその重みで倒れる
 手にとった本は朽ちはてて読むはじからページが崩れちるのだ
 本が崩れるたび ぼくの疲労は増してゆく
 それでも登る どこかにぼくの読む本があると思いながら

ひとのかなしみが
 人のかなしみがつもって山になる おれたちはそれをシャベルで掘りくずす 人のかなしみはちょうど 氷の砂のような形状とつめたさで くずれた氷の砂は舞いちって 涙となって消えてゆく 掘りくずすのがおくれると かなしみはおし固められ 白い結晶の絶望になる これはおれたちにもどうにも手に負えない
 人の不安も積もって山になる 不安はかなしみに似ているが もっと黒っぽくよごれていて ちょうど雪だるまをくずしてたどんのかけらと雪がいりまじったものに似ている 人の不安はほおっておくとおし固められ 黒い結晶の絶望になる おれたちはそうならないよう 毎日いっしょうけんめい掘りくずしてはいるのだが つもる速度がはやすぎて どうにもならないことがある
 おれたちはそんなとき 空をみあげて恨み言をいう 畜生 もっと暖くなってくれたらなあ


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