ヒョウゴ・フロム・ザ・オカヤマン

 姫路在住のMICKさん「ボーン・イン・ザ・ヒョウゴ」を読んで、兵庫県、というか播州地方について話したくなった。
 岡山県の津山あたりでは、「播州はきょうとい(怖い)」とよく語られる。岡山県人にとっては隣の兵庫県、とくに播州人は、恐怖の源泉なのだ。
 その恐怖にはじゅうぶんな理由がある。歴史的背景がある。

 これまでも書いてきたことだが、岡山は文弱の地である。学者、官僚、政治家を輩出してきたが、革命家、武将など武張った人材はきわめて少ない。岡山出身の歴史的人材といえば、儒学の教養で大臣までのぼりつめた吉備真備、道鏡の野望を阻止した和気清麻呂、幕末から明治にかけて学界をリードした箕作一族、適塾で橋本左内・福沢諭吉・大村益次郎・大鳥圭介・佐野常民など数多くの人材を育成した緒方洪庵、五・十五事件で暗殺された首相・犬養毅といったところだろうか。みんな弁は立つが力はない、という印象を受ける。暴力には弱い。
 そんな柔弱な岡山県に襲いかかる虎狼のような存在、それが、播州人なのだ。
 播州については、むかし武田信玄が諸国の風俗を書きとめたといわれている「人国記」という書物では、「播州一円、盗賊の振る舞い」と書かれている。つまりは播州の人間すべて、目を光らせて、他人に付け入る隙があれば付け入ってやろう、弱い奴があれば征服してやろう、と狙っている土地なのだ。

 上古の播州についてはよくわからない。奈良から平安時代にかけては、吉備(岡山)と出雲(島根)が先進地であり、たぶん明石原人とさほど生活程度の変わらない集団が住んでいたにすぎないのではないか。平安末期から鎌倉時代にかけては、兵庫県も岡山県も、ほとんど平氏、源氏、北条氏の直轄領となっており、穏やかな時代であった。
 播州が最初に悪名を轟かすのは、南北朝の時代である。鎌倉の北条氏打倒に立ち上がった播州佐用の土豪、赤松円心入道則村は、やがて後醍醐天皇側から足利尊氏側に寝返り、新田義貞や楠木正成を打倒する。室町時代に入ると赤松家はますます勢力を拡大し、岡山県はあっさり赤松の旗のもとに蹂躙される。
 このようにして播磨(兵庫)、備前、美作(岡山)の守護と成り上がった赤松氏であるが、幕府に圧迫されたあげく将軍義教を暗殺したため一時所領を没収されたりして、だんだんと勢力は弱くなっていく。

 応仁の乱を経て戦国時代にはいると赤松家はますます衰微してゆく。それに代わって播州から勃興した勢力、それは宇喜多氏だった。
 宇喜多直家はもともと播磨守護赤松氏の守護代浦上氏に仕えていたが、徐々に勢力を伸ばし、浦上氏を陰謀をもって滅ぼす。その後も謀略や裏切りを重ね、美作、備前など岡山県はまたも、あっさり宇喜多に征服される。

 他に播州出身の武将といえば、秀吉の軍師として謀略のかぎりをつくした黒田官兵衛如水、讒言で源頼朝と義経の兄弟の仲を引き裂いた梶原景時、宇喜多直家の元家臣で千姫強奪事件で知られる坂崎出羽守などがあげられる。どうも播州の武士は、裏切りとか謀略とかが得意なようだ。やはり、「播州一円、盗賊の振る舞い」なのだろうか。文弱かつ素直な岡山県人は、こうした播州人のなすがままに征服されてゆく。

 その宇喜多氏も関ヶ原の合戦で西軍に属して滅亡。江戸時代、岡山県の備前は池田氏、美作は森氏に与えられた。そして何をしでかすかわからない播州は、細かく分割して腹心の親藩大名に与え、騒動が起こらないように配慮した。それだけ播州人は警戒されていたのだ。
 しかしそれでも騒動は起こった。播州赤穂の浅野氏による、いわゆる忠臣蔵の騒動である。播州人は、なにかあると武力を用いてひとごろしせずには置けない性分であるらしい。もしもあれが岡山の藩であれば、家老大石内蔵助以下、全員大阪に出て学者か商人にでもなったのではないか。

 もうひとり大物がいる。宮本武蔵だ。武蔵は美作(岡山)の生まれだが、その里は播州との境にあり、播州との交流の方が盛んだった。言葉も美作弁より播州弁にちかい。また武蔵の母親は、播州の佐用から嫁入りしてきた。武蔵のあの凶暴さは、やはり播州的性質とみるのが妥当だろう。武蔵本人も、播州出身を名乗っている。

 明治維新になって近代国家となっても、播州はその策動をやめない。
 いまや日本一の暴力団となった山口組は、播州と摂津の境にある神戸から誕生し、岡山どころか日本全国を版図におさめた。
 竹中正久は、播州姫路から身を起こし、山口組四代目にまでのぼりつめた。その竹中組の征服を阻む者は、むろん岡山にはいなかった。正久が一和会に暗殺された跡を継いだ竹中武は、のち山口組から破門されたが、いまだに岡山県の津山を勢力下に置いている侮れない存在だ。

 ネットではどうだろうか。岡山県人は数が多く、いっけん優勢に見える。なぜか日記書きが多いのが特徴である。「じぶん更新日記」の長谷川さん、「ピクシーちゃん、ご乱心」のピクシーさん、「自分の切り売り」のはぐれさん、「今日のしんた君」のしんたさん、「日記のむこう」のふらんさんなど。雑文では「雨谷の庵」の徳田雨窓さんがいる。
 しかし安心してはならない。なぜか播州は雑文サイトが多い。数的には劣勢だが、「我が妻との闘争」の呉エイジさん、「MICK WORLD」のMICKさん、「それだけは聞かんとってくれ」のkeithさん、「大西科学」のジャッキー大西さんという、メガヒットサイト&準メガヒットサイトが揃っているのだ。この四人のサイト合計で四百三十五万ヒットという、凄い連合軍なのだ。ああ、凶暴なる播州人が、いつか岡山人をその毒牙にかける日が来るかもしれない。

 とかく播州人は恐ろしい。そして岡山は、播州人の目前に置かれた好餌にすぎないのだ。


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