五十をめぐる攻防

 乱暴に言ってしまうと、外国人打者の当たり外れをはかるバロメータは、本塁打五十本というラインを越えるかどうかにあるようだ。
 去年までの中日の李や今年の近鉄のギルバートなどわずかな例外はあるが、どこの球団も外国人打者に求めるものはパワーである。日本人にないパワー。その太い腕で打球が楽々とフェンスを越えてゆくパワー。打率よりホームランである。打率三割で本塁打十本の外国人よりも、打率二割二分でも本塁打四十本の外国人の方が残留できる。
 で、その外国人打者の獲得補強は、試合出場可能な二人の外国人打者、あわせて本塁打が五十本を越えれば、球団としてはまずまず成功といえるのではないだろうか。五十本で合格点。七十本を越えれば優秀。そんなところではないだろうか。
 ここで今年の各球団の、これまでの外国人本塁打数を見てみよう。数字は九月十六日現在。外国人投手による本塁打は除く。

スワローズ59(ペタジーニ34、ラミレス25)
ジャイアンツ10(マルティネス10)
カープ56(ロペス29、ディアス27、ブリトー0)
ドラゴンズ31(ゴメス19、ティモンズ12、アンロー0、李0)
ベイスターズ10(ドスター8、ズーバー1、サンダース1)
タイガース19(クルーズ14、ペレス3、エバンス2)

ライオンズ86(カブレラ48、マクレーン38)
バファローズ61(ローズ54、ギルバート6、ガルシア1)
ホークス30(バルデス20、ミッチェル10)
ブルーウェーブ52(アリアス34、ビティエロ18)
マリーンズ60(メイ31、ボーリック29)
ファイターズ21(オバンドー15、ウィルソン6)

 こうしてみると、セ・リーグではスワローズとカープが合格。あとは落第。
 パ・リーグではバファローズ、ブルーウェーブ、マリーンズが合格。ライオンズが優秀ということになる。もっともバファローズはローズという超優等生がひとりで合格点を稼いでいるのだが。
 昨年67本を稼いだオバンドーとウィルソンがともに怪我に倒れたファイターズには同情の余地があり、日本人打者が優秀で並の外国人では入りこめないジャイアンツとホークスは別としても、ドラゴンズ、ベイスターズ、タイガース、この三球団の外国人野手補強は失敗した、とは間違いなく断言できるだろう。
 特にタイガースは重症である。ドラゴンズは今年こそ振るわないが、去年までは走る李、打つゴメスが揃っていた。ベイスターズも去年まではローズがいた。タイガースには去年もだれもいなかった。一昨年もいなかった。その前の年もいなかった。いないったらいないのだ。まったくいないのだ。
 ここで阪神の外国人野手本塁打数を調べてみよう。


2001年 19(クルーズ14、ペレス3、エバンス2)
2000年 26(タラスコ19、ハートキー4、フランクリン2、バトル1)
1999年 30(ジョンソン23、ブロワーズ7)
1998年 20(ハンセン11、パウエル9、ウィルソン0)
1997年 18(ハイアット11、コールズ7、シークリスト0、グリンウェル0)
1996年 18(グレン5、クールボー2、マース8、クレイグ3)
1995年 45(グレン23、クールボー22)
1994年 23(オマリー15、ディアー8)
1993年 30(オマリー23、パチョレック7)
1992年 37(オマリー15、パチョレック22)
1991年 34(オマリー21、ウィン13)
1990年 29(パリッシュ28、ウィッグス1)
1989年 38(フィルダー38)
1988年 10(バース2、ジョーンズ8)
1987年 37(バース37)
1986年 47(バース47)
1985年 54(バース54)

 ごらんの通り。
 なんと優勝した1985年にバースがひとりで合格点を稼いで以来、合格点に達した年がいちどもない。これでは低迷するのも当たり前か。

 しかしこうして見ていくと、なんとなく傾向のようなものがありますな。1988年までのバース時代、89、90年の単年英雄時代、91年から94年までのオマリー王朝(パチョレック総督)、95年から今に至るまで延々と続く迷走時代。群小外人乱立時代とでも名付けたくなる時代です。今ですが。

 本数的には95年の45本が準合格点で追試といったところでしょうか。その通り、グレンとクールボーの両外国人は残留で翌年の追試を受けました。ところが追試の成績は7本とガタガタ落ち。当然のように落第となったのでした。ま、当時の藤田監督とゴタゴタがあったらしくて、グレンなどは「阪神のベンチは監獄のようだ」と言い捨てて去っていったのですが。

 もっとも阪神の選手が辞めるときに悪口を言うのは、グレンに始まった話ではない。あの温厚なバースですら「阪神球団の対応は許せない」と言ったし、オマリーは「中村監督はクソったれだ」と言ったし、メイは「野村監督はクソったれだ」と言ったし(ビラもまいた)、グリンウェルは「阪神で活躍するなと、神は告げた」と言ったし、松永は「甲子園は子供の砂場だ」と言ったし。あ、松永は外国人じゃないか。同じ日本人だと思いたくもない人間だが。
 さっさとクビを斬ると、こういう具合に悪口を言われるので、阪神球団は学習しました。最後の最後まで残留かクビか曖昧なままに放っておけば、残留したさに悪口を言わなくなる。阪神球団は賢いですね。この賢さを獲得のときに活かしてくれればいいのですが。


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