トラハタ時事新報(2000年9−10月)


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9月28日(木)


 なんか、私がやる気を無くしている間に、いろいろありましたね。そのへんをまとめてみました。
1.ドラフトは予想通り
 狙った人に逃げられ続ける大馬鹿フロント、今年も健在。たしか、一月、いや去年末から、「山田! 山田しかない! 進退をかけるつもりで山田にアタックする!」とか言ってましたよね。
 進退決めてください。
 さらに二位要員の吉見にも逃げられる。最後の頼みの綱、藤田は巨人に、平本はヤクルトに奪われるのが濃厚。で、結局高校生ですか? 即戦力の代走要員と敗戦処理ですか? また、ドラフト後の記者会見で
「将来性と即戦力のバランスの取れたよい補強ができた。自己採点で70点」
 などと言うつもりですか? 拝啓阪神フロント殿、あなたの自己採点なら、私は東大医学部でも現役合格します。

2.なぜか広沢残留
 「阪神大リストラ!」などと騒がれた割には、与田、佐々木、定詰などクビで当然の連中しかクビになってません。寺田は若いから気の毒だが、見込みがないなら早くしたほうが出直しもきくというもの。田村はこれまでの功績があるが、今の力ではやむなしでしょう。むしろ、吉田浩、桧山、星野、湯舟、山崎、中込などまでリストラしたらいいと思うのだが。あ、トレード要員か。
 それにしても最大の不思議が広沢の残留。終盤戦でのレギュラーは誰もが、「あ、最後の思い出作りだな。引導だな」と思っていたのですが、なんと広沢は三年契約でクビが切れないという驚天動地の事実が。誰ですか。自由契約の選手相手に、そんな馬鹿な契約したの。責任とってあんたがクビ。

3.野村粛清の嵐
 去年から今年にかけて腰高守備の今岡はさんざん口撃して潰し(今岡の自滅くさいが)、反抗的な大豊は調子が出てくるとスタメンから外すという高等技術で潰してきた野村監督。次のターゲットは言うことを聞かない坪井。上坂をニューヒーローとして持ち上げ、その陰にかくれて坪井を干す。これで坪井は秋の打率稼ぎの時期をなすことなく過ぎ、三年連続三割の偉業はオジャン。遅まきながら自分のページでカツノリをヨイショするなど野村体制にすりよったが、もう遅い。来期の外野は新庄、タラスコ、上坂(もしくは松田)で決まりとも噂される。次のターゲットは、矢野、おまえかもしれない。

4.かといって岡田監督はイヤだ
 つらつらと書いてきたが、これをもって当局をアンチ野村呼ばわりはしないように。電波入ってる公式ボードの皆様はしょうがないけど。むしろ野村派です。というか、岡田監督だけはカンベンして。だって今から展開が見えるんだもん。無能フロントのうけがよくて、中途半端な温情派。「みんなで楽しくやろうぜ」なんてのをスローガンにするんでしょうね。ファンは楽しくないってえの。負けてもニコニコ。インタビューでは選手のミスをかばう。生え抜きのロートルに優しいスタメン起用。そして低迷。安藤監督や中村監督の二の舞になること確実。それくらいなら、せめて現状を掻き回している野村監督を支持します。しかし、「これ以上落ちようがない」という地点から、どこまで落ちればいいのでしょう、阪神って奴は。


10月24日(火)


 ダイエーは上原のサイン覗き、巨人は審判を味方に付けたインチキジャッジと、両球団ふだん通りの野球を繰り広げている日本シリーズの最中、みなさまどうお過ごしですか。巨人もひとつ勝てましたね。イビジェCAFEではGフォースとかいう厨房以下の馬鹿がまた頭悪い顔文字全開でひとりで掲示板のレベル落としてるんでしょうね。ああやだやだ。

ドラフトはまた新聞の予想通りか
 山田に逃げられ吉見に逃げられ、かろうじて藤田を確保したものの平本に逃げられたタイガース。一勝三敗は阪神としてはいいほうか。それにしても藤田、「救世主」とか公式ボードでは称えられていたが、どうも怪しい。阪神でよくある「指名直前に評価が鰻登り」の選手ではないかと。春先の成績はボロボロで、調子がいいのはここ二,三ヶ月だけですからねえ。145キロの球速も、キャンプの頃には135キロ、っていつもの話にならなきゃいいが。
 ところで二位以下は平本に逃げられて混沌。「即戦力投手」とフロントが明言してたので、プリンスの伊達か東洋大の三浦か。三浦はもともと142キロしか出ないし、コントロールで打ち取るタイプの投手らしいので、プロで通用するかなあ。巨人と競合してるらしいしね。ただ、33試合登板、10完投2完封、防御率2.72で6勝16敗と言う成績から見るに、弱体球団で投げるのに慣れている点が評価できる。逆に伊達は、149キロの快速球が勝手に散らばる荒れ球タイプとのことだが、やっぱり入団したら140キロなのかなあ……。「右投げの吉野」という情報もあるぞ(それって役立たず?)。球速だけなら社会人屈指らしいが。
 三位以下も即戦力重視らしい。「今岡から長打力を抜いて足を早くしガッツを入れた感じ」というデュプロの藤本遊撃手(身長173センチのちび)、「今岡の守備範囲を狭めて堅実にした感じ」ことプリンスホテルの水田遊撃手(地元大阪桐蔭出身、高校通算51本は濱中と並ぶという不吉な成績:175センチのややちび)、「オリンピックの代走要員」こと、足はプロ級だが打撃は高波以下でバントも下手な赤星(JR東日本:身長170センチのちび)あたりを狙ってるらしい。阪神、ちび好き?
 例年通りの無風ドラフト(別名・落ち穂拾い)かと思われていたが、ここで野村監督が「全部ボチボチの選手はいらん。一つか二つでいいから、キラリと光るものを持った選手が欲しい」と発言。松下電器のロートル(29歳)135キロ左腕・鈴木学投手をはじめとして、新日鉄君津のアンダースローで125キロの速球とキレの悪い変化球を誇る渡辺と、リードは下手だがスナップスローが凄い野田のバッテリーなどを割り込ませる可能性も出てきた。ついでに東芝の鎌倉武士投手も入れちゃえ。名前が面白いから。
 高校生は即戦力を上位指名するため、内海や東、内川、田中、香月、根市、中里といった上位間違いなしの人気者は見送り、長崎工の142キロ右腕・加藤、地元上宮太子の145キロ右腕で3試合連続本塁打のスラッガー亀井投手、専大北上の60発男・畠山三塁手あたりを狙っているそうだが、どうなることやら。指名濃厚の加藤って、怪我の後遺症がまだ残っているらしい。完治すればもっとよくなるそうだが、阪神って球団は、五体満足な人間すらボロボロにするチームだからなあ。畠山は守備ヘタ、足遅い、デブの打つだけ選手らしい。香川か内ノ倉タイプ?

井原コーチ、野村監督とケンカ別れ
 一時は残留に傾いていた井原コーチだったが、フロントの「来期は二軍コーチ」発言が直接のきっかけとなって怒りの退団。実は野村監督との確執があったと噂される。今年前半の阪神は、カツノリの尻を蹴上げるなど、井原コーチの精力的な指導で走りまくっていたが、息子を蹴られた野村監督は、「アイツのは勝つために走らせてるんやない。自分が目立ちたいから走らせとる」と、自分より目立つ人間の存在を許さないため途中から井原コーチの実権を剥奪。盗塁のサインも出すことを許さず、ために後半戦の盗塁は激減した。後任はノムさんに逆らう勇気も理論もない吉竹コーチ。井原コーチは西武に復帰する。ちなみに、元球団職員の中村コーチがやっと退団したと思ったら、来期のバッテリーコーチは笠間広報担当だとさ。十年間グラウンドに立ってない人だよ。

FA新庄は結論出ず
 FA宣言で注目を集め、すっかり舞い上がってしまった新庄。とにかく目立っている期間を伸ばそうと、ぎりぎりまで交渉を引き延ばす戦術に出ている。それより心配なのは、その陰でひっそり矢野が移籍することなんだよなあ。

大豊は退団必至
 契約交渉で、球団は大豊選手に対して、野球協約で定められた25%を超える30%減の七千万円を提示。これに大豊は「23本塁打の俺が、なんで1年間寝ていたのと同じ査定をされなきゃならんのだ」と猛反発。自由契約を申し出た。まあなあ、寝てたも同然の広沢が五千万だもんなあ。そりゃ怒るよなあ。


10月25日(水)


 ワールドシリーズに、数年前阪神に来るかもと噂されたリック・リードが先発しました。逆ダマのまったくない完璧なコントロール。コーナーいっぱいに投げ込まれる145キロの速球。ううむ、日本に来ても15勝は堅い。阪神でも12勝はいくでしょう。惜しいことをした。
 しかし、どこからでも点が取れるヤンキース打線に比べ、メッツの下位打線は悲惨ですな。ひ弱な体格、外野に飛ばない非力さ、同じボール球を続けて振る選球眼のなさと頭の悪さ。なんだか修太や塩谷を見ているようです。ま、まがりなりにも優勝チーム(シーズンは二位だけど)の選手だ、ヤンキースのスーパースターと比べるから修太クラスに見えるだけなんだろうけど。

新庄FA宣言決定的、巨人横浜オリックス争奪戦へ!!!
 いやー、死んでも目立つことを選ぶ新庄君らしい選択でした。引っ張るだけ引っ張って宣言。阪神を出る出ないじゃなく、単に目立ちたくて宣言。単に他球団からもちやほやされてみたくて宣言。コイツ、江戸時代だったら絶対、尊皇攘夷を唱えてイギリス人を斬り殺した挙げ句、新撰組に追われて立ち腹を切ってただろうな。目立つから。戦国時代なら一番槍で突っ込んだのはいいが敵に囲まれ討ち死に、ってパターン。鎌倉時代なら以仁王の令旨でまっさきに挙兵して平家にボコボコにされる。奈良時代なら仏教かぶれと呼ばれて遣唐使船に乗って難破。まあ、阪神としては、四年十億(四年七億との説もある)の当初条件でいいんじゃないかな。これで出ていかれたら仕方ないでしょ。それより、矢野がますます目立たなくなった挙げ句、拗ねてFA移籍、なんてことにならなきゃいいが。

元ダイエー・本田捕手入団決まる
 その矢野移籍の保険か、ダイエーから戦力外通告された本田捕手(33)の入団を発表した。テストもせず入団、ってのは、よほど自信があるのか。いや、これまで九年間に一軍公式戦出場なし、今年ウェスタンで36試合出場打率.200という成績からみると、ブルペン捕手の補充か。引退してブルペン捕手に転出した片山捕手では、捕球すらままならぬと見たか?


10月26日(木)


読売・杉山捕手、逮捕(スポーツニッポン)
 11日、日本シリーズのため訪れた宮崎市内のスナックで女性に暴行&わいせつ行為を行った、読売の杉山捕手(31)に対して、被害者の女性から被害届が出されていたが、宮崎北署はこれを受理し、25日杉山捕手を強制猥褻致傷の容疑で逮捕した。杉山捕手は「酒に酔っていたので」と弁解したり、容疑を否認したりと、言動が一定していない。また同捕手は逮捕と同時に退団届けを読売球団に提出したが、球団は受理せず解雇処分とした。現役選手の逮捕は幼女強制猥褻で逮捕された中山投手(大洋)以来。
 長嶋監督談。「うーん、たいへん残念な話ですね。チームの、サード捕手なんですからね。そりゃあなんといってもひとつのパワーが欠けるわけですからね。逮捕さえ無ければね、うーん、寮で謹慎とか、CM自粛とか、広報部長ファイアとか、そういうテクニックで穏便に済む可能性もあったと思うんですがね。まあロリータ中山君の例もあるし、きっちりとジェイルで、刑期を勤めて帰ってこい、そう願っています。そうだ、裁判長にウチの橘高か杉永を送り込みましょうか? 彼らなら有罪でも無罪のジャッジメントじゃないでしょうか。しかしこれでウチはキャッチャーが足りなくなりますね。うーん、矢野君、興味しんしんですね」

立命・山田がダイエー逆指名を白紙に(時事通信)
 ダイエー逆指名確実と見られ、阪神も撤退していた山田だが、25日、監督、両親を交えて会談し、逆指名球団を白紙に戻すと発表した。原因は山村の下の二位が不満だったことと、ダイエーの経営悪化への不安。阪神は獲得に乗り出そうにも一位はすでに藤田で埋まっており、やはり獲得に乗り出して、一位も未定の中日が有利と見られる。しかし阿部を二位に下げて読売が獲得、という可能性も捨てがたい。いちおう、26日に阪神球団と山田サイドで会談があるそうだが。
 
新外国人はクルーズとカーライル(デイリースポーツ)
 イバン・クルーズ一塁手(32)はメキシカンリーグに在籍する左バッター。今年55試合で打率4割、20本塁打を打つ一発屋。いうことなしのようだが、メキシコはレベルが低いからねえ。
 バディ・カーライル投手(22)はパドレスの右腕。190センチの長身から150キロの快速球を投げる先発タイプ。昨年は大リーグで1勝3敗の成績。三振奪取が多く、球威、制球力、変化球のキレもいうことなしとのことだが、そんな投手日本に来るはずないやい。ちなみに現地情報によると、肘を壊したとのことだが。ああ、また日本に来たらへろへろ球だったりして。

新庄引き留めに空手形乱発(夕刊フジ)
 阪神球団は新庄に対し、「キャラクターグッズなどのペイメント支払い」「ミスタータイガースとして扱う」「将来の幹部を確約」などの条件で引き留めにかかる。しかしキャラクター権はともかく、歴代ミスタータイガースは突如トレード通告されたり、チームのガン扱いされて追放されたり、ろくな扱いを受けていないし、阪神には将来の幹部やら永久監督やらがどれだけいたか数える気にもならない。
 普通の人間なら耳をふさぎたくなるような阪神球団の空疎な美辞麗句だが、新庄君はどっちにしろ舞い上がって球団の話なんぞ聞いちゃいない。「メジャーを含む他球団の話を聞いてから移籍か残留か決めたい。阪神との話し合いはもうしない」と宣言。すでに心は全球団からのちやほや接待に浮かれまくっていた。

アカン、矢野もやっぱり出ていくらしい(サンケイスポーツ)
 日本シリーズ中に阪神球団と二回目の交渉を行う矢野は、「五分五分。中途半端な段階で出るとか出ないとか言うと周りの人に迷惑がかかる」と発言。こういう発言をする人はまず間違いなく出ていくという過去の例からして、来期阪神の見通しは限りなく暗い。


10月28日(土)


成本がテスト合格(日刊スポーツ)
 昨日まで行われていた入団テストは、今関、大塔、若林など11選手が挑戦していたが、合格者は元ロッテの成本ひとりという結果に終わった。元剛速球リリーフエースで今トホホという、キャラ的には今年クビになった与田と完全にかぶっており、また心ないファンが「成本・葛西のWリリーフエースや!」などとありもせぬ幻覚を抱くのではないかと危惧されている。それにしても「あの俊足はええで(上田か)」などとさんざんおだてられていながら不合格になった若林(元広島)は不憫というかなんというか、これは赤星上位指名への布石ではないかと関係者は青ざめている。

江藤も猥褻行為(夕刊フジ)
 写真週刊誌フライデーの伝えるところによると、宮崎キャンプ中の11日夜、飲食店社長から五万円貰って江藤と食事した女性が、その後ペンションに六時間監禁され、江藤に猥褻行為をヤラれたという。その女性は「全身べろべろとねぶり回され、その跡が田舎臭くて唾臭くて非常にイヤだった」と証言している。それにしても五万円払わないと女性も寄ってこないし、この嫌がられようといい、江藤は広島ファン以上に女性に嫌われている。
 またこの事件が公にならないよう、読売球団から某政治団体(総会屋みたいなもんでしょうね)に千万円が流れたという情報もあり、清原の事件と関連しているのではないかという見方もある。ともあれ、読売の宮崎キャンプは米軍キャンプより危険ということ。


10月29日(日)


山田はやっぱりダイエー逆指名(日刊スポーツ)
 一時はダイエー逆指名を白紙撤回していた立命・山田投手だが、阪神、中日、オリックスをアテ馬として契約金&裏金吊り上げを図ってまんまと成功、予定調和的にダイエーを逆指名することに決まった。立命館のもうひとりのドラフト候補、平本にしろ阪神とメジャーをダシにヤクルトから巨額の契約金をゲットしていることを考えると、立命館の監督は野球はともかく交渉術では随一であることは間違いない。工藤を特別講師に呼んでるのかも。

大豊はやっぱり退団(日刊スポーツ)
 30%ダウンの評価に怒り狂う大豊は次回交渉に向けて「交渉はあと一回限り。最低でも現状維持。それが駄目なら自由契約にしてもらう。最悪の場合FA宣言。もうこんなチームにはいたくない」と発言。それを受けて、人心を失うことには天才的な石田管理部長は「評価は変わらない。提示額も変えるつもりはない」と発言、退団は決定的となった。大豊、来年は近鉄で30本打ってくれ。


10月30日(月)


近鉄と電撃トレード(日刊スポーツ)
 湯舟、山崎、北川と酒井投手、面出投手、平下外野手の三対三トレードが成立。おいおい、ノムさん、今年はトレード凍結って言ってなかったっけ。それとも、「敵を欺くにはまず……」ってやつですか? それにしてもこのトレード、戦力交換と言うよりは不満分子一斉放出という感がしないでもない。いちおう、酒井は先発リリーフどっちでもこなす右腕、面出は変則左腕のワンポイント、平下は俊足自慢の若手とのことですが。

ほっ。矢野FA残留(日刊スポーツ)
 日本シリーズ後球団と交渉し、FA宣言した上での残留を決めた。四年契約で八億円(デイリーでは三年五億だそうだが)。新庄とまったく同じ額というのが不気味ですな。新庄を諦めた分、矢野につぎ込んだか。ある意味賢明な選択かもしれない。

読売・橋本が阪神熱望(デイリースポーツ)
 29日に読売から戦力外通告を受けた橋本投手(31)が、「まだやれる自信がある。野村監督の元でプレーしたい」と告白。何をトチ狂ったんだか……。

近鉄・中村が新庄にラブコール(デイリースポーツ)
 大阪で行われたトークショーで、「来期は新庄と一緒にプレーしたい。あの守備を近くで見たい」と話した。だ・か・ら・、一緒にプレーしたければ阪神に来ればいいじゃん。


10月31日(火)

 秋深し落葉しきり見上ぐれば武運つたなき甲子園かな
 きのえねの園とはかねて聞きしかどさる人多き虎の宿りか
            虎玉

北風と太陽
 冬になって、ものみな寒さに閉ざされようとした頃、太陽が大地を照らそうとやって来た。
 それを北風が呼び止めた。
「太陽さん、どこへ行くつもりです?」
「寒がってるみんなを照らそうとしてさ。みんな、僕の暖かさをありがたがるだろう」
「とんでもない、下界をご覧くださいな」
 そこで太陽は下界を覗いた。そこでは、農夫が煉瓦づくりの屋敷にこもり、豪語していた。
「冬の太陽なんか、ちっとも暖かくない。役に立たない。それよりもこの煉瓦の家、そしてこの暖炉。これこそが俺を冬の寒さから守ってくれるものだ」
 太陽は納得して、地上を照らすのをやめにした。北風は言った。
「これから僕が、太陽のありがたさを、いやと言うほど知らしめて見せますよ」
 そして北風は吹き荒れた。農夫の屋敷をひと吹きで吹き飛ばし、暖炉の火もあっというまに消し去った。農夫は住む家もなくし、暖房もなく、ぼろぼろの有様で、ただ震えているだけだった。
 そこへ、太陽が照りつけた。農夫は涙を流して感謝した。
「ああ、太陽様。あなたこそわれらの救世主です」

教訓1:人間、求められるタイミングを得るのが大切。
教訓2:逆境の時のありがたさと本当の価値は別物。いくらありがたくても、太陽で煮炊きすることは出来ない。


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