時代劇用語辞典

 この用語辞典は時代劇を観賞するときに出てくる特殊な用語を解説したものです。あくまで時代劇の世界の用語であり、実際の史実とは違っている場合もあることをお含みおきください。

■あ行

あだうち【仇討ち】
 「敵討(かたきうち)」ともいう。親や主人などを殺した悪い犯人に、善い方が私的に復讐すること。時代劇ではたいていの場合、返り討ちといって善い方が逆に殺されることになる(主人公が助太刀した場合を除く)。善い方悪い方の見分け方は簡単。女子供がまじっているのが善い方。→ぎによってすけだちいたす

あばれんぼうしょうぐん【暴れん坊将軍】
 徳川八代目吉宗を主人公にした時代劇。サンバを踊りながら悪を倒す破天荒な将軍様が人気を呼んだ。

あへん【阿片】
 麻薬の一種。ケシから製する。イギリスが清国をこれでむちゃくちゃにしたことは有名。えげれす人と唐人と回船問屋と薩摩藩は、たいがいこれの密貿易をたくらんでいる。爆発的に売れる煙草は、これがほんのちょっと仕込んであることが多い。→とうじん →かいせんどんや →めとろんせいじん

あんま【按摩】
 盲人の救済策として与えられた仕事。盲人はこれをやって小銭をかせぎ、その金でサラ金業をいとなんで利殖し、やがては座頭・勾当・別当・検校などの位を金で買うことを目指した。なぜか時代劇では、いきなり最高位の検校を買おうとするムチャな按摩が多い。位なしのただの按摩は善人だが、なぜか検校で金貸しとなると悪人になる。

いっき【一揆】
 もともと「同じ旗のもと団結した者」という意味の言葉だったが、のちに農民の暴動をさす言葉となる。たいがい年貢が払えないことが原因。→ねんぐ

いわみぎんざん【石見銀山】
 島根県の銀山の名前だが、そこから取れる砒素のこともこう呼ぶ。「石見銀山猫いらず」とも呼ばれ、毒殺の手段として庶民に愛用された。町人の毒殺はたいがいこれ、大名クラスの毒殺には鴆(ちん)毒という謎の鳥のエキスが用いられる。

いんきょ【隠居】
 家の主人の位や世襲の役職を子供にゆずり、引退すること。または引退した人。「水戸黄門」においては水戸黄門のことだけをさす。また他の時代劇でも「水戸のご隠居」といえば水戸黄門をさす。→みとこうもん

うつけもの【うつけ者】
 愚か者。ばか。殿様や家老などがヘマをした家臣を叱るときに用いる。

うるとらまん【ウルトラマン】
 ウルトラシリーズのヒーローを演じた役者が時代劇に出た場合、悪役である確率は95%。森次晃嗣が80%、黒部進が95%、団次郎が100%の意味。いっぽう仮面ライダー役者の善玉率は70%と高い。

えたひにん【穢多非人】
 歴史上は重要だが、時代劇ではまず出てこない用語。

おいえそうどう【お家騒動】
 大名家の、主にあとつぎ争いに端を発する権力闘争。もっとも有名な鍋島猫騒動は、鍋島家を乗っ取ろうとする猫と人間との権力闘争である。

おおおく【大奥】
 将軍の妾を住まわせておく江戸城の一部、またはそこに棲む女性を呼ぶ。馬鹿と傲慢と驕慢と陰険の巣窟。大奥がらみの人物が登場したら悪い奴と思って間違いない。

おかっぴき【岡っ引き】
 「目明かし」「放免」とも呼ばれる。同心が私的に雇っている、地元の顔役や元犯罪者。現犯罪者のことも多い。その暗黒街での顔の広さを利用して犯罪捜査を行う。有能な善人とものすごい悪人にはっきり分かれる。→とりものちょう

おかみ【お上】
 身分が上の、われわれを統治する人。藩や幕府のこと。「オカミのなさることに間違いはありませぬだ」という悲しいあきらめは、徳川幕府から小泉政権まで、綿々と続いている日本の政治風土である。

おじひでごぜえますだ【お慈悲でごぜえますだ】
 飢饉で死にかかった農民の代表が、代官に年貢の免除をお願いするときの言葉。これに応える代官の言葉は「ならぬならぬ! お主ら、お上を何と心得る!」である。代官がこの男を斬り殺すと、それをきっかけとして一揆がはじまる。→ききん →だいかん →いっき

おじゃる
 語尾にこれをつけ歯を黒く塗りおもいっきり馬鹿面すれば、お公家さまのできあがり。

おらんだ【阿蘭陀、和蘭】
 ヨーロッパの小国。江戸時代の日本と国交があった唯一の西欧国家。「おらんだ医学」といえばガンでも脳腫瘍でも治す最先端医学の代名詞。「おらんだ渡り」といえば西欧の珍奇な商品のこと。時代劇に登場するおらんだ人は、学問や医学にその身を捧げるストイックな善人と、回船問屋などと結託して阿片などの密輸をたくらむ大悪人にはっきり分かれる。→かいせんどんや

■か行

かいせんどんや【回船問屋】
 船を用いて物資の流通をおこなう業者。いまでいうと、貿易業者と倉庫業と船主を兼ねたような存在。ほとんどの場合、密貿易や汚職にからんでいる悪いやつ。

かたじけない【忝ない】
 貧乏な武士の感謝の言葉。病気になった妻子を町人に介抱してもらったときなどに発する。この言葉を言った人間は善良とみなして間違いない。

かわらばん【瓦版】
 いまの新聞にあたる。絵入りのニュースを和紙一枚に刷って販売する。世間の悪事を摘発することに燃える善い瓦版屋と、スキャンダルをネタに恐喝を働く悪い瓦版屋がいる。

ききん【飢饉】
 冷害や虫害などで農作物が取れず農村が飢えること。一揆を起こすか、娘を吉原に売るきっかけとしてよく利用される。

ぎによってすけだちいたす【義によって助太刀いたす】
 仇討ちで片方に味方するときに言う言葉。主人公が善いほうに味方する場合は文字通りだが、悪い方に味方する奴はたいがい、事前に計画済みである。

きりしたん【切支丹】
 キリスト教信者のこと。見つかると磔火あぶりになるため、「隠れ切支丹」として、仏像の裏にこっそりマリア像を彫刻したり、数珠に十字架を隠したりした。彫りが深くて美人だが陰のある女性が登場したら、たいがいこれ。その男版が眠狂四郎。

くにもと【国元】
 大名の地元のこと。国元には国家老が、江戸には江戸家老がいて、両者の権力争いがお家騒動の原因となることが多い。→おいえそうどう

こく【石】
 米をはかる単位。1石=10斗=100升=1000合。ここから転じて、大名の領土や武士の給料の単位ともなる。おおむね成年ひとりが一年に食べる量が一石とされる。大名で十万石未満、武士で百石未満だったら貧乏と思ってよい。

ごさんけ【御三家】
 徳川将軍家を支えるために作られた親戚の藩。将軍が子供を作らず死んだ場合、ここから養子をむかえた。紀伊(いまの和歌山県)、尾張(いまの愛知県)、水戸(いまの茨城県)の三大名。もっとも水戸は他の二家に比べ位階や石高も低く、「御三家とは徳川将軍家と尾張紀伊のことで、水戸は入らない」という説もある。これが登場すると水戸黄門も最終回が近い。

■さ行

さがみ【相模】
 いまの神奈川県。一般に「相模女は淫乱」と言われていた。相模出身の女性が登場するほとんどの場合は下級の売春婦。

さど【佐渡】
 いまの新潟県佐渡島。江戸時代、罪人や無宿人(保証人のいない宿無し)を佐渡の金山に送り強制労働をさせていた。ここでの数年の労働から帰ってきた人間を「佐渡帰り」と称し、地獄を見た経験と腕にぐるりと回る入れ墨をもつ。

さんぴん【三一】
 武士の最下級。荷物持ちや掃除などを行う。正式には中間とか若党とか呼ばれたが、普通の武士のように世襲ではなく、年に三両一人扶持の給料で雇われたため、この蔑称がつけられた。ふだん町人に威張っているが斬り合いになるとすぐ逃げる。

しごとにん【仕事人】
 江戸時代に存在したと言われる暗殺請負屋。仕掛人、仕置人、仕舞人、渡し人などさまざまな異名がある。針や三味線糸など、殺し方が面白いのが特色。のちの時代ほど過当競争になったらしく、はじめ五両が相場だった殺し料金が、しまいには三十文にまでダンピングされた。

しなの【信濃】
 いまの長野県。信濃者といえば大食らいでうすのろの下男と相場が決まっている。「椋鳥」と呼ばれることもある。春になると山へ帰ってゆくから。よく働きためた賃金を詐欺師にだまし取られる。

しんじゅう【心中】
 男女そろって自殺すること。身投げが多い。実際には80%以上の確率で他殺。男女そろった水死体は、たとえ刃物傷があってもろくに見もせず「ふん、心中か」でかたづけられる。→みなげ

しんみょうにしろい【神妙にしろい】
 同心や岡っ引きが容疑者を取り囲んだときの「御用だ御用だ」「おとなしくお縄を頂戴しろ」と並ぶ決まり文句。吉田松陰が逮捕されたときの「松陰、神妙にしろい!」は歴史に残る名文句である。

そば【蕎麦】
 江戸のファストフード。これを美味そうに食べないと時代劇俳優にはなれない。

■た行

だいかん【代官】
 天領(幕府の領地)の取り締まりや年貢の取り立てを行う旗本。たいがい地元の娘をてごめにして恨まれるか、年貢をきびしく取りすぎて一揆をおこされる。

たわけ
 悪事の共犯者になることを拒んだ者、賄賂を拒絶した者、犯罪行為を訴えようとした者などが殺されるときこう呼ばれる。

たわら【俵】
1.藁で作った円筒形の米の容器。年貢をさしだすときに用いるほか、力持ちが武器として活用することもある。だいたい四俵で一石。→こく
2.渡世人の娘で柔術にすぐれるが不細工で出しゃばり。浪花で興行していた棒芸人をむりやり祝言に追いこむという悪行のすえ成敗された。体型が俵に酷似していたためこう呼ばれる。

ち【血】
 時代劇では多くの場合、斬られても血が出ない。斬られながらも相手の衣装をよごしてはいけないという、古き良き日本人の心づかいのなせるわざである。

であえ【出会え】
 刃物をふりまわす人間に対し、臆病な町同心が逃げ腰になりながら岡っ引きをけしかける言葉。→どうしん →おかっぴき →しんみょうにしろい

とうじん【唐人】
 中国人のこと。変な髪型で変な服装で、「……アルよ」「ポコペン」などと喋る。だいたい李一官とか張二官とか陳三官とかいった名前である。曲芸と手品と飴売りが得意で、たいがい阿片を隠し持っている。ヌンチャクの達人であることも多い。

どうしん【同心】
 町奉行の配下にあり、与力の下で市中の治安維持をおこなうと称し、町中をうろついてはあちこちから袖の下(少額の賄賂)をもらってまわる一種の乞食。実際の仕事はすべて岡っ引きにまかせている。→おかっぴき

どざえもん【土左衛門】
 未来からやってきた猫型からくり人形。困ったときは川に流れてじっとしているといい考えが浮かび、身体もぽっかりと浮かぶ。

とせいにん【渡世人】
 やくざ。博徒。弱い者の味方をするいい渡世人と、カタギの衆をいじめてまわる悪い渡世人がいる。見分けるには目を見ればいい。目の下が黒いのは悪い渡世人。

とみくじ【富籤】
 今でいう宝くじ。これが登場すると、貧乏人がいきなり大金を手に入れる理由作りか、それとも寺社が目付老中を巻き込んだ大がかりな詐欺か、どちらかである。

とりものちょう【捕物帖】
 おもに岡っ引きを主人公にした、江戸時代が舞台の推理小説・推理劇。欧米推理小説の有名なトリックを江戸風にしただけで許されるので、ネタの尽きた推理作家に重宝された。

■な行

にんじゃ【忍者】
 「しのびの者」「お庭番」とも呼ぶ。潜入や暗殺を得意とする江戸時代のグリーンベレー。あと十分で番組が終わるなどというとき、あっという間に証拠を探したり人を見つけたりするのでとても便利。

ぬけに【抜け荷】
 今の言葉でいう密貿易。禁止されている外国との貿易、阿片などの禁制品の貿易を行うこと。たいがい最終回近くに、どこかの藩と大物回船問屋が組んでやらかし、大事件になる。→かいせんどんや →はん

ねんぐ【年貢】
 農民が領主に納める税金。米で納める。たいがい払えなくなって娘を吉原に売るか、もしくは一揆を起こす。→よしわら →いっき

■は行

はたもと【旗本】
 将軍家の家臣で、一万石未満の領地をもつ者。将軍じきじきの家臣という意味で、「直参」ともいう。暇をもてあまして遊びまわったり暴れまわったり威張りくさったりして、最後にこらしめられる。

はちじょう【八丈】
 死刑のつぎに重い無期の流罪は八丈島に送られるときまっていた。代官や奉行が美人妻をモノにするため、旦那を無実の罪で送りこむのによく利用された。

はん【藩】
 幕府から一万石以上の領地を与えられた大名とその家臣を中心とした組織。おおむね十万石以上の藩は陰謀をたくらんでおり、十万石未満の藩は借金で苦しんでいる。

はんさつ【藩札】
 これで高額の支払いがなされた場合、まず間違いなく藩が取りつぶしになってただの紙キレと化す。その確率は、現代ドラマで振り出された手形が不渡りになる確率の1.7倍といわれている。

ぶぎょう【奉行】
 幕府、もしくは藩でさまざまな役職をつかさどる武士。勘定奉行は回船問屋との結託。町奉行は私利私欲のため無実の人間を処刑。寺社奉行は若年寄の座を狙う以外にすることがない。そのほかの奉行は時代劇には存在しない。→若年寄

■ま行

みかど【帝】
 江戸時代の天皇の呼び名。幕末の一部時代劇を除いて、いてもいなくてもどうでもいい存在。

みとこうもん【水戸黄門】
 時代劇でもっとも有名なヒーロー。徳川御三家のひとつ水戸藩の隠居で、旅をしながら悪い商人や代官をこらしめてまわる。→ごさんけ →だいかん →いんきょ

みなげ【身投げ】
 自殺の一法。川に飛び込んで溺死すること。実際には80%以上の確率で他殺。女性の水死体は、たとえ刃物傷があってもろくに見もせず「ふん、身投げか」でかたづけられる。

みねうち【峰打ち】
 日本刀での斬り合いのとき、刀の刃の部分ではなく、反対側の峰の部分で叩くこと。勝てる相手だが殺したくない場合に用いる。鉄の棒で殴るのだから、たぶん骨折くらいはするはずだが、なぜかこれをやられた人間にはアザすらない。

むしろ【筵】
 即席のレジャーシート。貧乏人の布団。一揆の目印。死人をくるむ包装。薪代わり。さまざまな用途に愛用されています。→一揆 →土左衛門

めつけ【目付】
 同僚の悪事をみつけて恐喝するか、同じ甘い汁を吸おうとする人。

もん【文】
 銅貨の単位。庶民の生活はほとんどこれで成り立っている。九十六文をこよりでまとめたものは「さし銭」と呼ばれ百文として通用したため、これをネタにした笑い話がいくつもある。

■や行

やまぶきいろ【山吹色】
 小判のこと。ほとんど賄賂に用いられ、最中など菓子折の底に敷いて届けられる。

ゆうかく【遊廓】
 幕府公認の売春地帯。江戸の吉原、京都の島原、長崎の丸山などが有名。

よしわら【吉原】
 江戸の売春地帯。貧乏な農村から娘を買い、数年かけて一流の売春婦に育てるところ。「……でありんす」という独特の廓言葉を用い、夢のような異次元の別世界を演出した。いまでいうディズニーランドの走り。なかでも花魁(おいらん)という最上級の売春婦は、一晩で数百両を必要とすることもあり、大名や旦那など金持ちしか買えなかった。

よたか【夜鷹】
 最下級の売春婦。むしろを抱えて街はずれを徘徊し、客をとって野外で性行為を行う。一回二十四文が相場だったという。ナイターを行う福岡ソフトバンクホークスのことではない。

■ら行

ろうぜきもの【狼藉者】
 恨みをいだいて家老や旗本などの暗殺をくわだて、屋敷に乱入した人間が呼ばれる言葉。たいがい、乱入したほうが善人。

らんぽう【蘭方】
 医学で漢方(中国医学)と並ぶ言葉で、オランダ医学=西洋医学のこと。この医者の多くは勉強家で腕が立ち貧しい人にも治療をほどこす、まるで無欲なブラックジャックのような存在だが、なかには医学そっちのけでエレキテルや投石機をこしらえ、人を殺してまわる者もいる。→おらんだ

りょう【両】
 小判(金貨)の単位。小判一枚が一両。貧乏人が数年かかって必死にためた一両、娘を吉原に売った代金十両、賄賂や献金で贈る千両、たいがいこの三通りの単位しかない。

ろうじゅう【老中】
 徳川幕府の大臣クラス。これが登場し悪事を働くようになると時代劇も最終回が近い。

ろうにん【浪人・牢人】
 主君から解雇された武士。たいがい善良で、例外なく貧乏で、中には腕の立つものもいる。子供の教師や傘貼りなどで生計を立てることが多いが、たまに金のため刺客を請け負う者もいる。

■わ行

わかどしより【若年寄】
 徳川幕府で老中に次ぐ重職だが、賄賂を贈ったりもらったりする以外にやることがない。→老中

わきざし【脇差】
 一尺八寸(約55センチ)以下の日本刀。武士はこれより長い太刀と、この脇差を腰に差すのが普通だった。武士以外の農民、町人などは脇差にかぎって認められた。渡世人は二尺をこえる刀(長脇差と称す)をふりまわすことが多く、何回か禁令が出た。→とせいにん


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