2009年9月8日:台北女僕喫茶・再見

 3年ぶりの台湾です。
 あれから台湾も変わりました。陳総統は下野して裁きの台に立たされ、台湾と中国は友好を深め、蒋介石は再評価され、いまや蒋介石絵皿や蒋介石人形や蒋介石時計が土産物屋で売られるようになり、全面的禁煙法が施行されて公共室内での喫煙は完全禁止となり、喫煙家はホテルやレストランの外壁にもたれてタバコを吸い、台南を襲った台風8号は有名な阿里山森林鉄道をも完全に破壊しつくし、復旧は年内どころか2010年中は無理だろう、と言われているありさまです。阿里山だけにありさま。つまんないし不謹慎だ。
 メイド喫茶の世界もますます浸透し、台北市内だけで3軒のメイド喫茶(台湾では女僕喫茶と書く)が開業しているという情報を入手しました。しかし、台南にあると聞いた2軒の女僕喫茶(末廣町侍女隊、和風閲讀館)はどうなったのでしょうか。メイドさんは冥途行きなんでしょうか。だからつまんないし不謹慎なんだってば。

 とりあえず被害甚大そうな台南と高雄の調査は後回しにして、台北市内の女僕喫茶をめぐってみることにしました。
 最初に向かったのは西門。ここは昔から若者ファッションの街で有名な、日本で言えば渋谷という感じでしょうか。台湾若者文化の中心地です。やがて時が流れ、若者の暗黒面までが澱のようにどんよりと街にたちこめ、アスファルトにしみこんだ。やがて暗黒面をいっぱいに吸いこんだアスファルト道路のあちらこちらから、ある日突然、いっせいに芽を吹きだしたものがある。
 それが萌萌動漫資訊館(MOE MOE CENTER)。女僕喫茶・萌點珈琲(Moe Point Cafe)のあるビルです。もう、看板からしていかがわしい。

萌萌動漫資訊館看板

 こんなビルだから全店舗がいかがわしいと思っていたら、意外や1階は、普通のTシャツやジャケットを売る、普通の若者向衣料店でした。てっきり、馬総統饅頭とか、鉄蛋缶とか、国父孫文抱枕とか売ってるかと思ったので、ちょっと拍子抜け。
 しかし2階は漫画とアニメの殿堂。それも日本のコミックスの中国語版と、日本のアニメグッズのみです。いや、台湾産の同人誌もあった。しかし黒執事とかコードギアスとか、日本のマンガ&アニメが元ネタです。コミックスは100元から120元くらい。同人誌は100元から300元くらい。そのまま日本円に換算すると日本よりちょっと安いですが、物価を考えると日本の倍くらい、という値段なのかな。
 ここで「さよなら絶望先生」のマンガを買ってみたのですが、家に帰って中身を読んでみたところ、少年サンデーのマンガとはちょっと違うようです。

再会!絶望老師

 マンガを買ってから3階の女僕喫茶に上がろうとしたのですが、階段は封鎖され、なにやらお断りの文章を書いた貼り紙があります。わかる漢字だけを拾い読みしてなんとか解読したところ、どうやら、「女僕喫茶は9月1日をもって西門駅6番出口前、漫画王の6階へ移転しました」ということらしいです。なんということでしょう。
 絶望的に道に迷いがちな私(文字通りの意味でも、人生的な意味でも)に、外国の知らない土地の知らない店舗を、どうやって探せというのでしょう。絶望にかられながらとりあえず西門駅6番出口に戻り、そこからざっとひとわたり見回してみました。するとどうでしょう。目の前にあるではありませんか。「漫画王」の看板が。
 喜んでビルの前まで行くと、確かに萌點のポスターが貼ってあります。勇んでエレベーターを登ると、人気がない。店内はなにやら薄暗い。ドアを押してみると、開きはするのですが「おかえりなさいませご主人様」の声もしない。代わりに小太りのおっさんが出てきて、なにやら早口でまくしたてるのです。中国語が通じないと見るや、「ノットオープン」と一声。何を聞いても「今日はずっとノットオープン」の一点張り。
 やむなく入り口の写真だけ撮って、退散しました。
 定休日なら店の鍵も閉めているし、経営者もいないはず。それに下の入り口にメニューを載せた台を置いたりしないはず。うーむ、なぜノットオープンなんだろう。
 そういえば萌點のポスターの右上に、手書きで「女僕募集」とビラが貼っていました。ひょっとすると移転のゴタゴタで、女僕さんがみんな辞めてしまい、開店休業状態なのかも。謎は深まるばかりです。
(日本に帰ってからサイトを確認したら、9月8日更新で「中山店9月8日休暇」と書いていました。当日にお知らせするなよそんなもん。突如の休業ということで、やはりなにかがありそうな気がします)

萌點のポスター 萌點入り口

 やむなくMRTで隣の駅、龍山寺へ移動。この駅から龍山寺へ向かう途中の龍山寺公園の脇道沿いに、珈琲可思客なる女僕喫茶があるはずなのです。
 ところがこのようにわかりやすい立地にもかかわらず、まったくそれらしい店が見あたらない。もしかして見落としたかと思い、もういちど往復してみたのですが、やっぱりない。痕跡すらない。
 このとき、ふと思いだしたのが日本でサイト検索したときのことです。店のホームページに住所が書いてあったのですが、それが龍山寺の近辺ではない。むしろ西門の近くなのです。
 そのときは、「店のホムペで住所間違えてるよ。台湾らしいな」と思い、メモすら取らなかったのです。なにしろ台北ナビにも、2ちゃんねるの最近の書きこみでも、龍山寺近辺となっていたものですから、そっちが正解と思いこんでいたのです。ところがさては、あれが本当の住所であったか。店のホムペを信用すべきだったか。メモくらい取っておけばよかったと後悔したのですが、あとの祭です。とほほ。

 2軒の女僕喫茶探訪に失敗し、もはや残された最後の砦はFatimaidのみ。しかしこの店も、以前の台北地下街から地上へ移転したとのことです。はたして無事に発見できるでしょうか。
 店のサイトに書いてあったとおり、台北地下街のY13出口から地上へ。出口の正面ということで、まっすぐ歩いて商店街をゆくと、2、3軒目に、なにやら見慣れた秋葉原の駅の看板が。

Fatimaid

 狭い階段をのぼってドアを押すと、鈴の音とともに「いらっしゃいませご主人様」の声が。ほっ。ようやく女僕喫茶にたどりつけた。

 入店の挨拶こそ以前と同じですが、店の雰囲気はだいぶ変わっているようです。壁にあったフィギュアの代わりに名画が。BGMは以前のアニソンからクラシック(たぶんモーツァルト)へ。
 メイド喫茶を思わせる装飾は、以前のコンバットマガジンに代わって本棚にずらりと並んでいる日本のマンガと、本棚の上にあるぬいぐるみくらいでしょうか。
 メイドさんは本日は2人。青いメイド服で日本語の上手な眼鏡っ娘と、赤いメイド服で日本語がたどたどしい、長い髪のちょっとはにかみやさん。日本語が苦手なのが恥ずかしいのか、青いメイドさんの陰に隠れるようにしているそぶりが可愛らしい。
 メニューを見ながら、「困った茶」と「らき☆すた」のどっちを頼むか迷いましたが、「らき☆すた」はシトラスミントのハーブティーだというので、そっちを注文しました。ポットで150元。
 萌點珈琲の入り口にも書いていましたが、この店でも最低料金設定というものがあるようです。ランチタイムには最低150元、アフタヌーンには最低100元の注文をしてくださいということで、台北ではこれがポピュラーなのかもしれません。
 お茶を飲んでいると、青いメイドさんが「これ、交換日記です。よかたら書き入れてください」とノートを持ってきました。題名は「伝説のツソテレノート」。
 ぱらぱらとめくってみると、台湾人も多いですが、日本人もけっこう多く書きこんでいます。イラストを描いてる人も多い。日本人はたいがいアニメ絵ですが、なぜか台湾人は、上手いんだけど怖い絵を描く人が多いです。
 お茶を飲み終わり、お勘定をしようとしたら、青いメイドさんがはにかみながら、「すみません、わたしまだまだ日本語じょうずです」と話してきました。たぶん、「上手じゃないです」と言うつもりだったのでしょう。こちらが「そんなことはない、お上手ですよ」と答えると、「いえいえ、まだまだじょうずです」と、よくわからん会話になってしまいました。
 お勘定を済ますと、カードを渡してくれました。「お客さん、いい人だから、いいひとカードさしあげます」とのこと。嗚呼。(どうでも)いいひとよ。

いいひとカード


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