紋切型博士、アイドルを語る

問 アーバスノットさん、あなたにとってアイドルとは何ですか?

答 「美しき時代の偶像」です。

問 なるほど、偶像はどんな力を持ちますか?

答 世界をも動かします。

問 誰がその力を与えるのですか?

答 声無き声の人々です。

問 民衆?

答 そう、彼らは決して表舞台に立つことはありません。けれども、彼らはどんな知識人よりも早く、時代のうねりを予感します。そして、時代を作っていくのは彼らなのです。

問 民衆たちに支持されたアイドルの使命は何ですか?

答 時代を切り開いていく事です。

問 そのようなアイドルの特徴とは?

答 彼女らは決して美貌とは限りません。凡庸な目からみれば、そこらの女子中学生となんら変わることはないでしょう。だが、具眼の士は見抜くでしょう。彼女の輝きを。そう、彼女は、凡人にはただのゴロタ石として見過ごされるが、心あるものにはその輝きが見える、宝石の原石にたとえられましょう。

問 もっと詳しくお願いします。

答 彼女の髪は草原になびくつややかな一陣の風です。彼女の瞳は草叢に光るダイヤモンドです。彼女の微笑みはきらめく湖水の輝きです。彼女の胸は・・・

問 胸は?

答 そう、放縦に垂れ広がる前の、大理石のつややかさです。

問 胸は小さいほうがいいのでしょうか?

答 もちろん。乳のでかい女性は乳牛と変わりません。節度のある胸こそ、知性ある存在にふさわしいのです。

問 アイドルのデビューについて聞かせてください。

答 彼女は彗星のようにデビューします。

問 デビュー後はどうなるでしょうか。

答 彼女は光輝き始めます。その輝きは徐々に力を増します。そしてデビュー前から彼女を知る人の多くは、こう言います。「この輝きに気づかなかったとは、私はなんと盲目だったのだ!」

問 それから?

答 彼女の時代の訪れです。大勢の熱狂的なファンが彼女を支持します。ひとびとはそれを見て言います。「これはもはや、社会現象だ」と。彼女はいまや、時代と寝ているのです。

問 乗ってきましたね。それで?

答 彼女はアルプスの頂点を極めます。それから彼女は、ミュージカルに新境地を開くでしょう。批評家は言います。「彼女には、華がある」

問 それから?

答 映画にも主演し、ひとびとは言うでしょう。「一芸に秀でた人はさすがに違う。勘がいいし、のみこみも早い」と。しかし・・・

問 しかし?

答 彼女の王朝にも陰りが生じます。レコード売上はトップの座から滑り落ちます。あれ程居たファンも姿を消します。

問 何故ですか?

答 わかりません。ただやることなすことうまく行かないのです。どこかで歯車が噛み合わなくなったのです。私に言えるのはただ一つ、引き潮が来たのだ、ということです。

問 それからは?

答 消えて行きます。

問 消えるのですか?

答 アイドルは死なず、ただ消え行くのみ。

問 しかし・・・

答 貴方のおっしゃりたいのは分かります。身を落として写真集で乳首を見せたり、実力派歌手へ脱皮したりすることでしょう。しかしあれはもう、アイドルではありません。その抜け殻です。

問 なるほど。良く分かりました。最後に一つ。アーバスノットさん、貴方がアイドルに魅かれるのはなぜですか?

答 オーラです。彼女のオーラが私をひきつけるのです。

 


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