9.脳天気な民族

「ところで、リュックさんに聞きたいことがあるのですが」
「なぁーんで、あたしにばっかり聞くわけ?」
「だってユウナさんはあの調子で、すっかり天然ボケになっちゃってるでしょ」
「ユウナんの場合、天然はいらないかもね。おかげであたしがすっかりツッコミ」
「パインさんは寡黙だから、なにか深い考えがあるかと思えば、実はぜんぜん考えていないという、どっかで見たような人だし」
「すっかり女アーロンだよねー」
「アニキはくねくねして折原みたいだし、ダチはアニキにツッコむので手いっぱいだし」
「結局まともなのって、あたししかいないのよね。で、何の話?」
「スピラには数多くの民族が存在するらしいですが」
「まあ、グアドとかロンゾとかね」
「いちおう前作とあわせて、ゲーム内の民族地図を作ってみたのですが」

ヒト族
 スピラ最大の勢力を誇る。かつて機械文明のザナルカンドと狂信的宗教信者のエボンに別れて抗争していたが、歴史上の多数の実例と同じように、狂信者が勝つ。エボンの教えというものをでっちあげて、自分の支配に都合のよい戒律を押しつけるのはキリスト教の戒律と同じ。エボンの教えとブリッツボールの娯楽で愚民を指導するのはローマの「パンとサーカス」と同じ。
 召喚士はシーモアのように他民族でもなれるらしいが、祈り子はヒトに限られるようだ。やはり妄想力が他民族よりけたはずれに強いのだろう。

アルベド族
 身体的特徴はヒト族に似るが、瞳が緑色なのが特徴。裸にイレズミを彫っていたり、頭を剃っているのはまあ、暑い砂漠地帯への適応と考えられなくもないが、モヒカンには何の意味があるのだろうか?
 エボンの教えを受容せず、戒律から自由なため、古代の機械を駆使しての商業活動にいそしみ、随所で憎まれている。ユダヤ人のようなものか。かつて根拠としていた地をエボンに破壊され、長い間放浪生活を送る。のち砂漠にホームを建設するが、そこもグアドに破壊され、またも放浪。やはりユダヤ人か。
 古代の機械を使うことにも習熟するが、自分で機械を製造できるよう、技術を向上させようとする一波もおり、マキナ派とよばれる。

ロンゾ族
 ザナルカンドに近いガガゼト山岳地帯に住む一族。長身で獣的外見。アルベドが酷暑の砂漠に棲むのに対し、ロンゾは寒冷の山岳に棲む。みるからに暑いところでは生きられなそうな毛皮だし。エボンの教えをヒト族よりも敬虔に愚直に信じている。北方ゲルマン人だろうか。
 グアド族に壊滅的打撃を受け、現在ではキマリを族長として復興にいそしむが、一部若手急進派は、グアドへの復讐を画策している。

グアド族
 人間に似ているのはたんなる擬態らしい。髪の毛に見えるものは触角らしい。指や腕に見えるものは触手の束らしい。かつては独自の異界信仰を持っていたらしいが、シーモアの親父ジスカルの代にエボンの宣教師を受け入れ、以来エボンの教えを国教とする。しかし異界信仰は残存し、異界との接点をコントロールできるのはこの民族だけ。イタコのようなもんか。それともケルト人か。
 シーモアの代にエボン征服をたくらむが挫折。そのため他民族の恨みを買い、本拠地のグアドサラムを捨て地下に潜っているらしい。

「ま、こんなもんかしらね」
「このへんが多数派なんですが、もっと少数民族もいますね」

ハイペロ族
 シパーフの世話、ドサまわりの興行などにたずさわる。どこに棲むのか、どこから来たのか、一切謎に包まれている。ジプシーみたいなもんだろうか。トロい口調で喋り、ちょっとグアド族に似た指と、「シルバー仮面」のキルギス星人のような頭部を持つ。いつも裸なのか、皮膚に見えるものは宇宙服なのか、それも不明。

ペルペル族
 鳥が進化したのか、ガッチャマンなのか、ダイエーホークスのファンなのかは不明。かなりのチビ。ハイペロ族とは逆に、やたら早口。興行に手を出すことが多いのはハイペロと一緒だが、ペルペル族がハイペロ族を雇っているケースが多い。黒人奴隷をひきいるオランダ人のようなもんか。ひょっとしたらこいつも宇宙人で、ハイペロ星を占領し住民を奴隷にしているのかもしれない。

「あいつらは謎よねー」
「どうやって暮らしているんでしょうね」
「やっぱ宇宙から飛来したのかしらねー」
「それにしてはどっちも、頭がよさそうには見えないんですが」
「慣れない地球環境で退化したのかも」
「それよりもっと謎なのは、こいつらなんですが」

楽器一族
 音楽の演奏を専門とする不思議な人間(人間なのか?)。
 翼がハープになっている鳥人間、口がラッパに変形しているプップクプー人間、背中にトロンボーンを背負っている猫人間、腹が太鼓に変形しているボンゴ人間などがおり、コンサート、お祭り、シアター、スタジアム、結婚式、ミニゲームなどで日銭を稼いでいる。
 かつて機械文明を誇ったザナルカンドが、遺伝子操作で産み出した改造人間の子孫ではないかという説もある。

「なんかヤバい設定ねー」
「だってあいつら、マトモとは思えませんよ」
「どう考えても、一般生活には不便そうだもんねー」
「でも、実は次に述べる、この人々が最大派閥かもしれません」
「誰のこと?」

死人族
 ふつう死者は異界に送られるが、気合いと根性があれば死んでも何不自由なくスピラで生活できる。しかも時空移動体を越えて過去のザナルカンドと行き来し、魔界の魔物と合体して強くなる、幻光虫をとりこんで魔力を強化する、などさまざまな技が使えるようになり、むしろ生きている者より出世が早くなる傾向にある。おまけに学校も試験もなんにもない。都合が悪くなったら異界に逃げ帰ればよい。エボンの老師の半数が死人だった、ロックフェラーもモルガンもロスチャイルドもシーメンスも死人が操っている、歴代アメリカ大統領の三分の二が死人だった、田中角栄は死人に反抗したため殺された、エボンの失われた十死族が東洋に渡って日本人の祖先になった、源義経は大陸に逃げて死人になった、など数々の噂が絶えない。

「まさに、スピラは死の螺旋ね」


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