神鳥の夢

「なんだか、遠い昔の世界から帰ってきたような気がする。一時は亡者になったが、またこの世に舞いもどってきたようなものだ」
 つぶやきながら、権兵衛は杯をなめている。
 レティシアの娘はお銚子をとりあげて、ふと首をかしげた。
「そういえば、権さんの声、へんな声」
「どう変かね」
「ぐっすりねむっていて、たったいま起きたばかりという感じだわ。旅で、へんな夢でもみてきたんじゃないの」
 といってから、娘は、遠慮をしながらも、そっとさぐるような目で権兵衛をのぞきこんだ。
「そうかもしれない。見つづけていたのは、あれは夢だったのかもしれないな」

 この大陸の平原で、神鳥とやらの影を大汗かいて追いかけた。何回も見うしない、そのつど最初からやりなおした。
 ようやく影をとらえ、そこに現れた洞窟を通って出た世界は、見るものがすべて珍奇だった。
 その外形はもとの大陸と変わらないが、すべてが灰色だった。灰色の幹に灰色の葉が茂り、灰色の花が咲いていた。遠くに見える海も、岩壁にうちつける浪しぶきも、すべて灰色だった。
 灰色の地形をこえて、権兵衛たちは灰色の村に入った。
 人は、といえば、この灰色の国の国人は、気味がわるいほど、権兵衛たちに対して親切でいんぎんだった。灰色だったが。
 それにはこんたんがあった。灰色の国では、神鳥が乱暴をしているという。それを、権兵衛に退治してもらいたかったのだ。
 神鳥の巣を訪れた権兵衛は、魔物が卵をうばって神鳥を脅迫していることを知った。
 詳細は略して魔物の胴が、骨を断つ音とともに真二つに裂けていた。

「で、それからどうしたの?」
「それっきりだ。あとは覚えていない」
「村の人は?」
「いない。たれもいなかった。目がさめたときは、元の世界だった」
「どこへいったの?」
「わからない。しかし、ねむっているあいだ、おれは妙な夢をみた。その夢の景色は、灰色の国の草原だった。卵があった。ばけもののように大きな卵だった。その殻が割れ、あざやかな色の鳥がうまれた。おれが見ているうち、村人はその鳥に乗りこんでいった。みるみるうちに、その鳥は翼をきらめかせ、東にむかって飛び去っていった」
「ばかね」
「なぜだ」
「それは、ドラゴンクエスト3の物語じゃないの」

 その翌日、暗黒神は復活した。
 権兵衛の最期は、明確に語ることはできない。復活のときには、権兵衛の姿が村内になかったことだけはたしかである。
 諸記録によると、権兵衛は復活のまえに城を出、海岸に赴いた。岩壁でふところからなにかを取りだし、なにごとかつぶやきながら、断崖から身を投げた。岩礁にその身を叩きつけて死んだ。
 それを信じてもよい。
 が、どこからか現れた光りかがやく巨大な鳥に救けられ、いずこともなく飛び去った、という伝説を信じてもよい。
 さらに、記録よりも、これからのRPGのゆくすえを信ずるとすれば、この長い物語もまた、神鳥伝説によって幕を閉じるべきであろうか。


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