北征

 権兵衛ら一行は、北へむかった。自然筆者も、ここから稿をあらためて、
「北征編」
 とする。
 ドラクエは8という沸騰点において、権兵衛、ゼシカという奇妙な人物を生んだが、かれらが、ゲームにどういう寄与をしたか、私にはわからない。
 ただ、はげしく暗黒神に抵抗した。
 すでに賢者の殺害以来、それまで中立的態度をとっていた天下の国王や僧侶は、あらそってラプソーンを代表とする「暗黒神」に乗ろうとし、ほとんどが「神軍」となった。
 勇者討滅に参加した。
 と書けば、時流に乗ったこれら僧侶らがいかにも功利的に見えるし、こっけいでもあるが、ひとつには、暗黒神を中心とした世界統一の必要が、たれの眼にもわかるようになっていたのである。
 かれらは、
「世界」
 に参加した。
 しかし、あくまで「暗黒」にすぎぬという一群が、これに抵抗した。
 抵抗することによって、自分たちが、
「勇者」
 であることをあらわそうとした。
 といえば図式的になってかえって真実感がなくなる。
 まあ、ゲームを進めるより仕様がないか。

 とにかく、失敗。
 そうにはちがいない。ゼシカをようやく倒したかと思ったが、犬ころに杖を奪われ、賢者の末裔をむざむざ殺されてしまう。
(敗けたかねえもんだな)
 とおもったのは、一行の貌つき、肩の姿までかわっている。どうみても敗軍の兵であった。みな、リブルアーチで、おそるべき杖をみた。四賢者の血を吸った杖は、ククールが一撃するごとに十発うつことができた。ヤンガスのぬすっと斬りなどは一発準備しているうちに、むこうは二十発をあびせてきた。
(どうやら世の中がかわった)
 という実感が、実際に杖とたたかってみて勇者たちは体で知った。単に賢者を殺されただけではなく、そういう意識の上での衝撃が大きかった。
(なあに、あんな杖は買えば済む)
 権兵衛だけは、たかをくくっている。

 買えるわけがない。

 洞窟の長いトンネルを抜けると、雪国であった。
 ゼシカなどは魔法のビキニを装着したのみである。
 寒いにちがいない。
 どこまでも、雪道がつづく。
 歩きにくい。
 闇になるたびに、一行は、申しあわせたように雪にころげこんだ。尻も胸も雪だらけになった。
 それでもゼシカは、魔法のビキニひとつの姿である。
「ひでえ」
 ゼシカは泣きべそをかいた。
「まるで雪女郎だ。これでにゅっとあらわれたら、モンスターのほうがびっくりなさるだろう。ねえ、権兵衛さん」
「だまってろ」
「無茶だよ、権兵衛さんの軍略は。さっき褒めて損しちゃった。講釈にはこういう軍略はなかったなあ。これは、佐々成政を始祖とするさらさら越えですかい? それとも、ハンニバル好みのアルプス越えですかい?」
「雪山越えだ」
「よかァねえよ、八甲田山越えだ」


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