血で血を洗う冒険者の手記

(或いは血まみれ一人旅道中記)

これは某ネットで流行っていた「ドラクエ6を1人のキャラクターでクリアする」というのにかぶれて、「常に最新のキャラ1人でプレイする」というのをやってみたレポートです。できるだけ真実を語るようにしています。

○月○日

 妹よ

 僕はレイドックの城にきています。立派な城です。

 城の兵士に応募しました。6人のうちひとりしか選ばれない、狭き門です。

 応募者の一人にハッサンという奴がいます。どうも気に食わない奴です。

 教会では突き飛ばされたし、塔の中ではみんなの悪戦苦闘をにやにやと笑って傍観しているのです。なにより態度がなれなれしくてずうずうしいのです。

×月×日

 妹よ

 喜んで下さい。ついに兵士になりました。

 あのいやなハッサンを出し抜いて「くじけぬこころ」を手にいれたのです。

 これであの自信過剰の大入道も、ちょっとは謙虚になる・・・はずもないか。

○月×日

 妹よ

 何の因果か、あのハッサンと同行することになりました。

 僕が兵士になった途端、でかい態度が豹変し、おべっかを言いながらついてきました。

 断っても断っても、何のかんの言ってつきまとうのです。

 「俺がいないと馬は捕まらないぜ」とか、押しつけがましく。

 僕にくっついて手柄のおこぼれにあずかり、兵士になりたいという魂胆が見え見えです。

 それに、ときどき不気味な含み笑いをするのです。

 あいつだけは信用できません。大体軽々しく「兄弟分」とか「アニキ」とか言うのにろくな奴はいない。

 

「ブヒヒヒヒーン!」

「ハッサン・・・ううっ・・・てめえ・・・・」

「へへっ、悪く思うな。ひとりでこの馬を連れて帰れば、お城の覚えもめでたいってもんよ」

「うう・・・ホ・・・イ・・」

「おっと、その呪文は禁物だぜ」バキッ。

「恨むなよ。俺の方が強いんだ。俺が兵士になる方がお国の為ってもんだ」

○月△日

 気色悪い町で気色悪い女に合う。

 その町では俺の姿が見えないらしい。まるで幽霊になった気分だ。

 もっともヤツは正真正銘の幽霊だが。

 おかげで町長の家で茶番劇を見せてもらった。

 そんな町にいたのがあの女。美人は美人だが、笑いかたが不気味だぜ。

 「ふふ、そのわけを知りたかったら、私についていらして・・・・」

 あいつ、何を隠してやがんだ?

 どうも信用が出来ない。

○月×日

 あの女は冷酷無比だ。無実の女中が牢に送られるのを、眉も動かさず見送った。

 あいつの姿は見えるんだから、町の人に教えてやることもできたのに・・・しなかった。

 やっぱり、あの女は信用できない。

○月△日

 あの女、何のためにダンジョンまでついてくるんだ?

 俺が戦うのを、救けるでもなく、逃げるでもなく、にやにや見ている。

 俺に隙があったら、後ろから匕首で刺すつもりか?

 夢見のしずくを横取りするのが狙いか?

 それとも、俺の弱点を調べて、魔物に教えるつもりか?

 あの女、絶対信用できない。

 こうなったら、俺が死ぬか、あの女が死ぬかだ!

 

「こうして、夢見のしずくを・・・ぶつぶつぶつ・・・・」

「おおっ、見える!見える!俺の姿が」

「ふぉっふぉっふぉっ、グランマーズのお手並みはこんなもんじゃ」

「ありがてえ、ばあさん!よし、あの町にもう一度!」

「ちょっとまって」

「なんだ、ミレーユ」

「夢見のしずくのお礼がしたいの」

「そうじゃ・・・そう急ぐこともあるまい。このグランマーズの手料理でも食べておいき」

「それじゃあ、ご馳走になるかっ」

「・・・・あの洞窟のボスはどうだったかい?」

「へっ、たいしたことなかったぜ。星のかけらで混乱してやんの。突進してどっかに消えちまった。あれでもボスかね   ・・・・・ぐ?」

「どうしたの、ハッサン」

「ぐわあああああ・・・胸が・・・・」

「毒がそろそろ効いてきたようじゃの」

「そうね、おばあちゃん」

「毒・・・・何で・・・・俺・・・・・・」

「お前も馬鹿じゃな。同じ毒で犬がやられたのを見ておったのに」

「ペロは助かったけど、今度は20倍の量を入れているから駄目よ」

「・・・・ぐぐ・・・・」

「やれやれ、一度魂を肉体に戻してから殺すなんぞ、厄介なことじゃ」

「でも、魂だけでは殺せないもの」

「・・・・・・・・・・・・」

「片づいたようじゃな」

「そうね、おばあちゃん。これで邪魔者はいなくなったわ」

×月×日

 おばあちゃん。

 今、私は、夢見の洞窟にいます。

 ハッサンが取り忘れた宝を探しています。

 魔物は強いわ。

 というより、私が弱いの。

 私は非力だし、攻撃魔法も覚えていないし。

 でも、おばあちゃんに貰った、星のかけらは素敵よ。

 魔物にかざすと混乱して同士打ちを始めるの。

 そのあいだ私はゆっくりと魔法書を勉強するの。

 最後の1匹だけ私が倒すわ。

 楽しいわよ。

 お互い傷つけ合って、血塗れで、瀕死のスライムナイト。

 それでも最後に理性を取り戻し、自分のしたことに呆然となる。

 「・・うう・・・みんな・・死・・・だのか・・・・

  ピエール・・・・ハヤーカ!・・・・・・俺は・・・・

  ・・・・仲間・・・・殺し・・た・・の・・・か・・・・・・」

 身を震わせてむせび泣く彼に、最後の鞭をふるうの。

 会心の一撃。

 戦闘って、楽しいわ。

×月■日

 おばあちゃん

 今、夢の世界にいます。

 レイドックの町に行ったら、知らない間に棺桶が2つも出ていたの。

 そのままライフコッドのターニアちゃんの家に行ったわ。

 でも、ターニアは気づかなかったみたい。

 「おにいちゃんにも、たまには帰って来てね」

 って無邪気に言っていた。

 還っているのに。土に。

 そうそう、この村でせいれいのよろいを買いました。

 高いけど、それだけのことはあるわ。

×月○日

 おばあちゃん

 いよいよ、鏡の塔に乗り込みます。

 だけど、何か嫌な予感がします。

 魔物は怖くない。ボスも怖くない。

 ポイゾンゾンビのあしらい方はわかったわ。

 猛毒ならターン毎にダメージを受けるけど、毒にはそれはないの。だから、毒にかかってしまったらそのままほっとくの。あいつら馬鹿だから、毒にかかった人に猛毒の霧をかけようとはしないのね。

 でもこちらも攻撃力が少ないから、持久戦になるわ。

 怪物じゃない。ダンジョンでもない・・・もっと怖いもの・・・私が一番恐れているものに、この塔で会うような、そんな気がします。

 

 鏡の塔でミレーユに出会った少女は、全ての真実を写すという鏡の前にその姿を写していた。

「さてと、ダーマの鏡も手に入ったし、あたしも見えるようになったし、これからどうしよう・・・そうだ、あたしおねえちゃんについていく!ね、いいでしょ?」「駄目よ・・・私は一人旅なんだから」

「ケチ!・・・ねえ、おねえちゃん悪い人じゃなさそうだし、ね、つれてって」「だめ」

「どしても?」

「どうしても」

「・・・・・あ、そう。それならあたしも考えがあるからね」

 ミレーユは不快を感じた。

 嫌な音がする。

 床が揺れる。

 ミレーユは思わず膝をついた。

 地上に降りた隠し部屋は、再び上昇を始めたようだ。

 エネルギーは尽きたはずなのに・・・

「あたし、鍵もないのになぜこの塔に入れたのか知ってる?」

 ミレーユは天井をふりあおいだ。

 部屋はなおも上昇を続けているようだ。

「あたし、この塔を操れるんだよ」

 部屋はどこまで昇るのだろうか。

「待ってたんだ・・・あたしを迎えてくれる人を・・・」

 吐き気がする。

「なら・・・なぜ・・・」

「でもおねえちゃんはことわった・・・だから・・・」

 部屋はようやく虚空にその動きを止めた。

「さよなら!」

 ミレーユは再び衝撃を感じた。

 自分も含める全てが恐ろしい勢いで落下してゆく。

 しっかりと押さえつけようとしたが、ふくろは生き物のようにひらひらと舞う。止められない。胃がうずく。周りが見えない。わずかに見えたのは、信じられないくらい大きな天井の壁。何もかも、自分を含めて壊れてゆく。

 最後に、はっきりとは覚えていないが、鏡に少女の笑顔が映しだされていたような気が・・・・

 粉美塵となった廃虚にたたずむ少女。寂しそうな顔だ。

「おねえちゃんが悪いんだから・・・」

 レンガの破片を蹴る。破片が当たったわずかな衝撃で、瓦礫の山が崩れる。

瓦礫の下から、燐光を放つものが見えた。

「あ、精霊のよろいだ!」

 少女は駆け寄りよろいを手にする。それは、けだかい光を放ち、軽いくせに非常に丈夫な物質でできていた。

「ラッキー!おねえちゃん、こんな高いもん持ってたんだ。あたしが貰うね!」

 結局、少女を倖せにするには大して手間はかからないものなのである。

 でも少女は知らない。手に持つラーの鏡に、ミレーユの血塗れの姿が今も映っていることを。少女の知らない男・・・少年、武闘家の死顔も映っていることを。そして、自分自身の顔も一緒に映っていることを。その口から血を吐いていることを。

×月×日

 きょう、はじめてうえのせかいへいきました。かんおけが2つもあってじゃまでした。

 うえのレイドックのおうさまはかっこいい人でした。「眠らぬ王」かっこいいあだ名ですね。でもわたしはかっこわるくてもいいから眠れたほうがいいです。でもおうさまはわたしの鏡でおんなのひとになってしまいました。へいしちょうがあわててどこかへいってしまいました。わたしのせいじゃないのに。

 わたしはいきたくないけどそのおんなのひとがうるさいのでかいぶつがいるどうくつへいってみることにしました。

「ギラっ!」

「ギャース!」

「ふう、やっと片づいた・・・うるさいキラーグースだこと・・・あら大変、MPが10しか残ってない・・・かえらなきゃ」

「お待ちなさい」

「なによ、おばさん」

「もう帰らなくてもいいのです」

「?」

「あなたの行動を、ずっと見てきました。魔王を倒し、真の勇者になる資格があるのかを見きわめるために」

「ゆうしゃ?」

「でも・・・失格です。仲間を次々と粛清・・・無意味なモンスターの虐殺・・・村人からの略奪・・・あなたのような人を、勇者にするわけにはいきません」

「どうするってのよ?」

「報いをうけてもらいます」

 その女性はもういなかった。

 その声は天から聞こえてきたような気がした。

 嫌な地響きがする。危険だ。

 バーバラはリレミトを唱えようとした。しかし、MPはなぜか空っぽになっていた。

 走るしかない。地下3階だ。逃げきれるか?

 梯子は落石で粉々になっていた。

 もう逃げられない。バーバラは天をふりあおいだ。ダンジョンが崩れただけとは思えない。天地そのものが崩れているように、無数の炎が、瓦礫が、落石が襲ってくる。

 気づくとみんながいた。村の少年・・・大工・・・占い師・・・。とうに死んだはずの人物がバーバラのまわりでまわる。少年は微笑む。ハッサンは哄笑している。ミレーユは黙って水晶玉を差し出す。玉はその刹那、砕け散った。

 その破片が無数の岩となってバーバラに降り注ぐ。

 この世界が終わりをむかえたことを、バーバラは悟った。









「おきのどくですが、ぼうけんのしょ1はきえてしまいました」

完 


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