引退後の生活は

 単調な経験値&戦闘回数稼ぎに疲れた一行は、アミット邸に休息していた。
「ねえ、みんなは大魔王を倒したら、その後どうするつもりなの?」
 突然のマリベルの質問に、アルスは目を白黒させた。
「えっ?……その後なんて、大魔王を倒すので精一杯だよ。その先なんて……」
「でも、もうすぐ倒せるはずなのよ。あんたももうすぐ十八でしょ。そろそろ人生設計考えなきゃ」
「そうだなあ……まあ、親父の跡を継いで漁船に乗り込むかなあ」
「拙者は神を復活させ、また神の神殿に仕える所存でござる」とメルビン。
「そうね……とりあえずユバールに帰って、それからのことはその時になって考えるわ」とアイラ。
「オイラは木こりのおっちゃんのとこに帰って、狼の母ちゃんと暮らすんだ」とガボ。
「はあ……あんたら、そろいもそろってチンケな将来ねえ」マリベルは大げさに溜息をついた。
「いいこと、大魔王を倒したらあたしたち英雄よ、救世主よ! 世界があたしにひれ伏すのよ! 世界中の有名人よ! この絶大なるネームバリューを活かさない手はないわよ」
「どうやって活かすんだ?」ガボが尋ねた。
「そうね……まず、ユニットを結成してCDデビューね。プロデューサーはつんくは駄目ね。趣味悪いし、もう人気も落ち目だわ」
「誰にするのでござるか?」
「そうね……デーモン小暮なんかどうかしら?」
「そっちのほうが趣味が悪いし、人気も落ちてるぞ」アイラが指摘した。
「いいの! それでデビュー曲のタイトルは夢があるポップな感じのがいいわね。タイトルはらいおんハートに対抗して、『すらいむハート』なんてどうかしら?」
「それのどこが夢があってポップなんだ?」
 アルスが当然の疑問を呈したが、マリベルは聞いていなかった。
「もちろん、ビジュアル系のあたしとアイラが全面に出るのよ。男三人は後ろでステテコダンスでも踊ってなさい」
「ステテコダンスなんて、踊れるのはメルビンだけだぞ」
「デビュー曲は、当然初登場一位でチャートインね。そしたら全国縦断コンサートよ」
「どうやって一曲でコンサートを開くのでござるか?」
「みんなやってることよ。まず第一部は歌謡ショー。サイドAとBで二曲歌って、アンコールでまたサイドA。リミックスバージョンとか言って、長ったらしく引き延ばすのよ」
「みんなやってるのかなあ」
「第二部は演劇よ。出し物は『素浪人・花山大吉』がいいわね。もちろんあたしが主役の花山大吉よ。アイラは焼津の半次、あとの男どもは悪代官」
「それって、コンサートというより、ドサ廻りじゃないかなあ」


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