マリベルとあおいとり

さく マリベル・アミット
(3さい〜5さいむけ:ちいさな こどもは おとうさん おかあさんに よんで もらいましょう)

 その むらには せかいじゅの もりが ありました。
 せかいじゅは とても やくに たつのです。 せかいじゅの しずくは いちどきに たくさんの ひとを げんきにします。 せかいじゅの はっぱを あてると しんだ ひとも よみがえります。 それだけでは なく、 せかいじゅは まわりの くうきや みずを きれいに するのです。
 でも むらの ひとたちは、 せかいじゅを だいじに しませんでした。 きを きずつけて しずくを とったり、 はっぱを むしったり したので、 つぎつぎと せかいじゅは かれてしまいました。 そうして ちいさな なえぎが たった いっぽん のこりました。 たった ひとりの ようせいが その なえを まもって いました。

 せかいじゅが すくなく なったので、 もりの まわりの みずや くうきは だんだん よごれてきました。 そして せかいじゅを こわがっていた まものも ふえてきました。 そんな まものの ひとりが、 むらの いどに どくを ながしました。 むらの ひとたちは どくに あたって あたまが おかしく なりました。
「おれは まおうだぞう」
「こわいんだぞう」
「みんな ころして しまうぞう」
「せかいを せいふく するぞう」
「ぞうだって たおして しまうぞう」
 などと うわごとを いうのです。

 かしこい マリベルは せかいじゅの ちからで どくを けせば むらびとは なおると おもいました。
 マリベルは ふたりの おつきに もりへ いこうと さそいました。
 でも、 くいしんぼの ガボは、
「せかいじゅは たべられないから いやだ。 オイラは このむらで ごちそうを たべたいよ」
 と、 ことわりました。 
 よわむしの アルスは、
「もりは オバケがでるから やだよう」
 と、 いうのです。 いくら マリベルが
「オバケと ようせいは ちがうのよ。 ようせいは こわくないのよ」
 と いっても ぶるぶる ふるえるばかり。 
 しかたなく マリベルは ひとりで もりに いきました。

 もりへ はいった マリベルは、 げんきよく あいさつしました。
「こんにちは ようせいさん」
 すると こかげから ちいさな はねのはえた おんなのこが すがたを あらわしました。
「こんにちは マリベル。 あなたの ぼうけんの うわさは わたしも きいているわ」
 と にこにこ わらいました。 ふたりは すぐ なかよしに なりました。

 むらの ひとが へんに なった はなしを きいた ようせいは、
「せかいじゅの なえは まだ ちいさいので ここから みずを きれいにする ちからは ありません」
 と、 こまった かおで いいました。
「せかいじゅの しずくを だれかが もっていって いどに ふりかけないと いけないのです」
「あたしが いくわ」
 と、 ゆうかんな マリベルは いいました。
「けれど ちかすいろを とおって いかないと いけないの。 いろんな かいぶつが いるから きけんよ」
「へっちゃらよ」

 ちかすいろを ずんずん すすんで いった マリベルは、 いどの そこで かいぶつを みつけました。
 かいぶつは、

 おれたちゃ かいぶつ ゲッヘッヘー
 おどろよ おどろよ グルリンコン
 どくを いれるぞ ドッサリコ
 きちがいに なっちゃえ クルクルパー
 
 と、うたいながら おどって いるのです。
 マリベルは、 おこって いいました。
「いどに どくを いれるのは やめなさい。 みんな こまって いるのよ。 いどに どくを いれるなんて、 まるで、ちょ……」
「それいじょう いわないほうが いいぞ。 せいじてきに あぶない わだいだからな。 れきしてきにも まちがっとる」
 と、かいぶつは えらそうに いいました。
 ますます おこった マリベルは、 かいぶつを ぶちました。
 すると かいぶつは ころりと しんで しまいました。
 マリベルは つよいですね。

 いどに せかいじゅの しずくを ながして みずを きれいにした マリベルは もりに かえりました。
「ありがとう マリベル。 ゆうかんで やさしい おんなのこよ」
 ようせいは よろこんで マリベルに いいました。
「わたしは ここで せかいじゅの なえが そだつのを みまもります」
「きっと また こんども あえるよね」
「さあ どうかしら」
 と、 ようせいは さびしそうに いいました。
「わたしは せかいじゅを みまもる ことが やくめなの。 せかいじゅが そだったら わたしの やくめは おわり。 きっと きえてしまうわ」
「でも たましいは のこるのよ。 うまれかわって きっと また あえるわ」
「わたしたち ようせいは にんげんの ような たましいが ないのです。 ようせいは ながいきだけど しんで しまったら それで おわりなの。 きえて しまうのよ」
 それを きくと やさしい マリベルは すっかり かなしく なりました。
「そんなこと ないわ。 きっと ようせいさんも たましいは あるのよ。 だって こんなに いい ようせいさんだもの」
「マリベルは やさしいのね」
 ようせいは ほほえんで いいました。
「ほんとうに マリベルの いう とおりだと いいのだけど」

 

 それから ながい ねんげつが たちました。
 マリベルと ふたりの おつきが また そのむらに やってきた ときには せかいじゅも すっかり おおきく そだって いました。
「わあ。せかいじゅって こんな おおきく そだつのね」
 マリベルは すっかり うれしくなって きの まわりを はしりまわりました。
 なかよしの ようせいさんと また あえると おもったのです。
 でも いくら さがしても ようせいは どこにも いませんでした。
「あのとき いっていた ように ようせいさんは しんで きえて しまったの かしら」
 マリベルは かなしくなって しくしく なきだしました。
 そのとき せかいじゅの こかげから とても きれいな うたが きこえて きました。
 せかいじゅの えだに かわいい あおいとりが とまって うたって いるのです。
「きっと ようせいさんの たましいが あおいとりに なったんだわ」
 マリベルは みみをすまして ことりの うたに ききほれました。
 ことりは マリベルに おれいを いうように いつまでも きれいな うたごえを きかせて くれました。

(おしまい)


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