マリベルとこわれた時計台

さく マリベル・アミット

 マリベルとふたりのおつきがリートルードの町にやってきた、といううわさは、たちまちまちじゅうにひろまりました。
「マリベルおじょうさまが、リートルードにやってきたぞ」
「これで、わしらもやっとあしたを迎えられる」
「おやさしいマリベル様、どうかこの町をおたすけください」
 と、町のひとびとは、たいへんよろこびました。なぜって、マリベルがいろんな町でいいことをして、みんなを喜ばせてきたことも、マリベルがたいそう美しくてやさしいことも、みんなちゃんと知っていましたから。

 それにリートルードの町のひとびとは、たいそう困っていたのです。町でじまんの建築家、なだかいバロック先生が作った時計台。それはリートルードのほこりでした。ところが、時計が故障してしまってからというもの、町がなんだかおかしくなってしまったのです。
 いつまでたっても「きょう」ばかり。「あした」がやってこないのです。おかげで、あたらしくできた橋の落成式は、いつまでたってもあしたのこと。橋をわたるのをたのしみにしていたおきゃくも、しょうがなくて酒場でまいにちのんだくれています。武器屋でバイトをしている吟遊詩人は、いつまでたっても給料日がこないので、おおよわりです。宿屋のそそっかしい娘、エイミはまいにち階段でころんでは、ひざこぞうをすりむいています。もっともエイミは、ほっといてもまいにち転んでたかもしれませんけどね。

 マリベルはバロック先生に時計台のかぎをもらい、さっそく調べにいきました。かしこいマリベルは、すぐにげんいんをつきとめました。
「これは、バロック先生のむすめのかなしみが、時計にひっかかって、さきにすすまなくなっているのだわ」
 バロック先生は建築にはてんさいてきなのですが、おんなにはひどくだらしない人で、わかいときにあるじょせいをもてあそんで捨てたのです。捨てられたおんなは、うらみをのんで死にました。そしてのこされたむすめは、宿屋のしたばたらきになりました。おにのようなおかみさんのもとでこきつかわれ、たべるものもろくにもらえず、いつもひもじい思いをしていました。そのかなしみがいつしか時計につもって、針をとめてしまったのでした。

 マリベルはさっそく、時計をなおしにいきました。それはとてもたいへんなことでした。なにしろあしでまといが多かったのです。おつきのアルスは、おくびょうでいつもマリベルのかげに隠れるよわむしさんでした。もうひとりのおつきガボは、狼にそだてられて、人間のことはなにもしらないおばかさんでした。わけのわからない方角にいこうとするガボを止め、逃げだそうとするアルスをしかり、つれていくだけで、たいへんなことでした。
 それでもなんとか時計のまんなかにたどりつき、むすめのおんねんがすがたをかえた化け物をたいじしました。もちろん、マリベルひとりでやったのですよ。そしてマリベルがじゅ文をとなえると、おんねんはじょう仏してそらに飛んでいきました。それをみてアルスはこわがって逃げようとするし、ガボはわけもわからず追いかけるし、ほんとうに困ったふたりでした。

「さあ、時計はなおしたわ。あとはむすめさんの、みのふりかたをかんがえないとね」
 やさしいマリベルはバロック先生の家にいき、むすめのエイミをひきとるよう、いいきかせました。しかしこんじょうまがりのバロックは、
「わしは、そんなおんなはしらない。むすめをひきとるなんて、いやだ」
 と、あくまでしらをきるのです。おこったマリベルは、
「とにかく、せきにんはとりなさい」
 と、バロックのからだにいいきかせました。バロックは、ひいひい泣いて、
「もう、これいじょうなぐらないでくれ。死んじゃうよ。わかった、エイミはひきとる」
 と、ようやくかいしんして、マリベルにちかいました。
 マリベルは、またいいことをしてしまった、とまんぞくして、つぎの町にむかうのでした。

(おわり)


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