マリベルの悩み相談室

「はーい、みんな見てるー? ネタが無くなったときの苦しまぎれ企画、マリベルの悩み相談室の時間がやってまいりました。さて一通目は、姫路市のE.Kさんから……」

 私は妻子ある三十一歳の会社員です。ついにドラクエ7を入手し、いそいそとゲームにいそしんでおりましたが、妻がわたしのプレイ画面をのぞき込んで、
「あんた、この名前はどーゆー意味? ね、答えなさいよ!」
 と詰め寄るのです。そう、ダーマ神殿に住む、命名神マリナンの神官に頼んで、マリベルの名前をうちの奥さんの名前にしていたのです。妻もプレイしているので、マリベルの性格はきっちり把握しているのが悲劇の元でした。あれから妻は口をきいてくれません。ご飯も作ってくれません。今ではワイシャツのアイロンも自分でかけています。お小遣いもくれないので、同僚に千円借りて、百円ショップで買った五個百円のラーメンを昼食にしています。ああ、なんとか妻の怒りを抑える方法はないでしょうか。

「どーゆー意味?! あたしじゃ不満なの?! ちょっと、その奥さん連れてきなさいよ! あたしと勝負する気?! ……(スタッフ、マリベルを必死になだめる)……まあそうね。知り合いの名前をRPGのキャラに使って、問題起きるケースは多いのよね。『オバラク』(勝手に略称)のてしさんなんて、絶対カナコって名前でプレイしてると思うわ。でもね、あたしがワガママで身勝手に見えるのは演技なのよ。そこんとこはっきりしておかなくちゃね。冒険が進むごとに、あたしの淑やかさ、美しさ、凛々しさ、優しさ、これが段々と全面に出てくると思うんで、その頃までには奥さんの機嫌も直るんじゃないかな。あ、それから、てしさんとこのハカセに相談するのもいいかもね。では次。大阪市のK.Kさんからのお便り」

 ドラクエをプレイしているうちに、すべての宝箱を開け、すべての引き出しを確認し、すべての壺、すべての樽を叩き割って中を確認しないと我慢できない強迫神経症に襲われるようになりました。先日中国古美術展に行ったのですが、鑑賞しているうちに気が遠くなり、再び気づいたときには、ガードマンは失神して床に転がり、他の観客は誰もおらず、唐三彩や青磁の壺がむざんに叩き壊されておりました。いま、私は逃亡中です。どうやったら無罪になれるでしょうか。教えてください。

「うーん、ゲームやアニメによる日常感覚の喪失ってゆーか、バーチャルリアリティの限界による心神喪失ってゆーか……(スタッフ独白。ひでーおざなり。本人わかって言っているのか)。では次、川口市のJ.Oさんからのお便りでーす」

 ふつう、サンマを釣りに行くことを「サンマ漁」、鮭を獲りに行くことを「シャケ漁」と言いますね。それなのになぜ、フィッシュベルでは、アミットさんの船で魚を獲りに行くことを「アミット漁」というのでしょうか。私は最初、てっきりアミットという魚を獲りに行くのだと思いこんでいました。それか、アミットさんを野豚のように狩りだすとか、人間狩りのようなものを想像してしまいました。どっちなんでしょう。気になってゲームも手につきません。教えてください。

「あのね、アミットってのは、もともとスズキ目ヒメジ科に属し、食材として珍重されるお魚の名前だったの。ウチのご先祖様は、それをグランエスタードの王様に献上し、フィッシュベルの支配権と漁業権を与えられたの。それ以来、その魚の名前を名乗るようになったの。日本で言えば明石家さんま、みたいな感じかしら。わかった? (スタッフ傍白。珍しく回答になっているな)では次。品川区のR.Nさん。あら珍しい。女性の方ね」

 私は大阪に住む殿方と遠距離恋愛中です。彼は毎週末になると新幹線で東京を訪れ、土日はふたりで楽しく過ごすのが習慣でした。ところが、先週、先々週と、来なかったのです。親戚が死んだとか部署が変わったとか口実を設けていましたが、噂ではドラクエにはまってしまったらしいのです。私はこのまま捨てられるのでしょうか。ねえ、あなた! はっきり言ってよ! 私とマリベル、どっちを選ぶの?!

「……ひぇぇ。ちょっと激してるわね。まあ無理もないわね。あたしの魅力の前じゃ、優香もゴマキも、ルンルンも叶姉妹も、色あせちゃうもんね。あたしって罪だわ。男を惑わせる女ね。マノンって呼んで。でも烏丸せつこじゃ嫌。カルメンでもいいわ。でもスペードの女王は嫌。(回答になっていないとスタッフが忠告)そうね、どうかしら。ラブホテルにプレステを持ち込んで、ふたりでプレイするってのは? あたしの魅力にふたりとも惚れ込むから、王女様プレイってとこね。では次……あら、住所がないわ。地図に載っていない土地らしいわね。A.Gさんから」

 一緒に仕事をしている女子社員に困っています。彼女はお嬢様育ちでわがままに育てられたらしく、一般常識を知りません。かといって専門知識もありません。そのくせ説教好きです。しかも贅沢です。いつも僕たちに奢らせます。宝飾品なども僕に買わせます。自分で金を払ったことがありません。そして僕たちに命令するのが好きです。いつもトップでないと気が済みません。ひとくちで言うと、野村サッチーを若くしたような女です。重い荷物は僕たちに持たせ、辛い仕事は僕たちに押しつけ、自分は何もせず、やれ砂埃で服が汚れたの、やれ魔力が尽きたの、なんだかんだと理由をつけては、温泉宿でひとり寝ています。もううんざりです。個人的に我慢ができないのもありますが、僕たちの仕事の崇高な目標は、彼女がいると達成できないのではないかと、真剣に悩んでいます。彼女をうまく追い払う方法はないでしょうか。でないと、この世は魔王に支配されてしまいます。いや、既に僕たちが魔王に支配されているようなものです。

「アルス! ガボ! ……ちょっとこっち来なさい!!!」


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