ドキュメント・山賊の巣窟二十四時間

 二十二時間五十分経過:ニセ大神官を倒し、ダーマの神殿を復活。全員笑わせ師に転職。
 二十三時間十分経過:現世のダーマに戻る。メザレの噂を聞き、船で出帆。
 二十三時間二十分経過:メザレでニコラに魔法の絨毯を貰うが、偽物。とりあえずダーマに戻る。
 二十三時間三十分経過:山賊と初の対戦。惨敗。
 二十四時間二十分経過:金をためて鉄の斧を主人公とガボが装備。ふたたび山賊と対戦。惨敗。
 二十六時間二十分経過:金をためているうち、笑わせ師を極めてしまった。主人公は盗賊、ガボは羊飼い、マリベルは魔術師に転職。みたび山賊と対戦。善戦するが、毒蛾の粉で主人公が混乱し、敗戦。
 二十八時間四十分経過:金をためて亀の甲羅をガボが装備。またもや山賊と対戦。またもや混乱させられて敗戦。
 三十時間経過:金をためているうち、盗賊と羊飼いを極める。主人公は吟遊詩人、ガボは武闘家に転職。金をためてホワイトシールドを主人公が装備。
 三十二時間四十分経過:今度こそ山賊と対戦。楽勝。やはり「怒濤の羊」と「イオラ」は強力である。

 マリベルは洞窟に入るや、顔をしかめて鼻を押さえた。
「ここが山賊のアジトね……ううっ、なんか汗くさい男の体臭が染みついてる……しっしっ、寄らないでよ。臭いんだから」
「いやあ、姉ちゃんがこんなとこ来るとは、珍しいだなや」
「あたしだって来たくなかったのよ。ほら、ガボ、あんたが応対しなさいよ。臭い同士で」
「失礼だぞ、マリベル」
「あたし、もういや! こんな臭い洞窟、さっさと出ましょうよ!」
「そういうわけにもいかないよ」アルスはたしなめた。
「どうやら、ここの山賊が石版を持っているらしいんだ」
「もういいわよ石版なんて! どうせ、石版にも臭い体臭がしみついてるわ」

 洞窟の奥に進んだ三人は、ボスがいるという部屋の扉を開けた。
「……あれ?」
「ボス、留守らしいぞ」
「なんだかちんちくりんのコロファイターみたいなのがいるだけね」
「失礼だな」ちんちくりんのコロファイターみたいな男は憤慨した。
「私が山賊のボスだ」
「ねえ、ボク」マリベルが話しかけた。
「ボク、ちび道ってページ知ってる? ボクみたいなちびを称揚するページなんだけど」
「失礼な」山賊のボスは、ますます憤慨した。
「あ、そうか、あそこのページは、ちびの女の子だけ称揚するんだもんね。ボクみたいな臭い汚らしい男の子は、称揚してくれないんだもんね」

 ますます憤慨した山賊のボスは三人に襲いかかったが、山賊との闘いで苦杯を舐め、経験を積んだ三人の敵ではなかった。
「うう……おまえら、強いな」
「当たり前でしょ」
「よし、お前らにこれを渡そう。これは強い男のものだ」
 山賊のボスは、黄色い石版のかけらを差し出した。
「なんで男なのよ。強い女は駄目なの?」
 マリベルのとどめの一撃で、山賊のボスは絶命した。

「皆様、お腹がすいたことでしょう。あちらにお食事の用意がしてありますので、どうぞ」
 ボスを倒されて卑屈になった山賊たちは、低姿勢で三人を誘った。
「こんな臭い洞窟じゃ食欲もわかないけど、ま、いいでしょ」
「マリベル、先を急がなくていいのか?」
「人間、余裕がなくっちゃね」

「うーん。まあまあね。こんな臭い洞窟の臭い山賊にしちゃ、いい料理作るじゃない」
 マリベルは食事をすべて平らげ、ご満悦だった。
「おそれいります」山賊はへりくだった。
「なにしろ、各地の食材を厳選して……」
「かっぱらってきたのね」
「まあ、そういうことですが……」
 山賊はうやうやしく頭を下げた。
「この食後酒はいかがでしたか?」
「おいしかった」とマリベル。
「なんかトロリとして、芳醇で、まったりしてて……」
「おいおい、それ以上言うな。語彙が乏しいのばれるぞ」
「ほっといてよ」
「ありがとうございます」山賊は頭を下げた。
「これもシェフのお手製の酒なのでございます。よろしければ、シェフがこちらに参りますので、お言葉をかけてやっていただけないでしょうか」
「いいわよ」
 やがて参上したシェフは、コック帽を脱いで、頭を下げたが……。
「げっ」
「く、くさった死体?!」
「そうです。あのお酒は、彼が造ったサル酒なのですよ」
「サル酒?」
「ご存知ないでしょうか。果物を猿が噛み砕き、唾液と混ぜて吐き出す。するとそこで発酵が起こり、酒になるのでございます。彼の場合、もともとが腐っておりますから、発酵の速度が非常に速く、しかも唾液に含まれる菌類が珍しいもので、このように非常に芳醇な香りを……」
 マリベルは失神した。


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