ひとと機械のあいだに

 裏切られることのない恋人がほしかった。
 死ぬことのない恋人がほしかった。
 その恋人が完成したとき、かれの心は閉じられた。

 死んだ娘は戻ってこない。
 そんなことは、最初からわかっていた。
 自分を裏切った、あんな娘の複製なんかほしくない。
 自分より兄を選んだ、あんな娘なんか。
 それでもなぜか、あの娘の名で呼んでしまう。

 陽気でよく笑っていた、エリー。
 木漏れ陽に映る姿が心に残る、エリー。
 エリー、あの甘い……

「かーっ! もう、うざったいわね!」
 マリベルは怒りを爆発させた。
「いつまでそんなうじうじやってんのよ! 気持ち悪いわよ!」
「な、何だね、君たちは勝手に……」
 研究所に勝手に闖入してきた四人に、ゼポットは驚かされた。
「君たちは兄と……。ふん、もう僕にも、この国にも用はないだろう。さっさと……」
「それがね、大ありなのよ」
 マリベルはなにやら、大きな怒りを抑えきれない様子だ。
「あなたに作って欲しい機械があるの」

「石版探知機?」
 ゼポットは驚いて聞き返した。
「そう、簡単でしょ。あんたの腕だったら」
「なぜ、僕がそんなものを作らなきゃならないんだね?」
 ゼポットは冷ややかに、マリベルを見据えた。
「それはね、あんたがこんな汚い小屋に引きこもって、こんなダッチワイフとシンネコしてるなんて不健全な生活するより、世界を救おうという崇高なあたしたちに協力する方が、ずっといいことだからよ。分かる?」
「エ、エリーのことをダッチワイフだとは、許せない……」
「ダッチワイフじゃないの?! あんたの欲望の捌け口でしかないじゃないの?! あんたのうっとおしいトラウマとやらの排泄口じゃないの?! ねえ、違うの?! どうなの?!」
「そ、そんな言い方、ひどい……」
「だいたいあんた、生き方が間違ってるわよ。恋人が兄貴と出かけて、そこで死んだからって、兄貴を一生うじうじ恨んで生きるわけ? あーやだやだ、あたしだったら絶対ごめんね、そんな蛆虫野郎。五十メートル以上近づいて欲しくないわ。あんた、そんな性格で女にもてるわけないって、そんなことも分からないの? エリーだって、絶対あんたのことなんか好きじゃなかったに違いないわ。あんた、お兄さんのダシよ。当て馬よ。コキュよ。からかわれてるのに、気づかなかったの?」
「ひ……ひどいや、ひどいや……うぇーん」
「あのな、悪いことは言わん」
 キーファがそっと、ゼポットに耳打ちした。
「マリベルの言うとおりにした方がいいぞ。でないと、あと二時間はこの調子で罵言を聞かされるぞ。なにせマリベルは、もう五時間も赤い石版を探し回って、頭に血が昇ってるんだ」

「ち、ちょっと、これ、デスマシーンじゃないの?!」
 ゼポットの作った、「石版探知機」を見たマリベルは叫んだ。
「うん。メカがちょうど流用できたから、頭脳部分だけを入れ替えてみたんだ」
「これ、暴れ出したりしないの?」
「大丈夫。……だと思う」
「な、何よその自信なげな口調は」
「うん。さすが中ボスだね。ブラックボックス化していて、手のつけられない部分が多いんだ。まあ、頭脳部分は入れ替えたから、たぶん大丈夫」
「で、どうやって使うのよこれ」
「スイッチを入れれば、勝手に動作する」
「んじゃ……ぽちっとな」
「やめなさい、歳が知れるぞ」

 スイッチを入れたデスマシーンは、しばらく雑音をたてながら振動していたが、やがて起きあがり、音声を発した。
「ガガ……石版……石版探知、これより開始」
「おお、成功だ」
「きゃっ」
 デスマシーンは、突然マリベルを突き飛ばすと、恐ろしい勢いで戸口から飛び出していった。
「いたた……いったい、何よあれ!」
「だから、自律的に動作するんだ。勝手に石版を探索し、発見する」
「で、俺たちは」キーファがゼポットに尋ねた。
「あの機械を、どうやって探索すればいいんだ?」
「さあ……」
「バカ! 大バカ!」

 逃げ出した石版探知機は放っといて、それから二時間の地道な探索の後、ようやく四人は、最後の赤い石版を発見した。
「こげなところにあっただか」
「灯台もと暗しってやつだな」
「とりあえず、これで先に進めるってわけね」
 マリベルが赤い石版を手に取った、その瞬間、戸口から疾風の如く走ってきたものがある。
 元デスマシーン、石版探知機だった。
「石版粒子、反応あり!」
 石版探知機はそう叫ぶと、右手に持った電子ブラスターの引き金を引いた。
 石版はこなごなに砕け散った。
 なにが起こったのか、四人が気づく頃には、石版探知機はすでに走り去ったあとだった。
「なんなの、あの機械は?!」

今回はかなりマイナーな特撮ネタを使ってしまいました。ごめんなさい。


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