戌年には犬を食え

 ワタルさんの苦情「まともな料理だと思って油断しているとしまいに虫が出てきて驚かされる」にかんがみ、今回は構成を変えてお送りします。虫だってまともなのに。

 西暦2006年は戌年。日本古来からの言い伝えによれば、その年の干支にちなんだものを新年に食うと、その一年無病息災で過ごせるという。子年は鼠酒。丑年は牛丼。寅年はタイガースみっくちゅじゅーちゅ。卯年は兎ソテーのオレンジソースがけ。辰年はエビフリャー。巳年は蛇のあつもの。午年は馬刺。未年は羊の脳味噌フライ。申年は猿の脳味噌。酉年は駝鳥の脳味噌。脳味噌。脳味噌。脳味噌。
 いや別に脳味噌でなくてもいい。徳川家康の先祖はある卯年の正月、野戦のなかで兎肉の雑煮で新年を祝ったところ、それからとんとん拍子に運がついて三河の大名となり、家康の代にはついに征夷大将軍までなってしまった。
 横溝正史も終戦直後の正月、鶏が手に入らなかったのでやむなく娘が飼っていた兎を絞め殺して雑煮にしたところ(娘さん泣き叫んだだろうなあ)、その後書いた「本陣殺人事件」「蝶々殺人事件」「獄門島」といずれもミステリー史上に残る大傑作、ついには日本推理文壇の第一人者となったのであった。一説によると、昭和二十一年は戌年なので、娘が「支違いじゃが仕方がない」と呟いたのをヒントに、横溝正史は「獄門島」のトリックを思いついたそうだ。

 そんなわけで犬鍋新年会なのです。
 問題は私が、犬鍋の正確なレシピを知らないということ。ネットで「犬鍋+レシピ」で検索もしてみましたが、インターネットは無力です。該当なし。
 なんとか調べてみたところ、まずは犬肉を用意すること。タレは唐辛子系。犬肉は下茹でして手で裂き、キノコ、セリ、エゴマの葉、香菜などと一緒に煮込むらしい。
 犬鍋のタレは、首都圏ではとても有名な中国食材店、知音ですでに買っていました。犬肉も知音で売っていることを最近知ったので、さっそく仕入れてきました。冷凍庫にごろりとした肉塊がころがっており、一キロ千六百円。

インスタント犬鍋の素

肉塊

 新年会の前々日に冷蔵庫に移し解凍して、当日にさばきます。下茹でして裂こうとしたのですが、これが無理。肉には皮膚とか骨(大腿骨と推定)とかいろいろくっついていて、さすがに毛はむしっていましたが、弾力がありとても手で裂けるものではない。とりあえず包丁で適当に切って、タレを沸かした鍋にほうりこむ。一緒に焼き豆腐、タケノコ、白菜も入れて煮込み、最後にセリ、シソの葉(エゴマがなかったので代用)を入れました。

どこの犬の骨?

 タレは添付レシピによると「食用油150ccと炒め、香りが出てきたらスープで溶く」とありましたが、あまりに油っぽすぎるような気がしたので、油は50ccくらいにしておきました。しかしこれでもかなり油が浮く。もともとのタレにも油が入っていたようです。
 しかもたいへんに辛い。それも唐辛子だけの辛さではない。底の方にじゃりじゃりした灰色の顆粒がたまるくらいで、おそらく唐辛子以外に、胡椒、山椒、クミン、コリアンダー、そのほか各種スパイスが調合してあるのでしょう。

できあがりを写真撮るの忘れてたのでただの食い残し

 だれも食わず大量に残るのではないかと心配していたのですが、さいわいお客様がぜんぶ消費してくれました。しかしまだ、鍋に入りきらなかった犬肉が三百グラムほど残っている。
 というわけでこれも残ったキノコ、タケノコと一緒に、さらに骨付きマトン肉も加え、グリーンカレーペーストで煮込んでみました。名づけて羊頭狗肉カレー。いや、頭は使ってないけど。

羊頭狗肉カレー

 さて、新年会に鍋だけでは淋しいので、田舎に頼んで播磨の日生という漁港から殻付きの牡蠣を送ってもらいました。まずはシンプルに焼き牡蠣。炭火コンロで焼いて、煮えかけたところにレモンを垂らして食います。
 一緒に自家製ベーコンを送ってもらったので、牡蠣のベーコン巻きも。牡蠣をむいて洗い、水を切って塩胡椒し、ベーコンを巻きつけて楊枝でとめ、フライパンで焼くだけ。
 そして牡蠣のエスカルゴ風。殻付き牡蠣に、ニンニクとパセリのみじん切りを混ぜたバターを落とし、パン粉をふりかけてグリルでパン粉が焦げるまで焼く。
 さらにカキフライ。剥き牡蠣に卵液+小麦粉+牛乳をからめ、パン粉をまぶしつけて二分ほど揚げる。ソースはピクルスとゆで卵とパセリのみじん切りをマヨネーズであえたタルタルソース。

牡蠣のベーコン巻き

牡蠣のエスカルゴ風

牡蠣フライ

 最後に台湾風牡蠣オムレツを作ってみました。オアチェンというやつね。
 剥いた牡蠣をフライパンで炒め、そこに水溶き片栗粉をたらしてもんじゃ焼き風にする。手早く溶き卵も落としてかきまぜ、固まったところをスイートチリソースでいただく。
 ところがこれ、失敗しました。片栗粉が多すぎたのか、もんじゃ焼き風にならず、いきなりスイトン風に固まってしまうのです。かくてはならじと卵を落としますが、すでにあとの祭り。卵は卵、片栗粉は片栗粉で別個に固まってしまったのです。しかも台湾の屋台のように、きれいなクレープ状の形にできない。ぐちゃぐちゃなので、やむなく半円形オムレツ状にまとめてみました。
 やはり屋台のプロの手際をシロートが再現、というのは無理があるようです。まずは片栗粉をもっと多くの水でゆるく練ること、あと卵と水溶き片栗粉はあらかじめ混ぜておいたほうがよかったように思う。次回に期待。

オアチェンもどき


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