大根餅ぐねぐね

 先日、田舎から宅配便で野菜を送ってきた。そのなかに大根があったので、こいつで大根餅を作って田舎に送り返してやろうかと思ったのだ。母親がちょっと病気で、おせち料理を作らないと聞いたもので。
 大根餅というのは、中国のいわばおせち料理だ。日本のおせち料理や雑煮にさまざまなバリエーションがあるように、大根餅の製法にもさまざまなバリエーションがある。おそらく、大衆の食い物だったため権威筋の公式レシピが存在しなかったことと、儀式料理のため家ごとに流儀が異なるせいだろう、驚くべきバリエーションである。
 私は、はじめて大根餅のレシピを読んだ「檀流クッキング」に従って今まで作っていたのだが、今回、ネットで大根餅レシピを検索するに至り、その多様さに頭がくらくらしてきた。
 そのバリエーションを整理すると、
1)粉の種類
2)大根と粉の割合
3)大根の前処理
4)入れる具の種類
5)製法
 が、主なものである。

 まず粉の種類だが、米を粉にしたもの、ということではほぼ一致している。ただし、ウルチ米を粉にした上新粉と、モチ米を粉にした白玉粉と、意見は分かれている。なかには上新粉と白玉粉を半々という折衷案や、片栗粉やコーンスターチを混ぜるという意見もある。なかには葛粉で甘く仕立てるデザート大根餅という異端の食品すらある。

 つぎに大根と粉の割合だが、檀流クッキングでは「上新粉500グラムに大根を一本の五分の一くらい」とあるので、だいたい重量比では粉二に大根一くらいか。しかし現在のネットでは、粉一に対し大根が二から三という、大根優位のレシピが主流のようだ。

 三番目の大根の前処理だが、檀流クッキングでは「大根の皮をむき短冊に切って茹で、柔らかくなったらすり鉢とすりこぎで潰す」とある。しかしレシピによっては、大根を生のまますりおろして粉と混ぜる、生のまま荒みじんに切って粉と混ぜる、など、どちらかといえば生のまま粉と混ぜるのが主流のようだ。

 四番目の具は、どこも、「お好みによって」というわけで、勝手にせいというスタンスが多い。具としてあげられているもので主なものといえば、乾燥エビ、中華ハム、豚肉、中華腸詰、ベーコン、ソーセージ、サラミ、シイタケ、キクラゲ、ギンナン、ピーナッツ、貝柱、ネギ、香菜あたりだろうか。

 最後の製法なんだが、伝統的なレシピではすべて、大根と粉、具を練り混ぜたものを蒸し器で一時間ほど蒸す、ということになっている。しかし最近、その製法にも異説が出てきた。
 そのもっとも尖端をゆくのが、「大根餅を炊飯器で作る」というものである。なんでも炊飯器で作れば主婦の人気者かい、と文句のひとつも言いたくなるが、実際それでうまく作れるらしい。しかも、「おこげ機能」のついた炊飯器なら、普通の大根餅に不可欠な「スライスしてフライパンで焼く」という工程すら不要だという。
 その他にも「大根おろしと粉を混ぜてフライパンで焼く」という、ほとんどお好み焼きに近い簡易製法、「レンジでチン」という栗原はるみ流製法など、いまや大根餅のレゾンデートルを問われかねない事態を招いている。

 まあ、おおまかに言ってしまうと、大根餅とは、
「大根を粉砕したものに米の粉をまぜて加熱したもの」
 であり、この大筋に従っておのおの複雑化したり簡略化したり創意工夫をこらせばいいわけだ。

 さて、ウチで作る大根餅だが、やはり壇一雄に敬意を表して、大根は茹でることにする。一本の四分の三くらいの皮をむき、短冊に切って少量の水を加え、三十分ほど茹でる。透き通るくらいになったらボウルにあけてすりこぎで潰す。
 だいたい潰れたかな、という感じになったら上新粉一袋(三百グラム)を加えて練る。ううむ、ちょっと水っぽくてぐじゃぐじゃだ。大根を潰したあとで水を切ったほうがよかったかな。しかたないので片栗粉を加えて練る。
 練ったタネに塩と胡椒を加え、金華火腿(中華ハム)とキクラゲを荒みじんに切って加える。乾燥エビも加える。さらにギンナン、スライスしたシイタケ、香腸(中華ソーセージ)も加えて練りこむ。
 ちなみにギンナンの下ごしらえは、封筒に殻ごと放り込み、電子レンジで一分ほど加熱するといいそうだ。たしかに、一部破裂してぐじゃぐじゃになった実があるが、だいたい八割はほどよく加熱され、殻は割りやすく、皮は剥きやすく、きれいな黄緑色になっていた。

大根餅の原型

 さて、普通ならこのタネを、ゴマ油を塗った型に入れて布巾をかけ、蒸し器に入れて一時間ほど蒸すのだが、今回は炊飯器方式を実験してみる。
 炊飯器の内釜にゴマ油を塗ってからタネを流し込み、スイッチオン。うちの炊飯器はおこげ機能などというしゃれたものはないので、普通に飯を炊くように。
 いちど炊きあがったんだが、どうもまだ透明になっておらず、炊きが足りないっぽかったんで、もういちどスイッチを入れて、三十分ほど加熱を追加した。

炊飯器

 加熱の追加のせいかちょっと底が焦げたが、まあまあ、いい感じになった。ゴマ油の威力で、釜からすっぽりと抜け、でかいプディングみたいな塊が出てきた。

ちょっと底が焦げた

 これをしばらくさまして荒熱をとり、冷たく固くなったら、贅沢なハムステーキくらいの厚さに切る。薄すぎると焼いたとき中まで固くなってうまくない。
 フライパンにゴマ油をひいて、こいつを焦げ目がつくくらいに焼く。両面が焼き餃子の裏くらいに焦げるまで焼く。焼きが足りないと表面がかりっとした歯触りにならず、これもうまくない。
 焼けたらお好みのタレをつけて食う。私は醤油、酢、ラー油で餃子のタレと同じものを作ったが、さっぱりと酢醤油でもよし、芥子醤油でもよし、ナンプラーと唐辛子とライムでタイ風にしてもよし、砂糖醤油だっていいかもしれない。
 とにかく、表面はかりっと、中はもちもち、これが大根餅の秘訣のようだ。

焼きあがり

 残念ながら今回は、やっぱり水気が多すぎたようだ。大根を粉より多く入れる場合、おろすにせよ水煮して潰すにせよ、すこし水気を絞ったほうがいいらしい。


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