続・埼玉エスニック

 最近は池袋にハマっている。
 池袋北口から一歩外に出ると、そこはすでに、「池袋チャイナタウン」と呼ばれる別世界。そこは中国語が公用語。チャイナ服のおねーちゃん(kasumiさん茶川さん除く)やチマチョゴリのお嬢さんが舞い踊る世界。
 それにあわせて中華料理屋もたくさんあります。どうもあのへんの料理屋は、ひとつの共通項が見いだせるような気がする。それは、
1)羊肉料理が多い。とくに羊の香草焼きはどこでもあった。クミンをまぶした串焼きもほとんどの店で出す。一本百〜百五十円くらいで手頃でうまい。
2)「醤大骨」という、豚だか羊だかの背骨を醤油で煮込んだ料理はこのへんのどの店でも出す、いわば池袋チャイナタウン名物料理のようだ。
3)二鍋酒という、アルコール度数56度の大衆用中国焼酎をボトルで注文できる。
4)基本的に店の中で交わされる言葉は中国語。
5)ガンガン食って呑んでも、ひとりあたま三千円でおさまるくらいの価格設定。
6)店員がツンデレ。こちらから呼ばないと来てくれないし、気づいてくれないことも多く、店内で店員同士声高に喋っていることが多いが、聞けばいろいろ親切に教えてくれるし、親切に忠告してくれることもある。

 そんな池袋中華料理屋を、まだ四店しか行っていないのですが、行ってみた印象を。

永利
 池袋北口からしばらく北に進んだ、街はずれっぽいところにある、中国の東北地方の料理屋。
 ここはとにかく盛りがすごい。酢豚の豚肉はボブサップの拳骨くらいあるし、炒飯は一升炊いたかというくらいの大盛り。
 酢豚はでかい赤身の豚肉を揚げず、中国酢と醤油などの甘ったるい味付けで煮込んだもの。こちらのイメージで酢豚といえば、豚のカラアゲをタマネギやニンジンと炒めて半透明の甘酢あんかけなんだが、ここは肉だけに真っ黒い汁がかけてある。あとでウー・ウェンの料理本を見たら、「北京で酢豚というと、豚肉だけで作ります」と書いてあった。でもそのレシピにはいちおう豚肉を揚げると書いてたし、やっぱりカラアゲ大だったぞ。あのでかさの肉を揚げるのは困難だから省略したのだろうか。赤身肉がパサパサしていて、あまり好きになれなかった。
 小籠包はジューシーでうまかった。羊の香草炒めはやわらかくてよろしい。トマトの卵炒めは中華の定番で、トマトの水分でじゅくじゅくするのをいかに防ぐかという料理なのだが、ここのはさっぱりぱらっとしていて結構でした。
 値段は安い。三人で料理五品くらい頼んでビールと紹興酒を呑んでぜんぶで一万円以内。二鍋酒は頼まなかったが、たしか千五百円くらいだったと思う。

北京屋台
 北口から線路沿いに北にいったところにある、ちょっとさびれた輸入代理店みたいな店構え。いちおう北京メインの料理だが、店先に魚やエビが泳いでいたし、何でもあります的にメニューは豊富。
 「いちばん辛いものを」という注文で出てきた、どろっとした灰色液体で煮込んだ豚肉がうまかった。唐辛子の辛さではなく、山椒と胡椒の辛さ。
 ナマコの醤油味煮込みと羊串焼きもうまかった。
 「この店だけで食べられます!」と宣伝している犬肉冷製は、赤身をササミのように裂いて野菜とあえたもの。ちょっとパサパサしている。
 お値段はこのへんとしてはお高め。二鍋酒もボトル二千五百円と最高価格。

大宝
 永利の手前の大通り沿いにある店。永利と同じく中国東北料理であるらしい。
 豆腐干の冷製がさっぱりした味でよかった。小籠包は肉汁がなくてハズレっぽい。羊串焼きはこのへんのどの店で頼んでもおいしいね。
 ウエイトレスの茶髪でヘソ出しのイケイケ系おねいさんは、外観とは異なり、羊串焼きの後で羊のクミン炒めを頼むと、「それって串焼きと同じ味付けですから、やめたほうがいいんじゃないですか」と親切に忠告してくれるいいおねいさんでした。
 これだけ頼んで生ビール三杯で三千円いかなかったから、この店も安い。二鍋酒ははっきり覚えていないが、千五百円か千八百円くらいだったと思う。

知音食堂
 三回チャレンジして二回は満員、一回は開店前で断念したすえ、ようやく平日昼過ぎの四回目で入店に成功。池袋北口からすぐの大通り裏手にある、四川料理屋。
 羊の煮込み鍋は、北京屋台の煮込みに唐辛子を追加したような激辛風味。空芯菜炒めは、ニンニクを加えずにゴマ油と塩だけで炒めたあっさり風味。家常豆腐という、炒めた豆腐に野菜を加えて煮込んだ料理は、タレがエビチリと麻婆豆腐の中間くらいの味でうまい。
 ここは料理も安いが、飲み物がもっと激安。青島ビールが二百十円。二鍋酒はなんと六百五十円。

 そして池袋チャイナタウンには中国食材店もあります。なかでも知音食堂と同じ経営の同名の店は、安さと種類の豊富さできわだっています。ピータン五個二百円(次に行ったときには百五十円に値下げされてた)、二鍋酒五百円(次に行ったときには四百五十円に値下げされてた)という安さ。そのほかに麺類中国醤油海老汁ゴマ油ラー油豆板醤ザーサイ月餅火鍋犬鍋上海蟹豚足となんでもあります。うれしくなっていろいろ買っちゃいました。

中華労働者の友、二鍋酒

 そして中華食材で料理に挑戦。まずは酸菜から。白菜をせんぎりにして塩漬けにし、カメで発酵させた、ちょっと見た目はザウワークラウトに似ている。そのまま食ってみたら、意外と塩っけがなかった。塩抜きしているのかな。荒塩をふりかけて食ったらけっこういける。味の素だともっといいかもしれない。

酸菜

 ふつうは肉や野菜と炒めたり煮たりするらしいので、挽肉と唐辛子といっしょにピリ辛炒めしてみました。かすかな酸っぱさが辛みと油っけを和らげてくれる。酒のアテにはいい。

酸菜と挽肉ピリ辛炒め

 いちばん有名なのは酸菜火鍋といって、酸菜をいっぱい入れて煮たスープで肉や野菜をしゃぶしゃぶする料理だそうです。ちょっと真似してみました。ガラスープで酸菜、豆腐皮、豚バラを煮てみました。ほのかに酸味のある、あっさりした塩味のスープに豚の脂がつぶつぶと浮いて、うまかった。いつか鍋をしてみたいな。

酸菜火鍋もどき

 そして次は豆腐皮。実はこれ、豆腐干と間違えて買ってきました。豆腐皮というのは湯葉のことなのだそうな。日本の湯葉よりちょっと厚い。半生状態のものを、ぬるま湯で戻すらしい。

豆腐皮(中華湯葉)

 湯葉ならと思ってさっきの酸菜煮込みに入れたのですが、なんか固くて、歯にきゅいきゅいするのであまり嬉しくない。戻し方がたりなかったのだろうか。炒めてみたらと思い、豚肉と炒めてもみましたが、これもやはり固い。いっそのこと揚げてみたらと思い、チーズと海苔を巻いて揚げてみましたが、これがうまかった。軽くてパリパリして、ビールのつまみに最適。

豆腐皮の海苔チーズ巻き揚げ

 あやまちはくりかえしません。再度知音を訪れ、購入したのが豆腐干(百頁)。豆腐を押しつぶしてぺらぺらにしたシート状のものです。とりあえず前準備として、茹でこぼすことが必要らしい。茹でると黄色だったシートの色が抜けて白くなります。

豆腐干(百頁)

 まず作ったのは豆腐干絲。池袋チャイナタウンではポピュラーな前菜です。茹でた豆腐干を細切りして、ゴマ油とラー油と塩であえ、白髪ネギをのせる。私はよく木綿豆腐をぐちゃっと潰し、葱とゴマ油と塩で食べるのですが、そのときいつも、「ちょっと水っぽいな。もっと水抜きすればよかった」と思います。この料理は、その理想に近い、淡泊かつ濃厚なうれしい料理でした。

豆腐干絲

 次に炒めてみました。ひもかわうどん状にやや幅広く切り、塩と片栗粉で下味をつけた豚肉と、ネギと一緒にゴマ油で炒める。味付けはナンプラーと胡椒でシンプルに。これも焼きうどんのようで面白い。

豆腐干豚肉炒め

 同じ店で「蚕卵」というものも買いました。卵とありますが、まごうことなきサナギです。そういえばタイの蟻のサナギも卵と称して売っていたし、もともとアジアでは卵とサナギを同一視していたのでしょうか。そういえば日本でも「うつぼ」は卵だったり繭だったりしますな。
 しかしかなり大きい。浅草やバンコクで食った蚕にくらべて、ふたまわりくらい大きい。品種の差があるのでしょうか。
 まずは素材の味をそこねないよう、茹でてみた。これはちょっと失敗っぽい。殻はしわしわと固い。中身はぶよぶよと水っぽくって、失敗した茶碗蒸しのような食感。ほのかな甘味と、かすかにえぐみがする。大きさを表すため十円玉と並べてみました。

蚕茹

 次にカラアゲしてみました。これは油に投入したとたん、激しい爆発とともに油が台所一帯にとびちりました。あぶなっかしくて近寄れない。たしかに殻はサクサクとして食いやすくなり、中身も固まって味が濃くなったのですが、調理の危険を考えるとおすすめできない。
 なんとか安全を保ちながら調理するにはどうするか。やはり、ここは初心に返るしかあるまい。むかしバンコクで食った蚕のから炒りナンプラー炒め、それを再現するのだ。というわけで今度は少量のゴマ油とともにナンプラーで炒めてみました。でもやっぱり、タイの蚕と大きさの差がありすぎるよな。比較のため、同じ皿に並べてみました。

中国の蚕タイの蚕

 でもいくら炒めても、殻のしわさはどうにもならない。結局、さんざん咀嚼したうえでどうにもならない殻を吐き出すという食い方が定着しました。それにしてもこの蚕、500グラム。まだ半分しか消費していない。あと半分どうしようか。
(後記。あとで知ったのですがこれはカイコの蛹ではなく、サクサンという、日本のクスサンやヤママユガに似た巨大な蛾の蚕だそうです。蚕と同じくシルクを取るために養殖しているそうです。食い方としては加熱してから皮を剥いて食うらしい。やはりあの皮はしわくて食えないか)

インスタント犬鍋の素

 もひとつ購入したのが犬鍋の素。パッケージにも可愛いわんちゃんがつぶらな瞳でみつめています。
 ところがこれ、買って帰ってから裏のレシピを、読める漢字だけ拾ってなんとか解読したのですが、「狗肉鍋に最適なペーストです。まずこのペーストを油で炒め、香りが出たところで水かスープを加えて煮込み、沸騰したら狗肉、野菜、豆腐など入れてください」とのこと。
 そんなわけで犬肉を仕入れるまでこの料理はオアズケ。どなたか愛犬を提供してくれる人はいらっしゃらないでしょうか。


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