海に山に

 お盆休みまっさかり。田舎に帰省したり、海や山へ遊びに行ったりしている人も多いでしょう。今回はアウトドアの風味を。

 まずは海。海水浴に行ってバーベキュー。暑いけれど楽しいひととき。スペアリブやアワビや焼きそばを持ち込んで焼くのもおいしいけれど、せっかくだから現地調達の味覚も味わってみたい。かといってアワビやサザエを取ると、地元漁民に殴られます。さて、どうするか。
 伊豆の民宿に泊まったとき、朝食の味噌汁に妙な具がはいっていました。聞くと、フジツボだということ。固くて食うことはできませんが、いいダシが出るという。フジツボならいくら取っても漁業権にからむことはありますまい。海に行きましょう。タガネとカナヅチを持って。
 岩場に行けばフジツボはいくらでもいます。タガネを当て、カナヅチで叩いて岩からはがしていきましょう。取った奴を家に持ち帰り、ざっと洗って、フジツボを水から煮ていきます。しばらく煮たら味噌を入れて具を入れてできあがり。フジツボごとよそって出すと、海の味覚、という感じが満載です。
 フジツボを取るときに、いっしょにカメノテも取っちゃいましょう。こちらは岩の割れ目などに、隙間にはまりこむような感じで生えている、亀の掌のような形の動物です。こいつをタガネでこじり取って持ち帰り、塩ゆでにします。そして亀の掌の部分ではなく、その根本の、岩に隠されていた部分を剥いて食べます。なかなかにおいしい。
 ついでに貝も取っちゃいましょう。やはり岩場でうろうろしている、円錐形の小さな貝、キサゴ。同じようなところにいる、サザエを極小にしたようなタマキビ。キサゴをもっと平べったくしたような感じで、強力に岩に貼りついているカサガイ。こいつらを取って、小さいのはフジツボと一緒に味噌汁のダシ。直径三センチ以上の大きな奴は、薄味の醤油とみりんで煮びたし。爪楊枝で肉をほじくり出しながら食べると、いい酒の肴になります。
 貝だと思って取ったら、タマキビやキサゴの貝殻をかぶった可愛いヤドカリだったりすることがよくあります。なに、これも一緒にゆでればよろしい。ヤドカリはタラバガニの親戚ですから、いいダシが出ること間違いなし。
 そういえば昔はシラスを買うと、よく小さなカニやタコがオマケに入っていましたが、最近は見ないなあ。

 山というとなんといっても山菜ですよね。でも山菜については専門書が多く出ていますので、ここではそのへんの野原で手に入る野草について。
 どこにでもあるのがタンポポとオオバコ、それにギシギシ、アカザ。タンポポとオオバコはみなさん知っていますよね。ギシギシはオオバコの葉をもっと大きく立体的にしたような草です。まだ葉が開かない若芽は、ぬるっとしていて「岡ジュンサイ」と呼ばれています。アカザは日当たりのいい野原に生えている、ぎざぎざした葉の背の高い草。葉の根元あたりが赤や白に染まっているので、アカザ、シロザと呼ばれています。
 この連中はみな葉っぱを食べます。ギシギシの若芽をのぞけば、ちとアクが強いので、こういうのは天ぷらにするのがいちばん手っ取り早い。ギシギシの若芽は、生のまま塩をちょっとつけて囓るか、軽くゆでておひたしにするのがよろしい。
 日当たりのいい野原には、イタドリやスベリヒユも生えているでしょう。
 イタドリはスカンポともいいますが、ちょっと紫色がかった緑の、背の高い野草です。茎は中空で、表面は緑地に紫の斑点があります。この茎を食べます。塩漬けにするのもいいですが、やはりいちばんおいしいのは、そのまま皮をむいて塩をつけて食べることですね。ちなみに、先端の若芽を天ぷらにしてもおいしい。
 スベリヒユはイタドリとは反対に、地を這うように生えています。肉厚の、マツバボタンを大きくしたような葉のある、茎が紫色がかった野草です。これは葉も茎も食べられます。ざく切りにして味噌汁に入れると、ぬめりが出てねとねとした美味を楽しめます。油で軽く炒めて塩胡椒で味つけするのもいけます。

 ああ、それにしても海か山か。一緒に行ってくれる人さえいればなあ……溜息。


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