幻の魚を求めて尾鷲まで

さて、この鍋、何の鍋?白身の魚、ふぐ?鱈?
いいえ違います。
これぞ、鍋の王様、幻の魚「クエ」、漢字では「九絵」を当てます。九州地方では「アラ」とも呼ばれる、大きいものでは30キロにもなる「スズキ目」に属する磯魚です。漁獲量が極端に少ないため「」といわれ、冬の今ごろは浜値でキロ15000円の高値がつきます。
この魚を常時提供できる宿が、三重県尾鷲にあると聞き「九絵鍋ツアー」が実現しました。
この宿は尾鷲シーサイドビュー、もともと、というか本業は釣り宿で、こちらの宿の方は女将さんが「道楽でやっている」とのご主人のお話しです。JR紀勢線尾鷲駅から4つ向こうの賀田という駅から歩いて10分ぐらいですが、むろん送迎してくれます。

海に面した(シーサイドビューですから)、景色のよい部屋と同じく海を眺められる広い風呂場が地下1階と2階にあります。特に地下の風呂は、海に手が届くようです。24時間あいていますので、湾を染めて昇る朝日を眺めながらの爽快な入浴も可能です。
ただし「東南海地震」とか「南海トラフ地震」が起きたら、揺れに腰を抜かす間を惜しんで、風呂上がりにバスタオル1枚であっても一目散に、JRの線路を越えて山に駆け上がりましょう。

クエについては、「ふぐのような上品な白身」であるとの評がある一方「非常に脂ののった濃厚な白身」とも言われ、いったいどちらが本当の表現なのか迷いがあるところでした。 



←で、お刺身。まさにふぐのような歯ごたえと、ひらめの縁側くらいの脂ののり。48時間ぐらい熟成させて出すというそれは、絶品の「上品な」白身でした。

  



アラ煮、これは今度は「脂ののった」がまさに当てはまる濃厚な味。煮汁に染み出した旨味が実に美味しく、白いごはんに煮汁をかけまわして食わせろ!と叫び出さんばかりでした。
脂に関しては、塩焼きが一番感じます。これは「むつ」のような感じ。「むつ」が好きなら絶対にお奨めです。

 

つまり、「上品な」「脂」の両方が、一つの魚の中にコインの裏表のように一つになっていたのです。
さて、これだけではありません。クエの不思議は、メインのになってさらに深まります。
普通、白身の魚は、鍋の中で煮すぎると、身がポロポロになり味が抜けます。ところが、クエは全然問題ないどころか、煮れば煮るほど身がしまり味が凝縮するのです。しかも、ヒレなどの「アラ」の部分に、ゼラチン質のをふんだんにもっているので、これがトロトロでおいしい、お肌つるつる、精力もりもり。
最後に煮汁で作る雑炊も、あれほど脂ののりがいいにもかかわらず、まったくアクが浮かず、透明に澄んだ出汁の中に、何杯もお代わりをしたくなる旨味が濃縮されています。
もう、クエを横綱とすれば、ふぐは関脇でしかありません。
ぜひ皆さんも、お試しを。ちなみには晩秋11月ごろとのことです。

ご近所の遊びどころ

幻のクエとはいえ、たかが魚を食うだけで、こんなに遠くに来るんじゃつまらないとおっしゃる方には、こんな遊びはいかがでしょう。
一つは、シーサイドビューが「原価割れ」といいながら提供してくれる観光遊覧船です。遊覧船といっても、つり客を磯に渡す渡船です。宿のご主人、すなわち「釣り宿榎本」のご亭主が、自らの船で案内してくれるサービスです。

←この船、つり宿榎本の渡船、強力エンジンで、時速4、50キロで快走します。
幸い鏡のように滑らかな海面だったので、揺れずに済みましたが、船嫌いには怖いかも。
一緒に行ったメンバーは、食欲つながり。→
決して奇岩連なる絶景に感激しているわけではなく、もちろん、
昼飯のことを考えているのであります。

で、目指す景色はこれ。↓

この縦に柱状の岩が並んでいる景色どこかで見たと思いません?そうです、福井県「東尋坊」です。しかし、スケールは、高さ長さともにこちらがはるかに上、「負けているのは、みやげもの屋と知名度だけ」とはご主人の言葉です。あと一つは「自殺者の数」と、心に思って口には出さずです。

さらにアクティブな旅をお望みなら、この地にはとっておきの「世界遺産」があります。

熊野古道です。

もしもあなたが、多少マゾっ気があり、山道を延々と歩いて足や膝がおかしくなることに喜びを見出すなら、古代、天皇や上皇が歩んだ同じ道へのロマンと信仰心を抱いて、賀田から尾鷲を抜け伊勢まで歩くのもよいでしょう。実際、帰りに立ち寄った尾鷲では、カメラを首から下げた、「いかにも」な中高年たちをたくさん見かけました。

食べるために金は惜しまないが、苦労は全くしたくないという我々は、宿の女将のご好意で、尾鷲まで車で送っていただきました。
案内パンフレットにあった「地の魚が美味しい店」は「本日貸しきり」で断念。代りに入ったお寿司屋さん「華ずし」が、たいへんな大当たり。2000円で提供してくれる「地の魚おまかせ握り」の美味しいこと!「華ずし」は、尾鷲駅前から伸びる通りを300メートルほど下った右手にあります。
そのほか、一つ向こうの大曽根浦駅傍には国内外の椿を集めた「椿園」がありますし、尾鷲市の北側にある小高い山の展望台に登れば、吉野熊野国立公園の美しい海岸線を一望できます。

尾鷲 華ずし

椿園の椿