修羅の一族
MAHIRO MEMORIES

マヒロの住む地域の神社には


火事の木




雷の木



という二本の巨木があります。


写真では分かりづらいのですが、
雷の木の内部は

幹の下から矢印の部分までが空洞になっております。

これは「雷の木」という名の由来でもある、
雷が落ちた時に出来た空洞です。


今では柵に囲まれていますが、

マヒロの小学生時代は柵などなく、
内部を自由に登ることが出来ました。





その雷の木を登って空洞の上から顔を出す事が、友達の間で
男子として認めてもらう為の儀式
だったわけです。





写真を見てもわかるように、かなり高く、
2階の屋根くらいはあります。










かく言うマヒロも、
小学3年の時に、
震える足で必死で登り、
この神社で皆と遊ぶ資格を得ました。










しかし、ここに一人、

その木に足をかける事さえも
拒絶した男がいます。















S君。



登る事を拒絶し、泣きながら自転車で帰っていったS君。









彼が、その後、その神社に来る事はありませんでした。






その神社はクラスの主力メンバーが放課後に集う根城でした。





その神社に来なくなる事は、

クラスの主流派から外れるという事を意味しています。











日頃から、
S君は、ほとんど外で遊ぶという事がなく、
休み時間も図書室にこもりっぱなしでした。


















これではいけない。











マヒロはそう考え、

彼に試練を与えました。












自転車で二人で遊びに行くフリをして
見知らぬ土地に置き去り計画。














「こっちに面白い場所がある」と誘拐の文言のような言葉で誘い出すマヒロ。

ついて来るS君。






段々、家や学校から離れ、人里はなれた山のほうに向かって行く二人。






その道中も、無理と複雑な道順を選ぶマヒロ。












途中から
「こんな方に来ていいの?」「帰ろうよ」
とマヒロに必死に言ってくるS君。









「だいじょーだいじょー(大丈夫、大丈夫)」
と、軽くいなすマヒロ。













完全に自分の居場所を見失い、
不安な状態に陥っているS君。











突然ダッシュのマヒロ。












ついて来れなくなるS君。

















完全にまいた。














今から思えば、
遠いといっても、自転車で20分もかからない所です。



マヒロは一足先に戻って、S君の家の近くの公園で待ちました。







「そういう試練がなければ彼はずっと負け犬だ」







しかし、

20分経っても30分経っても一向に現れないS君。

多少不安になってくるマヒロ。














1時間経過。

S君には少々きつすぎたかと、後悔し始めるマヒロ。


来ないS君。

日が落ちて暗くなってくる公園。














1時間30分経過。

来ないS君。











すわ、警察沙汰か?と思い始めた頃、



黄色い自転車が遠方からやって来ました。





奴が来た。



やっと来た。






奴は試練に打ち勝った。






ものすごい形相で、


必死に自転車こいでやって来るS君。








置き去りから
2時間が経ってました。








あの時のS君の
死の淵をさ迷ったような顔だけは
一生忘れないと思う。










でもやっぱり毎日図書室に
こもりっぱなしのS君。

小 説 マ ヒ ロ