10月4日(土)ソワレ
10月8日(水) マチネ<下北楽>

加藤健一事務所「詩人の恋」 下北沢 本多劇場

出演者: 加藤健一、畠中洋 

あらすじ

ウイーンのマシュカン教授(加藤健一)の元に、天才ピアニストと呼ばれていたスティーブン(畠中洋) が訪ねてくる。スティーブンは音楽の壁に当たり親に薦められてレッスンにやってきていたのだが、初めはマシュカンの指導法についていけず投げやりな態度でレッスンに臨んでいた。しかし、マシュカンは根気強くスティーブンに音楽の素晴らしさを説き続け、やがて二人の間に徐々に信頼関係ができてくる。
しかし、二人には他人には言えないある秘密を抱えていた。レッスンを続けていく中で次第に二人はお互いの秘密に踏み込んで行き…

6月の『天翔ける〜』を観てからすっかり畠中さんへの熱が再燃した私は、この公演のチケットを2枚分購入してしまいました(笑) 一度目はダンナと(しかも、畠中さん扱いのチケットで前から3番目のかぶりつきっっ!) 、二度目は友達との観劇でしたがどちらも同じ感動を味わうことが出来、大満足でした!!ちなみに畠中さんの舞台をダンナと観にいくのは実は初めてではなく、結婚前と結婚直後に2作品一緒に観てるんです(私が誘ったんですけど 笑)。今回で3回目の二人で観る畠中さんの舞台…なんかちょっとした縁を感じてしまうのでした(^-^ゞ

加藤健一事務所作品は今回が2度目。一度目は高校の同級生が加藤健一事務所で女優をしているというので観に行ったんですけど、それ以来ということでかなりお久しぶりでした。前回はさしたる知識もないまま観に行って思わずカトケンワールドに引込まれてしまいましたが、今回もまたそれ以上に
カトケンワールドに吸い込まれさせていただきました(笑) 
二人芝居って、下手すると途中で間が持たなくなって退屈してしまう時もあるのですが、この『詩人の恋』は一シーン一シーンに目が離せなくて乗り出していくような感じで魅入ってしまいました。畠中さんが出演していらっしゃることもあるのですが、それ以上にやはり
カトケンさんはすごいっっっ!と感動です。今回のお話はピアノのレッスンという枠を超えてユダヤ人の問題という社会的にとても重いテーマが含まれているのですが、それを重々しくなく時には笑いを交えて展開させていく上手さはアッパレでした(^o^)

マシュカン教授とスティーブンの掛け合いがとにかくものすごく面白くて…加藤さんと畠中さんの信頼関係の深さみたいなのを感じさせられました。マシュカンが
やる気のないスティーブンの発声練習に躍起になったり(ブロードウェーじゃないんだから、には笑った)、毎回スティーブンに菓子パンを勧めその度に小銭を稼いでいるマシュカン(実は菓子パン代は実際より高くスティーブンに売っていた 笑)とか…最初のシーンは笑いの連続♪それも、無理に笑わせるんじゃなくて見ているこちらが自然に笑いたくなっちゃうといった感じで、もう本当に二人のやり取りは楽しませてもらいました。後半に入るとスティーブンがユダヤ人であることや、マシュカンが実はナチスから迫害を受けていたユダヤ人だったといった衝撃の真実が明らかになりムード的には重くなるのですが、そんな中でもドタバタ劇が展開(^-^; 自殺を図ったマシュカン教授が苦しい息の中必死にスティーブンのヤムルカ(ユダヤ教徒の証)を取り上げようとする場面などは思わず噴出しちゃうほど笑えました(^-^; 本筋で言えば笑うところではないのですが、こういった息を抜けるシーンをさりげなく入れてくるところがまた憎い演出で巧いなぁ〜と感動してしまいました。

笑えるシーンについて先に語ってしまいましたが(本当にお二人の抜群のコンビで楽しかったもんで)、この話の根底に流れている
宗教弾圧の話は胸に迫るものがありました。日本人にとって宗教はあまりピンと来ない話ですが、ドイツなどナチスの支配下で弾圧されてきたユダヤ人の苦しみと悲しみは計り知れないものがあるんだなぁと…改めて考えさせられました。すべてをぶつけ合ったあと、ラストシーンで二人は『詩人の恋』の歌詞になぞらえて今まで背負ってきた『誰にも言えなかった苦しみと悲しみ』を一緒に投げ捨てるのですが、それがとても印象に残りました。すべてを吐き出し、本当に分かり合えた同士として・・・まるで親子のような愛情を感じらさせる二人の表情はとても感動的でした(T_T) 
随所随所に二人の真剣だけど笑えるシーンを盛り込むことで、こういった歴史の悲しみや苦しみがよりいっそう深く私たちの胸に迫ってきたように思います。う〜〜〜ん、本当に深くていいお芝居でしたぁ。

加藤健一さん、私は加藤さんの40代のお姿しか知らなかったもので最初に初老の風貌で舞台に現れたときは・・・けっこう衝撃受けました(笑) 実際は40代後半くらいだと思うのですが、舞台に登場していたマシュカン=カトケンさんはまさに60代近い男性そのもので『すごい…』と感動!無理やり作った老人といった雰囲気を微塵も感じさせないのはやはりカトケンさんならではの存在感と演技力なのですねぇ。しかも、ピアノを弾きながら歌うそのお声・・・!!なんとも張りがある素晴らしい歌声でこれまた衝撃!もう十分ミュージカルいけそうです(笑) 初めは加藤さんの歌ってどうなのかなぁなどと要らぬ心配もあったのですがとんでもないっ!多彩なカトケン恐るべしっといったところでございました。個人的にはピアノが下手くそでスティーブンに文句を言われているマシュカン教授が可愛くて一番好きだったな(^-^) 表向きはお茶目なコーヒーと菓子パン好きなおじさん、だっただけに、裏では壮絶な過去を背負っていて自殺を図るほど苦しんでいる後半はスティーブンならずとも、見ているこちらまでもが胸を痛めさせられました。とにかく、加藤さんのマシュカン教授は素晴らしかった!
そんな加藤さんの胸を借りるつもりでとおっしゃっていた
畠中洋さん、いや、本当に畠中さん・・・見るたびに素晴らしい演技で私たちを魅了してくださいますわ〜〜!これは私のファン視線ということもあるかもしれませんが、それを差し引いたとしても加藤さんと対等に堂々と演じていらっしゃって大変感動いたしました!!変に力が入ってなくて加藤さんとの会話の間も絶妙。あんなに自然な演技をしている畠中さんはあまりお目にかかったことがないので(ミュージカルが多かったし)、なんか嬉しかったです。絶品だったのが冒頭の嫌々稽古を付けられてるシーン『初めは歌を下手に歌わなければ』とおっしゃっていたので、どんな感じかなぁと思っていたのですが、私が想像していたような『音痴』ではなく(笑)、投げやりで乱暴な発声という手法をとっていらっしゃいました。これはかなり目からうろこっ(笑) しかも、ダラ〜〜っとしてやる気のない発声をする畠中さんの姿は大変貴重であったと(笑) いろんな意味で好きでした〜初期の発声シーン。また、ユダヤ人の強制収容所へ訪れたときの怒りをそのまま『詩人の恋』にぶつけて歌うシーンもとても印象的でした。もう、スティーブンの怒りの気持ちがストレートに音楽に乗って伝わってきて・・・しばらくの間、このシーンの『詩人の恋』の音楽が頭の中をぐるぐる駆け巡ってました。最後、マシュカンの悲しい告白を目に涙をためて唇をかみ締めながら聞き入る姿も大変印象的で、思わずこちらも胸を熱くしました。畠中さんの演技はとにかくストレートにこちらに訴えかけてくるものが多くて…どんどん役者としての厚みを増していらっしゃるんだなぁと。色々な意味ですごく嬉しかったですね。

ちなみに、下北沢千秋楽には『詩人の恋』を日本語訳された
岩谷時子先生がいらっしゃってました。ミュージカルが好きな方ならその名を聞いたことが一度はあると思うのですが、そんなすごい方がすぐそばの席にいらっしゃって緊張してしまいました(^-^; 楽のカーテンコールでは加藤さんが畠中さんに握手を求めるといった感動的な場面も(^-^) 相変わらず腰が低く恐縮した感じでその握手に応えていた畠中さんが妙に可愛かったです(*^-^*)
1回目に一緒に観にいったダンナも、2回目に一緒に観にいった友人もとても感動していたので私としてはそれも嬉しくあり・・・本当に観にいけてよかったと思えた作品でした。ぜひ、次回も同じキャスティングでさらに洗練された『詩人の恋』を見せて欲しいと思います。