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オルカと私達
おそらく数百万年以上に及ぶオルカの歴史の99.99%は、脅威の無い時代でした。しかし、このわずか100年あまりのうちに、陸の上からやってきた新参者は、あまりにも急速にオルカの種の存続をおびやかすほどの存在となってしまいました。
かつてオルカは、人類にとって手の届かない領域に属する、圧倒的な能力を持つ畏敬の対象でした。しかし、人類の行動範囲が広まり、動力船の発明により人類の海上速度がオルカを上回り、経済が人々の心を支配し始めた頃から、世界各国で油などの産業目的の他、漁業資源を荒らし人間を襲いかねない害獣としてオルカは捕獲されはじめました。捕鯨国であるわが国とノルウェーは特に大量のオルカを捕獲した記録があり、かつて日本沿岸に定住していたかもしれないオルカは、特に第二次大戦前後に行われた乱獲で全滅しているという指摘があります。ノルウェー沿岸のオルカも、いまだに個体数が激減した状態から立ち直っていないともいいます。その後産業目的のオルカ捕獲や誤解に基づく駆除はほぼ行われなくなりましたが、いまなおオルカには3つの脅威があり、そのどれもが私達人間の活動が原因となっています。
(1) 展示を目的とした捕獲
一つめは水族館などへの展示を目的とした捕獲です。1960年代、アメリカの水族館が呼び物としてオルカショーを始めて人気を集めて以来、世界各地の水族館や遊園地のために多くのオルカが捕獲されています。捕獲されたオルカの生存年数は平均わずか5年であり、人工的な繁殖も難しく、次々と野生から捕獲して補充する必要があります。しかも、人間への順応のしやすさから、捕獲されるのは群の存続に欠かすことのできない若い個体が中心となります。皮肉なことですが、カナダ・ブリティッシュコロンビア州での野生オルカ研究も、当初はどの程度までの捕獲が可能かを検証するために始められたのです。
米国系の大規模テーマパークの進出や余暇の多様化により水族館、動物園からの客離れが深刻となる中、各地の施設は集客力の強化に必死となっています。いわば娯楽施設の延長であった従来の動物園や水族館とは異なったありかたを探っている施設もありますが、従来の観念から脱却していない施設にとっては、オルカのショウは有力な選択肢の一つです。
ところが現在、以前水族館向けに多くのオルカが捕獲されたカナダとアイスランド沿岸ではオルカの捕獲は禁止されており、水族館同士でのオルカ譲渡も、絶対数や飼育の難易度の面から厳しい状況です。そこで、近年は日本やロシア沿岸など、調査が十分に行われていないにもかかわらず有力な規制が無い地域で、野生オルカの捕獲が行われることになってきています。
もちろん、オルカを捕獲しショウを演じさせようとするのは、そこに需要が見込めるからであり、その需要を生み出しているのは、他ならない、観客である私たち自身です。
(2) 体内汚染
オルカをおびやかすもうひとつの脅威は、人類による環境汚染です。PCB、ダイオキシンといった、産業文明が産んだ有害物質は海に流れ込み、プランクトンに取り込まれ、プランクトンは魚類に食べられ、最後には食物連鎖の頂点に立つオルカやイルカ、クジラの体内に蓄積していきます。汚染物質はガンや奇形の他、免疫機能や生殖機能の低下を引き起こし、元来繁殖力が低いオルカの種の存続に重大な影響を及ぼします。たとえば、オルカの体内に蓄積している猛毒ダイオキシンの濃度は、海水中の数千万倍から一億倍ともいわれています。
オルカの体に起きつつある異変は他人事ではありません。現在、同じく食物連鎖の頂点に立つ私達の体も深刻な状態にあることが知られています。オルカが生きられない世界を、私達も到底生き延びることができないのです。
(3) 気候変動
近年、CO2,メタンなど、産業文明が排出する温室効果ガスによる気候の温暖化が叫ばれています。温暖化のメカニズムには多くの異論がありますが、現在、地球史上まれに見る急速さで環境が変動しており、その主な原因が人間活動にあることは確かでしょう。
私たちが日々生活する中でも、これまで経験したことがないような気象の変化に気付く機会は、徐々に多くなってきました。
地球温暖化は、オルカの住む海洋環境にも重大な影響をもたらしつつあります。
例えば、氷河-森-ケルプ-微生物-ニシン-サケ-オルカ、クマ という、北米沿岸水路の生態系を支えるのは寒冷な気候と大量の雨、冷たく速い潮流です。そして大気と海を駆動しているのは全地球的な熱エネルギーの循環であり、温暖化はエネルギー循環の安定状態を変えてしまいます。
海水温がわずかに上がっただけでも微生物の生産力が変わり、ニシンが減り、サケが戻らなくなり...その影響はやがてオルカや人間を含めた生態系全てに波及します。
地球温暖化をはじめとする気候変動による生態系の激変は、オルカだけでなく、かなり近い将来に私たち自身の生命をおびやかすほどの問題です。産業文明に参加している私たち全員が、今すぐに取り組まなければなりません。
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