サンシュウの花開く
牧野富太郎博士に「春月黄花ヲ発クヲ以テ斯ク名ケタリ。」として春黄金花(ハル
コガネバナ)と名付けられたこの植物は、享保七年(1722年)に朝鮮から薬用
植物として渡来してきたものと言われていますので、今から270年前のことであ
り、日本の植物群としては新顔のものといってもいいかも知れません。

そして、牧野博士の命名の春黄金花の名に恥じず、「寒中花未だ顕れざる時其閑雅
なるを茶席の賞とす」とのいわれているように、多くの草木がまだ冬の眠りから覚
めない早春に、ロウバイやウメとおなじ様に、葉に先立って黄色い花を蕾から吹き
出し、線香花火がはじけるかのように小枝いっぱいに群がりつけます。
今日、我が家の付近を散歩したところ・・・・一説には、将軍吉宗が武蔵野開拓の
一植物として薬用植物であるサンシュウの栽培を奨励したといわれ、府中を中心と
して私の住んでいる所ではサンシュウの古木が多いとも聞きます・・・・サンシュ
ウ樹木畑では黄色い花が吹き出すように咲き始めていました。

     うらうらと山茱萸の咲く枯木中      中村嵐石

サンシュウは早春の生花の材料としても古くから活用されていたようで、促成栽培
の技術も開発されていて、既に1847年の文献「剪花翁伝」にも、先に引用した
「寒中花未だ顕れざる時閑雅なるを茶席の賞とす」に続いて、「是より時節少し後
で温室(ムロ)に入花半開にて挿花に充つべし」と記されていて、促成開花させたも
のを生花に用いていたことがわかります。

サンシュウは秋に赤い実をつけることから、牧野博士はアキサンゴの名前をもこの
植物に与えていますが、ハルコガネバナの名とともに今では用いられずに、サンシ
ュウの名前が常用されています。
漢名の山茱萸の茱萸はグミと読まれていたことから、赤い実をつけ山あいに生える
植物ということから山茱萸(ヤマグミ)されたもので、これがサンシュウと呼ばれ
るようになったのでしょう。牧野博士は改訂前の植物図鑑では、漢名の山茱萸は誤
用であると断じています。

名前の由来はともかく、名古屋のしゅんさんからはユキヤナギ開花の花便りがあり
ましたが、広い意味での迎春花、黄色の花を線香花火がはじけるように咲かせてい
るサンシュウの花便りです。

       山茱萸のふゝめるままの冬の枝
            傾ける土の霜はとけたり       釈 紹空

       黄の色の明るめる方求(ト)め来れば
            山茱萸咲けりあはあはとして     高安国世

始めの歌の光景から次ぎの歌の光景へと季節は足早に走っているようですね。

                            うめだ よしはる

    春の花へ

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