ユキノシタの花、ホシザキユキノシタの花の咲く季節


「ユキノシタは葉の上に白い花が咲くのを雪にたとえた名である。」と多くの植物
の書物では、こんな書き出しで命名の由来を説明していますし、また、ある書籍で
は「葉の色彩から葉の上に雪が積もった状態を賞で、雪の下と名付けたともいう。」
とも記されています。
百科事典を開けば、「分布は人里に限られ、日本及び中国原産の植物で湿った林内
や石垣の間などに良く生育して、江戸時代に広がり、民間薬として用いられた。」、
「漢名は虎耳草(コジソウ)に登良乃美美(とらのみみ)と訓じる。」ともあります。

名の由来は別として、やや陰湿の庭の片隅や、庭石の間に、また、玄関前の塀際に
葉全体が長い毛に覆われ、上面は暗緑色で白っぽい脈が目立ち、その脈にそって白
いまだらのある葉をひろげ、花茎を葉の中心部よりまっすぐに立て、下の二枚の花
弁だけが際立って目立つ白い花をたくさん咲かせている、ユキノシタの季節になり
ました。

花はともあれ、ユキノシタの記憶は遠く子供の頃、なにかにつけて、ユキノシタの
葉をあぶったり、塩でもんだりして、しもやけやおできなどの患部に貼られたこと
にさかのぼり、花の美しさを季節の植物として対象に出来るようになったのは、や
っとこの頃のことです。
生まれ育った世田谷の家では、何処の家にでも鑑賞用というよりも家庭薬用の植物
として、庭の片隅や、底に穴があいて使えなくなったアルマイトの鍋やヤカンに土
を入れて植えられていたものです。

このように、鑑賞用としては余り顧みられないユキノシタの花はよくよく観察する
と、下部の白い大きな二枚の花弁にたいして、上部の三枚の花弁は小さく目立たな
いものの、淡い紅色でそのうえ、濃い紅色の斑点があり、なかなかの花姿です。



同じユキノシタでも、我が家に仲間入りしたホシザキユキノシタは下側の花弁が短
くなり花弁が細かく裂け線香花火を見るような花をつけます。 山野草として同じ
仲間のダイモンジソウが賞されていますが、ホシザキユキノシタも花茎に小さな沢
山の白い花をつけゆっくりと観察すると面白い花です。

     日もささぬ木立が奥のゆきのした
          しずけくも咲きぬ白くこまかく     前田 福太郎

     雪のした花咲きたりと風ありて
          揺らぐに見出づるそのかそけきを    窪田 空穂

ユキノシタが咲く季節は、ドクダミの花が陰地や道端に目立ってくる時期でもあり
ます。

     どくだみや真昼の闇に白十字           川端 茅舎

ドクダミでは白十字といっても、これは花弁ではなく中央部にそびえ立つ花穂を包
む苞と呼ばれる部分が花びらのように見えるのです。

                            うめだ よしはる


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