誓いの錠(前)

藤田は「誓いの錠」と言われるテレビ塔に行く。そのテレビ塔の展望台の金網にはカップルが南京錠をつけ、そこに名前を書いた錠をかければ、永遠の愛が約束されるという伝説があった。その中のある錠に目をつける藤田。キャバクラで働くモモ子をアパートまで送っていくボーイのキンヤ。モモ子のアパートは思い切り荒らされていた。「彼だと思う。合鍵渡してたから」「鍵を取り替えましょう。二度とそいつがはいれないように」「いいの。わたし、彼と別れられないから。これが私の運命なのよ」

モモ子の同僚は誓いの錠のせいで、モモ子は彼と別れられないという。「モモちゃんが彼氏とラブラブだったころ、二人でそのテレビ塔に行って、金網に二人のプリクラと名前を書いた錠をかけたんだって。その勢いで鍵も捨てちゃったとか。だからロックをはずしたくてもはずせない。以来、彼氏と一生つきあっていくしかないと思い込んでるみたい」それを聞いて歯ぎしりするキンヤ。「そんな馬鹿な話。開けられない錠なんてあるもんか。俺がこの手で」

藤田はプロの鍵師をテレビ塔に呼んで、目的の錠を外させようとする。「その錠ならお得意様の好みにピッタリでね」「ダメだね。こりゃ、あたしの手にゃ負えませんや。こいつは和錠。いわゆる「からくり錠」さ。錠の内部が非常に複雑で、開錠の手続きを知らねえ人間には開けられない仕組みなんです」鍵師は土蔵破りなら開錠できると言い、銀蔵という名土蔵破りのところに藤田を連れて行く。

キンヤはテレビ塔に行き、からくり錠を見つめ、モモ子との会話を思い出す。「ええ。うちの実家にあった古い錠。おじいちゃんの代まで土蔵についてた錠よ」「その錠がかけられてる限り、モモ子さんは彼氏と別れられないんですか」「私との約束、覚えているわね。あの約束を破ったら、私の前から消えてもらうよ」キンヤは店の金庫をあけようとしたところをモモ子に見つかっていた。「どんなに困っても、他人様のものに手をつけないと実家のお母さんに言ったのを忘れたの。昔の仲間に脅かされたからって、世話になっている店を裏切るとはね」「すいません」「持っていきな」「これ、モモ子さんの稼ぎ」「いいんだよ。ただし、この次はないよ。この次、他人様の鍵に手をかけたら、私の前から消えておくれ」

銀蔵の家に着く藤田であったが、銀蔵はとっくの昔に死んでいた。藤田は銀蔵の妻に銀蔵の仲間はいないかと聞く。「弟子がね。若い子がひとり。熱心な子でねえ」「その方の名前や住所はわかりますか」そしてキンヤはからくり錠に手をつける。「今夜、モモ子さんとの約束を破らせていただきます」

キンヤのアパートに行く藤田。そこに現れるモモ子。「あなた、プリクラの人じゃ。テレビ塔のからくり錠。これをかけたの、あなたでしょう。この錠を是非売ってほしいんです」「あの錠ならもうないよ。キンちゃんが外して持っていって、いなくなったから。私があんな約束させたから。あの子は私を解放するために。キンちゃんを探してください。私の前に連れて帰って。そしたら、錠はあんたにくれてやるから」

 

誓いの錠(後)

モモ子は彼氏に別れたいという。「二度と私の前に現れないで」「おいおい、マジかよ。モモ子」「キンちゃんとの約束だから。キンちゃんが自分を捨ててまで、私の錠を外してくれたから」「キンちゃん?あのしょぼいボーイか。アイツといったいどういう」キャバクラの店長がモモ子の彼氏をボコボコにする。「やめる前のキンヤに頼まれたんだよ。店としてモモ子を守ってほしいとな」

そのころキンヤは沖縄県石城島で鍵屋として働いていた。そこに現れる藤田。「モモ子さんに頼まれて来た。前の店に戻ってほしいとね。それにキミ、モモ子さんの古い錠を勝手に持ち出してるんだってね。それも返してほしい」「どちらもお断りだ。俺はこの島で鍵師として暮らすことに決めたんス。それに、あの錠はモモ子さんが捨てたも同然のもの。誰が拾おうと勝手さ」

藤田はキンヤのあとをつけまわす。キンヤはからくり錠を見つめる。(モモ子さんとあの男がかつて思いを込めた錠。モモ子さんはまだあの男に未練があるのか。どうしてだ。どうして俺の気持ちがわかってくれない)モモ子の彼氏はキンヤの居所を突き止める。しつこくモモ子のもとに帰れとキンヤにすすめる藤田。「彼女はお前さんを待ってるぜ」「ひとつ仕事が残ってるんです」

キンヤは大きな金庫の開錠を始める。「その四角いのはなんだい」「これはコンクリート・マイク。コンクリート壁に向こうを盗み聞きできる集音マイクっス。これで金庫のダイヤル錠の内部の金属摩擦音を聞き分けることができる」無事に金庫はあくが、そこにモモ子の彼氏が現れて、キンヤは金庫の中に閉じ込められてしまう。携帯で藤田に連絡するキンヤ。「金庫をあけてくれ。窒息死してしまう」

藤田はキンヤの指示とおり開錠にかかる。「錠と女は似ていると鍵師たちは言うんだ。向こうの気持ちに逆らわず、やさしく根気よく接していれば、必ず開いてくれるってね」「言うじゃないか。キャバクラのモモ子もそんな女かい」「よしてくれ。俺はもうモモ子さんとは。でも、もう一度モモ子さんと会いたかった」そして金庫は開き、入院したキンヤのところにモモ子がやってくる。「キンちゃん」「モモ子さん」そして藤田はからくり錠を顧客に売る。その顧客は和風SMマニアの男であった。

 

老人は美術館を目指す

動物園で40年サル山の飼育係をしていた宍戸は定年後、Z県美術館でボランティアで働くことになる。美術館の学芸員は、宍戸たちに企画展の案内状の封筒の宛名書きを頼むなど、雑用ばかり押し付ける。噂するボランティア。「ここの館長、病気で休んでるでしょう」「その跡目を学芸部長が狙っているけど」「館長代理が外から乗り込んできたでしょう」「この部長派と代理派の間で、次期館長の座を狙って、激しい争いがあるそうよ」

藤田は館長代理と会う。「20世紀名作展か。不可能ではありません、代理。ただし、ちょっと経費がかかりますぜ」「予算はあまりないんだが」「私が代理の立場なら、金を借りてでもこの企画を通しますなあ。華々しい実績を手土産に館長に就任できる」そのあと部長と会う藤田。「フジタさんが館長代理に持ち込まれた企画。一年待っていただきたい。一年後はスタッフも変わり、展覧会の成功を約束できます」「この企画を館長代理でなく、学芸部長のあなたに譲れ、と」「ありていに言えば、そうです」

そしてZ市美術館で地元の名士だった増田凡翁のコレクションの展覧会が開かれる。猿図の前に足を止める藤田。「凡翁コレクションの中でも白眉。12世紀の南宋画で、毛松の筆と言われる一品。でも何かが違う。贋作とも模作とも思えないが、この違和感」そこに宍戸がやってくる。「ナンソーってなんですかの」「南宋とは12世紀の中国大陸で、金に追われた漢民族が立てた王朝のことですよ」「ハアハア。この絵が中国のナンソーという時代のものだっていうわけですか

大笑いする宍戸。「そんなバカな話あるわけねえだす」驚く部長と館長代理。「これは毛松という高名な画家の作だということは疑いもない。君のようなシロートに何がわかる」「わたしは40年、動物園でサルを見てきたんだよ。どっから見ても、これは日本猿だ。中国の猿とは大違い。日本猿は昔から日本列島にしか棲んどりません。従って、中国の画家がこんなリアルに描けるわけないわな」

そして館長はよろよろしながら退院する。「ちょっと外出許可をもらった。私のいない間、大変だったそうだな。フジタ氏から聞いたぞ。20世紀絵画展実現には条件があるそうだ。それはわが館のボランティアをもっと充実させること。一般人の視点で美術を見ることの大切さを忘れぬことだそうだ。よいな。代理。部長」「はい」「はい」

 

 

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