さいとうたかを「ホテル探偵DOLL」

 

大統領到着前

サンフランシスコ・サンライズ・ホテル。地上70階、客室4000、収容人員6000名。文字通り、世界一のホテルである。サンライズ・ホテルはヒルトン、シェラトンと並ぶ世界三大ホテルチェーンの一つで、世界70数か国に主要都市に150以上のホテルを持っている。

ヘリから降りたドールを見て、驚くホテル支配人のサイモン。「まさか君が。本部から優秀な専属探偵を派遣すると連絡があったが、女性だとはね」「話は車の中で聞きましょう」説明するサイモン。「ホテルの外はFBI。中はSSがガードすることになっている。大統領がインするのは明日の午後8時。アウトは翌朝8時。滞在中の12時間にどんな些細な不祥事でも起きては困る」「……」

「大統領専用車は30階まで、ノンストップで上り、60階にあるインペリアルルームまでは専用エレベーターで直行する。明日の宿泊客は全員FBIがチェック済みです。狙撃される心配はない」

大統領の宿泊する部屋をチェックするサイモンとドール。「窓ガラスは特殊な防弾ガラスで、外からは絶対狙えないようになっている。大統領をこのホテルで暗殺するなんて絶対に不可能なんですよ。大統領が泊まることでサンライズ・ホテルは最高のイメージアップ。競合会社が悪質なデマを流しても、少しもおかしくない」「でも、暗殺されでもしたら、ここばかりか系列150社も運命をともにすることをお忘れなく」

3015号室の客が食中毒と同じ症状を起こしたと聞いたドールは救急車を呼ぶように指示するが、サイモンは待ってくれと言う。「もし、この客が食中毒だったらどうなる。マスコミは喜んで書き立てるだろう。当然、明日の大統領の宿泊も中止になるだろう。大統領はヒルトンやシェラトンに泊める訳にはいかん。どうしてもサンライズに泊まってもらう。責任は私が取る。救急車を呼ぶんじゃない。しばらく様子を見るんだ」

呟くドール。「会社の利益を守るのが総支配人の任務なら、宿泊客の安全を守るのが、私たちホテル探偵の仕事です」「何をしようと言うのだ」「宿泊人名簿を持ってきてください」3621号室のコンラッド医師にドールは診察してくれと頼むが、コンラッドは静養に来たんだと断る。

「診察できない理由でもあるんでしょうか」「君、それが客に言う言葉かね。とっとと部屋から出てってくれ」「もう一度。パイプの煙を吐いてください」「なに」煙の揺れから窓に穴が開いていることを知ったドールは、その穴から専用エレベーターが狙えることに気づく。浴槽で死体を見つけるドール。「本物のコンラッド医師は殺されていたわけね。これじゃ確かに診察は無理ね」「けっ。まったく小うるさい雌犬だぜ。俺の仕事は邪魔させねえ」殺し屋をあの世に送るドール。

目覚めた3015号室の客は、もうチェックアウトしなければとサイモンに言う。「まだ無理をなさらない方がいいと、お医者さんの言いつけです。あなたのおかげでサンライズ・ホテルは命拾いしたのです。勿論経費はホテル持ちです」「え」「詳しい話は後から。今、必要なのは休養です」

君の大手柄だとドールに言うサイモン。「指紋照合でわかったが、ヤツは少なくとも5人は殺しているプロの殺し屋だったよ。本当に危ないところだった。ここからなら、大統領を狙撃することは可能だったからな」「安心するのは、まだ早い気がします」「私たちはできるだけのことはやった。もうすぐ大統領も到着する。これ以上、何も起こらんよ」

3015号室で大統領を待ち受ける客に、やっぱりあなたが本命の殺し屋だったのねと言うドール。「どういうことだ。なぜ大統領が到着しない」「部屋の時計を少し進めておいたのよ」「なに」「すべてあなたの計算だった。あなたが熱を出して、もう一泊することも、医者の中に囮の殺し屋が見つかるようにしたのも」「なぜ囮とわかった」「風よ」「風?」

「あそこから展望エレベーターを狙えても、高層ビル特有の風が絶えず吹いているわ。どんなに正確なライフルでも当たらない。そして大統領をこのホテルで殺すには30階で車で降りて、エレベーターの間まで歩く、ここしかないわ」「ふふふ。よくそこまで気づいた。たいしたものだ」真の殺し屋はドールをあの世に送ろうとするが、ドールの返り討ちにあうのであった。

 

古城は死なず

イギリス・バーミンガム郊外。その古城は美しい森と湖を睥睨するように超然とそびえたっていた。何者をも威圧するような威容。それは千数百年の間、自然界の風雪と様々な外的の侵略から身を守ってきたからだけでなく、古城はまさに千数百年生き続けてきた巨大な生き物のようであった。

プライベートジェットの中で、ドールに言うパワーズ会長。「目的の古城だ」「……」「ところで君は、この買い物をどう思うかね。わしはこの一年間、この地方のことを徹底的に調査した。世界中から観光客が集まることも、観光客が一番何を欲しがっているかもわかった。美しい森と湖。ここの良さはこの自然だ。自然の中に近代的な超高層ビルを建てるわけにはいかん。あの古城こそ152番目のサンライズ・ホテルに相応しいと判断した」「その判断は間違いないと思いますわ、会長」「うむ。今回は仕事のことを忘れて、ゆっくり静養するんだな、ドール」

古城の主であるコールドベック男爵と会食するパワーズとドール。「それでは男爵、この契約書にサインをいただきたいのですが」「つまらん話は食事をまずくします。そのことは明日にしましょう」30年ほど前にここに来たと言うハワーズ。「昔も今もここは変わっていなかった」

「これからも変わりようがないのです。私もいろんなことを試しました。しかし城には勝てなかった。この城は偉大過ぎる。千年以上の歴史があるが、外敵に侵略されたことは一度もないのです」「私を外敵と考えているのではないでしょうな」「とんでもないですよ、会長。あなたはホテルにすると言う手段で、この城を守ってやろうとおっしゃるのだ。ありがたい、と思いこそすれ、敵だなどとは思ってもいませんよ」

呟くコールドベック。「様々の争乱と内乱の歴史。しかし城がコールドベック家と小作人を守ってきた。そして私の仕事は城を守ることだった」「いや。あなたも城に守られていただけですよ、男爵」「……」「外で争乱のある時は、この中でじっとさえしていれば、あなたは無事だった。しかし、平和が来たら、たちまち資金繰りに困り、あなたの預金口座の残高は底をついてしまった。あなたが本当に城の存続を望んでいるなら、私に譲るより手段はないのです。私はこの城をこのまま残します。この姿のままで、ホテルとして生き返らせるのです」

翌朝、契約を交わすパワーズとコールドベック。「これで、この金はあなたのものだ。城のことは任せてくれたまえ」「……」ドールにどこに行っていたと聞くパワーズ。「ちょっと散歩に行っておりました」「この大事な時に何を呑気に。まあいい。契約は今終わった」私はこれでと言うコールドベックに待ってくださいと言うドール。「こんなものを庭で見つけたんですが」雷管じゃないかと言うパワーズ。「それがどうかしたのかね」「これは、まだ新しいものです。つまり、これを使うようなことをこの城にはある、と言うことです」

青ざめてコールドベックに聞くパワーズ。「まさか、あなたはこの城を爆破する気では?」「はははは。この城はもうあんたの物だ。爆弾はあんたたちが探すんだな。爆弾を仕掛けたこの城の地下は迷路のようになっているんだ。とても爆発までには探し出せはしまい。あと5分でこの城は木っ端みじんに吹っ飛ぶ。あんたが新しい城主だ。この城と一緒に死んでやるんだな。ミスター・パワーズ」

笑って去っていくコールドベックを追おうとするパワーズに待ってくださいと言うドール。「急いで城の一番高いところに逃げてください」「え」「さあ、早く」塔頂に行くドールとパワーズ。「ドール。早く爆弾を探さなくては」「もう無理でしょう」「なに。私に城と一緒に死ねと言うのか」「城が私たちを守ってくれるはずです」馬に乗って去っていくコールドベック。「これで私は自由だ。私の青春を、そして人生を奪った化け物め。吹っ飛んでしまえ。やっとお前に買ったぞ。はははは」

ドールは城を取り囲む塀に仕掛けた時限爆弾のスイッチを押す。塀は壊れ、湖の水が一気に流れ込み、コールドベックを城の爆弾とともに押し流してしまう。「この地方の干ばつを救う湖が我々を救ってくれるとは。私はきっとこの城を立派なホテルにして見せる。ありがとう、ドール」「私たちを守ってくれたのは、城です。会長」

 

ナイト・マネージャー

ラスベガス。開拓者がこの地に足を踏み入れた時、広大な大自然を目の前に、スペイン語で「果てしなく荒野」と名付けた不毛の地。午前0時を回っても、車と人の喧騒に街中が活気づいている。人はおろか家畜も住めない荒野が、世界的に有名になろうとは、誰が予想したであろうか。24時間、休みなく働き続けるホテル。ラスベガスのように昼以上に夜の忙しいホテルでは、夜だけのマネージャーであるナイト・マネージャーが働いている。

ラスベガスのサンライズ・ホテルのナイト・マネージャーのローガンは君のカンが当たったようだとドールに言う。「ドブネズミのカーティス。ホテル荒らしの常習犯だ」モハマド王子の部屋を物色するカーティスをローガンとドールは捕まえるが、ローガンはドールを助けようと撃たれてケガをしてしまう。

電話しようとするドールに待ってくれと言うローガン。「警察には私がケガしたことは言わないでくれ。そして、警察の事情聴取は君に頼む」「どうして」「済まんが、頼む」「マネージャー、その体で動いちゃダメよ。すぐに病院に」「いや、病院には行かない。自分の部屋へ」気を失うローガン。

気が付いたローガンにあなたの部屋よと言うドール。「弾丸は抜いたけど、傷口が完全にふさがったわけじゃないわ。やはり病院に行った方が」「大丈夫だ。病院へ行くまでもない。このまま少し休めば。ありがとう。迷惑かけてしまって」「いえ、あなたが傷を負ったのは私をかばってのことだもの」「で、警察の方の事情聴取は終わったのかね」「ええ。犯人も引き渡したわ」「そうか。どうもご苦労様」

ナイト・マネージャーの容体はどうだねとドールに聞くシルバー部長刑事。「カーティスに聞いたよ。マネージャーがヤツの撃った弾に当たってケガしたことを」「……」「ところが、マネージャーは病院にも行かなければ、警察にそのことを報告もせん。このホテルのナイト・マネージャーはいつもわしを避けていた。前から気になる男だったが、今度のことでますます気になった。そこで古い手配書をひっかきまわしてわかった。ヤツは5年前に妻とその愛人を殺して逃亡中の殺人犯だった」「……」

「やつのところへ案内してもらおうか」「令状をお持ちですか」「う」「令状をお持ちでないのなら断ります。ホテルの中の事件を処理するのが私の仕事です。彼を逮捕するなら、令状をお持ちになってからに願いましょう」「つまらん意地を通さんことだ。令状が届くまでホテルを包囲するだけのことだぞ」「どうぞ。ご随意に」

時間を稼いでくれたおかげで、仕事の整理がつけられたとドールに感謝するローガン。「笑われるかもしれないが、妻を殺した時も、この仕事を引き受けた時も、私はチャンスに賭けたんだ。働くことの楽しみを知った私に会長はナイト・マネージャーにならないかと声を掛けてくれた。私の手でこの巨大なホテルを動かせる。私は男としての生きがいを見つけた。だが、こうなった以上、ホテルに迷惑をかけないようにするだけだ」「私を助けなければこんなことに」「いや、君を助けたわけじゃない。ホテルのナイト・マネージャーとして当然の行動を取ったまでだ」「もう一度チャンスに賭けてみる気はないの」「え」

ドールはローガンの車を暴走させて、シルバーらを引きつける囮となる。その間にローガンはバスに乗って逃走するのであった。

 

過去からの逃亡者

カナダ・モントリオールのサンライズ・ホテル前で、ドールは車にはねられた男を助ける。「気がついた?」「ここはどこだ。なぜ、私はここに。何も覚えていない。自分が誰なのかも」あなたはパスポートも持ってなかったと男に言うドール。「所持品からは、あなたの身元や素性を知る手がかりは何も。おそらく何かの事情があって、故意に隠そうとしたようです」「身元を隠す必要があるとすれば、犯罪者」「国際手配書の中にはありませんでした」「これから私はどうすればいいんだ」「記憶が戻るまで、私が責任を持ってお世話します」

モントリオールのサンライズ・ホテルの支配人に彼の正体を知る必要があると言うドール。「明日の会議のために世界中から千人以上のVIPが泊まっている。私はそのためにこのホテルに派遣された。彼はこのホテルの前で殺されようとした。彼がもし、サンライズ・ホテルと危険な関係にあったとしたら。一刻も早く、彼の正体を知らなければ」

二人組に地下駐車場に呼び出される男。「私を知ってると言うのは君たちか」「記憶喪失と言うのは本当らしいな」二人組は男を射殺しようとするがドールに妨害される。車に乗って逃走する二人組。「あの連中は私の過去を知っている。捕まえてくれ」「この駐車場はただの地下じゃないのよ。絶対に逃げられないわ」

スイッチを押して地下駐車場を遮断するドール。「対核シェルター。つまり、核戦争になっても、五千人の宿泊者が2,3週間は生活できるように設計されてるの。地球を破壊させる60倍の核兵器を持ってしまった愚かな人間が、それの自衛手段のためにこんなものを作る。考えてみれば滑稽な話ね」

原子力平和利用世界大会当日。ネロの部屋を訪ねるドール。「私は忙しい。チェックアウトの時間なんでね。君と話してるヒマはない」「そうもいかないでしょうね、ミスター・ネロ。人の命を狙った二人組が、このホテルのこの番号を控えたメモを持っていたとなればね」「市民の自由と平和を守るために命を懸けている私が、殺人に手を貸していると言うのかね」「市民運動のリーダーという仮面の下の素顔は、市民からの寄付金を着服し、大企業を献金という名目で脅迫してきた悪党よ」「私はそんな寝言の相手をしてるヒマはないんだ」

ネロのポケットからメモを抜き取るドール。「やっぱりこういうことだったのね。これは会議場が爆破されてからマスコミに発表する原稿ってわけね。この会議場爆破計画に、原子力研究所の事故を隠すために、その犠牲となって関係機関に家族を殺害されたグリーンと言う爆破の専門家を利用した。そして、そのグリーンを使ったあとで、自動車事故に見せかけて、殺そうとしたんだわ。でも、よかったわね。車にはねられたショックでグリーンは自分が裏切られたと知らない」

二人の話を聞いて記憶を取り戻すグリーン。ドールに銃を向けるネロ。「そこまで見抜かれたのでは仕方ない。しかし、もう手遅れだよ。あと5分で、時限爆弾は爆発する。もっともこの計画を持ち込んだのはグリーンの方からなんだがね」「あと5分」うわあと叫ぶグリーン。その声に気を取られたネロを空手で眠らせるドール。うわあああと叫んで走り去っていくグリーン。

どこにもグリーンはいないと言う支配人。「もうすぐ会議が始まると言うのに」会場のどこにも時限爆弾はないと言うフロアマネージャー。みんなを避難させないとと言う支配人に、その時間があれば一番先にやってるわと言うドール。「今、それを発表したら、大混乱を招いて、探せるグリーンも時限爆弾も探せなくなるだけよ。とにかくグリーンを探して」支配人に報告する警備員。「誰かがまた地下駐車場の対核シェルター用のスイッチを押して、シェルターを閉めました」

泣きながら呟くグリーン。「消えてしまえ。過去も記憶も」今のは何だと騒ぐ一同。「地震か」ドールに聞く支配人。「時限爆弾は地下駐車場に仕掛けられていたのか」「いえ、おそらく、この会場周辺でしょう。時限装置をはずせなかったグリーンは、被害を最小限に食い止めるため、地下に持って行ってくれたのよ」「……」「グリーンのおかげで、ホテルは地下の車を弁償するだけで済んだようね」

 

脚光の裏側

マンハッタンのサンライズ・ホテルで、銃撃戦を展開するドールに聞く支配人。「逃げられたのかね」「ええ。向こうのエレベーターで」2846号室に行く支配人とドール。「物音がするんで、俺は奥の部屋から出て来たんだ。すると、あの男が部屋を物色していたんだ」「あなたに見つかって、慌てて銃を向けたんですね」「ああ、そうだ。俺は奥の部屋に逃げ込んで、電話をしたんだ。一つ間違えば俺は殺されていた」

当ホテルの責任ですと言う支配人。「申訳ありません。パワーズさん」「ほう。俺を知ってるのか」「こう見えても、テレビの歌番組は見てますからね。人気歌手のアラン・パワーズを知らないわけありません」「俺がここに泊まっていることは秘密だぞ。俺はアラン・カーンズの名前で泊まってるんだからな」「わかりました。カーンズさん」「あんたは?」「私はこのホテルの探偵でドール。あなたの秘密は守りますわ。たとえ相手が警察でもマスコミでも」

ニックがホテル荒らしをするなんて考えられないと支配人に言うドール。「逃げた男は確かにニックだったのかね」「ニックは自分の女を客に抱かせて、その客を強請るケチなヒモ。ニックはパワーズを強請ってたのかしら」「それはないだろう。パワーズは2846号室でじっと息を凝らしてなきゃならないんだ。彼はマスコミの注目を浴びるために、10日間の隠遁生活を仕組んだのだ」

「そうだったの。でも10日間も部屋でじっとしてられるかしら」「さあな。しかしパワーズはとにかく10日間、2846号室を取っている。それが過ぎたら彼の失踪騒ぎで湧いているマスコミの前に姿を現すつもりだ。それを下り坂に人気挽回策として賭けている。そんなパワーズがニックの女をくわえこむとは思えんが」

ドールを呼ぶ2546号室のロックレー。「私に何の用でしょう」「さっき廊下であなたを見かけた時、私は閃いた。次の作品の主人公はホテル探偵、それもあなたのような女性にしようと、ね。いろんな事件にぶつかっただろうね、ドールさん。その中で小説のネタになりそうなのをぜひ教えてほしい。君ほどの美人だ。きっと、いろんな男がよってきただろうしね」「女探偵よりも、主人公はプレイボーイの方がいい作品になりそうですわね」

レストランで老夫婦と会うパワーズ。「パパ。ママ」「アラン」「遅かったじゃないか」「お前から言われた通り、すぐ飛行機に乗ったが、タクシーが渋滞して」「俺の両親だってことは知られなかっただろうな。ちゃんと偽名を使っただろうな」「ああ。2346号室をウィリアム・ヒルで予約した。わしらはお前が出世することだけを考えて来た。孤児院で育った方が世間の同情を引くと言うお前の言葉通り、わしらは他人になりすまして生きてきたんじゃないか」

大変なことになったと言うパワーズ。「パパ、ママ。俺を助けてくれ」「話してみろ。わしらはお前のためなら、何でも」「街で拾った女が、俺の部屋で死んでしまいやがったんだ」「なんですって」「勿論、俺が殺したわけじゃないけど、とにかく死にやがった」「お前の部屋で女が死んだと言うだけで、マスコミは大騒ぎするな」

「おしまいだ。俺はおしまいだ」「それで、私たちは何をしたらいいんだね」「とにかく、女の死体を俺の部屋から運び出さなきゃ」2846号室から女の死体を縄で縛って窓から降ろすパワーズ。2346号室でそれを受け取るパワーズの両親。

2346号室に行く支配人とドール。「うむ。ニックの女の売春婦のリリーだ」「朝起きて、初めて死体があるのを知ったのです。夜中のうちに知らない女が入り込んでくるなんて」死体を調べるドール。「死体がここに運ばれたのね。それに死んだのは昨夜じゃないわ。死因は麻薬によるショック死らしいわ。リリーはひどい麻薬中毒患者だったから」

リリーの右のハイヒールがないことに気づいたドールは、植え込みの中からそれを見つける「死体の胸の周りにロープを巻いた跡があったわ」「上の階からリリーの死体を?」「吊り下げた時に、靴が脱げたのね」「上の階から降りてきた死体を2346号室を引き入れたのは、あのヒル夫妻か」「グルね」2346号室の上の階の泊り客は2546号室ロックレーと2846号室のパワーズだけだと言う支配人。「するとリリーをくわえこんだのは作家と歌手のどちらかと言うことになる」

脅迫状が届いたとパワーズに言う両親。「ダメだ、今までの苦労も水の泡だ」「脅迫状は誰にも見られないように灰にした。心配することはない、アラン。金で済むことなのだ」ホテルをヒル夫妻が出るのを見たドールは2346号室に入り、灰皿の上に紙片に焼け屑があるのを見つける。「タイプの字だわ」

ドールにロックレーが出かけたと言う支配人。2546号室を調べるドールと支配人。「リリーはこの部屋で死んだのかな」「ニックが強請ったのはパワーズよ」「え、奴がリリーを引っ張り込んだのか」「パワーズがリリーの死体をあの老夫婦の部屋に下ろすのを、途中にある部屋のロックレーに見られた。ことのあらましを知ったロックレーが、今度は強請り屋に回ったらしいわ」「え」

「ロックレーのタイプライターのリボンに脅迫状の文面が白く残っているのよ。<死体処理のトリックは知っている。今夜8時、ウィリアム公園まで来い。従わない時は、その秘密を警察に知らせる>」ウィリアム公園に行ったドールと支配人は老夫婦の死体の前にいるロックレーを見つける。二人を見て逃走するロックレー。ドールは追おうとするが、死体のそばにある紙切れを拾う。「ドール。逃げてしまうぞ」「警察に知らせてちょうだい。私はホテルに戻るわ」「え」

2846号室に行くドール。「どこへ行く気なの、パワーズ」「……」「仲間が死んだから逃げ出そうと言うの」「なんのことだ」「リリーが自然死なら、何も変な小細工なんかすることはなかったのよ。そしたらロックレーなんかに強請られることもなかった。ロックレーのタイプライターのリボンには2通分の脅迫状の跡が残っていたわ。1通はすでに灰になっている。あの老夫婦の部屋、2346号室で、ね。あとの1通はあんたの受け取ったこれよ。公園で殺された老夫婦のそばにあったわ。これはどういうことかしら。老夫婦に送られた脅迫状は、すでに灰になってるんですものね」「……」

「あなたがロックレーの殺人の罪を着せようとしたのね」「でたらめを言うな」「強請り屋に殺人の罪を着せ、秘密を知ってる老夫婦も消したわけよ」やめろと言うパワーズにキックを浴びせるドール。号泣するパワーズ。「パパとママは俺のためなら何でもしてくれたんだ。パパもママも俺に殺されたことをちっとも恨んでいない。二人とも喜んで死んだんだ」「……」ドールにありがとうと言うロックレー。「危なく殺人の罪を着せられるとこだった」「でも、脅迫未遂の罪は消えませんわ。ロックレーさん」「……」

 

フォッグ・ホテル

スコットランド最大の湖であるローモンド湖は、緑なす湖岸と島々の美しさを持って知られている。その湖畔にあるサンライズ・ホテルの支配人であるチェーピンは本社から来たカーボとドールに何者かに狙われていると訴える。

「先週はじめ、私の部屋に銃弾が撃ち込まれて以来、私の上にシャンデリアが落下したり、私だけが食中毒を起こしたり」「とにかく、このホテルの支配人に君を会長に推薦したのは私なんだからね。変な噂が立つと困る。こうしてサンライズ・ホテルグループの探偵ナンバーワンのドールが乗り出してくれた。きっと解決してくれるから安心したまえ」「よろしくお願いします」

レストランに現れたワイルダーに渋い顔をするチェーピン。「ここにはあまり近づいていただきたくありませんな」「フォッグ・ホテルは客を追い出したりしなかったがねえ」「ここはもうあなたのフォッグ・ホテルじゃありません。サンライズ・ホテルなんです」サンライズ・ホテルはお客様を追い返すなど失礼なことをしないとワイルダーに言うドール。「ありがとう。私はここのコーヒーを飲まないと、その日は一日中落ち着けんのじゃ」「どうぞ、ごゆっくり」

あの男がこのホテルの前の持ち主のワイルダーかとチェーピンに聞くカーボ。「このホテルにはそのころの従業員はまだ半数はいるんです。あの男にうろうろされたんじゃやりにくくって。おまけに、あの男が考えられないような不運続きで、このホテルを手放しているんです。疫病神に出入りされちゃ」でもお客様よと言うドール。「お客様第一。会長はいつもそうおっしゃってるわ」そこに大笑いしながらホテルを出ていくカップル。「むしろ、ああいうお客が他のお客様のご迷惑にならないように気を付けるのね、支配人」

そのカップルが二人組にさらわれたとチェーピンたちに教えるワイルダー。「205号室のエディ・ワンダー夫婦だ」「女性の方は、ワンダー夫人ではなく、クララ・ローゼンタールと言うのが本当らしいわね」「なんですって。あの人が石油王ローゼンタール氏の御令嬢?」事情をローゼンタールに説明するドール。

「娘の身代金を50万ドルよこせ、と犯人は言ってきたんだな」「そうです」「金と娘の交換方法は?」「ホテルの近くに犯人が残して行った車で、一人の人間が運ぶようにとのことでした。詳しいことは間もなく犯人から連絡が入ることになっています」

犯人からの電話に出るローゼンタール。「もしもし、ローゼンタールだ。うむ。ああ、わかってる。よし、言われた通りにしよう」電話を切ったローゼンタールは、今の声は娘のボーイフレンドのエディに似ていたと言う。「そのエディさんです。クララさんと一緒に誘拐されたのは」「なんだと、あのエディが」「……」

「とにかく、わしはこの金を持っていく」「お待ちください。犯人は相手を指定いません。私が参りましょう」小型発信器を仕込んだケースをドールに渡すローゼンタール。「犯人の逃走経路がこれでわかる。娘を無事救出してくれ」

二人組に金を渡すドール。「クララは」「心配しなくても人質はちゃんと返す」モーターボートで逃げる二人組。発信器をたよりに後を追うドール。「あの小屋ね」金を持って小屋から出たエディに声を掛けるドール。「拳銃を捨てるのよ」エディを射殺するローゼンタール。「ケガはないか。わしも受信機を持っててよかった」「なぜ撃ったのです」

「なぜ?こいつは娘を誘拐した犯人じゃないか。それに拳銃を持っていた」「あなたが持たせたんでしょう」「何を言い出すのだ、君は」「あの男たちを使って」二人組の膝を撃ち抜くドール。「あなたは自分の娘をさらったエディが憎かった。誘拐犯人に仕立てて殺さなければならいほどに。このことを小屋の中で眠らされているクララさんが知ったら、さぞ苦しむでしょうね」

引き揚げましょうとカーボに言うドール。「もうチェーピンは狙われないんだな」「ええ。ホテルのボーイが白状しました。元社長のワイルダーさんを邪険にする支配人に我慢できないからやったと。もう支配人はそんなことをしないから大丈夫ですわ」「しかし、君はどうしてローゼンタールの計画がわかったんだね」

「はっきり確信が持てたのは、彼がエディを撃った時。最初、電話で犯人が彼と話した時、変だと思ったわ。だって普通ならまず娘の安否を聞くでしょう。それに電話の声がエディに似てるなんて言ったのもわざとらしかった。それより、犯人たちがケースの中に身代金を確認しなかったのは不自然よ」「なるほど」

 

長い一日

サンライズ・ホテルで立派にやってるらしいなとドールに聞くチャーリー。「どうして帰ってきたの」「俺にとって、このニューヨークは忘れられない所だからな」「私だって忘れないわ。5年前、私の前からふっとあなたが消えた日のことが」「洋服屋を変えるんだな、ドール。ボブ爺さんも年だ。ホルスターの形が出ている」「あなたがボブの仕立ての癖を覚えているだけよ。ボブの腕はまだ落ちてはいないわ」

そこに現れる主任。「ドール。あ、お客さんだったのか」「いいのよ、主任」どうやら急の仕事のようだなとドールに言うチャーリー。「体に気を付けるんだぞ。ドール」「チャーリー」625号室の客は不良客だったとドールに言う支配人。「5年前、フランクに半殺しの目に合わされて、この街を逃げ出したトムなんだ」「え」

「おそらく目的はフランクへの復讐だ。フランクにしても可愛い妹をトムに弄ばれてのことだったが、トムが帰ってきたとなったら、ただじゃおかないだろう」「そうね」「ギャングの争いで誰が死のうと知ったことじゃない。しかし、このサンライズ・ホテルで面倒が起きては困るんだ」「わかっています、主任」「ところで、さっきの男、チャーリーはドールの先生じゃなかったかい。フリーのホテル探偵だったな、確か」

どうしても出ていくのかとチャーリーに聞くフランク。「ああ、俺の気持ちは変わらない」「ガキの頃からお前はそうだった」チャーリーに金を渡すフランク。「シカゴに着いたらいい医者を探すんだ。手術は早いほうがいい」「すまない。お前に迷惑をかけたのに」「妹の事か?あいつが勝手にお前に惚れたんだ」

「俺がいなきゃ、マリリンはトムなんかに走りゃしなかった。あんなクズ野郎を相手にする女じゃなかった。マリリンをあんなことにしたのは俺だったのかもしれない」「謝らなきゃならないのは俺のほうだ。マリリンが挙句の果てにお前の部屋で自殺なんかしやがった。おかげでお前はこの街じゃ仕事ができなくなった」「……」「妹のことはもういい。忘れてくれ」そこに現れるフランクの子分。「ボス。トムの野郎が帰ってきましたぜ」「なに」「サンライズ・ホテルに入ったと」

チャーリーにこの生地がいいと言うボブ。「ぐんと若返ってみえる。嬉しいね。こうしていると何もかも昔と同じだ。こうやってお前の服が作れるなんて、二度とねえと思ってた」「明日の夕方までにできるかい」「え。バカに急ぐじゃねえか。お前、またどこかに行っちまおうってんじゃねえだろうな」「……」

「お前、あの娘に会ってやったんだろう。5年前と同じじゃないか。お前がこの街から消えた時のドールの悲しそうなあの顔を、またこの老いぼれに見えようってのか」「……」「お前は自分の鉄の心を誇りにしていたな。仕事に感情は邪魔だとぬかして。その鉄の心をドールに溶かされるのが恐ろしいのだ」「やめろよ、爺さん」「出て行ってくれ。洋服は間違いなく、明日の夕方までには間に合わせる」

チャーリーが来たのねとボブに聞くドール。「ああ、ついさっきな」「行き先は話してなかった」「ああ。ドール、どうにも気になるんだが、チャーリーはもう元の仕事にゃ関係してねえんだろう」「え。どういう意味なの」「奴の脇の下には相変わらず拳銃がぶら下がっていたんだ。あんな服じゃ素人にだってわかっちまう」

トムに久しぶりだなと言うチャーリー。「何の用だ」「フランクに仕返ししようと舞い戻ったんならやめな。とっとと街を出て行くんだ。俺はフランクにお前のようなクズのために罪を犯させたくないんだ」「うるせえ」

銃を取り出すトムを射殺するチャーリーはフランクに電話する。「ああ。すんじまったよ。いいんだ。あんたの代わりを務めただけなんだ」625号室に飛び込むドール。「拳銃を捨てて、チャーリー」「なんてえ、飛び込み方だ。拳銃を持ってるかもしれない相手の部屋に飛び込むのに今のザマは。今頃になって、拳銃を捨てろかい。俺はそんな教え方をしなかったはずだ」「……」「それでこれからどうする」「私はサンライズ・ホテル専属の探偵。ホテル内で起きる不祥事に対処するのがその任務よ」「その通りだ」拳銃を構えるチャーリーを射殺するドール。

ドールに聞くボブ。「お前さんがチャーリーの服を取りに来たのかい」「……」「そうかい。もうすぐだ。袖口のボタンをつけりゃ仕上がるんだよ。そうかい。ふふふ」

 

残された時間の中で

ロンドンのサンライズ・ホテル。医師のヘンリーに注射を打たれたジャニスに楽になったかいと聞く夫のアレン。「こんな病人を連れて旅行など無理ですよ」「このロンドンは私たちにとって想い出の地なのです。ハネムーンで訪れた地なのですよ。このロンドンを一目見るのが私たちの夢だったのです。私たちに残されたわずかな時をこの想い出の土地で過ごしたかったのです」「……」「いいんです。妻も自分がガンだとわかっているんです。この部屋は、その時、私たちが泊まった部屋なんです。あの時のままだ。お願いです、先生。私たちをこのままそっとしておいてください」

刑事のヒューズにこのホテルに凶悪犯でも泊まってるのかしらと聞くドール。「昨日、ハイド・パークで射殺されたチンピラのことさ。現場の状況から見て、目撃者がいるんじゃないかと思われるが、何か心当たりはないかね」「さあ。何も耳に入ってないわ」ジャニスの容態はどうなのとヘンリーに聞くドール。「ああ、おさまったよ」「そう」「それより、約束の夕食をご馳走できなくなってしまったよ。どうしても行かなきゃならない所が出来てね」「残念だわ」

ヘンリーを尾行するドールは、ヘンリーがハイド・パークでチンピラと会うのを目撃する。チンピラに聞くドール。「ドクター・ヘンリーと何の用だったの」「へえ、あのおっさん、医者だったのかい。で、あんたは何者なんだ。看護婦かい」襲いかかるチンピラに銃を突きつけるドール。

「こんな場所でこんな時間。警察には突然襲われて射殺したで通るわ」「悪かったよ。何もかも話す。実はあの医者、人殺しなんだぜ」「でたらめを言わないで」「本当さ。昨夜、この公園で男が殺されただろ。あれさ」ドールが動揺する隙に、顔に砂をかけて逃走するチンピラ。

私を尾けたのかとドールに聞くヘンリー。「あのチンピラが言ったことは本当なの」「いや、私は何もやってない。あのチンピラが君に言ったことはみんなデタラメだ。女の君に手玉をとられた悔しさで、口から出まかせを言ったんだろう」「それじゃ、あのチンピラとあんなところで何を話していたの」

「これ以上のことを私の口から話せないんだ」「ヘンリー」ハイド・パーク事件の目撃者が現れたと言って若い娘をドールに紹介するヒューズ。「え、殺されたチンピラにレイプされかけたって」「ああ、だから犯人はこの人を助けたと言うことになるんだよ」「で、その犯人は?」「ああ、実は」

ジャニスの具合が悪いとドールに言うヘンリー。「入院させるよ」「あなた、知ってるのね。アレン氏がハイド・パークで犯した罪を」「私がアレン夫婦の部屋にいる時、あのチンピラから脅迫の電話があったんだ。殺人を目撃した、金を出せってね。しかしガンで死にかけている夫人を抱えたアレン氏には、とても報告できなかった」「……」

「そこで私がアレン氏の代わりにチンピラに会いに行ったのだ。金はなんとかすると別れてきたが、ここに戻ると夫人の容体が悪化してたんだ」「じゃあ、アレン氏にはまだ話してないのね」「ああ」「……」「夫人の命はもうそう長くない。夫人にはアレン氏が必要なんだ。そんな夫人をたった一人で逝かせられるのか」

アレン夫婦の部屋に飛び込み、銃を突きつけるドール。「銃を捨てなさい」「死なせてくれ。妻がガンに冒されている。二人で天国に行かせてくれ」「あなたのような人が拳銃を持って旅行。やはり死に場所を探しての旅行だったのね。その死に場所に一番の候補地に考えていた想い出の場所。二人にとっては聖地ともいうべきその場所を、けだものが汚そうとしていた、あなたはそのけだものを許せなくて、拳銃の引き金を引いていた」

その通りだと言うアレン。「どこへ行っても、変わり果てていたのに、あそこだけが昔のままだった。ハネムーンで訪れ、二人で将来を誓いあったあの時のままだったんだ。死に場所をここしかないと決めたその場所で、あいつは。許せるものか」ジャニスを撃とうとするアレンの拳銃を吹き飛ばすドール。救急車で運ばれるジャニスに付き添うアレン。歳月人を待たずか、と呟くヘンリー。「さて、俺も病院へお供するか。じゃあな、ドール」

 

遥かなる国の客

ニューヨークの遊園地でシャトロフを狙うトニーに声を掛けるドール。「トニー。やめて」射殺されるシャトロフ。逃走するトニーを追おうとするドールに「動くな」と怒鳴るシャトロフと一緒にいる男。「銃を捨てろ。そうか、ホテルの探偵屋か」「あなたは?」「CIAのリチャーズ」「シャトロフさんを撃ったのは逃げた男じゃないわ」

「なるほど。落とした拳銃に使用した形跡はない」「そうね」「シャトロフ氏はあんたんところのサンライズ・ホテルに泊まってたんだな」「ええ」「逃げた男をよく知ってるようだが、あの男は何者だ」「トニーというホテル荒らしのチンピラよ。町で偶然見かけたけど、様子が変なので追ってきたら、こんなシーンに出くわしたわけ。でも、あのトニーが人殺しをしようとするなんて」

刑事に供述するシャトロフ夫人。「夫はタス通信の特派員です。仕事を終えて、明日。アメリカを発つことになってました」「最近、ご主人の様子に変わったところはなかったでしょうか」「別にありませんでしたわ」「人に恨まれていたとか、何かに怯えていたとか」「いえ、別に。私たちは愛し合っていたのです。夫に変化があれば、妻の私に気づいていないはずはないと思いますわ」

トニーの情婦のフェイにその服は高かったでしょうねと聞くドール。「トニーはいい仕事にありつけたようね。どこにいるの」「いないわ」「今まではケチなホテル荒らしだった。でも今度は違うのよ。彼は人殺しを請け負ったらしいわ」「え」「その代金でトニーは洋服を買った。でも安心して。トニーは殺人を犯さなかったわ。今ならトニーを救えるわ。彼はどこに行ったの」「さっきまでここでニュースを見ていたのよ。遊園地で殺された人の奥さんが病院に駆け付けたところのニュースを見ながら、じっと何かを考えているみたいだったけど、突然、部屋を飛び出して行っちゃったわ」

シャトロフ夫人の部屋に現れるトニー。「やあ、奥さん。オレにとっちゃ鍵のかかった部屋なんぞねえんだよ」「……」「あんたに頼まれた亭主殺し。許せねえよな、俺に頼んでおきながら、俺を囮にして自分の手でやっちまうなんてよ」「……」「俺をコケにしやがって」「いいじゃないの。お金を返してとは言わないんだから」

「ふざけるな。警察じゃ犯人を俺だと思い込んでるに違いないんだ」「それじゃあそれでいいじゃないの。あなたの殺し屋としての自尊心に傷はつかないんだから」「バカ言え。やってもいねえ殺人の罪をかぶれるもんか。一緒に警察へ行ってもらうぜ」「しょうがないわね」

トニーを射殺するシャトロフ夫人。そこに現れるドール。「ちょうどいいところげ来てくれたわ、ドール。その男が部屋へ押し込んで、拳銃で私を脅したのよ。私、夢中で護身用に持っていた拳銃で撃ってしまったわ」「どうしてなんです、奥さん。あんなに愛し合っていたように見えていたのに。どうしてご主人を殺さなきゃいけなかったんですか」「え」「トニーがただの部屋荒らしでここを訪れたんでないことは、トニーの愛人に会って知ってるんです」「部屋を出ましょうか、ドール」

並木道を歩くドールとシャトロフ夫人。「私は心底、夫を愛していたわ。夫も私を愛してくれた。それをアメリカが夫を私の手から奪おうとしたの。夫はアメリカに惑わされたのよ」「それは亡命?」「私は夫をアメリカに取られたくなかった」「それほどご主人を愛しているのなら、どうしてあなたも一緒に亡命しなかったんですか」

銃をドールに突きつけるシャトロフ夫人。「ごめんなさいね、ドール。こんなことになってしまって。あなたをモスクワに招いて、楽しい時を過ごしたかったわ」「お願いです。聞かせてください。どうして愛する人と一緒の行動が取れなかったの。ご主人に行動はあなたにとって、愛すら裏切ることになったとおっしゃるの」

シャトロフ夫人に聞くリチャーズ。「なんと答えるね。シャトロフ夫人。暗号名<水曜日>の名を盛るKGB要員としちゃあ、簡単に男と一緒に亡命と言う訳にはいかないよな」「KGB?」「わかってやるんだな、探偵屋さん。我々はあんたのような気楽な商売じゃないんだ」シャトロフ夫人はリチャーズを射殺し、ドールの命を奪おうとするが、ドールの弾丸を浴びる。「モスクワはいい町よ。是非、一度訪ねてちょうだい。さようなら、ドール」「シャトロフ夫人」

 

帝王の罠

ハワイ・ホノルル空港に到着するサンライズ・ホテルのパワーズ会長とドールを迎えるFBIのジェンキンス捜査官。「FBIが何の用だ」「複数の殺し屋がホノルル市内であなたを待ち構えていると言う信頼の高い情報を入手しています」「だからどうしたと言うのだ」「できればこのまま本土へ引き返していただけないでしょうか」

「数匹の殺し屋に怯えてニューヨークに帰れと言うのか。世界77か国に180のホテルを有するパワーズ帝国の帝王のわしに」「では、ワシントン財務省にシークレットサービスの24時間ガードを要請なさっては?現在、大統領の財務委員会顧問をなさっているあなたにはその特権があります」「断る。その必要なし」殺し屋の数はわかりましかとジェンキンスに聞くドール。「どうやら、4人か5人らしい」

相変わらず日本人が多いなと息子のサイラスに聞くパワーズ。「正月はピークで各ホテルは日本人に争奪戦に明け暮れています」「ホノルル・サンライズの営業状態は?」「残念ながら最悪です。今月中にニューヨーク本社の援護がなければ、ワイキキ・スクエアの軍門にくだるのは、時間の問題です」「そんなにひどいのか」

どんな汚い手段も許可すると言うパワーズ。「ワイキキ・スクエアに反撃をかけろ」「今となっては絶望です。根こそぎ日本人団体客をさらっていくことや、派手なヌードショーでレストランやクラブの呼び込みをやることなどや、少々の値引き攻勢なら、こちらはいくらでも打つ手はあります。しかし、長年大切にしてきた常連客を奪われたことは、わがサンライズのような伝統あるホテルにとっては致命的なダメージです」

パワーズはバーで四人の殺し屋に狙われるが、ドールが全て片付ける。(これで4人。果たして5人目はいるのかいないのか)

重役会議で激怒するパワーズ。「全員がギブアップとは。貴様らそれでも男なのか」「メイン銀行のファースト・トラストからも手を引かれました。もう打つ手はありません」「わかった。わしの援護だけを頼りにしている腰抜けどもに用はない」そこに現れるワイキキ・スクエアの社長のエベレット。

「彼が考え得るあらゆる悪辣な手段で、ホノルル・サンライズを倒産に追い込んだのは、わしの命令だ」「え。親父がなぜそんなことを」「わしももう年だ。本気で引退を考えた。しかし、あっさりとパワーズ帝国を息子のお前に譲るつもりは毛頭ない。お前がそれに値する人間かどうか。つまりわしと戦ってどこまでやれるか見たかった。わしを叩き潰さなければ、パワーズの帝王になれんのだ」

愕然とするサイラス。「最後に残った味方だと信じたあなたが、実は最も凶悪な敵だったとは。認めましょう。私の負けです。だが、本当の闘いはこれからだ。私は改めてあなたに挑戦する」「望むところだ」会長を襲った殺し屋たちを雇ったのは私だとドールに教えるエベレット。「FBIに通報したのも、全て会長の命令によるものだ」「説明してください。ご自分でご自分に殺し屋を差し向ける。なぜ会長はそんなことをする必要があったのです」

サイラスに罠をかけたのと同じ理由だと言うエベレット。「まだ自分にパワーズ帝国としての強運がついているかどうか試されたんだ」「そんなことに生命を投げ出すなんて」「君が一番よく知ってるんじゃないかね。何事にも命を懸ける会長の気質は」「……」「会長はおっしゃった。このホノルル・サンライズはわしが15番目に作った大切なホテルだ。しかし、潰れる運命にあるのなら、自分自身の手でつぶすと」「……」「そして、こうもおっしゃった。息子は必ず戻ってくる。だが、その時、すでにわしがこの世にいなかったら、君の手で試してほしい。「帝王の罠」で、と」

 

風の強い町

シカゴ・サンライズ・ホテルを見ながら話し合うサムとケリー。「ホテル従業員の給料の御到着だ」「あれで今夜一晩、支配人室の金庫で眠って、明日朝、従業員に渡される」「へへへ。何しろ、一流ホテルの従業員の給料だ。気の遠くなる額だぜ」「ジョンの方は大丈夫なんだろうな、サム」「ああ。大丈夫だ。間違いなく時間通り暴れ出してくれるさ。なにしろ奴は麻薬で頭がいかれてやがるから。俺の言う通りにやれば、きっとエレノアが自分のところへ帰ってきてくれると、信じ切ってやがったよ」「よし。あとは時間を待つだけだ」

ビルとフローレンス夫婦の部屋に猟銃を持って押し入るジョン。「何をする。妻から手を離せ」「警察を呼べ。すぐに」「え」「早く呼べ」ドールに客が人質に取られたと言う支配人。「犯人は麻薬患者らしい」ベランダに出て、「早くエレノアを連れてこい」と叫ぶジョン。「そうしないとこの女を殺すぞ」

フローレンスを早く助けてくれと言うビル。「妻は妊娠三か月なんです」フローレンスを裸にするジョン。「エレノアを連れてこい。この女を助けたくないのか」焦る警官たち。「野郎。いい気になりやがって」「やめろ。この風じゃ人質を狙うようなものだ」「くそう。風まで味方しやがる」「風の強い町と言われるシカゴだ。珍しい事じゃない」

サンライズ・ホテルに現れるエレノア。「警察へは言わないで。ジョンの前に引き出されたら、あたしはあいつに殺されるわ」「ジョン。人質を取ってるのは、あなたの恋人なのね」「今は違うわ。あいつは頭に血が遡ると何をするかわからない男なのよ」「落ち着いてちょうだい。あなた、どこでジョンのことを聞いて、ここへ現れたの。まだ、ジョンの身元も割れてないのに」

「あたし、こんな騒ぎなると思わなかったのよ。昨日聞いた時には」「ジョンの計画を知ってたの」「そんなことは知らないわ。ただジョンの友達のサムから聞かされただけよ。明日、警察があたしを探し回るかもしれないって。そして、サンライズ・ホテルへは絶対近づくなと。でも、あたし、気になって」

金庫室で金を奪おうとするサムとケリーに聞くドール。「どちらがジョンの友人のサムなの」「あっ」「麻薬患者に騒ぎを起こさせて、その隙に金庫を狙う。なかなかのアイデアね。おまけに警察にエレノアの行方を探させて、時間稼ぎも考えている。たいした計画だったのにね。」「畜生」「残念ながら、エレノアはホテルに来てくれたわ」「畜生」

ジョンなんか会いたくないと言うエレノアに妻が妊娠していると言うビル。「頼む。妻を助けてくれ」行くわとドールに言うエレノア。「あいつのところに連れてって」ジョンにその人に乱暴しないでと言うエレノア。「あんたなんて腰抜けよ。弱い者いじめしかできない腰抜けよ」「うるせえ。今までどこに隠れていた」

ドールに服を脱げと命令するジョン。裸になったドールは髪に隠していたナイフで、ジョンの喉を切り裂く。感心する支配人。「ドール。ナイフと言う奥の手があるとは思わなかったよ」「あまり使いたくない奥の手でした。でも、私もホテル探偵のはしくれですから」

 

北欧の熱い雪 祖国よ!

スウェーデンのサンライズ・ホテルで、ノーベル物理学賞を受賞したワイダは命を狙われるが、ドールに救われる。襲撃者の身元は判明したのかねとポーランド人スタッフに聞くKGB高官。「いえ、それがポーランド人と言うことだけで。ワイダ博士を西側に渡したくないと言ういわば愛国心の発露かとも」「ワイダを殺してしまっては何もならないのだ。彼を無事にポーランドに連れ戻すことが君たちポーランド側の使命だろうが」「はあ」「我々KGBまで狩り出されるとは。そもそもワイダを授賞式に出させたのが間違いだったのだ」

確かに彼は労働者擁護委員会の一員ですと言うポーランド人スタッフ。「しかしそれだけで授賞式に出席させないと言うことはできません」「彼は労働者を扇動して資本主義化を謀っているのだ。君たちの政府はそれを黙視している」「きっぱり申し上げます。もしワイダ博士が西側亡命を計画しているとしても、我々がいる以上、実行は不可能です」「そう願いたいものだ。特にあのホテル探偵には気を許さないことだ」

ワイダにはポーランド人スタッフが張り付いているとドールに言うCIAのパーカー。「そして彼らの背後にはKGBの目が光っている」「それで私のお役目はワイダ博士の身柄をCIAに引き渡す事?」「引き渡すなんて。あなたの力を借りたいのです。ワイダが亡命を希望している事は、あなたも知ってるはずだ」「……」

「今、自由にワイダに近づけるのはあなただけだ」「博士の亡命が私には関係ないことです。私はただ仕事として、ホテル内で博士の命が危険にさらされた場合、命を賭けてもお守りするだけです」「ワイダの妻も間もなくここへ到着します。彼は妻を伴って亡命するつもりです」

妻に話すワイダ。「絶えず他国の顔色を見て怯える政府にとって、私はさぞや厄介なお荷物だろうな」「あなたはやはり西側に行くべきですわ」「祖国に帰っても自由な活動は妨げられるだろう。仕事を奪われるのは耐えがたいことだ」「西側に行けば、嘘をつく必要も見せかけの生活を送る事もなくなるのですわ」

ワイダは夫人と亡命する気だとポーランド人スタッフに言うKGB高官。「博士は我々が必ず祖国へ連れ戻します」「相手は大の大人が二人だぞ。犬や猫の子とは訳が違うのだ」「……」「ワイダを西側へ行かせる事はできない。どんな手段を取ってもだ。気の毒だが仕方あるまい」

KGB高官はワイダを暗殺しようとするが、ドールにあの世に送られる。「ドールさん」「すみません、博士。彼らの行動はモニターテレビで監視していたのですが。お迎えのヘリコプターが間もなく屋上に到着します」しかしワイダは亡命しないと言うワイダ夫人。「夫もポーランド人です。自分のために同じポーランド人が苦しむ。そんなことのできない人なんです」そんなバカなと言うパーカーに警告するドール。「これもまたワイダ博士の意志なら、このサンライズ・ホテルから博士を連れ出すことはお断りします」「……」

 

バラの標的

地元のダラスに戻って大歓迎を受ける副大統領候補のポーリン上院議員。サンライズ・ホテルに現れた署長のデイブに案内しますと言うドール。「ふん。偉くなったもんだな。あのポーリンも。署長の俺に秘書を差し向けただけで、迎えにも現れねえ」「いえ。私は彼女の秘書ではありません」

しばらくだなとポーリンに言うデイブ。「デイブ。久しぶりね」「嬉しいわね、デイブ署長。私たちの故郷から初の女性副大統領が誕生するかも」「あら、まだよ、市長」「でも、あなたに間違いないわ」呟くデイブ。「女市長に続いて、今度は副大統領か」

メイドのクリスチーナがニトログリセリンを持っていたとデイブに言うドール。「彼女は何も答えませんが、おそらくレセプション会場のどこかにニトロを仕掛けたものと思われます」「お前は何者だ」「当サンライズ・ホテルの探偵で、ポーリン上院議員をガードするために、本社から派遣されました」「ちっ、また女か。サンライズ・ホテルともあろうものが、女の探偵を雇っているとはな。女がかかわってくるとまったくロクなことにならん」

ニトロはどこにあるとクリスチーナに聞くデイブ。「ポーリンをニトロで吹き飛ばしたら気が済むってのか。まったくバカなことをしくさって」「……」「ニトロはわずかの衝撃や摩擦でも爆発するんだ。その破壊力は強力なんだ」クリスチーナの夫のビルはポーリンに殺されたようなものだと言うデイブ。「政界に乗り出そうと言う野望を抱くポーリンにビルは惹かれた。そして全財産を注ぎ込んで、初めてビルはポーリンに騙されたことに気づいたんだ。そしてビルはそのショックで自殺してしまった」

あなたが夫を愛していることはわかったとクリスチーナに言うドール。「でもそのために多くの犠牲者が出てもいいなんてことはないわ」ニトロはどこにあるとクリスチーナに怒鳴るデイブ。「ビルはお前さんを捨ててポーリンの元に走った男だぞ」「やめて」「やめないぞ。ニトロにある場所を言うまでは。ニトロはどこにある」「やめて」そんなにガミガミと言うドールに黙っていろと怒鳴るデイブ。「俺は女の指図は受けん。俺は俺のやり方で吐かせてみせる」

パニックになったクリスチーナはレセプション会場に乱入し、ニトログリセリンを隠した花瓶に向かう。銃を構えるドールに撃つなと言うデイブ。撃つのよと叫ぶポーリン。花瓶を抱えて来ないでと叫ぶクリスチーナを説得するドール。「あなたが死んでも、誰かを殺したとしても、死んだあなたのご主人は喜ぶかしら」「……」「さあ、静かにその花瓶を私に渡して」「……」「さあ」ドールに花瓶を渡して泣き伏すクリスチーナ。

ニューヨーク行きの飛行機に乗ろうとするドールに待ってくれと叫ぶデイブ。「何か」「女をバカにした俺がこうして女の見送りに来た。その俺のバカ面をあんたがどんな顔で見るか。それが見たくてやってきたんだ」「クリスチーナさんに署長の胸の内を打ち明けましたの」「ほかに見送りの人はいないのか」「見送る人も迎える人もありません。いつもそうです。これからもずっと」ドールの乗った飛行機を見上げるデイブ。「認めるよ、探偵さん。女でも結構仕事ができるヤツがいるってことをな」

 

チャイルド・ファウンド

サンフランシスコのサンライズ・ホテルで話し合うスパイのポールとヘンリー。「ここで殺っちまったのはまずかったぞ」「しょうがないだろう。我々がスパイだってことを密告しようとしたんだから」「これからどうする」「まず、この死体を始末をして時間を稼ぎ、ここを脱出するんだ」プールで私立探偵のレスターはトム少年に声を掛けるが。トムの母親のナンシーはトムを連れ去る。がっかりするレスターに坊やに関心があるのと聞くドール。

やっぱり宿帳を見たのかとドールに言うレスター。「不審な宿泊者としてあんたにマークされたわけか」「それも私の仕事の一つです」「俺の嫌疑はトム坊やを狙う誘拐犯ってことか」「ニューヨーク州にあるチャイルド・ファウンド。最近続出している行方不明児を探すセンター。そこからトム坊やの情報が回ってきたの。ニューヨーク市の不動産業者のジョン・ドイル。離婚した妻はナンシー」「……」

「一人息子のトムを引き取る請求を法廷に求めたジョンに養育権を認める判決が下った。しかし判決に不服なナンシーはトムを連れて、ジョンの前から姿を消した。そしてジョンに雇われたあなたが母子を追ってきたわけね」「その通りだ。トムを誘拐したのは母親のナンシーだ」

ポールはホテルのクローク係を襲って、クローク係を自分の部屋に引っ張り込んで、その衣服を奪う。その間にナンシーとかくれんぼをしていたトムはクローク係の運んでいたシーツ入れの中に潜り込む。あの母子を逃がすつもりじゃないだろうなとドールに聞くレスター。「俺の5000ドルはどうなるんだ。もうジョンには連絡済みだ。明日父親があの子を引き取りにここへ現れる。そしたら俺は報酬の5000ドルにありつけるんだ」「……」

早くこれに死体を入れて運び出すんだとヘンリーに言うポール。「あっ、いつの間にこんなガキが」「ガキを縛り上げろ」どこに行ったのと廊下でうろたえるナンシー。「トム。出てらっしゃい」かすかに呻くトム。「トム、そこにいるの」「……」「待って。子供を返して」「……」「誰か来てえ」ポールに撃たれて倒れるナンシー。銃撃戦の末、ドールに撃たれた倒れるヘンリー。トムを抱えて逃走するポール。救急車でナンシーを運んでとボーイに銘じるドール。

プールサイドで対峙するレスターとポール。「どうした。やってみろ。ガキを傷づけずに俺を狙い撃ちするほど、腕に自信があるのなら」「う」「車を持ってこい。この横手に車を持ってくるんだ」ポールの脳天を撃ち抜くドール。プールに落ちたトムを飛び込んで救うレスター。トムを抱きしめるナンシーを見つめるドールとレスター。「これで、父親のジョンが明日ここにやってくることがわかっても、あのケガじゃナンシーさんは病院から動けないわね」「これが俺の仕事だ」しかしレスターは現れたジョンにナンシーとトムはニューヨークに戻ったと嘘をつくのであった。

 

クリスマス・24アワーズ

ミネソタの小さな町に現れるゴルゴ13は、ホテルに宿泊する。ゴルゴ13を見てフロントに行くドール。「何か御用ですか」「今、チェックインした東洋人について調べたいんだけど」「ああ、デューク東郷さんですね」「1801号室。職業・作家。旅行目的・観光」

ホテルのバーで飲んでいるゴルゴ13に話しかけるドール。「踊っていただけません」「残念だが、ちょっと立ち寄ったまでだ。そろそろ部屋に戻ってやる仕事があるので」歩き出すゴルゴ13にスリのチャーリーが近づいて財布をすろうとするが、ゴルゴ13に手首をつかまれて悶絶する駆けつけるドールに語り掛けるゴルゴ13。「それでは、ホテル探偵さん、あとはたのむ。私はこの男を告訴する気はない」

黙って立ち去るゴルゴ13の後姿を見て考えるドール。(デューク東郷。あの男がただの男でないことははっきりしたわ。あの注意深い刺すような目。変わり身と攻撃性の速さ。そして私を一目でホテル探偵と見抜いた鋭い洞察力)なおもうめくチャーリー。「畜生。何も腕を折らなくてもいいじゃないか」「あの男に感謝するのね。告訴しないと言ってるんだから」「ドール。教えてやるが、奴のふところで指先に触れたモノは、確かに拳銃だったぜ」

ドールは1801号室に行く。「改めて名乗ることもないでしょうけど、当ホテルの探偵です。お聞きしたいことがあるんですが、中に入れてもらえません」部屋に入るドール。「職業は作家らしいけど、見たところ部屋にはタイプライターは見あたらないわね。どうして踊ってくれかなったの」「……」

「胸のホルスターに拳銃が隠されていたから。それとも、あなたにつきまとっている血の臭い。死肉の臭いを私に嗅ぎつけられたくなかったから」「もう出ていってくれないか。俺はそろそろ眠りたいんだ」「出て行けないわ。あなたが、何者で、なんの目的でこのホテルへやってきたのかを知るまでは」「あんたがホテル探偵なら、それはあんたの手で探るがいい」「……」

12月25日朝9時30分。ドールはフロントに行く。「おはよう。すっかり雪が積もったわね」「おはようございます、ドールさん。静かなクリスマスの朝ですねえ」「1801号室の客の動きは」「なんの動きもないようです。いやに気になるようですね、あの客が。どうしてなんです、ドールさん」「気になる客を気にする。これが私の仕事よ」

そこに保安官がやってくる。「ドール。この男を見かけなかったか。男の名はトミー・ナバロ。アンドリュー・シャピロの犯罪組織の幹部のひとりだ。ナバロは約2週間前のもろもろの犯罪容疑で俺の事務所で検挙したが、未決のまま、昨夜の朝、24時間の保釈が認められて釈放したのだ。ところが、昨夜遅くになって、州警察からの情報でナバロを消す動きがあることがわかった」「口封じね」

「そうだ。俺は昨夜から奴の足取りを追っていて、やっと今朝方、奴と娼婦らしい女をこのホテルに送り込んだというタクシーの運転手を捕まえたところなんだよ。もう、組織の送り込んだ刺客がうろうろしているかもしれん」

ドールはゴルゴ13の顔を思い浮かべるが、フロントに行けば何かわかると思って、フロントに行く。その間にチェックアウトを終えたナバロはホテルを出て、タクシーを拾おうとする。そんなナバロに1801号室から鏡を使ってこちらを振り向かせたゴルゴ13は、ナバロを射殺する。

フロントからナバロがチェックアウトしたことを聞いたドールと保安官は急いでホテルを出るが、彼女たちが見つけたのは、ナバロの射殺体であった。急いでホテルに戻るドールはチェックアウトをすませたゴルゴ13とすれ違う。「あなたの仕事ね」「……」「でも、礼を言うべきなのかしら。ホテル内でのコトを避けてもらえて」

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