もどり川

1983年 東宝

キャスト:萩原健一(苑田岳葉)原田美枝子(朱子)藤真利子(ミネ)樋口可南子(琴江)蜷川有紀(文緒)池波志乃(千恵)柴俊夫(加藤)加賀まりこ(綾乃)米倉斉加年(村上秋峯)

監督:神代辰巳

大正12年、浅草の女郎街で女郎の千恵を抱く歌人の苑田岳葉。「ああ、暑いな」窓を開けて、外に妻のミネが佇んでいるのを知る岳葉。「いつまでこんなことをするんだ」「にいさんに運が向かないのと同じよ。もう一回どう」

ミネにどうしてこんなところにと聞く岳葉の友人でかつては歌人で今は無政府主義者となった加藤。「恥ずかしいわ。苑田が来てるんです」「しょせん5・7・5・7・7では現実は捕まえられないよ」「こういうところに来ると歌が詠めるんですかね」「こんなところの女じゃデカダンスの対象にもなりゃしねえ。ここは所詮性欲のはけ口さ」激しく咳き込むミネ。負けずに咳き込む加藤は警官に逮捕される。

家賃を四か月もたまっていると岳葉に言うミネ。「あなたが行く女たちはいくらもらってるんですか」「たいしてもらってない。まさか淫売になろうってないんだろうな」血を吐くミネ。「初めてか。何故黙ってた」「あなたに移そうと思って。だったらやめるでしょう。酒と女と貧乏」血まみれの口を岳葉の口に押し付けるミネ。

岳葉は先輩である村上秋峯に金を貸してくれと頼む。「生活の垢にまみれた歌なんか歌いたくない。啄木みたいに病気の苦しみの歌を歌いたくても、私はすこぶる健康だ。旅に出ます。先生の唱える万葉的な世界を見てきます。だから金を貸してください」「断る。貧しさをかてにするもしないもお前次第だ」岳葉に同情した秋峯の妻の琴江は岳葉に金を貸すが、それをいいことに岳葉は萩原朔太郎の歌を借用しながら琴江に迫る。悶えながら拒む琴江。

雨の日、私の田舎じゃ雨が降ると止まった水が動き出すのと岳葉に言う千恵。「水に流れができるの。土地じゃ戻り川って呼ばれるの。どういうわけかそん時に舟を出すと、出したところに戻ってきちゃうの」「お前はどこの生まれだ」「千代ヶ浦」「世の中は行きつ戻りつ戻り川。水の流れに逆らうあたわず」なんだかんだいいながら千恵を抱く岳葉。雨に打たれて岳葉を待つミネ。

秋峯に歌とは何かと聞く岳葉。「柔術には柔道。剣術には剣道。歌には道があるんですか」「岳葉。優れた歌人にはそれぞれ個性がある。だが彼らには共通したものがある。なんだと思う。お前にないものだ」「世の中の賞賛。名声」「お前の歌は空疎だ」「破門されて説教される覚えはない」「彼らにあってお前にないものは毒。だからお前の歌は無色透明。人畜無害」「ありがとうございました」

岳葉は破門になった勢いで琴江に一度だけでいいからやらせてくださいと頼む。「奥さん。北原白秋の歌が好きですね。あれは姦通の歌です」岳葉のエネルギーに負けて、私の主人は白秋が嫌いですと言いながら身を任す琴江は、あなたなんか愛してなかったと書き置きを残して家出する。

琴江は品川駅にいると秋峯に言う岳葉。「そうか。琴江の相手は君なのか。何しに来た。駈落ちの駄賃に俺の間抜け面を見に来たか」「たった一度の過ちだ。駈落ちなんか興味がねえ。迎えに行ってください。ただいい歌が詠みたかった。それだけだ」「許さん。姦通罪で告訴する」

刑務所に入れられた岳葉におはぎを差し入れするミネ。うまいと喜ぶ岳葉。咳き込みながら喜ぶミネ。「いい女になったじゃないか、俺と離れて。早く養生所に行け」「大丈夫です。あなたの居場所がわかって悪いことしてないと思うと安心して眠れるんです」「琴江さん、どうなったか知ってるかい」「なんでも家を追い出されて、浅草で女郎になったそうよ」「お前とやりたいよ」

岳葉は出所するが、関東大震災に出くわしてしまう。大混乱の中、ミネをリヤカーに乗せて救い出す岳葉は、朝鮮人と疑われるが歴代天皇の名前を言って難を逃れる。火事やなんやらの大騒ぎにエキサイトした岳葉はミネをリヤカーから降ろして抱く。ひざびさと喜ぶミネ。

女郎になった琴江と再会する岳葉。「あなたが女郎になったのは私へのあてつけですか。あの時駅へ行かなかったのは悪気はなかったんです」「もう終わったことです」「終わってません。獄中であなたのことを考えてました」「触らないでください」「あなたは震災で死んだと思ってました」「私はもう死んだんです」「私を許してください」「私を買ってください。そうでなければ私に用はないはず」岳葉はストーカーのように琴江を追いまわすが、琴江いい加減にしてと冷たくあしらわれる。

なんだか生きるのが嫌になった岳葉は首つり自殺を試みようとするが、岳葉の大ファンだと言う銀行頭取の娘の文緒に自殺を阻まれる。お前みたいな小便くさい女は嫌いだと言いながら、暴力をふるって文緒の唇を奪う岳葉。無政府主義者のリーダーである大杉栄は震災戒厳軍の手で暗殺されてしまう。激しく咳き込む加藤はミネさんを大事にしろと岳葉に命令する。

本当の接吻とはお刺身と言うんだと文緒に教える岳葉。「先生。お刺身してください」お刺身する岳葉。岳葉は琴江を身請けしようとビリヤードで儲けようとするが大敗して借金を作る。文緒に金を借りようとした岳葉は文緒の父から門前払いを喰らう。困った岳葉に声をかける文緒の姉の綾乃。「文緒は来月の十日京都に参ります。その時に会ってやってください。あの子を不幸にしないと約束してください。あの子は死ぬほどあなたのことを思いつめてます」「そうか。あなたが綾乃さん。お抱え運転手と駈落ちして、あなただけが生き残った」「あの子に私の二の舞だけはさせたくないんです」

養生所でミネを抱く岳葉。「ミネ。世の中がひっくり返るくれらい有名になってやるぞ」琴江に京都に行くと言う岳葉。「他の女と死にます。あなたと心中するつもりで。あなたがもし私のことが好きだったら京都の宿に手紙をください。そうすれば死ぬのは思いとどまります、京都・桂川・よしのや。待ってるよ」

京都に着き、琴江からの手紙は来ずに、がっかりして琴江の恨みつらみを紙にしたためた岳葉は、旅館に現れた文緒を抱きしめる。「先生。私、もう先生に会えなくて死のうと思ったのよ」「私たちは一緒に死ぬかもしれない」吉井勇がどうしたこうした言いながら、文緒の体に筆で落書きをする岳葉。「俺と心中をやめるか」「してください」「死のう」舟に乗って二人は睡眠薬をむさぼり食うが、結局心中未遂に終わる。

岳葉はこの体験を「桂川情歌」という歌にして詠み、それはセンセーショナルな話題となり、岳葉は一躍時の人となり、世の中は心中ブームとなる。文緒は外出禁止となったあげく、どうやら自分が身代わりで心中の相手をしていたことに気づき、首つり自殺をする。いい歌が作れてよかったわねと岳葉に言うミネ。「あなたの歌が世間に認められて嬉しいわ、あんな経験しないといい歌って詠めないものなの?私が死んだら歌に詠んでくれる?」ああああと叫んで血を吐くミネ。

養生所を出た岳葉は加藤が妻の朱子が言い争っているのを目撃する。「どうせ長くない命だ。ここを出て好きなことをしてもいいじゃないか」「あたしはどうすればいいのよ」「俺は大杉先生の復讐を誓ったんだ」「復讐だの革命だのエラそうなことばかり言って、あたしはどうなるの」

岳葉に皮肉を言う加藤。「売れてよかったな。芸術も身体を張ればなんとかなるもんだな。お前の歌は人生の残りかすだ。大杉先生の辞世の句は素晴らしい。でもあの人は歌人でない」「俺は24時間歌人だ。生き方なんか関係ない」「お前の目標なんて日本歌壇に名を残すことだろう。俺は違う。日本革命万歳。日本無政府主義万歳だ。なあ、俺にカンパしないか」「断る」ゲホゲホ言いながら去っていく加藤。ぎゃあぎゃあわめく朱子の身体をあっという間にいただく岳葉。

爆弾を持って逃げてきたと朱子に言う加藤。「俺はつくづく意気地なしだ。爆弾持って東京中うろついて投げられないんだ。てめえに愛想がつきたよ」そこに現れた警官とともに爆死する加藤。朱子に心中するかと持ちかける岳葉。「いいわよ」「俺は真剣だぞ」「私だって真剣よ」今度こそある女と死にますと琴江に言う岳葉。「あなたのために三人死ぬことになるんです。全部あなたのせいだ」「勝手な言い方。狂ってる」「うむ。私はあなたに狂ってる。千代ヶ浦の駅から旅館が見えます。そこにいます。本当はあなたと心中したかった」

千代ヶ浦の旅館に着いて心中するまでの時間をダラダラ過ごす岳葉と朱子。「私は身代わりなの」「そうだよ」「もっと優しいことを言ってくれてもいいでしょう」「お前だって俺が好きでついてきたわけじゃないだろう」「先生と一緒に死にたいからついてきたんじゃないの。好きだと言ってよ」千代ヶ浦に現れた琴江を迎える岳葉。「帰りましょう」「ダメだ。死のうと誘ったのは俺だ。相手はその気になってる」「私はもう一度だけあなたを信じてみようと思って。ミネさんにはすまないけどそう思ったのに」「あああああああ」

朱子は「蘇生」と題された岳葉のノートを見て、岳葉は「桂川情歌」に続く第二弾の歌を既に完成させていることを知って、うへうへと泣く。琴江の身体をむさぼる岳葉。「一足先に帰ってくれ。心中はやめる。女を説得して」「あたし、帰るところないわ」「俺の家にいてくれ」「待ちぼうけはいやだから。あああ」激しく悶える琴江。

夜になり、雨の中をお互いに情緒不安定で舟に乗る岳葉と朱子。「川じゃないのに流れていくのね。怖い。おかしいわね。死んでいくのに怖がるなんて」舟の上でまぐわう二人。それを見つめる琴江。エクスタシーと恐怖とわけのわからない感情に襲われる二人。「先生。死んで」「俺たちは死ぬんだよ」

睡眠薬をむさぼり食う二人。「おお」「おお」「ねえ、私、ノート見たのよ」「この野郎」「心中も失敗したことになってたのよ。先生、騙してたのに。でも歌の通りにならないのよ。さっき飲んだ薬。私が持ってきた薬なのよ」「バカ野郎」「死ぬのよ。死ぬのよ」「ここで死んだら筋書きが変わってしまう」「げほげほ」「力が入らねえ。薬が効いてきたのか」「あああああ」

「みんな俺の歌をコケにした。それが口惜しくて」「眠いわ」「歌が好きだ。歌のためならなんでもやった」「ああああ。よく見えない」「淫売通いもした。女房も泣かせもした。あーあ」「ああ」「啄木が貧乏だった。だから世間に受け入れられた」「あああ」「俺は先に歌を作った。歌の通り事件を起こした。文緒を騙すのは簡単だ。でも文緒は死んだ。ある女の身代わりと知って」「あああああ」「あああああ」「ああ」「ああ」「あ」「あ」

旅館に運ばれた岳葉に聞く刑事たち。「あんた、京都でも自殺未遂やっとられますな」「京都の時は二人とも助かってんだよね。今度はあんただけだ。相手の女性は手首を切って死んでいる」「あんたがあの女を殺したんじゃないのかね」この人ももう少し発見が遅かったら死んでましたよと言う旅館の親父。

「戻り川のおかげで助かったんですよ。女の方は意識を取り戻して、この人が意識不明で寝ているのを見て、死んだと思って慌てて後を追ったんじゃないですかね」また死体が上がったと言う女中。「場所は?」「やっぱり、あの桟橋のそばで。洋装の女の人だって」岳葉は朱子と琴江を死なせた責任を取って、男らしくあの世に行く。ミネは岳葉の遺体を引き取るのをきっぱりと拒否する。

「苑田岳葉は近代の生んだすぐれた歌人の一人である。大正元年、雑誌「くれなゐ」に最初の歌を発表し、以後五千首にのぼる歌を詠み、大正十三年、狂気のうちに三十四歳のまだ若い命を自ら断った。代表作「桂川情歌」「蘇生」は歌人のたどりついた最高の歌世界として日本短歌史に大きな位置を占めるものである」

★ロロモ映画評

大正12年、浅草の女郎街で女郎の千恵(池波志乃)を抱く歌人の苑田岳葉(萩原健一)は、窓を開けて、外に妻のミネ(藤真利子)が佇んでいるのを知る岳葉。ミネにどうしてこんなところにと聞く岳葉の友人でかつては歌人で今は無政府主義者となった加藤(柴俊夫)。岳葉は先輩である村上秋峯(米倉斉加年)に金を貸してくれと頼むが断られる。岳葉に同情した秋峯の妻の琴江(樋口可南子)は岳葉に金を貸すが、それをいいことに岳葉は萩原朔太郎の歌を借用しながら琴江に迫る。悶えながら拒む琴江。

岳葉は破門になった勢いで琴江に一度だけでいいからやらせてくださいと頼む。岳葉のエネルギーに負けて、私の主人は白秋が嫌いですと言いながら身を任す琴江。姦通罪で刑務所に入れられた岳葉は出所するが、関東大震災に出くわしてしまう。大混乱の中、ミネをリヤカーに乗せて救い出す岳葉は、朝鮮人と疑われるが歴代天皇の名前を言って難を逃れる。

女郎になった琴江と再会する岳葉はストーカーのように琴江を追いまわすが、琴江いい加減にしてと冷たくあしらわれる。生きるのが嫌になった岳葉は首つり自殺を試みようとするが、岳葉の大ファンだと言う銀行頭取の娘の文緒(蜷川有紀)に自殺を阻まれる。お前みたいな小便くさい女は嫌いだと言いながら、暴力をふるって文緒の唇を奪う岳葉。無政府主義者のリーダーである大杉栄は震災戒厳軍の手で暗殺されてしまう。加藤はミネさんを大事にしろと岳葉に命令するのであった。

この映画を語るに当たって、まず三協映画のことを語る必要がありますが、漫画の原作者として名を馳せた梶原一騎は1976年から映画の制作に乗り出し、梶原原作漫画のアニメ化で親交のあった東京ムービー社長の藤岡豊、石原プロモーションで映画のプロデュースを行っていた川野泰彦と三協映画を設立し、第一回作品である「愛のなぎさ」を作成。三協映画のメインとなったのは格闘技映画で「地上最強のカラテ」「地上最強の空手 PART2」「世紀の真剣勝負 史上最強の空手 結集編」「カラテ大戦争」「格闘技世界一 四角いジャングル」「激突!格闘技 四角いジャングル」「最強最後のカラテ」「格闘技オリンピック」といって映画を製作します。

続いて三協映画の主力となったのがアニメ映画で「新巨人の星」「あしたのジョー」「あしたのジョー2」「巨人の星」を作成。そして第三の柱となったのが文系路線で「愛のなぎさ」「雨のめぐり逢い」「悲愁物語」「もどり川」を作成。そしてジャンル不能な映画として「マッハ‘78」「リトルチャンピオン」を製作しましたが、基本的な構造としては、経営的には格闘技路線やアニメで上げた収益を文芸路線で使い果たすというパターンになり、最後の文芸路線となった「もどり川」で三協映画は終止符を打ったわけです。

この映画の公開が1983年6月18日ですが、梶原一騎はその一か月前の5月25日に講談社刊「月刊少年マガジン」副編集長・飯島利和への傷害事件で逮捕。この逮捕により、過去に暴力団員ともに起こした「アントニオ猪木監禁事件」や、赤坂のクラブホステスに対する暴行未遂事件、「プロレスを10倍楽しく見る方法」のゴーストライターのゴジン・カーンから10万円を脅し取った事件などもさまざまなスキャンダルが頻出し、もはや彼は映画どころではなくなったわけです。

それに追い打ちをかけるかのように主役の萩原健一が映画公開の二か月前に自宅マンションで大麻不法所持で逮捕。こういう状況で作られたこの映画がまともな映画になってるはずがなく、この映画の原作である連城三紀彦の「戻り川心中」はしっとりとした文体でつづられた一流のミステリーだそうですが、この映画はそんな原作の美しさをメチャクチャに破壊したわけのわからない大正ロマンの炸裂した破滅的映画に成り下がっているわけです。

その破滅世界と梶原一騎の荒れた私生活とどうリンクしているのかは不明ですが、荒廃した映画となったのは麻薬中毒になっているのかと疑いたくなるような萩原健一のハイテンション演技にあるのは間違いなく、この映画での彼はどうもまともな精神状態ではなかったようでありまして、その彼の異常なオーラがこの映画全体を支配しているわけです。

女優達もそれに付き合わされたのか、自然にそうなったのかわかりませんが、奇妙なハイテンション演技に終始し、製作者も演技者も何が何だかわからない映画地獄の中に落ちてしまったかのようでありまして、もしかしたらこれはとんでもない傑作なのかもしれないと錯覚を与えてくれますが、わけのわからない面白さと言うものはロロモには感じさせてくれるわけです。

これは同じ三協映画の文芸路線の「悲愁物語」にも感じたものでありまして、もしかしたら「愛のなぎさ」や「雨のめぐり逢い」もこんなテイストの映画なのかなと思ったりもしますが、とにかくロロモはこの「もどり川」には断末魔の叫びとも思える異様な迫力を感じられ、そのパワーに心を惹かれるものを覚えるのでありました。(2014年3月)

得点 91点

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