燃える秋

1978年 東宝

キャスト:真野響子(亜希)佐分利信(影山)北大路欣也(岸田)小川真由美(揺子)芦田伸介(内村)

監督:小林正樹

七月。亜希は影山に手紙を書く。<今度こそ本当にお別れしようと思います。身体の調子もガタガタです。お医者さんは自律神経失調症と診断しましたが、本当は二年間続いたあなたとの関係が原因なのだと思います。私は旅に出ます。どうかもう電話をくださいませんように>

亜希に電話する影山。「まだいたね。旅行するってどこ行くんだい」「お電話をくださいませんようにと書きましたのに」「ふふ」「京都へ行きます」「京都は今祇園祭で大変だよ。宿はどうするんだい」「友達のアパートに泊まります」「せっかく祇園祭に行くのに友達のアパートに泊まるなんて心がけは感心しないな。一流の宿に泊まりなさい」「ほっといてください」

京都へ行き。友人の揺子のアパートに行く亜希。「あなた、顔色悪いわよ」「そうよ。逃げてきたの」「本当に今度こそあいつと別れられるの」「あいつだなんて」「別れるなら全身全霊で相手を憎悪しなきゃだめよ」愛人とともに旅行に出かける揺子。精神学の大家である内村教授と会う影山。

「病人のことで相談って何だい」「僕がちょっと面倒見てる若い子なんだがね。最近、体の調子がよくないらしい。突然めまいがすると言うんだ。医者は自律神経失調症と言ったそうだが、本人は僕との関係が原因と思い込んでいる。それで何とか直してやりたいと思っている」「難しいねえ。人間の体は精神によって左右されるからねえ。でも、世界中の女の子を知ってる君がえらい御執心じゃないか。どういう娘なんだ」「グラフィックデザイナーの真似事のようなことをやっている。金沢の老舗の娘でね。磨けばいいモノになる資質を持っている。わけのわからん奴に勝手なことをされてはかなわん」

祇園祭に行った亜希は、ペルシャ絨毯を熱心に写真に撮る若い男と知り合う。「あなたは美術関係の仕事でもなさってるの」「いや、商社に勤めてます。本社は名古屋ですが、月の半分は東京です。岸田と言います」名刺を亜希に渡す岸田は、二年前に仕事でイランに行ったと話す。

「絨毯はペルシャ人にとって単なる敷物じゃないんです。彼等にとって絨毯は一つの世界なんです。皆その上で生まれ、その上で育ち、その上で愛し合い、その上で死んで行く。ある時は身体を包んで寒さをしのぎ、ある時は壁に掛けて眺めて楽しむ。美しい絨毯は荒涼たるイランの第二の自然なんです」「……」

旅先の揺子に電話する亜希。「お部屋ありがとう。これから帰るとこ」「ところでどう。あいつとうまく別れられそう」影山に愛撫されたことを思いだす亜希。「もしもし。どうしたの」「大丈夫よ。今度は御声援に答えられそう」「怪しいもんね。ダメよ、帰ってすぐに電話したら」「大丈夫よ。東京に帰ったら、すぐデートするわ。若い男の子と」

二年前の秋。マックス・エルンスト展に行った亜希は影山という老人に声をかけられる。「君のようなお嬢さんにはマックス・エルンストは毒だろう」「そんなことはありません」「無理に背伸びすることはない」「背伸びなんかしてません」「こういう絵が好きなのかね」「体の芯がしびれるような魅力を感じます」「それほど感動したなら、私のコレクションを見せてあげるかな」「エルンストのコレクションをお持ちなんですか」「エルンストなら何点か。他にもある」影山のマンションで影山に抱かれる亜希。それから亜希は影山の奇妙な魅力の虜になり、影山の言いなりになってしまう。

東京のデパートに開催されるペルシャ五千年美術絨毯展に岸田と一緒に行き、その美しさに圧倒されてめまいを起こす亜希。「いつかどこかでこれと同じものを見た気がするわ」揺子に電話する亜希。「帰ってからあの人と一度も会ってないわ」「でも二年間あいつに操られた自分の体を甘く見ないことよ。とにかく、亜希はあいつのせいで自殺未遂まで行ったことを忘れちゃだめよ」

愛してるんですと泣きじゃくる自分を、愛なんてものに頼るなんて幻滅したねと影山に冷たく言われたことを思いだす亜希。「大事なのは男でも女でも自由であることだ。君こそその自由に耐えられる女だと思っていたが」「自由なんておっしゃって、私、奴隷と同じじゃありませんか。あれをしろ、これをしろと好きなように命令ばかりなさるわ」「私は何一つ強制してない」

影山からの電話を受ける亜希。「部屋で待ってる。来たまえ」「ダメです。私、勉強があります」「何の」「ペルシャ。イランのことです。絨毯など」「ペルシャのことなら僕のところでも勉強できる」影山のマンションに行く亜希。「今夜の君はペルシャの踊り子になるんだ」「……」「目を閉じて想像力を働かせてごらん。君はシルクロードを越えて、はるばる唐の都長安に買われてきたんだ」「……」

大雨の夜、影山からの電話を受ける亜希。「どうだ。今夜は下着をつけないでレインコートだけにしたら。ちょっと面白いだろう。これから迎えに行こうか」車の中で影山の愛撫を受ける自分を想像した亜希は名古屋にいる岸田に電話する。「私のこと覚えてる」「勿論」「会ってくださる」「いつです」「今すぐに」「え、こんな時間に」「今会いたいの」「わかった。何かわけがあるんだな。四時間もあればつけるだろう」大雨の中、高速道路をぶっとばして、亜希のアパートに向かう岸田。

亜希に電話する影山。「どうする。迎えに行こうか」「いえ。友達が来ることになったので出られません」「男の友達?」「そうです」「嘘をついてもダメだよ」「嘘ではありません。若い男です」「恰好だけの若い男では君には無理だろう」

アパートにやってきた岸田は亜希を抱きしめるが、そこに電話のベルが鳴る。「なんだろう、こんな時間に」「出てくださる?」「いいのか」電話に出た岸田は君あてだと受話器を亜希に渡す。「今出たのが友達か?」「はい」「一緒に寝てるのか」「そうです」「若い男に君は扱えないよ」「もう電話をなさらないでください」電話を切った亜希は、身勝手で悪いけど今夜は何もしないで過ごしたいと岸田に言う。「今の電話が原因か」「……」「わかったよ」「ごめんなさい」

愛人と喧嘩した揺子が亜希のアパートに転がりこんでくる。「どうした。ちゃんとあいつと別れられた」「うん」「本当。祇園祭で会ったとかいう子とうまく行ってるの」「そう。今夜泊まりに来るかもしれない。今朝別れ際に来るって言ったの」だから一緒にいてと揺子に頼む亜希。「だって二人きりだと断れないでしょう」「何を断るの」「怖いの」

あなたって情熱家ね、と岸田に言う揺子。「雨の中を名古屋から車で駆けつけるなんて。亜希の恋人じゃなかったら、私がどうかしちゃうけどな」そこに電話が鳴る。出ない亜希にまだあいつと切れてないのねと言う揺子。鳴りやむ電話。亜希は不良老人にずるずる引っ張られてると岸田に話す揺子。「あなた、しっかりしてよね」

また電話がなり、応対した岸田は、亜希は電話が出たくないと言っていると影山に告げて電話を切る。「もうこれで掛けてこないだろう」また電話がなり、岸田が出るが、それは揺子の愛人からの電話だった。愛人に呼びだされ、そそくさと亜希のアパートを出る揺子。

なんとなく怖いの、と岸田に言う亜希。「僕が?」「自分が」「大丈夫だ。おいで」亜希を抱きしめる岸田。「もっと優しくして」「君が好きだ」「もっと静かに」「いやだ。僕は若いんだ。君だってそうだろ。若者同士のセックスに洗練された技巧なんているもんか」荒々しく亜希の体を奪う岸田。

亜希は岸田とドライブやディスコに行き、若者らしい恋愛を楽しむが、影山からの電話を受けてしまう。「君に見せたいものがある。見事なペルシャ絨毯だ。肌触りも素晴らしい」「なぜ買ったんですか」「君をこの上に裸で転がして眺めるためにね」裸になって絨毯の上にいる自分が影山に見つめられる姿を想像する亜希。

秋。結婚したいという岸田に、そこまでは考えてないと言う亜希。「君は愛されていると思ったが。男の自惚れかな」「京都に会った時、何かが起こりそうな気がしたわ。あなたを本当に好きになるんじゃないかと。でも結婚する気にはなれない」「遊びでもない。結婚でもない。どういうつもりなんだ」「うまく言えないのよ。ただはっきりしてることは今は結婚したくないのよ」

サングラスの女に呼び出される亜希。「影山は死ぬかもしれません。ガンなんです。あなた、影山のお気に入りでしょう。だから内緒でお知らせしようと思ったです」影山に電話する亜希。「これからうかがってもよろしいですか」「ああ、いいとも」影山のマンションで、ペルシャ絨毯の上に横たわる亜希。「抱いてください」亜希とともに絨毯の上に横たわる影山。「この絨毯は君にあげよう」「こんな高価なものはいただけません」「私が死んでからだ。もっともいつ死ぬかわからないがね」岸田に別れますと告げる亜希。

冬。クリスマスプレゼントにイランの涙壺を亜希に送る岸田。<君は逢いたくないようなので、これを贈らせてもらいます。昔、夫が戦場に行くと、妻は夫を思い、この涙壺に涙をためたそうです。ポットにたまった涙が多いほど、彼女の悲しみは深く、愛は大きいと言うわけ。君と結婚したい気持ちは変わらない。あんな老人のことは忘れて僕の懐に飛び込んできてほしいと思います>

早春。内村と会う亜希。「影山君に頼まれましてね。これをお受け取りください。航空券です。発効日から一年間有効なイラン航空のチケットです。ファーストクラスの往復券です」「あの、影山さんは」「彼の遺志ということですから、このまま受け取りなさい」「亡くなられたんですか」「まあそう考えてもいい。見舞いも弔いもいらないと本人は言ってます」

五月。成田空港に亜希を見送りに来る揺子。「岸田君、見送るって言ったのにどうして断ったの?」「せっかく憧れのシルクロードの上を飛ぶのに、妙に湿っぽいお別れにしたくなかったからよ。それだけ」「なんだか、亜希とはこれっきりって気がするな」「やめてよ。すぐ帰ってくるわよ。亡命するわけじゃあるまいし」

飛行機の中でイランは初めてですかと中年男に話しかけられる亜希。「はい、ですから私、少し興奮してるんです」「わかりますよ。我々は今シルクロードの上を飛んでるんですからなあ。あの歴史ある道の上を八時間で飛ぶ。何か申し訳のないことをしてる気分ですねえ」「本当にそう思います。私も」

イランに着いた亜希は揺子の知り合いの成田夫婦の世話になりながら、イラン大学の学生のエスラミをガイドにして、イランのあちこちを回る。この国はここまで見ればおしまいと言うことはないと亜希に語るエスラミ。「五千年の歴史を持った土地を本当に知るには、五千年かかるかもしれない。それがペルシャだ」砂漠の遺跡を歩く亜希は影山の蜃気楼を見て、気を失う。

意識を取り戻した亜希はそばに岸田がいるのを見て驚く。「どうしたの」「東京から君の看病に来た。黙っていても飛行機に乗ってればイランに着く。雨の東名を飛ばすほうがよっぽどきついよ」「わざわざ来てくれたの」「ああ、ここの成田夫婦が心配して、揺子さんに電話した。そして揺子さんが僕に電話してくれたんだ。亜希がテヘランで死にかけてるって」「……」「なんだ、泣いているのか。君らしくもないぞ。俺に会えてそんなに嬉しいのか」「ええ。嬉しいわ。とっても」

亜希は岸田の誠意に打たれ、岸田との結婚を決意する。二人は帰国するためにタクシーで空港に向かう。「これが今度の旅行で二番目の収穫だ。一番は勿論君だが」「何なの」「高価な美術品から遊牧民の素朴なものまで、イラン全土の絨毯を納めたカラースライドだ」「ちょっと見せて」スライドを見て目をつむる亜希。「もういいわ」「どうした」「どうもしない」

空港に到着する二人。「やっぱり一時間半くらい遅れそうだ」「さっきのスライドは東京に持って帰ってどうするの」「今度関西の化繊メーカーに機械織りの絨毯を大量に作らせるんだ。美術品じゃない。大衆向けだ。手織りで何年もかかる奴が、何十分であっという間に織りあがる。このスライドをコピーすれば本場モノと同じデザインが生かせるだろう。来年の春はうちの社が取り扱うこの絨毯が中近東からヨーロッパまで凄い勢いで進出すると思う。商社マンとしては腕が鳴るね」

それはおかしいわと言う亜希。「何が」「こっちのデザインの絨毯をそのまま日本で機械織りに使うってこと」「絨毯の柄に著作権はないんだぜ。君はデザイナーとしてのモラルを気にしている」「そうじゃないわ。あなたは前に美しい絨毯は荒涼たるイランの第二の自然なんだと言ったわ。あの言葉とても印象に残ってるの。あの言葉を言ったあなたが私は好きなのかもしれない」「だから何なんだい」「あなたのしてることは第二の自然を盗もうとしてるのよ」

違うと言う岸田。「絨毯の高級品は目の玉が飛び出るような値段だ。買えるのは一部の金持ちだけだ。何年もかけて絨毯を織った人はそれを売った金で粗悪な絨毯を買うんだ。最高に美しいものを手に入れるのは一部の特権階級だけだ。僕はそれに反対だ。安い値段で丈夫な機械織りの絨毯を作る。そのデザインは最高の芸術品と同じものだ。それを大衆に提供するんだ。君はまさか見事なデザインは特権階級が独占すべきと思ってるんじゃないだろうな」

「そうじゃないわ」「だったらそんな目で僕を見るなよ」「あなたの言うことが理解できないだけよ。どこかが違うって気がするの」「まあいいさ。別にデザインに対する考えが違うからって、男と女が一緒にやっていけないわけじゃない」「そうかしら。私、意見が違う二人は一緒に暮らせない気がする」「愛しあっててもかい?」「ええ。愛しあっててもよ」「さあ、もうすぐ搭乗手続きだ。議論の続きは東京に帰って、結婚式の後でもゆっくりやろう」

私は飛行機に乗らないと言う亜希。「なんだって。どうしたんだ」「どうもしないわ」「怒るぜ。本当に。一緒に東京に帰って結婚するんじゃなかったのか」「だって、意見が違うんですもの」「俺のことが好きじゃなかったのか」「好きよ。でも帰らないわ」「わかった。僕はこの便で帰る。いいんだな」「ええ」

飛行機に乗り込む岸田。考え込む亜希。(私は岸田と結婚しようと思ったが踏み切れなかった。男には愛よりも幸せよりも何か大事なものがあると言う。しかし女には愛と幸せがあればいいのだろうか。そんなことを考える女は一生結婚できないのかもしれない。でも私はそんな道を歩いていく。このペルシャの土地が私にそう生きろと教えてくれたのだ)亜希はペルシャの遺跡の中を一人歩くのであった。

★ロロモ映画評

二年前の秋にマックス・エルンスト展に行った亜希(真野響子)は影山(佐分利信)という老人と知り合って、影山の奇妙な魔力の虜となってしまう。亜希の友人の揺子(小川真由美)は何度も影山と別れるようにアドバイスるするが、亜希はどうしても別れることができずにいた。影山に別れの手紙を書いて京都に行った亜希は、ペルシャ絨毯を熱心に写真に撮る岸田(北大路欣也)と言う若い男と知り合う。

絨毯はペルシャ人にとって単なる敷物じゃないと言う岸田。「彼等にとって絨毯は一つの世界なんです。皆その上で生まれ、その上で育ち、その上で愛し合い、その上で死んで行く。ある時は身体を包んで寒さをしのぎ、ある時は壁に掛けて眺めて楽しむ。美しい絨毯は荒涼たるイランの第二の自然なんです」

この映画は一言で表現すると「愛の不条理劇場」とでも言うべきものでありまして、ヨーロッパ的芸術映画に対する日本映画の回答とでも言うのか、西洋も東洋もペルシャ5000年の伝統芸術にはかなわないということなのかと思いますが、基本的にはわけのわからない映画でありまして、愛とはわけがわからないものだとロロモは感銘を受けるわけです。

 ハイ・ファイ・セットの歌う武満徹作曲の主題歌の素晴らしさは印象的でありますが、この映画のテーマはテーマが弱い女から強い女への変貌かとも思われ、映画の後半部分はイラン観光紹介っぽくなりますが、イランに行ってからは女の自立がテーマとなりながら、この世界は愛の不毛砂漠なのかと感じたり、亜希はペルシャの踊り子の生まれ変わりというのはシルクロード幻想と言うか、輪廻の世界が展開されますが、この映画公開当時は日本にシルクロードブームがあったような気もして、この映画はそんなブームに乗せられた映画なのかなとも思ったりもするわけです。

マックス・エルンストがどういう画家なのかロロモは知りませんし、亜希の住んでいるボロアパートの意味もわかりませんし、といろいろわからないのですが、一番わからないのは佐分利信のわけのわからない老人力でありまして、何を言っているのか聞き取りにくいし、聞き取れても言っている意味がわからないところがあるわけです。

亜希が自殺未遂になるほどの影山の変態愛の強さがロロモには理解できなかったところもあり、老人の変態プレイに応じる若い女と言う構造は、それが精神の美しさは肉体の美しさを凌駕するということなのか、単なる肉体の衰えたジジイの姑息なテクニックの素晴らしさなのかロロモは困惑しますが、そう言えば昔、凌駕という力士がいたなということをロロモは思い出すわけです。

彼は1973年3月場所に初土俵から9年10ヶ月を掛けての新入幕を果たしましたが、4勝11敗と大敗して、十両に逆戻りして、結局幕内成績はその一場所だけになってしまいましたが、こういう一場所限りの幕内力士というのは結構いるのではないかと思ったりもしますが、力士の四股名は自然や動物と言った日本の国土を由来するものが多い中で、「凌駕」と言う四股名はなかなか力強くてカッコいいなとロロモは高く評価するのでありました。(2013年4月)

得点 72点

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