燃えつきた地図

1968年 大映

キャスト:勝新太郎(所員)市原悦子(根室ハル)大川修(弟)渥美清(田代)信欣三(マスター)吉田日出子(ウェイトレス)

監督:勅使河原博

ハルは六か月前に失踪した34歳で大燃商事の調査課課長の根室宏の捜索を日の出興信所に依頼する。興信所の所員は喫茶店・つばきに行き、ウエイトレスからマッチをもらう。「いい時計じゃないの」「スイス製なの」「ここ何時まで」「夜の八時まで」「やけに早仕舞いだな」「朝が早いの」「ちょっと聞きたいことがあるんだけどな」「お客様とは口を聞いてはいけないシステムになっているの」

所員はつばきの駐車場で、根室の義弟という男から話しかけられる。「弟がいるなんて話は初耳だけどな」男は金バッジを所員に見せる。「姉貴夫婦はズブのカタギだったからね。出張った真似はしたくないんだ」根室は自動車修理で小番稼ぎしていたという男。「免状もちゃんと二級整備士とってたしね」「それで」「ひょいと思いついたんですよ。駐車場なら車の取引におあつらえむきでしょう。そんなことより姉貴をどう思います」「僕は金で雇われたただの調査員さ」「日記見たいですか。兄の日記ですけどね。見たけりゃ明日にでも姉のところに届けますがね」「ま、期待して待ってるよ」

ハルのアパートに行き、もっと協力してくださいよ、とハルに訴える所員。「情報の出し惜しみもほどほどにしてもらわないと。ついさっき、弟さんという人に会いましたよ。なぜ教えてくれなかったんでですか」「だってダメなのよ。居所がはっきりしてないでしょう」「冗談じゃない。いったい何人行方不明になってるんです」「行方不明ってわけじゃないわ。住所がはっきりしないだけ」

「もうすこし協力的になってもいいじゃないですか。偶然出会った弟さんのほうが協力的だったな。明日日記を届けると言ってましたよ」「日記?」「あなた何もご存じない。ご主人が自動車整備士の資格だって持っていたことも」「それは知ってるわ」「じゃあなぜ黙っているんです」「多すぎたのよ。あの人、免状キチガイだったのよ。九つも持っていたわ」「変わった人だな」「資格は碇をおろすんだって言ってたわ」「ま、いいでしょう」

夜になってつばきの様子をうかがう所員に、マスターが「何の真似だ」と聞く。「もういいよくわかったよ。あの娘にスイス製の腕時計を買ってやったのはあんた以外の誰でもないってことがわかった」「わからんね。何のことか」「根室って名前に心当たりないかい」「根室?運転手か」「運転手?」「いや。聞いたことも無いな」「知らなきゃいいんだよ」

大燃商事に行き、根室の部下の田代に、根室が失踪した朝のことを聞く所員。「さあ、出社の途中で書類を預かる約束をしただけだから。すっぽかされちゃったんです」「その書類の内容は?」「わからないんです」「それで会社としては何の不都合も起きなかったと」「そういうことです」「その種類の届け先は」「わかりません。課長は張り切ってました。当時、昇進されたばかりでして」「じゃあ、ちょっとその待ち合わせの場所を地図に書いてくれませんか」「ええ」

所員の車に乗り込む田代。「僕、嘘をついてしまったんです。たいした嘘じゃないけど」「そうだろうな」「あの書類の届け先は前田雄吉という鳥尾町の町会議員なんです。でも根室課長、本当に行方不明なんですか」「気にすることはないよ」「僕が本当に言いたかったのは、根室課長がヌード写真に凝っているということなんです。撮るほうです。スタジオにもしょっちゅう出入りしてるんです」「お気に入りのモデルでもいたのかな」「ええ、今度あれでしたらその写真をお見せしましょう」

所員はプロパンガスを扱う前田の事務所に行く。そこにはハルの弟がいた。「偶然だねえ」「偶然がこうも続くと偶然とはいえないねえ。こんなところで何してるんだい」「あんたは」「仕事さ」「どうやら想像以上に腕のいい探偵らしい」「約束の日記はどうなっている」「そうそう、ここで半日も無駄足くったからな。まったくとんだ狸親父さ。明日はきっと届けるよ」ここに強請に来たという弟。「馬鹿にしてるぜ。ちゃんとここに来ると電話してたのにな」

弟を車に乗せる所員。弟は調査費用は俺が払っていると所員に話す。「週に三万、月に十二万。姉貴にそんな金を支払えるわけないでしょう」弟はバスを改造したラーメン屋に所員を連れて行く。ラーメン屋の主人に「あんた組の人ですか」と聞かれる所員。「いやただの友だちさ」

主人は組の若い者が三人しか出てないと弟に文句を言う。何かあるのか、と聞く所員に、俺は出入りは嫌いなんだ、と答える主人。弟は様子がおかしいと所員に言う。労務者は暴れ出し、女を襲い、喧嘩を始め、大爆発が起こり、所員は慌てて車に乗って逃げる。

ハルのアパートに行く所員。「また弟さんと会っちゃいましてね」「どこで」「いったいどううことなんだ。こんなかくれんぼみたいなことは沢山だ。御主人のことを思い出してください」「無理だわ」「なぜ」「逃げ出してしまったもの」「しかし、ここにご主人がいたことは事実なんでしょう。いないものが逃げ出すわけがないんだから」「そうね」

根室は車が好きだったわ、と言うハル。「最後の朝も車で出かけたんでしょうね」「いいえ。失踪する一週間前に売ってしまったわ」「相手は誰なんです」「怪しい人じゃないわ。だって車に置き忘れてあったって、レインコートわざわざ届けてくださったもの。そのレインコートにつばきのマッチがあったのよ」

レインコートにはスポーツ新聞があり、求人欄には運転手募集の欄を黒枠で囲ってあった。「待てよ。この電話番号は」「ええ。つばきの電話番号ね」「なぜ黙ってたんです」「でもマッチ差し上げたでしょう」「……」「ビール、お飲みになります?」

レインコートを着てつばきに行き、マスターに根室の写真を見せる所員。「あんた、何か勘違いしてるんじゃないのかい」「じゃあ、このレインコートは?奥さん、あんたに返してもらって、大変喜んでいたぜ」「まるっきり寝言だよ」「それじゃ奥さんに電話させてもらうぜ」 

ウエイトレスにはやらない店なのにいい給料をもらっているようだな、と聞く所員。「あらこれでも朝ははやるのよ」「今は朝だぜ」お客と口をきくな、とウエイトレスを叱咤するマスター。

所員は、ハルから、「弟が殺されたの。いまから告別式。来て下さらない。誰もいなくなったでしょう」と言われる。所員は興信所に電話して、依頼人の弟が殺られたと報告するが、主任から君は刑事事件に関わったからクビだ、と言われる。「あんたは運が悪かったんだよ。あんたくらいの頭があればほかに勤め口はあるだろうよ。じゃ、またな」

田代に電話して、5時に会う約束をする所員。「肝心なものを忘れないでな。例のヌード写真だよ」弟の葬儀に参列するハルと所員。「この喪服、貸衣装屋さんで借りちゃった」「似合いますよ、あなたに黒は」「うふ」ハルに三時間前にクビになって、もう探偵じゃないという男。「ご心配なく。約束通りあと三日は調査を続けますから」「三日だけ」「だって費用を持ってくれる弟さんはもういないんだ。もっとも弟さんのことが新聞にでも出れば、ご主人は帰ってくるかもしれない」「なぜ」「ありうることでしょう」「ありえないわ」

弟は女の人が好きになれなかったと話すハル。「でも私は姉でしょう。世界でただ一人の女でない女ね。だから弟は私が好きだった。私も弟が好きだった」「ご主人以上に?」「そんなこと比べられないわ。でも弟は主人のために随分力になってくれたのよ。課長になれたのも弟のせいかもしれない。それまで他の会社と取引していた大きな燃料会社を主人の会社に鞍替えさせたの」「鳥尾町の前田燃料店」「知らないけど」「そういうことがかえってご主人の負担になったんじゃないかな」「私たち計画立ててたの。課長になったら子供作ろうって」

田代とレストランで会う男。「写真は?」「好きなんだな、まったく。全部カラーでね。凄いんだ。雑誌なんかじゃ毛を見せちゃいけないんだってね」写真を見る男。「なんだって後向きばかりなんだ」「女ってのは尻から見たほうが一番美しく見えるんじゃないですか」「しかし、こんな写真の保管をまかされていたとなると、君はよくよく根室さんに見こまれていたらしいな。君の部屋に行って、別の保管品を見せてもらう必要がありそうだな」

「いや、部屋じゃないんだな。行きつけの貸し現像屋に課長専用のロッカーがある。僕はそのマスターキーを持っているんです」「この写真が根室さんのものであるという証拠があるといいんだがな」「よくもあなたは人の好意を踏みにじるようなことが言えたもんですね。信じてないなら返してください」「信じてもいないし、うたぐってもいないよ」

僕は課長を尊敬しているという田代。「あんなふうに逃げ出すなんてすごく勇気のいることだと思う」「じゃあ君も逃げだしたらどうなんだい」「そういう自分はどうなんですか」「……」「逃げだせないから、来る日も来る日も仲間を出しぬいたり、くだらないことに精を出してるじゃないか」「逃げだした人間も同じことをしているのかもしれない」「……」「そろそろ場所を変えて、一杯やろうじゃないか」「じゃあ、ヌードスタジオのあるビルの地下にあるバーに行きましょう。そこでその写真のモデルに会えるかもしれません」

男と田代はバーに行き、田代はモデルだという娘を連れてくるが、娘はそんなモデルになった覚えはないという。バーを出る男を追いかける田代。「どうしたんですか。ああいう女に興味がないんですか」「……」「すいません、僕、自分でも自分の性格にうんざりしているんです。相手に満足してもらおうとサービスしすぎちゃうんだなあ。嘘ばかりついちゃうんです。もう信じてもらえないかもしれないけど、あのモデル、課長の奥さんかもしれないんです。御存じでしょう。その可能性は十分なんです」「……」

「よし、今度こそ言ってしまおう。あまりに恐ろしすぎて口にするのもはばかれるような秘密なんですけど、もう黙っているのは耐えられないし」「お願いだから耳にツバキをかけるのはやめてくれよ」

タクシーに乗る男と田代。「僕、見たんですよ。根室課長を見たんですよ」「どこで」「それがとても元気そうなんだ。家出人みたいなみじめさは全然なくて、颯爽と歩いてました」「どうして向こうは君に気が付かなかったの」「それは僕が尾行したからです」「後ろ姿だけでどうして確認できたの」「レインコートですよ」タクシーを止めさせ、田代に降りるよう命令する男。「後悔しますよ」「あいにくレインコートは遺留品としてちゃんと保管されているんだ。一晩ゆっくり寝て、もっと上手な嘘を考えて。な」

真夜中、男に電話する田代。「なんだ、君か。なんだ、今頃」「どうしても電話しなくちゃならなかったんです」「じゃあ切るよ」「いけません。人間の最後の声くらい真面目に聞いたらどうなんです。僕はこれから自殺するところなんだ」「自殺?」「もううんざりしちゃった、課長のことにも。今日の夕刊には僕の死亡記事が載るんだな」「悪いけど、もう二、三時間したら電話してくれないかな」鈍感な人だな、と愚痴を言いながら自殺していく田代。

早朝、つばきに行く男は、店が客でいっぱいなのに戸惑う。電話を受けるマスター。「はい。よろず交通さんですね。え、三人。はい。毎度ありがとさんです」32番、35番、39番と怒鳴るマスター。「今の三人はよろず交通さんね」客たちは道路がどうのこうのと話しする。

客の一人に根室って人を知らないかと聞く男。くどいね、あんたと男に言うマスター。「嫌がらせもほどほどにしなよ」「なんだって俺ばかりのけ者にされるんだ」「ここじゃ身の上話はしないことになっているんだ」「本気で仲間入りさせてもらおうと思っているんだぜ」客の一人に背後からビール瓶で殴られた男は、数人の客から暴行を受ける。

ハルのアパートに行く男。「顔を洗わせてください」「何があったの」「難しいもんだな、話しかけるってことは」「……」「それから、田代君,自殺しましたよ」「自殺?」「どいつもこいつも勝手に逃げ出してきやがる」「どうして探偵なんかになったの」「いちばん職業らしくない職業だからじゃないかな」「どうしても帰らなくちゃダメ」「もちろんさ」「ダメ。動いちゃダメ」ハルから傷の手当てをされながら、誰もいない都会を抜け出し、都会の幻を背景とした砂漠を歩く自分を幻想する男。

ちょうど五分前に契約が切れたわ、と男に言うハル。「契約?」「いいのよ。気にしなくても。朝はトーストでいい?寝坊しちゃった」黙ってハルのアパートを出て行く男。しばらく男は都会の雑踏に身を任せて、ハルに電話する。「僕だよ」「どうしたの。具合が悪いんじゃないの」「よくはないね」「すぐ帰らないと」「帰るってどこへ」「決まってるじゃないの」「そうかな」「どこからかけてるの」「向こうに坂が見えるよ。それに白い建物だ。お願いだ。助けてくれよ」「今行くわ。そこを動いちゃダメ」

電話ボックスを出て、物陰に隠れた男は、ハルが男を探すのを見つめる。しばらくして立ち上がった男は、車に轢かれてぺちゃんこになった猫の死体を見て呟く。「名前なんてない。とうとう聞かずにしまったな。そのうちに何か考えてやるさ。二度と忘れないようないい名前をな。な」

★ロロモ映画評

ハル(市原悦子)は六か月前に失踪した34歳で大燃商事の調査課課長の根室宏の捜索を日の出興信所に依頼する。興信所の所員(勝新太郎)は喫茶店つばきに行き、ウエイトレス(吉田日出子)からマッチをもらう。「ここ何時まで」「夜の八時まで」「やけに早仕舞いだな」「朝が早いの」所員はつばきの駐車場で、根室の義弟という男(大川修)から話しかけられる。「弟がいるなんて話は初耳だけどな」男は金バッジを所員に見せる。「姉貴夫婦はズブのカタギだったからね。出張った真似はしたくないんだ」根室は自動車修理で小番稼ぎしていたという男。

ハルのアパートに行き、もっと協力してくださいよ、とハルに訴える所員。夜になってつばきの様子をうかがう所員に、マスター(信欣三)が何の真似だと聞く。「根室って名前に心当たりないかい」「根室?運転手か」「運転手?」大燃商事に行き、根室の部下の田代(渥美清)に会う所員。「僕が本当に言いたかったのは、根室課長がヌード写真に凝っているということなんです。撮るほうです」

この映画の言わんとするところを理解できる人は極めて知能指数の高い人でありまして、そんなに高くないロロモはこの不条理な世界は何を意味しているのかと頭を悩まし、都会に住む孤独感というものがこの映画のテーマなのかなと必死で考えて思いますが、そんなものじゃないとも考えたりもし、まあ普通の映画より脳みそが汗をかく映画でありますが、汗をかくのを放棄した時、これほど空しい映画もなく、やはり汗を絞り出して見ないといけませんが、もうそんなに汗の出る脳を持ってないロロモとしてはキビシイ映画と言わざるを得ないわけです。

この映画が公開された1968年にメキシコ五輪開催。日本は金メダル11個、銀メダル7個、銅メダル7個獲得しました。その内訳は、金メダルが体操男子団体、加藤沢男(体操男子個人総合)、加藤沢男(体操男子種目別ゆか)、中山彰規(体操男子種目別つり輪)、中山彰規(体操男子種目別平行棒)、中山彰規(体操男子種目別鉄棒)、中田茂男(レスリングフリースタイルフライ級)、上武洋次郎(レスリングフリースタイルバンタム級)、金子正明(レスリングフリースタイルフェザー級)、宗村宗二(レスリンググレコローマンライト級)、三宅義信(重量挙げフェザー級)。

銀メダルが君原健二(男子マラソン)、男子バレーボール、女子バレーボール、中山彰規(体操男子種目別ゆか)、遠藤幸雄(体操男子種目別跳馬)、藤本英男(レスリングレコローマンフェザー級)、大内仁(重量挙げミドル級)。銅メダルが、サッカー、森岡栄治(ボクシングバンタム級)、中山彰規(体操男子個人総合)、加藤武司(体操男子種目別ゆか)、加藤沢男(体操男子種目別つり輪)、監物永三(体操男子種目別鉄棒)、三宅義行(重量挙げフェザー級)。こうして見ると、当時の日本がいかに体操王国だったがよくわかり、そんな中で中山彰規が金メダルが4個取ったのが目立ち、彼は4年後のミュンヘン五輪でも団体総合とつり輪で金メダルに輝きますが、ロロモは彼のことはほとんど覚えていないのでありました。(2013年1月)

得点 12点

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