南極料理人

2009年 日本

キャスト:堺雅人(西村)生瀬勝久(本さん)きたろう(タイチョー)高良健吾(兄やん)古舘寛治(主任)黒田大輔(盆)小浜正寛(平らん)豊原功補(ドクター)西田尚美(みゆき)小野花梨(友花)

監督:沖田修一

1997年・南極。ドームふじ基地は平均気温マイナス54度、標高は富士山よりも高い3800メートルというペンギンやアザラシはおろかウィルスさえ生息できない極寒地にあり、そこには大学院から派遣された雪氷サポーターの兄やん、極地研究所から派遣された大気学者の平さん、通信社から派遣された通信担当の盆、北海道の私立病院から派遣された医療担当のドクター、気象庁から派遣された気象学者のタイチョー、自動車メーカーから派遣された車両担当の主任、極地研究所から派遣された雪氷学者の本さん、海上保安庁から派遣された西村の8人が観測隊員として、1年間生活することになっていた。

今日は節分ですと言うタイチョー。「西村君。豆あるの」「ないので、ピーナッツでいいですか」「ピーナッツか。まあいいんじゃないの。それで鬼は誰がやるの」「あの、メシ、冷めてしまいますから」食材は冷凍、乾燥、缶詰が基本となるが、西村は精魂を込めておにぎりと豚汁を作る。隊員たちはガツガツ食うが、主任は日本に帰りたいと言う。「西村さん、一緒に脱走しない?」「どこに。死ぬよ」「なんでこんなところに来たんやろ。左遷もいいとこですわ。帰ってパチンコ行きたいわ」「主任、まだ二月だよ」

前の隊の置いていった伊勢海老で西村は刺身を作ろうとするが、ほかの隊員がエビフライを要求するので、やむなくエビフライを作る。妻のみゆきの送ったFAXを読む西村。「拝啓。お父さん。お元気ですか。うちは相変わらず平和です。今日は節分ですが、掃除が大変なので友花に遠慮してまくように言いましたが、きっと守ってくれないでしょう。我が家の鬼はお父さんの書いた似顔絵です。お父さんがいなくなって毎日が楽しくて、仕方ありません。なので余計な心配はしないで、そちらで元気にお過ごしください」鬼になった兄やんに落花生をぶつける隊員たち。

日本に戻ったらトライアスロンに出たいと西村に言うドクター。「トライアスロン?」「いや。一年こんな空気の薄いところにいたら、いい線行くんじゃないかと思って」「暇ですねえ」「いや、ここは自由だね。がみがみ言う奴なんか誰もいなくて。俺なんか、あと2、3年いてもいいと思うけどね。ハハハ」1分740円という高い料金にもかかわらず、砂時計で時間調節して日本にいる恋人に電話する兄やん。

今日は4月7日だと西村に言うタイチョー。「本さんの誕生日だ」「本人もわかってるんじゃないですか」「いや、いつもやり過ごしてしまうんだよね。だから、今回は内緒でやったらいいんじゃないかと思うんだ。みんなに言っておくから、西村君はご馳走の方をよろしくね」今日は肉を食いたいと西村に言う本さんは娘から電話で「ハッピー・バースデー」を歌われて相好を崩す。

西村は牛肉の丸焼きを調理する。ビールを飲んで本さんの誕生日を祝う隊員たち。ここに来るのを奥さんは賛成したかと西村に聞く本さん。「ええ、まあ」「うちは毎回大もめだよ。これ以上、家をほったらかしにすると覚悟があるって。やりたい仕事がたまたまここでしかできないだけなんだけどなあ」

6月になり、太陽は姿を見せなくなり、極夜と呼ばれる状態になり、基地は闇に覆われる。そして6月下旬になると、世界中の基地が南極の冬至を祝うミッドウィンター祭が行われ、正装した隊員たちはフランス料理のフルコースに舌鼓を打つ。

8月になり、西村は中華料理を作って隊員を喜ばせる。カニを食いながら驚くタイチョー。「もうラーメンないの」「夜になるとラーメンを食う人が続出して、とうとう底をつきました」「まだ8月だよ」道理で朝からカニが出て来るわけだと呟く本さん。小麦粉と卵はあるんでしょうと言う平さんにかん水がないんですと言う西村。電話代大変だからと恋人に電話を切られてしまう兄やん。

風邪で具合が悪いと言う主任におかしいなと言う西村。「ここには風邪になるような菌はないはずですが」「だから風邪みたいなもんだよ」「ドクターに何か薬を頼みましょうか」「いや、いい」「じゃあ、カニを置いておきます」みんな大変なんですと不満をもらす平さん。「僕はこの観測に3年間準備をしてるんです。本さんだってそうでしょう」「まあ、主任みたいのもいるよ」「不公平だぜ」西村に眠れないと訴えるタイチョー。「それはドクターに相談してもらったほうが」「西村君。僕の体はラーメンでできている。ラーメンが食えないとなると、僕はこれから何を楽しみに生きていけばいいんだろう」

バターをなめる盆に糖尿になりますよと注意する西村。日本に帰ったらビーチバレーをしたいと本さんに言うタイチョー。平さんと主任は喧嘩して、その喧嘩に巻き込まれた西村は大事にしていた友花の乳歯を紛失してしまう。怒った西村はふて寝するが、隊員たちが必死で料理を作るのを見て感激する。好きな人ができたと恋人に言われてしまう兄やん。「ああ、渋谷とか行きたい」

小学生と電話で話をするタイチョー。「そこにはペンギンはいますか」「ペンギンさんはいませんよ。僕たちのいるのはペンギンさんのいる昭和基地からずっと離れたところです」「じゃあアザラシはいますか」「アザラシもいないよ」「じゃあ、何がいますか」「そうだな。ここには僕たちがいます」「可愛い動物は?」「……」「もういい」電話に出るレポーター。「ドーム基地の皆さん。次は別の子に聞いてみます」

こんにちはと言う小学生。「こんにちは」「質問なんですけど、みなさんは普段何を食べてるんですか」「調理担当の西村です。こちらで食べているのは皆さんとそちらで食べているものとそう変わらないんですよ」「毎日8人分作るなんて大変じゃないですか」「最初は大変だったけど、もう慣れてきたから」「8人だけで寂しくないですか」「時々寂しいけど、ここにいるおじさんたちも皆同じだから。君は名前はなんて言うの」「友花です」

「ユカちゃん。僕の子供と同じ名前だね」みゆきと目を合わせて笑う友花。「ユカちゃんは食べ物は何が好き?」「えっと、いろいろ」「ごはんはお母さんが作ってくれるの」「お母さんなんだけど、お父さんが単身赴任してから、ずっと元気がないです」「じゃあ、今度はユカちゃんがお母さんに美味しいものを作ってあげるといいよ」「なんで」「だって美味しいものを食べると元気が出るでしょう」「うん。わかった」

かん水について調べたと西村に言う本さん。「平たく言えば、炭酸ガスを含んだ水なんだって」「はあ」「西村君。ふくらし粉は炭酸ナトリウムが含まれる。それに水を混ぜてみて。炭酸ガスが出るから。それに塩なんか入れると限りなくかん水に近いものになると思うがね。あくまて元素記号の話だけどね」

なんとかラーメンを完成させる西村。「いかがです、タイチョー」「ラーメンだ」凄いオーロラですと言う平さん。「あんなオーロラみたことない。ねえ、タイチョー。観測しなきゃいけないんじゃないの」「オーロラ?そんなもの知るか」平さんにラーメンを食わないとのびちゃいますよと言う西村。「早くどうぞ」「そうだね」

そして一年が過ぎ、観測隊は無事に帰国する。本さんを泣きながら空港に迎える本さんの妻。トライアスロン大会で優勝するドクター。遊園地にみゆきと友花と行く西村。今度、友花の誕生日だと言うみゆき。「それでホームパーティやろうと思うの。ポテトフライやコーラ買って」お父さんが料理を作ればいいと言う友花。安い脂でべとべとの照り焼きバーガーを食う西村。「旨っ」そして8人は再び集まってビーチバレーに興じるのであった。

★ロロモ映画評

1997年・南極。ドームふじ基地は平均気温マイナス54度、標高は富士山よりも高い3800メートルというペンギンやアザラシはおろかウィルスさえ生息できない極寒地にあり、そこには大学院から派遣された雪氷サポーターの兄やん、極地研究所から派遣された大気学者の平さん、通信社から派遣された通信担当の盆、北海道の私立病院から派遣された医療担当のドクター、気象庁から派遣された気象学者のタイチョー、自動車メーカーから派遣された車両担当の主任、極地研究所から派遣された雪氷学者の本さん、海上保安庁から派遣された西村の8人が観測隊員として、1年間生活することになっていたのであった。

ということで8人の南極生活が描かれますが、ロロモはこういう隊員ってのはどういう人が選ばれるのかちょっと関心があったので、別に探検家のような人ではなく、いろんなセクションから適材適所で専門家を寄せ集めて観測隊を作るんだと言うことがわかって、なるほどなあと思いましたが、見ず知らずの人が1年間閉じ込められた状態になるのだから、それはきっと色々大変なことがあるだろうと思うわけです。

しかし映画はまったく大変なことは起こらず1年間が終わってしまい、これは兄さんを除く7人がいい大人だと言うことで平穏無事に終わったと言うことなのでしょうが、それにしても8人もいれば絶対に何らかの派閥ができるはずですが、ここでの8人はそれぞれ1匹狼のような態度を取るので、南極と言う極限状態に置かれた人間ドラマと言うものは一切起こりませんよと言うスタンスを取るわけです。

そういう見る側の期待をあえて裏切る手法を取っているのがこの映画の最大の特徴でありまして、それがセンスがあると思うのか、あざといと思うのかで、この映画に対する評価が決まるのでしょうが、ロロモは最初はなんだかあまりにのほほんとしすぎているなと冷めた目で見ていたのですが、次第に8人に好意的になっていくのがわかり、別に舞台は南極でなくてもいいじゃんと言う思いとやっぱりこれは舞台が南極だから面白いんだと言う二つの考えが心の中で湧いてきますが、ラストのビーチバレーを見て、やっぱり男の友情はいいんだなあとほんわかと思ってしまうわけです。

この映画のポイントは食事でありまして、やはりあんな南極みたいなところにいたら、最大の楽しみは食事になるんだろうなと思われ、隊員たちは麻雀や卓球や音楽やラジオ体操や将棋や電話で、なんとか時間を潰そうとしますが、やはり食事は毎日しなくてはならないので、いかに楽しい食事をとるかがこういう生活を強いられた人たちにはもっとも大事なことになるので、8人がいざこざなしに過ごせたのは西村の料理の腕が素晴らしかったと言うことになり、その辺は彼の腕がいいと言うよりも人柄の良さが8人を団結させたと言うことかなと分析するわけです。

この映画は料理は腕で作るものでなく、心で作るものだと言うことを伝えますが、最後に西村がいかにも体に悪そうな照り焼きバーガーを食って、その旨さに驚くと言うのは、やはり家族そろって食べる料理がどんな料理よりも旨いと言うことを伝えたいのでしょうが、30年以上一人暮らしをしていて、あまり食事に関心のないロロモにはこの辺はなかなか伝わりにくいところがあるわけです。

食事は人間誰しもすることが大事なのであると言う考えより、食事は人間誰しもすることだからつまらないものであると言う考えの方がロロモ的にはウェイトが高いのかもと思いますが、そんなロロモでも南極に行けば、タイチョーのように「僕の体はラーメンでできている」と口走りそうなのでありました。(2015年10月)

得点 74点

なに戻る