嘆きの天使

1930年 ドイツ

キャスト:エミール・ヤニングス(ラート)マレーネ・ディートリッヒ(ローラ)クルト・ゲロン(キーペルト)ハンス・アスバース(マゼッパ)

監督:ジョセフ・フォン・スタンバーグ

厳格な初老のラート教授はその厳格さのあまりに生徒たちから「ごみくそ教授」と呼ばれる存在となっていた。ラートは生徒たちがローラという踊り子の写真を持っているのを発見する。首席のエイハムにこの女はどこにいると聞くラート。「首席の君まで。この女はどこにいる」「女たちのいる<嘆きの天使>というキャバレーです」ローラの写真をしげしげと見つめるラート。

ラートは<嘆きの天使>に行く。急いで逃げる生徒たち。ラートは生徒たちを追いかけてローラの楽屋に入ってしまう。「あなた誰?警察の人」「まさか。私はラートと言います。高等学校の教授です」「帽子を脱いだら?何の用」「あなたは私の生徒を誘惑している」「ここで幼稚園を開いているとでも?」着替えるローラを横目で見るラート。「もう話はおしまい?」「もう行きます。迷惑なようだから」「お行儀してるならいてもいいのよ。私が気にった?」

そこに現れる男。「誰だ、この男は?」「あの生徒たちの教授」「教授?」学問と芸術は相性がいいとラートに言う男。「私は座長のキーペルト。手品師です。名士に会えて光栄です」「私がここに来たのは」「存じておりますとも。嬉しい限りで」出番だからとステージに向かうローラ。「教授、あなたはお目が高い。心配ご無用。あの女の件はお任せを」「生徒たちはどこだ」「とにかく私にお任せを」

翌日、またラートが店に来たと慌てる生徒たち。地下室に生徒たちを逃がすキーペルト。ローラの楽屋に行くラート。「また来ると思ったわ」「私は帽子を忘れてしまって」「私に会いに来たんでしょう。コートを脱いだら?今日は学校のことで来たんじゃないでしょう」「私の昨日の振る舞いは失礼だったかと」「今日は合格ね。あとで私の写真をあげるわ」「……」「あなたってとても魅力的よ」嬉しそうな顔をするラートにパウダーを吹き付けるローラ。咳込むラート。「あら、ごめんなさい。大丈夫?」「ええ」

そこに現れる船長はローラに土産を渡して口説き始める。ごろつきめと憤慨するラート。「この男はパパかい?」「つきまとうな。失敬な男だ」「この女を予約済みか」「何を言う。この色魔め」「色魔だと」「そうとも出て行け」船長を楽屋から追い出すラート。警察を呼んでくると騒ぐ船長。私のために喧嘩をするなんてとラートに言うローラ。「気を取り直して祝杯をあげましょう」「僭越ながらあなたの健康を祝して」

そこに現れるキーペルト。「船長が警官を呼んだ」「私は恐れはせん」「面倒があると我々が困るんで。地下室に逃げてください」警官とともに現れる船長。「私は侮辱された」「その男はどこにいます」地下室で大騒ぎするラート。「とんでもない生徒たちだ。さあ上に出るんだ。けしからんごろつきどもだ」

この男が私を侮辱したと警官に言う船長。「私を色魔と言った。訴えてやる」「私も訴えてやる」生徒たちにここに何しに来たと聞くラート。「なぜこんなところに」「教授と同じ目的です」船長をなだめて店を出る警官。「ごみくそ」とラートを嘲って店から逃げる生徒たち。疲れたと言うラートに一杯飲ませるキーペルト。「では桟敷席に」「なぜ」「ローラが歌って踊ります」

泥酔したラートはローラのアパートに泊まってしまう。「いびき、すごいのね」「昨晩は少々度を過ごしてしまって」「シャンパンを随分飲んだものね。毎朝、一緒に朝食を食べる?」「障害はありません。私は独身ですから」寝坊したことに気づくラート。「大変だ。急いで学校に行かないと」

遅刻したラートは黒板に自分とローラのことが書かれてあるのを見て激怒する。騒然とする教室。生徒たちに校庭に出ろと言う校長。「案外うまい絵だ。こんな女のために人生を台無しにするつもりかね」「校長。私の未来の妻をそんなふうに言われるとは」「まさか本気では」「心底本気です」「では誠に遺憾だが必要な措置を取らねばならない」

これから次の巡業地に行くのとラートに言うローラ。「優しいのね。見送りに来てくれたの」「いとしいローラさん。私は」「しょんぼりしないで。ここにまた来るわ」「ローラさん。私はあなたにあげたいものが」婚約指輪をローラに送るラート。「私と結婚してください」「結婚?」「ええ」ははははと笑うローラ。「本当に可愛い人」「事の重大さをわかってくれるね」

ラートとローラは結婚する。各地のキャバレーでローラの写真を売って歩くラート。今日は二枚しか売れなかったとローラに言うラート。「無教養な客だ」客は客だとラートに怒鳴るキーペルト。「ありがたく思え。そんなヒゲ面じゃ客も逃げるぞ。私を見習え。ここは学校じゃないぞ」

座長の言うとおりよとラートに言うローラ。「ヒゲを剃って。お客を無教養なんて言うもんじゃないわ。客は大切よ」「ああ、おかげで食べさせてもらっている」「イヤになった?」「ああ、耐えられん。こんな生活を続けるなら野垂れ死にする方がましだ」ねえ、ストッキングをお願い」ローラがストッキングを履くのを手伝うラート。

それから5年後。ピエロになったラートに今度は君がスターになれると言うキーペルト。「次の契約だ。場所はどこだと思う。<嘆きの天使>だ」「<嘆きの天使>?」「あんたの故郷に行くんだ。凄い話題になる。ラート教授出演」「断る。絶対に行かん」「よく考えるんだ。5年間、女の世話になって今ようやく稼げるって時に。断るとは教授らしい言い草だ」「絶対に行かん」「明朝出発だ」

<嘆きの天使>の楽屋でラートのメイクアップをするキーペルト。「これはあんたの将来を左右する仕事だ。今夜うまくやれば芸人として成功できる。そのうちベルリンやロンドンに」切符は完売ですとラートに言う支配人。「あなたの元同僚や生徒が押しかけて大変な騒ぎだ。しっかり頼みますよ」とにかく私の言うとおりにすればいいとラートに言うキーペルト。「覚悟を決めろ」

ローラを口説く力技芸人のマゼッパ。「僕は美人にうまく近づくことで有名でね」ぼんやりするラートに出番よと言うローラ。耄碌したっていいさとラートに言うマゼッパ。「ろくでなしの若造よりましだ」私は出ないと言うラートに、出番一分前に何を言うと怒るキーペルト。「私の顔をつぶす気か」何をへそを曲げてるのとラートに言うローラ。「早く出るのよ」

ステージで挨拶するキーペルト。「本日は特別なゲストが出演します。優れた教育者として当地で長年力を尽くされたラート教授です」ピエロになったラートを見て歓声を上げる生徒たち。キーペルトはラートを助手にして手品を始める。「この男のかぶっているシルクハットから鳩を出してみせます」

シルクハットから鳩を出すキーペルト。「次は卵を出して見せます。間違いなくニワトリの卵です」卵をラートの額で割るキーペルト。「この男はニワトリになって鳴きます。ではもう一度」卵をラートの額で割るキーペルト。「コケコッコーと鳴くんだ。ほれ」舞台の袖でマゼッパに抱かれるローラを見つめるラート。「ほれ、早く鳴くんだ」コケコッコーと叫びながら錯乱状態となり、ローラに襲いかかるラート。拘束着をつけろと怒鳴るキーペルト。

興奮のおさまったラートの拘束着を脱がすキーペルト。「なぜあんなことを。教養のあるあんたが。女一人のせいで」「……」「気にするな。またうまくやっていけるさ。今までどおりな」ラートは高等学校の教室で教壇にしがみついた姿で死体となって発見されるのであった。

★ロロモ映画評

厳格な初老のラート教授(エミール・ヤニングス)はその厳格さのあまりに生徒たちから「ごみくそ教授」と呼ばれる存在となっていた。ラートは生徒たちがローラ(マレーネ・ディートリッヒ)という踊り子の写真を持っているのを発見する。首席のエイハムにこの女はどこにいると聞くラート。「首席の君まで。この女はどこにいる」「女たちのいる<嘆きの天使>というキャバレーです」ローラの写真をしげしげと見つめるラート。

ラートは<嘆きの天使>に行く。急いで逃げる生徒たち。ラートは生徒たちを追いかけてローラの楽屋に入ってしまう。「あなた誰?警察の人」「まさか。私はラートと言います。高等学校の教授です」「帽子を脱いだら?何の用」「あなたは私の生徒を誘惑している」「ここで幼稚園を開いているとでも?」着替えるローラを横目で見るラート。「もう話はおしまい?」「もう行きます。迷惑なようだから」「お行儀してるならいてもいいのよ。私が気にった?」

こうしてローラに魅惑されたラートは転落の一途をたどりますが、この映画はドイツのプロデューサー、エーリッヒ・ポマーが製作したドイツ映画界最初のトーキー映画で、ポマーから監督を任されたスタンバーグはヒロイン役のローラにふさわしい女優が見つけられずに苦慮しますが、ベルリンの舞台に立っているディートリッヒをヒロイン役に抜擢。スタンバーグとディートリッヒはハリウッドに行き、「モロッコ」「間諜X27」「上海特急」「ブロンド・ヴィーナス」「恋のページェント」「西班牙狂想曲」と言う映画を撮ったわけです。

これらの映画はいずれもディートリッヒの魅力のとりこになったスタンバーグがディートリッヒの魅力を引き出すことのみに専念した映画となっており、映画の内容がどうのこうのと言うより、ディートリッヒのプロモーションビデオのような映画となっているようですが、ロロモ世代にはディートリッヒと言ってもあまりピンと来ないわけで、大阪万博の時に来た大女優と言ったイメージしかなく、この映画でも彼女の妖艶さにゾクっとすることもなく、むしろラートを演じたエミール・ヤニングスの転落ぶりにゾクっとと言うか、ゾッとさせられるわけであります。

このヤニングスが演じる教授の名前がラートでありますが、ラートと言うドイツ生まれのスポーツがあるわけです。このスポーツは1925年にオットー・ファンクが1925年に「子供の遊び道具」として考えたもので、2本の鉄の輪を平行につないだ器具を用いて、様々な体操を行う競技で、第二次世界大戦により活動が中断されますが、西ドイツで1960年に競技会が行われ、その後はドイツ体操連盟の傘下のもと、組織的な活動が続けられているわけです。

日本では第二次世界大戦時に「フープ」として航空操縦士養成の訓練活動に用いられますが、大戦後は一切姿を消します。その後、1989年に東海大学の講師であった長谷川聖修が留学先のドイツから持ち帰り、ニュースポーツとして普及活動が始まり、現在ではラートはドイツと日本を中心にして世界中で行われているわけです。

ラート競技には2本の輪を使って回転する「直転」、ラートを傾けて1本の輪のみで回転する「斜転」、ラートを転がしその上を跳び越える「跳躍」の三種目がありますが、テレビでよく紹介されるのは「斜転」ではないかとロロモは思いますが、ゆったりと回転する輪の中で体操選手のようなパフォーマンスをするラートはそこはかとなく面白いものがあり、最近はあまりメディアに出ることがないのが残念な気がしますが、何か画期的でアクロバティックな技を決めるラートスターが出れば、この競技が一気に盛り上がるのではないかとロロモは期待するのでありました。(2015年3月)

得点 53点

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