五十万人の遺産

1963年 東宝

キャスト:三船敏郎(松尾)仲代達矢(郡司)三橋達也(敬吾)山崎努(佃)堺左千夫(五十嵐)田島義文(安本)土屋嘉男(山崎)星由里子(昌子)浜美枝(イゴロットの女)中村哲(ちょび髭の男)

監督:三船敏郎

<1942年、日本軍は破竹の勢いでフィリピンを席巻していた。そのころ一台の飛行機がマニラ郊外の飛行場に着いた。そこから下ろされたのは米の買い付けなどのための金貨であった。その金貨はマニラ銀行の金庫に納められた。金貨は純金で表に「福」の字が彫り込まれてあるため「丸福」と呼ばれたが、それは我々国民が政府の要請に従って強制的に供出させられた貴金属などから鋳造した金貨であった。やがて戦局は日増しに絶望状態となり、金貨はマニラから北部の山岳地帯に運び去られたのである。1945年8月15日戦いは終わった。しかし50万将兵の帰らぬ魂とともにその金貨は消息を絶ったのである>

クレヨン会社の庶務課長をする松尾を尋ねる郡司。「あなたの満州時代にお世話になった郡司です」「毛布などを関東軍に入れてた郡司君か」あれから20年たったと言う郡司。「あなたが満州からフィリピンに転属になったのは1942年の6月だった」「そうだったな」「しかしフィリピンじゃ苦労されたでしょう。その話をゆっくり聞きたいです。これから私の事務所に行きませんか」

旭洋貿易の事務所に松尾を連れて行く郡司。「私をこの会社の顧問に?」「そうです」「私は貿易には素人だ」「何もしなくていいです。ただこれからお願いすることだけをやっていただければ」

松尾にフィリピンに行ってくれと言い丸福金貨を見せる郡司。「松尾さん、懐かしくないですか」「……」「去年、マニラに行った時、あちらのブラックマーケットで手に入れたのです」「それと私に何の関係が」「松尾少佐。あなたは山下将軍の命令でそれを奥地に運んだ。あなたはそのありかを知っているただ一人の生き残りだ。私はあなたにそれを持ってきてもらいたい」「……」

丸福金貨はフィリピン人や外人が躍起になって探したと言う郡司。「でもどうしても発見できない。時価にして数億円の金貨が虚しく眠っている」「……」「誤解しないでください。私は私腹を肥やそうと言うのではない。あれは日本人が泣く泣く供出した金で作ったものです。私はそれを国民の手に返してやりたいのです。どうです。賛成してくれますか」

「主旨は大いに賛成します。しかし私はそのありかなど知らない。最後の200枚は将校が分配したと聞いてます。その1枚もその辺から流れたのでしょう」「しかしあなたが復員直後、GHQから取り調べを受けた。あれは何だったんですか」「確かに私はGHQから丸福金貨について取り調べを受けた。しかし知らんものは知らん」「あなたの娘の昌子さんはどうなってもいいんですか」「……」

弟の敬吾にこれで私の長年の宿願が達成できると言う郡司。「闇船で金を運ぶ。命がけの仕事だな」「十分に分け前をやる」敬吾を松尾に紹介する郡司。「元海軍中尉で、今は機帆船の船長です」会社に休暇届を出して娘さんに手紙を書いてくださいと言う郡司。「ひと月ほど留守にするが心配するなとね」

機帆船は塗装を塗り替えて松尾、敬吾、通信士の五十嵐、機関士の安本、用心棒の佃を乗せてフィリピンに向かって出発する。佃に金はあるのかなと聞く五十嵐。「前金の十万につられて来たけどよ」「少し黙ってろ」「お前だって欲につられて来たくせに」「俺はお前たちみたいに金に目がくらんで来たんじゃねえ。刺激になって面白いと思ったから来たんだ」

機帆船は漂流者に出くわすが、敬吾は無視すると言う。「でも日本人でっせ。あのままじゃ鮫の餌食に」「奴らを助けて俺たちの目的をどう話す。命を助けたあげく金の分配まですると言うのか。前進するぞ」

ルソン島に上陸し軍服に着替える五人。「少佐。久しぶりに軍服を着た感想はどうかね」「不思議だ。君が立派な中尉に見えてきたよ」出発すると言う敬吾。「俺たちは密入国者だ。見つかったら射殺されるかもしれん。十分注意しろ」まもなく出発だと言う佃にこの島で何十万人が死んだと言う松尾。「あれから18年。俺は再び生きてこの土地に来た。こうしていると自分が生きていることが罪悪のような気がする」「大人のオセンチか。戦争戦争と言うな。こっちは負けた後の苦しみが骨身にこたえてらあ」「戦後の混乱もひどかった。しかし戦争の恐ろしさには比べものにならんのだ」

五人はジープに乗って出発するが、ちょび髭の男に女房が病気なので薬はないかと聞かれる。薬を渡す敬吾にあなたたちは日本人かと聞くちょび髭の男。「いいえ。香港から来ました。米の買い付けに来たのです」「そうですか。では」俺はお前を贔屓にしていると佃に言う松尾。「他の連中と違って丸福に目がくらんでないのが気に入っている」「……」「船の中で聞いた。だが刺激だけを求めて来たと言うのが気に入らんな。もっと気に入らんのは郡司みたいな悪党の手先になっていることだ」「うまいことおだてて俺を味方にしようと言うんだろう。その手には乗らねえぜ」

俺は金のありかを船長には言わないつもりだと五十嵐と安本に言う松尾。「日本人の漂流者を見殺しにした男だ。あいつには人間の血が通ってない」「そやな」「丸福が出てしまえば俺はいらなくなる。お前たちだって金を運んだあとにきっと消される」「どないしたらええねや」「奴の持っている銃を俺に渡してくれたらいい。俺の命が保証されたら金のありかはきっと教える」

五人はフィリピン軍人に職務質問を受けるが、ちょび髭の男が彼等は知人ですと言う。「妻の薬を与えてくれたのです」「そうですか。では行ってください」白人と会うちょび髭の男。「彼らに親切にしたか」「はい」「本国に連絡する時間だ。指令を受け取れ」

山岳地帯に到着し、ジープを降りる五人。あの川の先はイゴロットの部落だと言う松尾。「イゴロット?」「槍投げがうまくて、30メートルくらいの距離なら百発百中だ」「ではジープを隠して行こう」「このあたりは日本軍が流れ込んで彼等の食糧を根こそぎ食い荒らした。今度見つかったら、今度はこっちが食われる番だ」

明日の夕方には目的地に着くと五十嵐と安本に囁く松尾。「約束の銃を忘れるな」少佐に銃を渡したらどうなるかわからんと話しあう五十嵐と安本。「あいつかて油断ならん。もう少し様子を見よう」隙を見て敬吾から銃を奪う松尾。「貴様」「日本に帰るまで俺が預かっておくだけだ」

大きな松のある地点まで到達し、ここに金を埋めたと言う松尾。「だが掘る前に言っておくことがある。丸福は郡司には絶対渡さん。郡司は私服を肥やす気はないと言ったが俺は信用せん。俺は丸福金貨をここで亡くなった50万人の遺族にたとえ一枚でもいいから捧げたいと思う」「……」「俺は今まで自分さえ帰れればいいと思っていた。ここで闘った俺でさえも戦争のことは忘れていた。しかしフィリピンに来てから安易な利己心が薄らいだ。この土の下で眠っている将兵たちの魂が俺を鞭打ったに違いない」

しかし松の木の下からは鉄兜しか出てこなかった。「少佐。これが丸福か」「そんなはずはない。毛布にくるめて確かにここに埋めた」動揺する松尾から銃を奪い返す敬吾。「金貨はどこにある」「では金は川に流されたに違いない」もう用はないと松尾を撃とうとする敬吾にこいつの始末はいつでもできると言う佃。「探す方が先じゃないのか」「よし。じゃあこの松に縛りつけとけ」川の中で金を探す敬吾と五十嵐と安本。木に縛る佃に俺を助けてくれたなと言う松尾。「俺に逃がしてくれとでも言う気か」「俺はもうダメだ。佃、丸福は郡司の手に渡さないでくれ。頼む」

四人は川の中を探すが、金貨を見つけられない。「畜生。もう一回少佐を締め上げるとしよう」しかし郡司の姿は消えていた。「佃、お前が逃がしたのか」「ロープに刃物で切ったあとがある」「と言うことはイゴロットの仕業か」

イゴロットの格好をした山崎に君が日本兵とはと言う松尾。「さっき松のところで御心配なくと言われた時にはびっくりしたよ」「本当にイゴロットになってしまったんです。終戦一か月前に爆撃を受けて重傷を負った時にイゴロットの女に助けられたんです。その女と一緒になり、それから終戦を知り、日本に帰ろうと思いましたが、村には一度部落の女と一緒になった以上、部落を出ることは許されないと言う掟があるんです。それから自分は日本であることを忘れようと思いましたが、あなたたちを見てしまったんです」「……」

松尾に日本に連れて帰ってくださいと言う山崎。「私は少佐殿の探している金貨のありかをお教えします」「どうして君が」「ここに住みついて六年目の夏のことです。夏は雨季に入りますが、その年は特に大雨でこのあたりは地すべりがするほどでした。自分はあの松のあたりで地面から露出してる金貨を見つけ、それを隠したんです。この丸福金貨がある限り、日本人がいつかは取りに来る。それから私は毎日一度はあの松の近くに行くようにしたんです。そして少佐殿にお目にかかれたんです」

「山崎君。日本に帰ろう。しかしあの連中はどうしよう」「少佐殿はあの連中に殺されかけかたことは忘れたんですか。あの連中は金貨を自分のものにしようと思ってるだけです」「わかった。二人で帰ろう。吊り橋の先にジープが隠してある。それでマニラの日本大使館に行こう。後は何とかなる」

おかしいぞと言う敬吾。「少佐が連れていかれたら俺たちにも手が伸びてくるはずだ。それなのにイゴロットは姿も見せん。ひょっとして逃げたのかもしれん」「そうだ。ジープを盗られたらどうする」隠してある金貨を松尾に見せた山崎は敬吾たちが動き出したと知らせる。「しまった。ジープのところに戻る気だ」「大丈夫です。近道があります」

敬吾たちの前に立ちはだかる松尾。「貴様」「丸福はあったぞ」数枚の丸福金貨を投げつける松尾。「生き残りの日本兵が守ってくれたんだ。縄を切ってくれたのもその男だ。俺はその男と丸福を持って帰るつもりだったが、一緒に苦労したお前たちを見捨てるのも可哀そうだと思ってな。一緒に帰る気はあるか」俺の負けだと言って銃を松尾に渡す敬吾。

軍服に着替えた山崎とともに五人は金を運ぶが吊り橋は破壊されジープは燃やされていた。「畜生」「少佐殿。ぐずぐずしてられません。この下流に筏があります」筏に乗ろうとする山崎は妻の槍を背中に受ける。私は内地の畳の上で死にたかったと言い残して絶命する山崎。五人は筏に乗って出発する。敬吾は松尾から銃を奪おうとするが、佃は銃を蹴って川の中に落す。敬吾と佃は筏の上で取っ組み合いになるが、佃は敬吾をナイフで刺す。馬鹿者と佃を一喝し、佃からナイフを奪って川に捨てる松尾。

敬吾を筏からおろして手当する松尾。そして松尾が食い物を探す間に金を持って逃げる佃と五十嵐と安本。「俺の目の前から逃げていった」「佃もか」「俺にとどめを刺さなかっただけまだましだ」「奴がお前を刺したのは金のためではないと思ったが」「俺が奴等だったら足手まといを置いて逃げるぜ。俺を置いて奴等を追ったらどうだ」

佃は何をするかわからんから注意しようと言う五十嵐と安本。「俺たちは仲良くしようぜ」「そやな」口ではそう言いながらお互いの持っている金を狙う五十嵐と安本。「こんなことをしてる場合やないで」「そやな。まず先に佃の奴の始末や」欲張りめと言って自分の持っている金を五十嵐と安本にばらまき去っていく佃。「あいつ、どこに行くんや」「知るか」

何故いかないと松尾に聞く敬吾。「行ってくれ。かえってイライラする」「奴らはきっと帰ってくる。奴らも人間ならばな」「人間だから信じられないんだ。俺は戦争で人間の正体を見た。いよいよ最後と言う時、上官は俺たちを置いて逃げたんだ」奴らが帰って来るかどうか賭けようと言う敬吾。「俺は丸福金貨を賭ける。俺が負けたら兄貴のところに届けるんだ。お前が勝ったらお前の好きなように使え」「わかった」

夜明けに三人は戻ってくるが、松尾は三人を思い切り殴る。「今頃何しに帰ってきた」「このまんまやったらあまり申し訳ない思うて」「うるさい。船長は死んだぞ。お前たちを信じないまま。人間を信じないままで。奴は不幸なまま死んでしまった」敬吾の遺体に勘弁してくれと言う佃。「俺は欲にくらんで見捨てていったんじゃない。船長が苦しんでるのを見てられなかったんだ」

四人は山を越えて海にたどりつき、機帆船に乗ろうとするが、船から一斉射撃を受けて、蜂の巣状態となって死ぬ。金貨を持ってるなとちょび髭の男に聞く白人。「私の調べたところでは持ってます」「これでやっと本国に帰れる」「東京の郡司はどうします」「心配するな。あいつも消した」

★ロロモ映画評

この映画は日本が誇る名優である三船敏郎の興した三船プロの第一回作品となっていて、三船敏郎自身が監督をしている作品として知られますが、1950年代の後半からテレビが普及し始め、映画産業は衰退。映画会社は作成費用削減・撮影所の縮小をはじめ、三船が所属する東宝は三船に「君はプロダクションを作り、仕事を回すから自分のところで映画を作るように」と言われ、三船は1962年に三船プロを設立して、翌年にはこの映画で自らの主演で初監督します。

その後、三船は岡本喜八監督を招いて、1965年に「侍」と「血と砂」を製作。1966年には、世田谷区成城に2000坪の土地を購入し、スタジオ、オープンセット完備の撮影所を作ります。組織も拡大し、映画製作・企画の社員を雇い、撮影スタッフも増強し、1968年に石原プロとが組んで、熊井啓監督の「黒部の太陽」を公開。この映画は1968年の最大のヒット作品となります。

三船プロはさらに撮影所の設備を充実させ。最終的に3800坪の敷地に、社員・契約社員300名以上という大所帯となります。1970年代に入り、映画産業が完全に斜陽化してからは、映画製作から撤退してテレビで時代劇ドラマを制作。同時期に多数誕生したスタープロの中では唯一自社撮影所を備え、特に東京で随一の常設時代劇用オープンセットは各社に重宝されました。

三船プロは芸能プロとしても活動し、竜雷太、多岐川裕美、竹下景子らのスターを抱えますが、1979年に内紛騒動が勃発し、東宝時代から付き添ってきた田中寿一が上記の俳優らを引き連れて、三船プロから独立して田中プロを設立。分裂で打撃を受けた三船は1981年には三船芸術学院を設け、役者や制作スタッフの育成に力を注ぎますが、内紛騒動で出来た穴を埋めることはできず、1984年には撮影所が閉鎖に追い込まれ敷地の多くを売却するなどの事業縮小を余儀なくされたわけです。

そんな歴史を持つ三船プロの記念すべき第1回作品であるこの映画は同時に三船敏郎最初で最後の監督作品となってしまい、映画の中身は黒澤明作品と岡本喜八作品のいいところを取り入れようとしますが、プロ野球でも名選手は名監督にも必ずしもなれないのと同じで、どうも失敗してしまったという結果になってしまったわけです。

その失敗の原因としてはいろいろあるのでしょうが、一番違和感を覚えるのは映画序盤で消えてしまう仲代達矢の使われ方でありまして、あと星由里子や浜美枝と言った女優もほとんど出番がないままに消えていきますが、これら東宝の看板俳優の使われ方はいろいろ事情があり、忙しい彼等が三船のために撮影時間の合間に出てくれたためにこんなゲスト的な扱いになったのか、それとも東宝上層部の指令でこういう使われ方になったのかよくわかりませんが、どちらにしても見る者には中途半端な印象を与える結果になってしまうわけです。

またこの映画は1963年4月に公開されているのですが、その一か月前に黒澤明監督の「天国と地獄」が公開され、そこに出演していた仲代達矢や三橋達也や山崎努や土屋嘉男はこの映画にも出演。この映画と「天国と地獄」の撮影時期がどうシンクロしていたのかわかりませんが、なんだか「天国と地獄」で目いっぱいがんばった彼らが三船敏郎におつきあいしてこの映画に参加しているようにも思われ、重厚な「天国と地獄」に比べると、やはり相当パワーの落ちる作品となっているのは明白なわけです。

物語はフィリピンの山奥に隠された丸福金貨を巡ってのミステリー仕立てとなりますが、まずこの「五十万人の遺産」と言うタイトルに引っかかり、三船敏郎は「フィリピンで死んだ戦友のために、彼らの残された遺族に一枚でも金貨を渡すため」という動機で、丸福金貨の発掘を決意すしますが、この金貨は「我々国民が政府の要請に従って強制的に供出させられた貴金属などから鋳造した金貨」であると冒頭に説明しており、五十万人は別に金貨を貰う権利はないのではとロロモは思い、どうも釈然としないわけです。

そもそも三船敏郎が丸福金貨を埋めっぱなしにしたのは何故だかはっきりしないところもあり、彼が戦後の日本で何を考えて生きてきたのかがどうもはっきりつかめないために、主人公像がぼやけた感じになっており、この辺の演出の下手なところがやはり素人監督の悲しさかとロロモは思うわけです。そんな三船敏郎と対比されるのが佃演じる山崎努でありまして、この辺は「天国と地獄」における被害者の三船敏郎と犯人の山崎努の関係を踏襲しているかのようですが、三船敏郎同様、山崎努もやや意味不明で、最後は改心したのか弱気になったのかなんだかわからないことになっているわけです。

そしてラストは悲惨なことになるのですが、そこで流れるのどかな南洋民謡風の音楽に使い方も奇妙でありまして、結局丸福金貨を奪ったのは誰なのかはっきりしないまま映画は終わってしまい、このラストのすっきりしない感じも演出の下手さ加減を如実に現れているとロロモは感じてしまい、やはりマイナスポイントの多いこの映画は高く評価できないという結論に達してしまうのでありました。(2014年5月)

得点 41点

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