00.9.14「青春を返せ裁判」判決文(広島高裁岡山支部)



平成一〇年(ネ)第一五八号損害賠償請求控訴事件(原審・岡山地方裁判所平成元年(ワ)
第七九八号)
口頭弁論終結日 平成一二年三月三日
          判        決
 〇〇市〇〇町〇〇
     控     訴     人     A           男
     右 訴 訟 代 理 人 弁 護 士     河   田   英   正
     同                 近   藤   幸   夫
     同                 嘉  松  喜  佐  夫
     同                 清   水   善   朗
     同                 山   本   勝   敏
     同                 秋   山   義   信
     同                 石   田   正   也
     同                 佐   藤   知   健
     同                 井   上   健   三
     同                 谷     和     子
     同                 的   場   真   介
     同                 山   崎   博   幸
     同                 大   神   周   一
     同                 小   串   典   介
 東京都渋谷区松涛一丁目一番二号
     被   控   訴   人     世界基督教統一神霊協会
     右  代 表 者  代 表  役 員     江  利  川  安  榮
     右 訴 訟 代 理 人 弁 護 士     和  島  登  志  雄
     同                 鐘     築     優
          主        文
 一 原判決中控訴人と被控訴人に関する部分を取り消す。
 二 被控訴人は控訴人に対し、金一七二万五〇〇〇円及びこれに対する平成元年
  一二月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
 三 控訴人のその余の請求を棄却する。
 四 控訴費用中、控訴人と被控訴人間に生じたものは、第一、二審を通じてこれ
  を七分し、その一を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。
          事        実
第一 当事者の求めた裁判
 一 控訴人
  1 原判決中控訴人と被控訴人に関する部分を取り消す。
  2 被控訴人は控訴人に対し、金二〇〇万円及びこれに対する平成元年一二月
   一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
  3 控訴費用中、控訴人と被控訴人間に生じたものは、第一、二審とも被控訴
   人の負担とする。
 二 被控訴人
  1 本件控訴を棄却する。
  2 控訴費用は控訴人の負担とする。
第二 事案の要旨
  控訴人は、被控訴人あるいはその信者らの違法なマインドコントロールを伴う
 勧誘・教化行為によって、被控訴人に対し、献金をし、セミナー参加費・腕時計
 (シャルム)購入代金を支払うことを余儀なくされ、また、宗教選択の自由を不当
 に侵害されたうえ、その人格権を侵害され、霊感商法等数々の反社会的経済活動
 をする反社会的集団に心ならずも所属させられてその一員として活動させられ、
 いわば心を乗っ取られたことにより多大な精神的苦痛を被ったとして、民法七〇
 九条又は七一五条に基づき、被控訴人に対し、献金額相当の七四万七〇〇〇円、
 セミナー参加費相当の一二万五〇〇〇円、腕時計購入代金相当の一二万八〇〇〇
 円、精神的損害一〇〇万円の損害金合計二〇〇万円及びこれに対する不法行為後
 (訴状送達日の翌日)である平成元年一二月一〇日から支払済みまで民法所定年五
 分の割合による遅延損害金の支払いを求めた。
  これに対し、被控訴人は、控訴人を勧誘・教化したのは、被控訴人の信者を中
 心に独立して創立された別組織であって、被控訴人は何ら関与しておらず、また、
 信者らは、被控訴人の職員ではないから指揮監督関係はない上、被控訴人の事業
 の執行につきなされたものともいえない旨、また、信者らによる本件の勧誘・教
 化行為は、信教の自由の範囲内でなされ社会通念上許された伝道活動であり、控
 訴人は自由な意思決定により宗教的確信に基づいて、被控訴人の教義を信仰し、
 宗教活動をなしたものである旨主張して、不法行為の成立を否認し、損害の発生
 を争う。
第三 当事者の主張
  当事者双方の主張は、次のとおり付加し、改めるほか、原判決「第二 当事者
 の主張」欄に記載された当事者双方の主張のとおりであるから、これを引用する。
  原判決七頁一行目「発刊し」の次に「(教理解説書として、その後、日本語版
 『原理講論』が発刊されている)」を挿入し八頁三行目「伝導所」を「伝道所」
 と、一四頁一行目「完成する」を「完成すること」と、一六頁五行目「行為」を
 「行為の正しさ」と、二三頁七行目、八行目の各「伝導活動」をいずれも「伝道
 活動」と、五四頁七行目「待って」を「持って」と、六五頁二行目「いつものと
 おり以上」を「普段と」と、七二頁六行目「会社」を「勤務先」と、同頁九行目
 「昭和六二年」を「昭和六三年」と、八四頁七行目「布教活動」を「宗教活動」
 と、それぞれ訂正する。
          理        由
第一 当事者について
  次の事実は当時者間に争いがない。
 一 被控訴人
   世界基督教統一神霊協会は、昭和二九年に韓国ソウルで設立された宗教団体
  であり、教義創始者は韓国人文鮮明である。同会の教えは、昭和三三年韓国籍
  の崔翔翼(チェ・サンイク、日本名西川勝)により、日本にもたらされ、同会
  の教えを奉ずる信者らは、宗教団体日本統一教会を創立時、昭和三五年、教理
  解説書「原理解説」を発刊し(教理解説書として、その後、日本語版「原理講
  論」が発刊されている)、昭和三九年七月、東京都知事から宗教法人法一四条
  に定める規則を認証する旨の決定を受け、同月一六日、被控訴人「世界基督教
  統一神霊協会」として、宗教法人の設立登記を経た。
   被控訴人は、各都道府県に布教所を置き、地区本部、教会又は伝道所等を設
  置している。
   被控訴人の目的は、神と人間の究極の理想である人間完成と地上天国を実現
  するところにあるとしており、その教理である統一原理は、創造原理、堕落論、
  復帰原理の三つからなる。
   その内容の概要は、原判決九頁一行目から十五頁八行目までに摘示するとお
  りである。
 二 控訴人
   控訴人は、被控訴人に在籍していたが、脱会した者である。
第二 争点判断の基礎となる事実について
 一 被控訴人あるいは信者組織の宗教活動あるいは経済活動の実態
   原判決一〇〇頁一一行目から、一一五頁八行目までに認定説示するところと
  同一であるから、これを引用する。
 二 被控訴人の教義と被控訴人あるいは信者組織の経済活動
   前示認定の事実に、甲第一五号証、第三〇号証の一ないし三、第四三号証、
  第四六ないし第六五、第六七ないし第七九号証、第九六号証の一ないし三、九
  八号証の一、二、第一〇一、第一〇二号証、第一〇四号証の一ないし四、第一
  〇五、第一〇六、第一一三、第一一九、第一二一号証並びに弁論の全趣旨を総
  合すると、次のとおり認定できる。
  1 被控訴人の教義として、万物復帰の教えがあり、これは、堕落して万物よ
   り劣る身になってしまった人間が、万物を主管してゆく神の子としての本来
   の姿に戻るための条件として、神に対して万物を復帰させる(捧げる)とい
   うものであり、その具体的な実践として、真心を尽くして神に献金すべきこ
   ととされる。
    さらに、教祖である文鮮明や、被控訴人の会長等の幹部によって、「借り
   てでも天に捧げようとする心がなくてはならない」「死ぬようなことがあっ
   ても万物を復帰することに合格しなければならない。」「お金は人類のため
   神様に仕えたいと思っている。お金の方が先生が好きで集まってくる。いず
   れ近い将来にはこの団体が世界で一番お金持ちになるだろう。神様が所有す
   べきなのにそれを失ってしまったのだから、取り戻すべき責任が私たちには
   ある。万物を取り戻して神様の前に捧げなくてはならない。」「神様はすべ
   てを失い、サタンがすべてを主管してしまった。世の中のすべての万物を取
   り戻して神様の所有にしなければならない。」「まず経済訓練をして次に人
   を愛する訓練をしなければならない。」「みなさんはまず、経済問題に対し
   て責任を負うのです。」「昼食一食分にも満たない献金をするのでなく、自
   分の生命、全財産にも当たるすべてを捧げるのです。」「無理しなくては復
   帰はできない。」「この世的に見れば最悪でも、天的にみれば最善のことな
   のです。」「脅迫であっても真の愛を毎日飲める人をつくれば、神はよくやっ
   たといわれるでしょう。」「キリスト教では長い間一〇分の一献金という発
   想をしてきた。しかし今ではそういう悠長なことをやっておれない。今では
   百パーセント神に帰さねばならない。その内容は何かというと、結局宗教の
   精神を示すために経済を通してやるという道である。」等と説かれる。
  2 そして、被控訴人の信者が役員となって株式会社ハッピーワールド、株式
   会社世界のしあわせ等及びその傘下の販売会社を経営し、韓国の統一教会企
   業である一信石材工芸、一和等で製造された大理石の壷、多宝塔、高麗人参
   濃縮液を輸入し、被控訴人の信者がその実践活動として、詐欺的で暴利的な
   霊感商法によって販売してきた。
    また、被控訴人らの信者らはその実践活動として、街頭で珍味売りをした
   り、宝石、毛皮、呉服、絵画の展示会を開いてこれらを販売し、自ら被控訴
   人に多額の献金をし、あるいは他者に働きかけて多額の献金をさせてきた。
    被控訴人の信者は、経済活動をするに当たって、天法は地法に勝ると信じ、
   地上天国の実現のために「復帰した万物」を用いるのであるから、他人を騙
   してもそれは、その人のためには罪滅ぼしになり、その人のためになるもの
   と考え、詐欺的商法に対しても罪障感をもたないまま、販売マニュアルに沿
   って販売実績をあげることに懸命となる。
  3 被控訴人の信者が、献金勧誘活動、販売活動等の経済活動によって得た多
   額の資金は、信者のもとに残ることなく、ほとんどが被控訴人に渡る。
   以上認定した事実からすると、被控訴人自ら、あるいは、少なくともその信
  者組織において万物復帰の実践のための活動として、霊感商法等違法な商取引
  を含む系統的・組織的な資金獲得活動をしてきているものと推認するほかない。
 三 控訴人に対する勧誘から脱会までの経緯
   控訴人に対する勧誘から脱会までの経緯は、原判決一二三頁八行目「ビデ
  才」を「ビデオ」と訂正し、次のとおり付加し改めるほかは、原判決一一六頁
  一〇行目から、一五三頁一一行目までに認定説示するところと同一であるから、
  これを引用する。
  1 原判決一一六頁一〇行目から一一行目の「甲第十九号証」から「第二八号
   証」までを「甲第一九ないし二八号証」と改める。
  2 原判決一二七頁六行目「ことであった。」の次に、「しかし、これは偽り
   であって、鈴木光は、被控訴人の岡山県内の信者団体の幹部である(控訴人
   は、鈴木が『統一教会岡山県青年部団長』であると認識している。)ことが、
   後日、控訴人が統一教会員となった後、判明した。』と付加する。
  3 原判決一三三頁六行目「と会った。」の次に、「なお、クリエイトの先輩
   として紹介された右窪田は、後になって、統一教会の幹部であることが判明
   した。」と付加する。
  4 原判決一三四頁七行目「花田と話をした。」の次に「しかし、花田が全国
   を歩いている指折りの占い師であるというのは偽りであって、花田は、当時、
   被控訴人の岡山教会の幹部(控訴人は『統一教会岡山教会の岡山県本部長』
   であると認識している。)で、大理石の壷や多宝塔を先祖の因縁を説き不安
   を生じさせて販売する霊感商法をしていた岡一商会の社員で、顧客とのトラ
   ブルの示談交渉を担当していた者であった。」と付加する。
  5 原判決一四〇頁三行目「久野から、」を「久野あるいは窪田から、』と改
   め、その次に「A男君のお金で、アジア・アフリカで飢饉で苦しむ子供たち
   が何万人も助かるんだよ。」と挿入する。
  6 原判決一四一頁四行目「行われた。」の次に「控訴人は、自己が事故等の
   緊急時に備えて蓄えていたずべての財産を被控訴人に献金してしまったこと
   から、不安ではあったが、被控訴人に不信感を抱かなければ霊界に裁かれる
   ことはないから、事故等の緊急事態も生じないだろうと被控訴人に救いを求
   める方向への気持ちの傾きが生じた。」と付加する。
第三 争点についての判断
 一 以上認定したところによると、
  1 被控訴人の信者らによる一連の勧誘、教化行為あるいは経済活動は、被控訴
   人自らが指示していると推認してもやむを得ない状況があるといえなくもな
   いが、少なくとも、被控訴人の宗教活動ないしはそれと密接に関連する布教
   活動の一環として行われ、かつ、被控訴人の教義、信仰の実践活動と認めら
   れる。したがって、被控訴人の信者らが被控訴人法人と別に組織・団体を構
   成し、その信者組織の意思決定に従って布教活動あるいは経済活動を行う場
   合であっても、被控訴人とその信者組織とは同じ目的のために存立し、信者
   組織は、宗教法人たる被控訴人を母体とし、その存立基盤としているのであ
   って、被控訴人の存立目的を達成するのに必要な限度と方法において、被控
   訴人が信者組織ないしはその構成員である信者らを規律・監督することが本
   来予定されているとみるべく、しかも、現にこれが実行されているのである
   から、被控訴人において、信者組織に対する実質的な指揮監督関係があるも
   のということができる。
  2 そして、被控訴人の信者組織は、予め組織的に作成されたマニュアルに従
   い、構成員たる信者らにおいて有機的一体として行動し、@信者である小野、
   木下において、被控訴人の信者組織が主催する展示会等を通じて販売する商
   品を購入させ、あるいは被控訴人への献金をさせ、ひいては被控訴人の信者
   に勧誘する目的であるのに、敢えてその目的を隠し、控訴人に対し、文化サ
   ークルの勧誘であると虚言を弄し、被控訴人信者組織の運営する教義伝道の
   ためのビデオセンター「クリエイト」をサークル活動をする場所であると偽
   って、右センターに誘い入れ、ビデオ講座代金を支払わせてビデオ講座に入
   会させたうえ、アンケートに記入させて、控訴人の財産等に関する情報を収
   集し、A信者組織が開催した展示会に誘って絵画購入を勧めても控訴人が購
   入せず、手紙や電話により控訴人を誘ってもビデオセンターに控訴人が通っ
   て来なくなるや、小野において、さらに、実態は被控訴人信者組織の幹部に
   よるものであるのに、クリエイトとは別のYOUなる団体が主催する占い師
   の講演会がある旨虚言を弄して控訴人を誘ったうえ、幹部の鈴木を、講演を
   しながら全国を巡り歩いている占い師であると紹介し、鈴木から「このまま
   の生活を続けていたら大変なことになる。今が転換期です。」とことさらに控
   訴人を不安にする言葉を言わせ、小野が「あの方は占いの当たる先生です。
   現在遠のいているクリエイトにも来て見ませんか。」と付言して、控訴人を
   クリエイトに通わせる契機を与え、B控訴人に対し、霊界や神の存在につい
   てのビデオを見せ、超常現象に関するビデオを見せて、霊界の存在を信じる
   きっかけを作らせ、C控訴人に前回に引き続き、吉田という女性を全国を歩
   いている占い師であると紹介して、控訴人が書いた家系図について占わせ、
   「このような女性ばかりの家系はこの後途絶えてしまう。」「あなたが今な
   んとかしなければひどいことになる。」などと言わせて、控訴人をさらに不
   安にさせ、D前記の「占い師」と同一人であると気がついていない控訴人に
   対し、小野において、今度は「立派な人」として前記鈴木を控訴人に紹介し
   て、親身になって相談に乗らせ、神とか霊界というものにつき受け入れられ
   ないでいる控訴人に対し、鈴木から「私もこの問題について何一〇年も疑っ
   てきて、研究してこの道にたどりついた。」「A男君もそんなに拒否せずに
   疑ってみてだめなものならばそれでいいじゃないか。」などと助言させて、
   控訴人に神や霊界に対する関心を強めさせ、E真実は被控訴人の信者組織の
   幹部であるのに、文化サークル「クリエイト」の先輩であるとして、窪田を
   控訴人に紹介して、親しみを持たせ、F控訴人の信頼感を得た窪田から、さ
   らに、被控訴人信者組織の幹部である花田を全国を歩いている指折りの占い
   師であるとして控訴人に紹介させ、家系図をもとに花田から「あなたの先祖
   は殿様だから、相当人を苦しめてきただろう。」「人を殺してきているのでは
   ないか。」「多くの女性を相当泣かしてきているのではないか。」「今のままで
   はすまされない。」などと話させて、控訴人の不安を助長させるとともに、ク
   リエイトでもっと学ばなければならないと思うようにさせ、Gその四日後、
   午後七時ころから二時間にわたり、控訴人に対し、クリエイトのセンター所
   長の久野が、「この世にメシアが現れる時がきている。」「この時を逃せば世
   界は滅びる。」「そのために何とかしないと世界平和はない。」「そのためにA
   男君が来たんだ。」などと一対一の特別講義をした後、始(ママ)めて被控訴人教団名
   を控訴人に明かし、アジア、アフリカで生活苦の人たちに医療援助している
   ビデオを見せて、被控訴人の素晴らしさを印象づけた上、メシアが文鮮明で
   あることを始(ママ)めて明かし、クリエイトのスタッフ以外に控訴人しかセンター
   内にいない状態で、久野、窪田ほかスタッフが入れ替わり立ち替わり、控訴
   人に対し、「あなたはサタンの子だから、神の子になるためには自分の持って
   いるものを捨てなければならない。」「あなたが持っている財産はサタンのも
   のだからまず、それを捨てて神のもとへ行かなければならない。」などと言っ
   て、金銭の出捐を迫り、控訴人が一〇万円を出しても構わないというと、「そ
   れではだめだ。すべてを捧げなさい。」「後は神がすべてを見てくれるのだか
   ら、(財産がなくても)構わない。」などと、午後一二時ころまで執拗に控訴
   人に迫って、控訴人の全財産である六〇万円を差し出すことに応じさせ、H
   自己の財産全部を被控訴人に献金として支払って、蓄えをなくしたことから、
   被控訴人に救いを求める気持ちに傾いた控訴人を修練会に誘い、参加費用を
   出させてスケジュールが詰まり睡眠も不足するようなセミナーに参加させて
   教化し、さらに新生セミナーの段階では、控訴人の給料の大半を被控訴人の
   関係で費消させ、また、控訴人の生活を管理して、被控訴人の影響力を強め、
   I実践トレーニングの段階では、控訴人をして、逆に、マニュアルに沿い、
   嘘を言って、ことさらに被控訴人の正体を隠し、アンケートを行い、クリエ
   イトに勧誘させる活動をさせ、二〇人位からアンケートを取り、そのうち三、
   四名をクリエイトに通わせるまでにさせ、被控訴人信者組織主催の絵画展に
   知人を誘うようにまで至らせたものである。
 二 控訴人に対する不法行為の成否
   宗教団体が、非信者を勧誘・教化する布教行為、信者を各種宗派活動に従事
  させたり、信者から献金を勧誘する行為は、それらが、社会通念上、正当な目
  的に基づき、方法、結果が、相当である限り、正当な宗教活動の範囲内にある
  ものと認められる。しかしながら、宗教団体の行う行為が、専ら利益獲得等の
  不当な目的である場合、あるいは宗教団体であることをことさらに秘して勧誘
  し、徒らに害悪を告知して、相手方の不安を煽り、困惑させるなどして、相手
  方の自由意思を制約し、宗教選択の自由を奪い、相手方の財産に比較して不当
  に高額な財貨を献金させる等、その目的、方法、結果が、社会的に相当な範囲
  を逸脱している場合には、もはや、正当な行為とは言えず、民法が規定する不
  法行為との関連において違法であるとの評価を受けるものというべきである。
   而して、前記認定したところによれば、一の2の一連の行為は、個々の行為
  をみると、一般の宗教行為の一場面と同様の現象を呈するものと言えなくもな
  いものもあり、また控訴人は主観的には自由意思により決断しているようにみ
  えるが、これを全体として、また客観的にみると、被控訴人の信者組織におい
  て、予め個人情報を集め、献金、入信に至るまでのスケジュールも決めた上で、
  その予定された流れに沿い、ことさらに虚言を弄して、正体を偽って勧誘した
  後、さらに偽占い師を仕立てて演出して欺もうし、徒に害悪を告知して、控訴人
  の不安を煽り、困惑させるなどして、控訴人の自由意思を制約し、執拗に迫っ
  て、控訴人の財産に比較して不当に高額な財貨を献金させ、その延長として、
  さらに宗教選択の自由を奪って入信させ、控訴人の生活を侵し、自由に生きる
  べき時間を奪ったものといわざるを得ない。
   なお、本件においては、控訴人がマインドコントロールを伴う違法行為を主
  張していることから、右概念の定義、内容等をめぐって争われているけれども、
  少なくとも、本件事案において、不法行為が成立するかどうかの認定判断をす
  るにつき、右概念を道具概念としての意義をもつものとは解されない(前示の
  ように、当事者が主観的、個別的には自由な意思で判断しているように見えて
  も、客観的、全体的に吟味すると、外部からの意図的操作により意思決定して
  いると評価される心理状態をもって「マインドコントロール」された状態と呼
  ぶのであれば、右概念は説明概念にとどまる)。
   そうすると、本件において、被控訴人の信者組織のメンバーが周到に計画し
  たスケジュールに従って、有機的に連携してなした一連の行為が宗教的行為と
  評価しうるとしても、その目的、方法、結果が社会的に相当と認められる範囲
  を逸脱しており、教義の実践の名のもとに他人の法益を侵害するものであって、
  違法なものというべく、故意による一体的な一連の不法行為と評価されること
  となる。
 三 被控訴人の責任
   前記一の1で認定したところからすると、被控訴人は少なくとも、その信者
  組織の信者らが有機的一体としてなした不法行為につき、これが被控訴人の事
  業の執行についてなされたものとして、民法七一五条の使用者責任を負うべき
  こととなる。
 四 控訴人の損害
  1 献金額
    前示第二の三に認定したところによれば、控訴人は、昭和六三年六月三日、
   六〇万円をクリエイトのスタッフに手渡して、被控訴人に献金したことが認
   められるが、他方、控訴人主張の、別途一四万七〇〇〇円を献金した事実を
   認めるに足る証拠はない。
  2 セミナー参加費
    原審における控訴人本人尋問の結果によると、控訴人は、前示第二の三に
   認定した昭和六三年六月一七日からの修練会(スリーデイズ)のセミナー参
   加費として支払った二万五〇〇〇円を含め、セミナー参加費合計一二万五〇
   〇〇円を支払ったことが認められる。
  3 腕時計購入代金
    控訴人は原審における本人尋問中で、昭和六三年一二月のCB展で、自己
   の実績を上げるために、代金一二万八〇〇〇円で腕時計を購入した旨供述す
   るが、その裏付け資料もないうえ、購入の経緯、時計の市価等も判然としな
   いから、右代金相当の損害を受けたものとはにわかに認定し難いところであ
   る。
  4 精神的損害
    控訴人は、被控訴人の信者らが有機的一体としてなした不法行為によって、
   宗教選択の自由を不当に侵害されたうえ、その人格権を侵害され、正常な日
   常生活を回復した後で回顧すれば、霊感商法等の反社会的経済活動をする集
   団に心ならずも所属しその一員として活動することとなったことにつき自責
   の念に苛まれ、被控訴人の信者組織からの勧誘行為に端を発して棄教するま
   での間、貴重な人生の日々を控訴人にとっては後悔のみ残る時間としてしか
   過ごせないことを余儀なくされたものとして、絶え難い悔しさを残している
   ことが認められるところ、控訴人を慰謝するには一〇〇万円を下回らない慰
   謝料をもって相当とすべきことは明らかである。
第四 結論
   そうすると、控訴人は被控訴人に対し、不法行為に基づく損害賠償金一七二
  万五〇〇〇円及びこれに対する不法行為後である平成元年一二月一〇日(訴状
  送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の
  限度で支払いを求めることができ、したがって、本件請求は右限度で理由があ
  るが、その余は理由がない。
   以上の次第で、本件請求を棄却した原判決は不当であるから、これを取り消
  し、控訴人の請求を右の限度で容認し、その余は失当として棄却すべく、訴訟
  費用の負担につき、民事訴訟法六七条二項前段、六一条を適用して、主文のと
  おり判決する。
       広島高等裁判所岡山支部第一部
        裁判長裁判官   片   岡   安   夫
           裁判官   金   馬   健   二
           裁判官   安   井   省   三
TOP BACK HOME