Performa630
私がノンリニア編集のことを知ったのは平成6年の12月。友人に勧められてAppleの Performa630を購入したときであった。
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Apple Performa630
当時はまだノンリニア編集という言葉もそれほど一般的ではなく、Performa630に バンドルされていたVideoShopのバージョンも1.0であった。まだVideoShopがAvidだ った頃の話である。
私も始めてのパソコンであったし、私にMacを勧めた友人も映像には詳しくなかっ たため、当時はPerforma630とVideoShopだけで完全なフルフレーム・フルモーション のビデオ編集ができて、ビデオテープに出力できるものと思い込んでいた。
当然ながらクロック周波数33MHzの68kCPUと12MBのメモリ(標準は8MB)、250MBの IDEハードディスク、Appleビデオプレーヤーカードというマシン環境にVideoShop1.0 では、ビデオ編集の真似事程度のことしかできず、ビデオテープへの出力などは夢の 話であった。
また当時の世相を考えても、まだノンリニアなど完全には実用化されておらず、ま してやパソコンベースでなどというのは、やっと160×120ピクセル程度のサイズで、 256色、画質が荒く、動きのぎこちないCD-ROMに使う程度のものが精一杯であった。 当時、ある程度まともなノンリニア編集をやろうと思ったら、数百万はかかってしま っただろう。なにしろ、16MBのメモリが6万円もしていた時代だったのだから。
買い換え
そんなわけで、現実を認識した私はノンリニアのことはすっかりあきらめ、 Performa630はもっぱら別の用途に活躍していた。
他の機種を知らない当時の私にとってはこのプアーな能力の630でもまるで不便を 感じることはなかったのだが、インターネットを始め、自分でホームページなどを作 り出すようになってから、630のメモリ不足を感じ始めた。当初の12MBから20MBに増 設したものの、この機種ではメモリの増設は36MBが上限であり、将来的に考えるとど うしても不満が出てくることが予想されたので、思いきってマシンを買い換えること にしたのである。
当然、買い換えを検討する時には以前あきらめていたノンリニアのことが思い出さ れ、その辺も含めての検討になった。だんだん、ノンリニアも実用化されはじめ、ち ゃんとしたビデオ編集に対応するグラフィックカードやソフトなども出回りはじめて いた折だったので、今回は充分、検討に値する内容になった。
候補としてはPowerMac9500/200、PowerMac8500/180、PowerMac7500。また、 Performa6420というビデオ編集システムがあらかじめ組み込まれている機種などもす でにエントリーされており、選択の範囲はだいぶ広くなっていた。
結局、拡張性を考え、デスクトップは敬遠してタワータイプのマシンに候補を絞り 、また、Performa6420は、オールインワンタイプで面倒はないものの、タワータイプ のわりに拡張性が良くないのと、CPUが603と一世代古いタイプであること。それと、 Performa6420のビデオ編集システム(Avid Cinema)は、扱える色数が32000色で、フレ ームを4分の1の大きさに縮小して取り込み、ビデオ出力時にそれを4倍に拡大して出 力するという方法のため、マシンパワーはそれほど求められないかわりに、画質はか なり落ちてしまうという制限があるため、これも候補から外した。
私としてはPCIバスを5つも持っているPowerMac9500/200にしたかったのだが、当時 の価格で50万円近く。女房に睨みつけられ、はかなく候補から外れることとなってし まった。そして残ったのがPowerMac8500/180である。その時点でなんとか40万円を切 っていたため、マシンはこれに決定となった。
PowerMac8500/180でのシステム
さて、ここで、本格的にノンリニアビデオ編集システム構築を考えることになった のだが、一口にノンリニアといってもその内容は様々である。
Apple PowerMac8500/180
まず、パソコンに映像を取り込むためのインターフェイスが必要である。これは、 {ードの形でPCIバスなどに差し込む形式が一般的だが、例えばコンポジット端子が ついていればそれでいいというものではない。PowerMac8500/180にも映像取り込みの インターフェイスはついているが、これでは静止画を取り込むのが、精一杯。動画も 取り込めないことはないが、まあ期待しないほうがよい・・・という程度である。< br> ちゃんとしたビデオ編集をするにはアナログ映像なら640×480ピクセルのフルカラ ー(1,670万色)の画像を1秒間に30枚処理しなければならない。例えば1枚の画像デ ータが1MBとすると1秒間に約30MBのデータを処理しなければならないのである。まと もにやったんでは普通のパソコンには少々荷が重い。そこで、MotionJPEGやMPEGとい った動画圧縮フォーマットによって圧縮する必要がある。これもソフトウェア圧縮で はやはり難しいので専用の圧縮機能を持ったグラフィックボードが必要になってくる のである。
また、CPUがいかに高速でもハードディスクの読み書き速度が遅くてはやはり膨大 なデータの処理が間に合わない。そこで、できるだけ高速なハードディスクと高速な アクセラレータが必要になる。
さて、新しく購入したPowerMac8500/180だが、どんなシステムを組もうかといろい ろ考えているときに馴染みのMacショップの定員からインタウェアのCinemaGearを勧 めらた。価格も70,000円弱とまあ手頃で、スペックも悪くなく、グラフィックボード はこれに決めた。あとはSCSI-2アクセラレータ(約40,000円)と7,600回転の UltraWideSCSIハードディスク(約130,000円)を購入し、とりあえずのシステムは出 来上がった。
一筋縄ではいかないノンリニア
ここからが、私のノンリニアとの苦闘のはじまりなわけだが、その話をする前に、 ノンリニアビデオの製作過程を簡単に紹介しておこう。
Cinema Gear
まず、編集ソフト等で、ビデオの取り込みを行なう。私のようにアナログベースの グラフィックボードの場合、この時にアナログ映像をデジタルデータへと変換(デジ タイズまたは、D/A変換などという) するわけだ。
取り込みは編集の効率とハードディスクのスペース効率を考え、1カットずつ分割 して取り込む。そしてハードディスク内へと記録された映像を編集ソフト上で組み上 げて行く。これがいわゆる編集作業である。この作業はハードディスク内に点在する 映像データをどういった順番で、どこからどこまで再生するかや、ディゾルブ、ワイ プなどの指定、タイトル、スーパー、音楽等、をどんな形で、どんなタイミングで出 すかということを指定した譜面のようなものをこしらえるものである。
このままでは、まだデータが大きすぎて再生できない。取り込んだ画像は、取り込 んだ瞬間にMotionJPEG圧縮をかけられているが、これを再び、作成した譜面に従って 点在する画像データを一つのデータに再圧縮をかけながらまとめ上げる(コンパイル する)必要がある。パソコンにまかせておけばよい作業なのだが、これが膨大な時間 のかかる作業で、約5分の編集データをコンパイルするのにたっぷり一晩かかってし まうのである。その日から私は、毎晩のようにハードディスクのカッチン、カッチン という音を聞きながら眠るハメになってしまった。
VideoShopやPremireといった編集ソフトでは取り込み時やコンパイル時のデータ転 送レートの上限を設定することができる。つまり、マシンの能力に合わせて圧縮率を 調整し、スムーズな映像の取り込みや再生をするための機能である。通常、S-VHS程 度のデータなら4MB/sec以上なら良好な画質が得られるとされている。私のマシン環 境なら4MB/sec程度なら出せる筈なのだが、どうしてもうまくいかない。取り込みは 問題ないのだが、再生時に駒落ちが発生してしまうのである。試しに3MB/secに上限 を設定してみたが、それでもまだ駒落ちが発生してしまう。
さらに、コンパイルがなかなかうまく行かない。指定したとおりの編集ができてい ないのである。ひどいのになると音声と映像がずれてしまい。人が話しているシーン など、完全に口と声がずれてしまう。1晩かかってコンパイルした挙句、ちゃんとで きていなかった時のショックはかなり大きかったものである。
メーカー等に問い合わせたりしても、なかなか良好な回答が得られず、いろいろ試 してみた結果、2〜3分程度の編集であればそれほど問題は発生しないことがわかった 。VideoShopのメーカーであるSTRATAでも長いものは難しいということは言っており 、結局2〜3分ずつ細切れにして編集するしか方法がないことが分かった。それでも微 妙な駒落ちは発生するのである。
当然、取り込み、コンパイルの転送レートを3MB/sec以下に設定しているため、か なりの圧縮がかかり、画質は落ちる。また音声のサンプリングレートも44KHzだと重 すぎるため、22KHzにしか設定できず、音も悪い。
とりあえず、フルモーション、フルフレーム、フルカラーで編集できるというだけ で、とても満足できるクオリティとは言えなかった。
そんな折、秋葉原を歩いていたら、AdobeのPremireの4.0が破格の値段で売られて いるのを目にした。何でもバージョンが古いため安いということなのだが、それを購 入して正規ユーザーになってしまえばバージョンアップも安くできる・・・。
というわけで、早速Premireを購入し、使いはじめた。
その結果、リップシンクのずれは解消、コンパイルの時間もVideoShopよりは格段 に早くなり、作業効率は良くなったものの、画質の悪さと駒落ちに関しては改善され ず、やはり不満は残ってしまった。
この問題を改善するにはどうしたら良いのか・・・と、いろいろと調べて見た。 CPUを早いものに変える (例えば新しく発売されたG3にアップグレードする) のが 良いのか、ハードディスクをさらに早いものに変えれば良いのか、それともいっその ことDVでの編集システムに組み直した方が良いのか・・・。
結局、現状のシステムのままでの改善策はCPUのパワーアップではなく、ハードデ ィスクだということが分かったが、それだけの能力を持つハードディスク (10,000 回転) だと目の玉の飛び出るような金額である。また、DVノンリニアシステムを組 むには、取り込みボードの他に、デジタル端子を備えたDVデッキが必要である。これ がまた高い。
DVノンリニアシステム
なかば諦めていたところ、SONYからDVウォークマンなるものが発売された。DV端子 の他にアナログ入出力まで備えており、これならアナログの素材であっても一度DVに ダビングすることで編集することが可能である。価格も安いとは言えないが、手が出 ないほどの金額ではない。
SONY DVウォークマン
これを見た途端、私の気持ちは一気にDVノンリニアシステムへと傾いた。
早速、DV編集用の取り込みボードを探す。実は以前からProMAX社のFireMAXという ボードが気になっており、輸入元であるFlashBackという店に行ってみることにした 。
話を聞いてみるとこれが非常に素晴しい。
駒落ちなどはまったくなく画質も美しい。ハードディスクは7,200回転以上で良い というのだから私の7,600回転なら充分な早さである。
しかも、アナログボードでは、最後にコンパイルするまではパソコンモニタの中の 小さなプレビュー画面でしか映像が確認できず、感覚をつかみにくかったものだが、 FireMaxでは取り込み段階から編集中まで、NTSCモニタ (普通のテレビでよい) に 画像を出力できる。通常のテープ編集のようにモニタ画面を見ながら編集できるわけ だ。
ただし、これはカット編集でつないでいる部分のみで、ディゾルブなど効果をかけ ている部分はやはりコンパイルしないと出力できない。
FireMAX
またコンパイルが非常に早い。というのは、これまでのもののように編集上のすべ てのデータをまとめあげる訳ではなく、効果や文字などの部分のみで、通常の映像に は手をつけないためである。当初一晩かかっていたものが、ものの10分ほどでできる ようになってしまった。
この機能にはコンパイルが早いというだけでなく、もう一つの重要な意味がある。
通常、パソコンで扱える一つのファイルの大きさは2GB以内とされている。Cinema Gearのようなボードの場合、すべての編集上のデータを一つの動画ファイルにまとめ るため、サイズの非常に大きなファイルができ上がる。作品の時間によっては2GBな どすぐに越えてしまうだろう。
しかし、FireMAXの場合、先述のように大きなファイルはできない。どんなに長い 作品を作っても映像データはあくまで取り込んだときのサイズのままなので、作品の 時間制限は、事実上なくなったと言ってよい。ハードディスクを大きくすればするほ ど長い作品が一気にできてしまうようになったのである。
ちなみに、店内にあるデモ機でデモを見せながら親切に説明をしてくれた若い店員 にFireMaxの価格を聞いてみて驚いた。なんと市場価格より4割も安い。この日は話 を聞くだけのつもりだったのが、結局その場で購入してしまった。
その後すぐに先述のDVウォークマンと、14インチのテレビを購入し、現在のシステ ムが完成したわけであるB
感想は、快適そのもの。これまでの苦労が嘘のように楽しく編集作業をする日々が 続いている。
これからノンリニア編集をと思う方がおられるなら、私はDVシステムをお勧めする 。私の場合、ビデオカメラにDV端子がついていなかったので、DVデッキを別に買うこ とになってしまったが、もしDVカメラをお持ちでそのカメラにDV端子がついているな ら、DVの取り込みボードだけを購入すればよいのだ。ボードの価格はアナログのもの と比べて変わることはない。
あとは、ハードディスクもDVならアナログのものよりも安いもので充分だし、ソフ トはどちらにしても必要である。
私はさんざん苦労し、やっとここにたどり着いたが、この経験談がこれから始める 方のお役に立てれば幸いである。