3.プラリア  パート

その2の1「エーラ・グランマ、レイラに人生を語
る」

  夕暮れ前、ドゥーラザムのとある洒落たカフェの
前でレイラは足を止めた。また今夜も戦闘に明け暮
れることになるのだろう。陽が暮れる前に食事を済
まさねば。レイラは店の扉を押し開けた。
  店に入ると、やはり、夜間は物騒だからか、早い
時間の割にはそれなりに人が入っている。その割に
は物静かな雰囲気な店の中で、なにやら騒がしい一
角がある事にレイラは気付いた。どうやら、店の若
いボーイが客にからまれて困っているらしい。その
からんでいる客の方に、レイラは見覚えがあった。
一度見たら忘れられない、派手な髪型をしたおばあ
さんだ。レイラは、そのテーブルの方につかつかと
歩み寄ると、客をにらみつけた。
  好機とばかりにボーイが逃げ出す。
「まだドゥーラザムにいたのか、ばばぁ。」
と、言い放ったレイラに対して、客、エーラ・グラ
ンマは、気にした風もなく、残念そうな顔で、
「お前が怖い顔でにらむものじゃから、ええ男が逃
げてしもうたではないか!」
と言い返した。そして、なおもにらみつけるレイラ
にむけて、
「ほれ、そんなところで、何をつったっているんじ
ゃ。座ったらどうじゃ。」
と、自分の向かいの椅子をすすめた。たしかに、空
いている席は、他に幾つもない。エーラの態度にな
んとなく毒気を抜かれたレイラは、言われるままに
席についた。
「言っとくが、わたいは悪人ではないからな。」
エーラが口を開いた。
「じゃぁ、なんであんな事をやるんだよ!」
ドゥーラザムの都市配列を形成する宿命石を盗もう
とした行動を指しての問に、
「わたいはやりたい事をやってるだけじゃ。」
とエーラは返す。
「お前、人生楽しいか?」
逆に聞き返すエーラ。
「た...楽しいはず...ないだろ。」
今までの人生を振り返ってレイラは口ごもる。
「ひっひっひ。若い、若いのぉ。わたいは楽しんで
るぞ。今も青春をエンジョイしてるのじゃ。」
そんな言葉にレイラはちょっとむっとしながら、
「老い先短くて自棄になってるんじゃないのか?」
と、ぼそっと呟く。
「何をいうか。わたいはあと50年は生きてるつも
りじゃぞ。そんなことより、寿命を気にするなんて
ばかみたいな事じゃ。そうじゃな...例えば、お
芝居を見るとき、後1時間で終わってしまう、あと
1幕で終わってしまう、なんて事を考えながら見て
も楽しめんじゃろ。先のことなんかを考えずに、そ
の場その場を楽しむ方がよっぽどましじゃ。同じよ
うに、他人の目を気にするのも馬鹿みたいじゃ。わ
たいも若いころはいろいろ悩んだもんじゃが、わた
いみたいに悟ってしまえば人生たのしいぞい。」
「まわりの目も少しは気にしろよな。迷惑とかも考
えてさ。」
そう言いながらも、魔獣人として、ハーフリング妖
魔のレイラと似たような境遇を生きてきたであろう
この婆さんの言葉にレイラは感じる物があった。
  短い食事の後、エーラとは別れた。彼女は魔剣と
いい男を捜しに、ドゥーラザムから旅立つという。
  前向きに生きてみようかな。ちょっとだけ、ほん
のちょっとだけ、でも、レイラの生き方を変える(か
もしれない)出合いだった。

                                    (おしまい)

み:同じく、第4回の個別でお会いして、魔法と外
    道拳術を駆使してレイラと宿命石を奪い合った
    エーラ・グランマさんと、もしその後出会った
    ら。そんな事を考えて書きました。エーラさん
    のイメージが違っていたらすいません。話をさ
    せたくて、上のような話を作りましたが、実際
    に2人が出会ったら、エーラのプレイヤーさん、
    奥平さんが私宛のお手紙で書いていましたが、
    大喧嘩になりそうです。と、言うわけで、おま
    けでけんかバージョンも書いてみました。
その2の2「その2の1の別バージョン」

・・・14行目まではその2の1と同じ・・・

「まだドゥーラザムにいたのか、ばばぁ。」
と、言い放ったレイラに対して、客、エーラ・グラ
ンマは、椅子を蹴倒して立ち上がる。
「お前が怖い顔でにらむものじゃから、ええ男が逃
げてしもうたではないか!」
「年寄りだからって、やっていい事と悪い事っても
んがあるんだ。それとも、そんなこともわからない
くらいにボケてんのか?」
「重ねがさねわたいの邪魔をしおって!小娘が。も
う我慢できんわい。」
「なんだい、やるってのか、ばばぁ!」
  すでに二人はまわりなど目に入ってはいなかった。

「小石弾!」
「小火弾!」

きぃーん(アサシンズナイフで切り結ぶ音)。
がったん、ぱりーん。
「お、お客さん、やめて下さいぃ...。」

  まあ、ドゥーラザムを襲った災厄の大きさに比べ
ればこの店を襲った災難は小さな騒動だったと言え
なくもない...。

                                    (おしまい)


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